十二月十七日
久しぶりに暇が出来たので妖怪の山に行った。
目的はにとりさんのところだ。理由としては結局まだ電子機械についての勉強も途中だったし、これを機に何か覚えれればと考えてのことだったりする。ついでに最近性能が壊れてきたAIBOも一緒だ。
早速教えを請うとなんか交換条件を出された。
ほら、ついこの間にデバイスを発売したじゃん。その様子を見て河童も何か作らないか考えていたみたいで、香霖堂と提携出来ないか伝えて欲しいんだって。
いやこれはラッキーだよ。だって河童の技術力は幻想郷一だもん。
私も思わずその場でガッツポーズしそうになる好条件だね。
とはいえ私はバイトに過ぎないから霖之助さんに伝えるだけに留まるんだけど……。
まぁ話を戻そうか。
ともあれ伝達の件を了承した私は早速にとりさんから機械に関して教えてもらった。
……ついでににとりさんの憧れらしい、スティーブ・ジョブスさんの話をすっごい聞かされたよ。
コンピュータを作った神様だとか、彼は生まれた時から養子に出されるという奇異な運命をしていたんだ、とか。他にも伝説をつらつらと。お陰でスティーブ・ジョブスを知らないのに略歴が言えるようになってしまった。耳にタコができるってこのことだね。
また話が脱線した。
と、ともかく今回私はまずAIBOを見てもらうことに。
なんか最近AIBOのディータが妙なんだよね。性能がおかしいっていうか、どんどん知識とか技術とかを吸収していくの。
掃除やってって命令したら私と同じくらいの手際で掃除するし、お姉様に紅茶を淹れてといったら紅魔館の茶葉倉庫からお姉様好みの銘柄を適量持っていって、正しい温度で一秒の狂いもなく紅茶を淹れるし。
最近は二足歩行をし出したし……、昨日なんか宙を浮いてたし。
いや、もうこれね。
絶対おかしいよ!? 外の世界の機械ってこれが標準なの!? しかも霖之助さん曰くもう型落ち品とか言ってたよ! 一昔以上前の機械でそんなオーバースペックなの!?
……とまぁ気になったわけだ。で、にとりさんに見せるとこういう返事が返ってきました。
「ひゅい!?」
「どうしたにとり!」
「き、機械が物理的に成長してる……!? えっと、人工知能みたいに学習して成長するんじゃなくて部品そのものが自ら成長してるんだ!」
「何それ気持ち悪いっ!?」
いや何よ機械そのものが物理的に成長してるって! 体のサイズは変わってないよ!? 何をしたのディータ! 何を思ってそんな変化してんのディータ!?
『多々成長シナケレバ生キ残レナイノデスヨ。紅魔館デハ』
「ひゅい!? 普通に会話しだしたぁっ!!?」
『……イヤ、ソレクライデ驚カレタラ困リマスガナ。ソモソモAIBOハ環境ニヨッテ異ナル成長ヲ遂ゲルロボットデッセ。ワイカテ、例外チャイマスヨ?』
「そして謎の関西弁だーっ!? というか紅魔館に関西弁使う人居ないよねっ!? 環境がとか言ってるけど明らかに環境関係無いよねっ!!?」
『ナンデヤ! 阪神関係無イヤロ!』
「誰も阪神の話してないよねっ!!?」
叫んで私はゼーハーゼーハーと息を整える。にとりさんも戦慄の表情だった。
駄目だ。どうやらディータは最早理解出来る領域を超えた成長をしているらしい。機械に持ち主が振り回されるってなによこれ!
「……ごめん、盟友。これ無理」
「…………こっちこそなんか、ごめん」
なんか微妙な空気になった。
そんな感じの一日だった。
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読み終えた霊夢は難しい顔で呟いた。
「絶対にAIBOという皮被った何かよね、ディータとかいうの」
「せやかて霊夢」
「……急に関西弁使い出してどうしたんですか早苗さん」
「ちょっと冗談です、てへっ♪」
てへっ、と舌をチラリと出して可愛こぶる早苗だが、レミリアはそれを見て正直に言う。
「うわきっつってあばばばばっ!!?」
「そんな事を言うお口はこのお口ですかー?」
「や、やめ! あぅっ! ふふぇふぁふぉ!」
瞬間、早苗の必殺技。お口広げがレミリアに炸裂した!
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十二月十八日
お姉様は朝から元気だ。なんだか上機嫌で朝食を凄い食べてた。
お菓子も沢山食べたらしい。
上機嫌のワケを咲夜に聞いてみるとなんでも霊夢さんから宴会に誘われたんだとか。なるほど。
でもその宴会、私もっと前から誘われてたんだよね。一月一日新年の宴会。すっごい笑顔で一週間前くらいに誘われた。
問題行動をしないしお賽銭入れてくれるし遊びに来たらお土産を持ってくるからアンタは信頼してるわ! 是非来て頂戴! って。
……なんか欲に塗れてる気がするけど、大まか一般常識だと思うんだけどそこまでの事かなぁ?
とりあえずお姉様にその話はしなかったけど、良かったのかな?
