十二月十四日
八雲紫が来た。
物凄い恨みがましい目で見られたよ。
「あの、神々の目を幻想郷に向けないでお願いだから」
とやたら真面目な顔と口調だけど滅茶苦茶疲れているらしい。
神々って……身に覚え無いんだけど。
えっ、まさか神社参拝が駄目なの?
それとも知らない間に神様に目を付けられてた?
うーん……どちらにせよ面倒な話だ。
そもそも私って自分の立ち位置がよく分かって無いからなぁ。
どうして神様に目を付けられてるのかも分からないし。
……うーん、やっぱり詳しい人に聞いてみようかな。
今度イエスさんにメール送って聞いてみよっと。
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「やめたげてよぉ!」
「一番やっちゃ駄目なやつ! それ一番やっちゃ駄目なやつですよ!」
「……本人視点だと気付いてないから至極普通のことなんだと思うんですけど、思うんですけどね……」
「……ねぇ、ものすごく今更だけど、何でうちの妹はあのイエス・キリストとメールしたりする仲になってるの? フラン、吸血鬼よね? 実は悪魔の皮をかぶった天使じゃないわよね? というかもうなんだこれっ!」
レミリア、魂の疑問の叫びであった。
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十二月十五日
射命丸さんが来た。
どうやら私に取材がしたいらしい。
「ちなみに取材料はこんな感じで……」
明細書を見せられたけど……うーん。
ほら、私って霧雨プロダクションのアイドルなのよ。だからこういうのはプロデューサーの魔理沙を通してもらわないと困るんだよね。
だからそういうと「そこをなんとか!」とお願いされた。
「なんでですか?」
「えっと……魔理沙さんは、その。値切りが酷くて……どんなに説得しても最後は弾幕ごっこで勝った方の言い値で買わせるので苦手なんですよ」
「なにやってんの魔理沙!?」
魔理沙、それ値切りじゃない。値切りと言う名の意見の押し通しだ。
「同じ理由で霊夢さんも苦手ですね。まぁそっちはなんだかんだ取材させてくれるのでまだマシなんですが……」
霊夢さんもかい!!
……あぁ、でも何となくイメージ出来てしまうことが悲しい。
うーん、最初は頼りになる清楚なお姉さんだったのにガラガラと音を立ててイメージが壊れていくよぉ……。
「というわけでお願いします! どうか、この値段で!」
「……その場合、あとで魔理沙からの報復がくる可能性がありますけど良いんですか?」
「問題ナッシングです! 何故なら私は幻想郷最速のブン屋、
ビシッ! と胸を張って敬礼する文さん。
でも私、それ胸張って言うことじゃないと思うの。
だけど約束した手前それを反故にするわけにはいかない。
「分かりました、取材を受けます。ただ変な質問には答えません」
「ありがとうございます! 流石人里で天使と名高いフランさんですね! 妙に輝いてみえます!」
天使って……悪魔に言う言葉じゃないでしょうに。
「では早速質問をしましょう!」
ともかく質問だ。しっかり答えるぞ、と構えると射命丸さんはこんな質問をぶつけてきた。
「スリーサイズを教えてください」
「スリーサイズーーーー、はぁ?」
「だからスリーサイズです! バスト、ウエスト、ヒップ! 教えてプリーズギブミー!」
「いや最初に変な質問は答えないって言いましたよねっ!?」
「その通り、別に質問に答える必要はありません」
じゃあなんでそんな質問を?
