フランドールの日記   作:Yuupon

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四月編8『香霖堂とパソコンと』

 

 

 

 四月二十四日

 

 

 向日葵の芽が出た。

 幽香さんから種をもらって十二日。大まか予想通りの発芽で安心したよ。

 早速、午後に太陽の畑の幽香さんのところに行くと色々とアドバイスをくれた。

「向日葵は根がとても弱いの。だからあまり触れないように。それとナメクジなんかにも注意しなさい」

 こんな感じの一通りの注意事項。うん、しっかり覚えたよ。

 枯らせるなんて以ての外だしね。

 ――――そして何より大切なのが、

 

「花の声を聞くの」

 

 花の声? 聞こえないよ? 疑問に思って尋ねると「目を閉じて耳を澄ませてご覧なさい」と言われた。

 言葉のままに目を閉じる。呼吸を静かに落ち着けて大きく深呼吸ーーそして耳を澄ませると確かにそれは聞こえてきた。

 風に揺れてザワザワと揺れる音、太陽に照らされて喜ぶように僅かに動く花輪の波長。それが全ての花から。

 これが花の声? なのかな。

 

「慣れてきたら本当に言葉として聞こえてくるの。あぁ今日も太陽が気持ちいいな、風に揺れて涼しいな、いつもお世話ありがとう、大好き! ――ってね」

 

 一輪一輪それぞれ違う言葉が聞こえる。

 それが楽しくて、嬉しくて仕方ない。普段から花の声を聞いているとまるで家族のようにも思えてくる。そう幽香さんは語った。

 家族みたいに……か。いつか私もそれくらい花を好きになれたら良いな。それはきっと素敵なことだと思うから。

 

 

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「花か……。私も花は好きよ、可憐で華美で輝いている。そこらの有象無象の雑草達のなかに紛れて一際光を放つ姿が好き」

「博麗神社の周りにも咲いているのよね、花。時折、幽香が来てはちゃんと世話しなさいって説教くらうけど」

「……折角ガーデニングスペースがあるのだし、私も育てようかしら、花」

「良いんじゃない? でもちゃんと育てなさいよ。じゃなきゃ幽香にどんなことされるか分からないわよ?」

「ハン、当たり前じゃない。一度為そうとしたことを放り捨てるほどこのレミリア・スカーレットは恥知らずじゃないわよ」

 

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 四月二十五日

 

 

 そういえばこの日記書き始めてからもうすぐ一ヶ月か。

 思ったよりも早いものね。毎日が充実してるからかな?

 午前中は修行で午後からも精力的に外へ出てるし。随分とアグレッシブになったよね私も。

 変化……なのかな。

 そういえば変化といえば、地味に毎日のように使ってる影魔法が進化してきて日光を完全にシャットアウト出来るようになってきたなぁ。もう無意識下で使ってる気がする。封印するようになってからは魔力とか妖力が練りにくいけど、ある意味そこも修行になったのかも。魔力妖力の効率も格段に良くなっている。それと精度と質もかな。正しい伸ばし方をするとこうも上がるものなんだね。今まで地下で一人でやってたのが馬鹿みたいだ。

 

 ……にしても今日は咲夜が妙な感じだったなぁ。

 咲夜にメイド技術を教わってたけどなんか鬼気迫るものを感じた。

 メイド修行をやってる途中にふと、「花嫁修行みたいだね!」って言った時からかな、表情筋がピシリと凍ってたの。

 なんでだろ?

 

 

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「で、なんでなの咲夜?」

「はい、お嬢様」

「いや、アンタどこから入ってきた? あと地獄耳にしたって呼ぶだけで出てくるとかストーカー染みた雰囲気感じるわよ!」

「メイドたるもの瞬間移動くらい出来ずしてどうするの?」

「真顔で言わないでよ!? えっ? マジで瞬間移動してんの? えっ?」

「驚いている霊夢は置いておいて。なんでなの咲夜?」

「いえ……その頃の妹様の毎日の様子を見てきた身としまして、あの環境下であそこまで真っ直ぐ育ってくれた事が嬉しくて、溢れ出る感情を抑えようとしたのです」

「…………貴女は」

 

 ずっとフランを心配してくれていたの? と言いたかったのか。それともその心は既に、と問い掛けたかったのかそれは分からない。

 ただ、レミリアがそれ以上の言葉を紡ぐ前に咲夜が人差し指を突き付けた。

 

「仰らずとも結構です。全てはメイドの戯言。お聞き流し下さいませ」

「――――そう」

 

 

 

「いや、なによこの空気。レミサクなの? いらないから」

「良い加減ぶっ飛ばすぞ博麗の巫女」

「ああんやってみろ、おぜうさま」

 

 その後二十分程の乱闘の末、和解した。

 

 

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 四月二十六日

 

 

 今日はパソコンをやってみた。

 にとりさんに聞いたお陰でローマ字も使えるようになったし、これで検索もバッチリだ。

 ネットの中は膨大な情報があった。その中から筋肉痛の対処法とか向日葵の育て方とか色々調べてみた。

 うん、凄いいっぱい載ってるね。あと動画サイトってのもあった。どうやら外の世界にある『カメラ』というものを使って映像を録画し、それをアップすることで見れるとのこと。

 可愛い猫ちゃんとかの動画を見た。癒される、可愛い!