まぁ本人が幸せそうだからいっか。
わざわざカレンダーに印まで付けちゃって、お姉様可愛いなぁ。
しかもこっそりやってるあたり萌えポイント抑えてるよね。前に罪袋さんが言ってたけど、なんでもお姉様のタイプは『大人を気取るれでぃ(れでぃはひらがな)』らしい。
勿論真面目な時は違うけど普段はそうやってるとか言ってた。
あと、それが
その人はやたら霖之助さんに似てたけど別人だ。気の性質が違かったし。
まぁとうの本人はデバイスの開発で忙しくて今は自由時間なんか無いんだけどね。
そういえば、宴会に何を持って行こうかな。
お土産、悩みどころだ。皆お酒は持っていくだろうしツマミが良いかな?
まぁ幾つか揃えていけば良いかな。思い当たるやつ。あまり多く持って行きすぎると相手方が困るから程々に抑えなきゃいけないけどね。
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「………………ゃ」
読み終えたレミリアの肩がプルプル震え始めた。
下を向いてしばらく何も言わなかった彼女だが、やがて。
クワッ!! と、目を見開き叫ぶ!
「やっぱりかコンチクショーッッ!!」
「れ、れみりあ?」
あれ、泣いてるパターンじゃないの? 思ってたのとなんか違う反応に少し霊夢はキョドッた。
「もう慣れたわよ! 薄々気付いてたからァ! どうせこんな事だろうと思ってたわよ! 今まで散々似たパターンで半泣きにさせられてきたから流石に慣れたもん!」
「ちょっ、レミリアさん落ち着いて下さい!」
子供のように。
叫び始めたレミリアを見てこれいつもと違う、と理解した早苗が止めようとするが彼女は止まらなかった。
「うるさいうるさい! 毎回毎回フランが先なんだもん! もう読めてたから! こんなの、こんなの分かってたからっ!!」
「……レミリアさん、落ち着いて」
急に叫び出したレミリアにさとりも落ち着くよう声をかけるが彼女はフルフルと首を横に振る。
「……落ち着ける、わけないでしょ」
そう言う彼女は少し震えた声で。
同時に複雑な思いが爆発したような、不平不満を垂らすような語気をしていた。
そして彼女の体を妖力が包み込む。
「一年間ずっとそうだったから。ずっとずっとフランが優先されて、紅魔館の当主は私なのに。カリスマの権化なのに……それなのに――――っ!!?」
「落ち着けっつってんでしょうが!!」
瞬間だった。
パンッ、という乾いた音を響かせて霊夢がレミリアの頰を張った。
かなり力で張られたレミリアは尻餅をつく。
「っ!!?」
「子供かアンタは。ワーワー騒いでんじゃないわよ。さっきから不平不満をぶちまけてたけど、言葉だけならともかく妖力使うってんなら私は博麗の巫女としてアンタに対応するわよ!?」
「叩いた……? っ、う……、この私を?」
「今更気取ってんじゃないわよ! もしその対応続けるってんなら次はグーで叩くから!」
床に尻餅をついてレミリアが叩かれた頰を触って信じられないものを見るような目で霊夢を見た。
霊夢は怒りの口調で対応する。宣言通り彼女の手の形は拳に握られていた。
「……レミリア、もしアンタに一欠片でもカリスマとかプライドってモンがあるなら逆ギレしないでよ。さっきアンタが言ったこと、フランが優先されるって言ってたけどそんなの当たり前でしょうが。あの子は努力してアンタはしなかった、その差なんだから! なら問題は全部アンタの怠惰でしょうが!」
「そ……んなもの全部頭じゃ理解してるわよ! でもそれで吞み込めるわけないじゃない!! そもそもあんた達もやり過ぎなのよ! 事あるごとに私ばかり『駄目な子』だって思わせるような態度を取って! 子供扱いばかりして! 良い加減私も腹が立ってるのよ!」
「それこそふざけないでよ。そう認識してる時点で今のアンタ、すっごく格好悪いわよ。カリスマ? はっ、誰が? 子供じゃないって言ってるけど今のアンタは子供そのものよ! 自分の言い分が通らなきゃ文句言えば良いと思ってる。何でそれが分からないの!?」
話は平行線だ。お互いが譲らない。
発言内容だけを省みれば霊夢の方に分があるが頭に血が上っているレミリアはその言葉を聞き入れようとしない。
しかし頭の回転が止まったわけでは無いらしく霊夢の言葉は確実にレミリアに効いていた。
「わ、私は紅魔館の当主よ! 当主だからこそ紅魔館の中で私が一番じゃなきゃ駄目なの! それに私は誇り高き吸血鬼の……!」
「論点をズラすな! 当主だから何よ、当主だったら無条件に自分の支配圏で最強だなんてそれこそ
徐々に論破され、レミリアの返しが鈍くなっていく。
「れ、レミリア・スカーレットは……!」
そして、完全に言葉に詰まりかけたレミリアに対し霊夢は尋ねた。
「レミリア、よく聞きなさい。アンタは誰なの?」
「…………っ!?」
「紅魔館当主? カリスマの権化? 誇り高き吸血鬼の王? 違うでしょう? アンタはっ、レミリア・スカーレットでしょうが!!? 肩書きなんか関係無いレミリア・スカーレットじゃないの!!? 別にレミリア・スカーレットは紅魔館で一番優遇されているやつの名前じゃない、ましてや紅魔館で一番強いやつの名前でも無い! それくらいアンタなら理解してるでしょうがっっ!!」
(……あっ)
頭をガツンと殴られた気分だった。
その叫びでレミリアの思考が戻ってくる。同時に、自分がしていた事の意味を彼女は正しく認識した。
レミリアがやったことは単純だ。
折角大好きな友達に呼ばれたパーティだったのに、実は自分より妹の方を先に誘っていた。
それに気付き、今までの積もりに積もった感情も相まって抑えきれなくなり子供のように喚き散らし――他ならぬ霊夢に論破されて、説教された挙句涙目になっている。
次に彼女を襲った感情は自身を殺したくなるほどの羞恥だった。
「くっ……殺せ! もういっそ殺せ! うわあああああッッ!!」
「なんでそうなったんですか!?」
恥ずか死ぬとはこの事か。
早苗のツッコミを完全無視でレミリアは悶える。
何だこれは。本当にただの子供じゃないか! 普段から散々カリスマがどうのこうの言っておいてなんだこの逆ギレは!?
