今回は閑話です。
(注文してたムーン届いたし、ログレスのバージョン来たしで文字数も少なめです)
「……はぁ」
四月二十日。幻想郷では桜がポツポツと咲き始め、いよいよ春本番といった麗らかな日。フランドールはそんな日に似つかわしくない溜息を吐いていた。
その原因は分かりきっている。彼女はつい先程入った電話を思い出した。
――お姉様のベッドを修理したと思えば今度は門かぁ。
……今日は
皆知り合いなので挨拶くらいおきたいフランだが、しかし。
なんか電話の口調もやけにフランを遠ざけるようなものだった。それに要求もいつもよりイジワルな気がする。
勿論彼女も主人の妹という立場だが、それでもメイドとしても働いている以上ベッドなどの修理に文句は言わない。むしろどんとこいである。
しかし、しかしだ。
(……ベッドならともかく、門って規模が大きいよね?)
むしろどうやって壊したのかが非常に気になる。
弾幕ごっこでもしていたのだろうか。にしたってそれを丸投げしてくる根性が少し気に食わない。
フランにとって修理自体は不可能なことではなかったが、先程から感じているこの妙な感じが彼女の仕事感情を阻害するのだった。
(……まぁ仕事はしないとね)
気になるけど話さないってことは『
それは彼女が美鈴から教わった『気を使う力』の副次効果とも呼べる『察する力』である。
とはいえ、
「……ま、咲夜の真似して後で把握しておけば良いよね」
なんだかんだ気になる気持ちを捨て去れないフランは、瀟洒な笑みを浮かべるとそう決意し、直後転移を試みたのだった。
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移動は一瞬だった。
目を閉じて――開く。
それだけで彼女の視界はそれまでのにとりの工房内部から、真っ赤な壁紙とカーペットの敷き詰められた豪華絢爛の紅魔館内部へと変わる。
レミリアの部屋だ。
「さて、と。お待たせしました」
「あ、フランちゃんお帰りなさい」
「……お帰りなさい、フランさん」
「あ、待ってたわよ」
「うううううああああああッッ! 殺せっ、殺せえええ」
「何事っ!?」
レミリアの部屋へと転移すると三人の出迎えの声が聞こえてきた。
が、それよりも顔を真っ赤にしてのたうち回るレミリアを見てフランは目を丸くする。
いや、本当に何事なのか。
いつもカリスマだ吸血鬼王だ、とやたらプライドを気にする姉だ。それが今では顔を真っ赤にして頭を抱きしめるようにして地面にゴロゴロ転がりながら「殺せえええ!」と叫んでいる。
これを異常と呼ばず何と言うか。
「ちょっとちょっとお姉様? 大丈夫?」
「WRYYYYYYYY!!」
「駄目だ話が通じない!」
揺すって声を掛けてみるが奇声を上げるばかりである。
もしかして壊れたのだろうか。心当たりは幾つかある。とりあえずいつものカリスマブレイク(かりちゅま化)ではないのは理解したがこのままにしておくと他の三人にとっても迷惑だろう。
そう思って三人の方を見ると、三人はなんとも言えない顔でこちらを見ていた。
「あー、どうぞ。レミリアさんは気にせずベッドを置いてください」
「……はい、少し霊夢さんが苛めすぎてしまって」
「別に苛めてないわよ。ま、まぁ落ち着かせるくらいはやったげるから、フランは自分の仕事をして頂戴」
「んー、そうですか? じゃあお任せしますけど……」
三人が言うなら無理に叩き起こす必要は無いだろう。
じゃあ仕事の続きをしようか、フランは元の位置にベッドを置き直すとメイド服の裾を掴んで三人の前で丁寧に頭を下げる。
「では、ごゆるりと」
そして扉を出て、閉めた彼女は今度は門の前に転移した。
(というか門が壊れたってめーりん大丈夫かな……)
……そんなことを思いながら。
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「…………、(絶句)」
茫然自失という言葉がある。
意味はあっけにとられて我を忘れてしまうことだが、それは現在のフランドールにも適用された。
理由は単純。
紅魔館の門前。
門があった筈の場所はまるでその場所に爆弾でも落とされたかのような爆心地と化しており、その端でめーりんが、チーンという言葉が似合いそうな倒れ方で伏していた。
「…………ぐふっ」
「うわあ、うわあーっっっ!! めーりぃぃぃんっ!!?」
フランは慌てたように駆け寄ると美鈴の無事を確かめる。
どうやら無事らしい。「ヤムチャしやがって」と本人が呟いて倒れ伏していたので多分無事だと思う、フランはそう判断した。
「門が壊れたって聞いたらこれだよ! 本当に何が起こってるの!? 爆心地で倒れてるとかシャレにならないからね!?」
「ちょ、け、結構キツかったんですよ本当に。いきなり燃え盛る隕石が降り注いできたんですから!! 門を守ろうと立ち塞がったは良いものの流星群のように降り注いでくるもので、防ぎきれずさっきまでは本当に気絶してましたから!」
「……門じゃなくてめーりんが怪我してるのを怒ってるの! 危ない事しないで! 門は壊れても治せるけどめーりんの命は一つしか無いでしょ!?」
「……い、妹様」
「ともかく無事で良かったよ! で、お姉様からのお達しだけど、さっさと門を修復しろ、だってさ。早速修復するよめーりん!」
「は、はい!」
慌てたような返事を聞いてフランは微笑む。
日記を読む四人の裏で、こんな一コマがあったのだった。