 聞いたことない音楽とかも一杯あるし使いこなせたらとても楽しいね! あと外の世界だとパソコンを小型化したiPhoneってやつもあるらしいけど……香霖堂とかにあるかなぁ。あったら買おう。無ければにとりさんのところに行こうかな。

 便利だし移動用も欲しいなぁ。

 

 

 

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 和解した二人はボロボロであった。

 

「痛……ぱそこんってそんな機能あったの?」

「そうよ、痛た……知り合いのお姫様とかが自慢してくるのよね」

「お姫様?」

「えぇ、迷いの竹林にある永遠亭。そこのお姫様よ」

「ふぅん。というかこうやって楽しんでいるのを聞くとまた挑戦したくなってくるわね。フランに頼んで貸してもらおうかしら」

「あとiPhone……流石に聞いたことないわね」

「大方外の世界の最新デバイスなんでしょ。幻想入りするのは十年か二十年後かしら」

「……早苗なら持ってるかもしれないし、今度聞いてみるか」

 

 幻想郷は暇である。故に見知らぬ単語に大きく反応してしまう少女達であった。

 

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 四月二十七日

 

 

 昨日パソコンを弄ったせいかやたら昨日知った『iPhone』なるものが気になって香霖堂に行ってみた。

 そう言えば香霖堂に行くのは初めてなんだよね。

 詳しい場所は知らなかったからちょっと手間取った。魔法の森の中魔力で溢れてるから魔法で探しにくいしね。

 気の訓練しててよかったよ。気は発現してなくとも誰にでもあるものだから、それを頼りに香霖堂の店主と思われる気を辿ってみたら無事に着いた。

 香霖堂は『幻想郷では唯一、外の世界の道具も、妖怪の道具も、冥界の道具も、魔法の道具も扱う道具屋』らしい。

 早速入店してみると店主の森近霖之助さんが出迎えてくれた。

 

「……おや、新顔だね?」

 

 男の人だった。森近さんは白髪にゆったりとした着物を着た男性で眼鏡を掛けているのが特徴な人だ。正直言ってかなりイケメンな部類に入ると思う。世間一般からズレている私の感覚だから当てにならないかもだけど。

 自己紹介すると「あぁ、レミリアの妹かい」と返された。お姉様もよく店に来るらしい、そうなんだ意外。

 ともかく外の世界の道具が無いかと聞いてみるとあるらしい。早速見せてくれた。

 

「キミが求めているのは多分この辺りだと思うよ。コンピュータ、に似たものを集めたものだから」

 

 そこにあったのは見たことない器具ばかりだった。げーむってやつとか音楽再生ぷれいやーとか。香霖(こーりん)さん(そう呼べって言われた)曰く、彼の能力は物の名前と使い方が分かる力らしい。

 

「これは『ぴゅうた』というゲームだな。こっちは『ゲームボーイ』だ。これは『セガサターン』、あとこれは『ATARI2600』と『オデッセイ』。それから『セガ・マークⅢ』と……あといくつかソフトもあるけど見るかい?」

 

 うーん、なんとなく私が求めているのとは違う気がする。

 似た系列なのはなんとなく分かるけど。

 そう言うと香霖は手で頭を押さえて、

 

「ふむ、そうかい。悪いけど僕も名前と使い方しか分からないからね。なんとなくで並べてみたが……」

 

 いやでも近しいと思うよ? 多分だけど。

 その後も色々物色したけど私が求めているものは見つからなかった。

 で、帰ろうかなと思っていると魔理沙が香霖堂に現れた。

 

「よう香霖! 拾い物を売りに来たぜ! ってフランも居たのか」

「やあ魔理沙。そうか、それは助かる……ちゃんと売り物があればの話だが。で、何を持ってきたんだい?」

「ふっふーん、今回のは凄いぜ? なんか一杯あった」

 

 ガシャンと大風呂敷を置くと確かに沢山のものが詰まっていた。殆どが外のものだ。正直よく分からないものが多い。

 ゴチャゴチャと置かれた物を一つ一つ香霖がチェックしていく。大変そうだったので手伝うとお礼を言われた。

 それで大まかが終わって帰ろうとしたら呼び止められた。

 

「待ってくれ。手伝ってくれた分だ、何か一つ好きなものを持って行ってくれ」

 

 くれるというなら貰っておこう。

 何がいいかなー、と探しているとまだ仕分け終わってない魔理沙の持ってきたものの中に気になるものを見つけた。

 なんだろう。鞘に収まった剣だった。

 言うのもあれだけど私って女の子趣味ってやつだ。なのになんでかその剣が猛烈に気になって仕方なかった。

 惹かれたというべきか。まぁ別段決めたものは無かったのでその剣を貰って帰ることにした。

 品揃えも悪く無かったしまた来ようと思う。

 

 

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「あの子、剣なんかもらってたの?」

「悪魔が魅入られる剣……か。何かしら。魔理沙、前にも草薙の剣を見つけて持っていってたらしいし伝説上のもの?」

「フラン、あの子レーヴァテインのスペルカード使ってるし案外本物のレーヴァテインだったりして――なんてあり得ないか」

「レミリア、流石にそれは無いでしょ。ここ日本よ? 馬鹿なの?」

「じょ、冗談よ!」

 

 そこそこマジで言ってたレミリアは動揺を隠すように声を荒げた。

 しかし二人は知らない。

 実はその剣がマジモンのレーヴァテインであることに――――!