真っ赤になって転げ回るレミリアを見て早苗がオロオロする。さとりは何か察したような顔つきで、霊夢は溜息をついていた。
「うわああああああああッッ!!?」
「……その、元気出してください」
「殺せぇ! 殺せ殺せ殺せぇっ!! もういっそ殺しなさい!」
「あーうん、論破してなんだけどキャラ崩壊も甚だしいわよアンタ!?」
「うるさいうるさいうるさい! ううううううううう!!」
それから悶える事二十分。
その間に早苗が「あっ、やばいそろそろフランさん戻ってくる。また適当に修復案件作って電話しなきゃ!」と今度は「エクスプロージョン!」と叫び、奇跡で紅魔館の門の真上から燃え盛る隕石を落として門を跡形もなく吹き飛ばし爆心地を作ったり、さとりが「……ワー隕石ッテ初メテミマシター」と死んだ目で呟いたり、霊夢が「ナイス爆裂!」と親指を立てたりというイベントを挟み込んでようやくレミリアは復活した。
「……うー……」
「あっ、正気に戻った」
「良かったです!」
「……いや明らかにサラッと流したらいけない光景が今流されましたよね!?」
さとりが何か言っているがレミリアにはよく分からない。
今の今まで悶えていたので他の人の声など耳に入っていなかったのだ。
まだ頰から赤が引ききらないレミリアは、僅かに涙の溜まった目で三人を見て頭を下げた。
「……その、ごめんなさい」
頭を下げて、また上がると早苗とさとりは優しい笑顔でレミリアを見る。
そして霊夢は、
「――そ。こほん、分かったなら、ん〝ん〝ッ、良いわ」
何とも煮え切らない反応でそう言った。
レミリアがなんでだろう? と首をかしげると霊夢の横に来た早苗がコソッと呟く。
「霊夢さん? 霊夢さんも謝るんでしょ?」
「わ、分かってるわよ!」
二人とも小声だったがレミリアの
そして、霊夢はレミリアの前までくるとバツが悪そうに頭を下げる。
「その……私も、悪かったわよ。アンタを弄り過ぎた、こと。嫌だったなら、もうしないから」
「―――――――」
予想外の言葉だった。一瞬、呆気に取られたレミリアはパチパチと瞬きすると霊夢を見る。モジモジとして、落ち着きが無い様子だ。
それから言葉の意味を理解したレミリアは、クスリと笑みを浮かべた。
「――うふふっ、あははっ、あははははっ!!」
「な、何がおかしいのよ!?」
「だって霊夢よ? あの傍若無人で知られる博麗霊夢が頭を下げたのよ? あははっ、まさかそんな心持ちがあったなんて、思わな、あはははっ! プークスクス、面白っ!」
「馬鹿にしてるの!? このっ、人が下手に出れば調子に乗りやがって! あーもうちょっとでも優しくしてやろうと思った私が馬鹿みたいだわ! もう決めたから! もうアンタには金輪際フランと同じ対応なんてしてやらないからっ!!」
「ちょっと待ちなさい! わ、笑っただけなのに!? ちょっ、それは卑怯でしょ!!」
「卑怯じゃないですー! 笑ったアンタが悪いのよ!」
「卑怯よ! だってこんなの私じゃなくたって笑うから!」
そうやってワーワー騒ぐ二人の顔は、言葉とは裏腹に二人とも笑顔であった。
その様子を見てさとりは言う。
「……なんだかんだ仲がよろしくて良いですね。ちょっと羨ましいです」
「二人に言ったら絶対認めようとしませんけどね。まぁ二人はこういう方が良いですよ」
対して。
LINE通知で送られて来た『めーりんがボロボロで倒れてるんだけど何があったの!? 紅魔館に爆弾でも落ちたの!?』というフランからのメッセージを見なかったことにして、早苗はそう返したのだった。