意味不明な問答に首を傾げた私だけど、直後その意味が分かった。
具体的に言うと射命丸さんが発した次の言葉の後の動作で。
「じゃあいきますね? よっ、と」
――――ふにっ。
よっ、という掛け声と同時に射命丸さんは一瞬にして私の後ろに回り、両胸をそっと掴んだのだ。
「――――へっ?」
驚いたのは一瞬。
だがその間に射命丸さんの両手がスライドし、胸から腰へ動く。さらにはお尻にまで。
「ふんふん、成る程。上から――――」
私の慎ましい胸を触って射命丸さんは目測を付けてサイズを話し始める。
その事態にようやく気付いた私は悲鳴を上げた。
「なっ、なんな――――!? い、いきなり何してくれてんですか!? 人の胸を触るなんて非常識です!」
「良いではないか良いではないかーっ!!」
「やっ、ひゃあ! ちょ、ちょっとやめてください!」
「ここか! ここがええんかーっ!」
「ひゃああっ!? ふ、服の内側に手を入れないで下さい! そ、それになんか手付きがえっちぃです! い、良い加減にっ……!?」
ぶっ倒しますよ!? と言い切る前に射命丸さんはピタリとその手の動きを止めた。
あれ? 私が首を傾げて射命丸さんを見るとどうも様子がおかしい。
顔からはダラダラ冷や汗が垂れていて、少し青ざめている。
どうしたんだろう。気になった私は、射命丸さんの視線を追って――気付いた。
「ふふふっ、どういうことか説明頂けますか?」
そこにはナイフを構えたメイド服の女性が居た。
銀髪のメイド、咲夜だ。彼女がナイフを構えて笑顔でこちらを見つめているのだ。
その視線は真っ直ぐと射命丸さんに向けられていた。
「あ、あのええっと……私悪い烏天狗じゃありません、ヨ?」
「ふふふっ」
顔面蒼白になった射命丸さんが何とか絞り出した声に対する返事は咲夜の笑顔だ。
いや、それだけじゃない。
笑顔の咲夜が持つナイフの切っ先が全て射命丸さんに向いていた。
その答えを見た瞬間、射命丸さんが叫んだ。
「さ、三十六計逃げるに如かず!!」
「逃すと思う?」
あばよ十六夜っつぁん! そう叫んで射命丸さんの姿が搔き消えるのと咲夜が動いたのは同時だった。
「ザ、ワールド! 時よ止まれ!」
ほんの一瞬で残像を生み出し窓の外から数百メートル飛び去っていた射命丸さんの姿が凍り付く。
それから咲夜は彼女の進行方向に念入りにナイフの弾幕を設置した。またパチュリーお手製の捕獲魔道具などをいくつも仕掛け、やがて咲夜は腰を痛めそうな体勢で叫んだ。
「――そして時は動き出す」
瞬間、射命丸さんのつんざくような悲鳴が響いた!
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「文あああああッッ!?」
「いくら早くても時間を止められたら回避出来ない……そう考えると咲夜さんってつくづくチートですよね」
「そうね、まぁ私の従者だもの。それくらい当然よ!」
「……エゲツない、というかフランさん時が止まった世界を……」
「さとり、それこそ今更でしょ」
四人の感想はそんなもんだった。
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十二月十六日
魔理沙からお仕事の話が来た。
クリスマスイブにライブをするらしい。
今年最後のライブなんだとか。ミニスカサンタだぜっ! って言われた。
あと紅の幽霊楽団に一人新メンバーも加わったとか。
私の知り合いらしいけど誰だろうね?
それとライブ後にプレゼント企画&握手会もやるらしい。
具体的に言うとライブ前に私のグッズを売って、その中に握手券とプレゼント企画参加券が入ってるのだとか。
なんか稼ぎ方が本当にそれっぽくなってきたね……。
というかグッズ販売かぁ、そんなに有名になってたなんて気付かなかったよ。
でもグッズ化されるってことはそれだけの期待も掛けられてるんだよね。なら全力で頑張らないと!
でも不安だなぁ。握手会0人とか嫌だよ、私。
ともかく十二月二四日のライブ、頑張らないとなぁ……。
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「あぁ、ありましたねーライブ。クリスマス&年末ライブでしたよね」
「……この回ですか、思い出深いですね。特に私にとっては」
「私も協賛で行ったわね。あれは楽しかったわ」
「……私だけ知らないんだけど……」
「「「あぁ……」」」
「こらそこっ! 生暖かい顔で私を見るなーっ!!」
なんか可哀想なものを見るような目で見つめられたレミリアは手をブンブン振って怒る。
しかしその様子を見て早苗はこう思った。
(……今度のライブ、一緒に誘ってあげよう)
同情ではなく、友達として。
そう人知れず決意した早苗だった。