 

 

 #####

 

 

 四月二十八日

 

 

 昨日貰った剣だけど、よく考えたらスペルカードルールのある幻想郷じゃ使わないし適当に空間魔法で空間作って放っておいた。

 まあかさ張るし邪魔だしね。触ったらやたら馴染むけど、あれ使ったら霊夢さんに退治されそうだからやめておこう。

 とりあえず今日はにとりさんのところに行った。

 パソコンの使い方をもっと詳しく教わりたかったのと、あと弄り方も知りたかったからだ。前に聞いた話は凄く面白かったし興味がある。

 で、行ったら運悪く丁度出掛けてたのか会えなかった。白狼天狗にも襲われたしチョー最悪だよ。というか白狼天狗は基本、帯刀してるんだよね。試しに空間魔法で放っといた剣を抜いたら物凄い火力が出た。

 私の中の炎魔法がブワッて燃え上がる感じ。ろくすっぽ力込めてないのに空の彼方に白狼天狗がぶっ飛んでいった。「もみじー!!」って周りの白狼天狗が叫んでた。流石にやり過ぎたので最近覚えた『瞬間移動』を使って空中でキャッチする。

 すると空で拍手された。

 

「へぇ、今の瞬間移動かい。やるねぇ」

 

 拍手してくれたのは洩矢諏訪子ちゃんっていう女の子だった。

 カエルみたいな神様で、和風っぽい感じだった。髪色は金髪だけどね。どうやら山の上の神様の一角らしい。楽しげに話す彼女の雰囲気はお祭りみたいなものを感じた。

 でも流石神様で、真面目な話になると冷静に答える。

 会話内容は多分私に対して「何をしに来たのか」を聞きたかったようだ。ちょっと友達に会いに来ただけだと説明すると、成る程と返される。

 

「へぇ、外の世界の技術に興味あるのかい」

「はい。パソコンを触ってみるととても楽しくて」

「ははぁ……。それなら今度私達の神社においでよ。実は私達比較的最近外から幻想郷に移り住んできててねぇ。こちらの文化にもまだ慣れてないしそれぞれ話をしないかい? 有意義な話になると思うけど」

 

 是非! 是非お願い! 外の世界の話聞きたい!

 そう言うと「りょーかい。じゃあまた今度ね。待ってるよ」とのこと。やったー! 色々聞くぞー!!

 

 

 #####

 

「早苗達のとこか……」

「あの奇跡を起こす巫女か。外から……私も少し気になるわ」

「まぁ確かにね。早苗達の家に行くとよくゲームするけど、やっぱ楽しいわよ。幻想郷に無い遊びだし」

「へぇ、私も行ってみようかしら」

 

 興味を示すレミリアに対し霊夢がひらひらと手を振る。

 

「ただ、反面異変とかの原因になったりもするけどね。地底とか」

 

 すると、

 

「また守矢か」

 

 とレミリアは特に深いことは考えず、ふと思い浮かんだ言葉を口にした。

 

 #####

 

 その頃。

 妖怪の山の頂上。その神社の縁側でうとうとしていた少女東風谷早苗(こちやさなえ)は、そこで眠たそうな(ひとみ)をクワァ!!!! と大きく見開いた。

 

「……私達が、問題児扱いされたような気がします!!」

 

 それは虫の知らせならぬ、奇跡の知らせであった。

 

 

 

 




折角ゲットされたのに空間魔法に放置されたレーヴァテインさんの明日はどっちだ。

今回出てきたネタ
・日光をシャットアウト(日焼け止めクリームもそうだけど最近あちこちの創作吸血鬼の弱点が防止出来るようになってるので)
・花嫁修行(一部の貴族は娘を教会などに預け修行させていた)
・レミサク(レミ×咲夜のカップリングを表した言葉)
・幻想入りしたゲーム機
オデッセイ(世界初のゲーム機)
ATARI2600(アメリカで大ヒットしたゲーム機、後にアタリショックを起こす)
ぴゅうた(タカラトミーより発売、ファミコンが出た頃のゲーム機)
ゲームボーイ(任天堂より発売、携帯ポケット型のゲーム機としての地位を確立。世界的シェアを誇った)
セガ・マークⅢ(ファミコンが出た二年後にセガより発売)
セガサターン(セガより発売、一時期はプレステと互角レベルで売れたハード)
・レーヴァテイン(神話の剣or炎、フランのスペルカードにもある。詳しくはググれ)
・また守矢か(守矢神社が原因の異変や問題が多く起きた為、幻想郷で何か起こるたびに使われるふれーず)
・クワァ!!! と大きく見開いた(新訳とある魔術の禁書目録二巻より)


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