十二月八日
『デバイス』発売まで残り二日。
何か手伝えることがあれば良いんだけどここまでくるともう神頼みしかない! というわけで神社巡りをする事にした。
まず今日は一番の近場の命蓮寺と神霊廟をまわる。
なので人里へGO! と、思ったら草陰からいきなり何かが飛び出してきた!
「驚けーっ!!」
「? え、えっと……きゃあ!」
出てきたのは大きな傘を持った女の子だ。なんか傘からおっきな舌が伸びているので多分唐傘お化けってやつかな?
驚けー! と言われたので悲鳴を上げてみたが何だろう、この人。
いきなり驚かしてきた青い髪のオッドアイの女の子は私を見て、首を捻って何やら考えたあとにお腹を抑えてこう呟いた。
「……驚いたのにお腹は満たされてない。つまり演技」
本来なら聞こえないくらい小さな声だけど私の
だがやがて女の子は何やらキリッとした表情を見せるとこう尋ねてくる。
「あなた……優しい人ですね?」
「はい?」
「そんな貴女を見込んでお願いがあります!」
いまいちよく分かってない私だが、女の子はババッ! と無駄に格好良いポーズを取るとこんな口上を述べる!
「ふっふっふ……、この邂逅は世界が選択せし
何やら聞き覚えのフレーズを叫びながら女の子は手に持った傘を抜刀するような構えを取る。
「我が名は
「……えっと?」
なんかデジャブ。
なんだろうこの感じ、なんかお姉様を見た気分。
「フフ、あまりの強大さ故、人里の大人に疎まれし我が禁断の力を汝は欲するか?」
とりあえずこれはあれだ。
対処法は分かってる。
「……新手の詐欺ですか?」
「ち、ちがうわい!!」
ジト目で言うと女の子……小傘さんは両手を振り下ろしてそう叫んだ。
それから私はついでのように聞いてみる。
「あとそれ流行ってるの? お姉様もやってたけど」
「えっ? 何それ初耳。これは私だけのオリジナルな口上なのに……これはそのお姉様とやらを見つけたら上下関係教えてやらないといけないな」
ぶつぶつ呟きながら小傘さんが言う。でも見たところこの人良いとこ中級妖怪だよね?
……下手な目に遭う前に真実を教えてあげよう。
「ちなみにお姉様は紅魔館の紅い吸血鬼、レミリア・スカーレットなんですけど」
「前言撤回! ごめんなさい私が下です! というか先に言って下さいっ!?」
あっ、うん。手のひら返すの早いな。
瞬時に半泣きになって謝るスタイル、私は嫌いじゃないけどさ。
それから小傘さんは何やら考え込みだす。
「……この子、さっきレミリア・スカーレットをお姉様って呼んでた……つまりいま目の前に居るのはレミリア・スカーレットの妹?」
うんうん唸りながら辿り着いたらしい答え。
ちょっと申し訳ないけど物凄い勢いで顔が蒼白くなって冷や汗を流し始めるのを見せられると思わず笑ってしまう。
「……な、生意気言ってすいませんでしたーっ!! ど、どうか命だけは! 命だけはお助け下さいっ!!?」
あーあ、半泣きが本泣きになったよ。
こうなると少し困っちゃうな……。あ、そうだ。
「じゃあ許してあげる代わりに一つ条件を呑んで?」
「じょ、条件ですかっ!? わ、私食べても美味しくないです!」
「いや何がどうなってその結論に至ったのかな!?」
なに? 私人食いみたいに思われるような見た目してるの?
えっ、ちょっと傷付くよそれ……。
と、とりあえず私は条件を話し始める!
「とっ、ともかく貴女に与える条件だけどそれはね、さっき言いかけた『お願い』ってやつを私に言ってちょうだい?」
「わ、分かりました! それは悠久なる昔のこと。長い断食を経て、私、は……」
話し出したその時だった。
小傘さんが突然ふらりとすると地面に倒れ伏したのだ!
「ど、どうしたの!?」
慌てて駆け寄ると彼女は言う。
「もう……三日も何も食べてないのれす……何か、食べさせてもらえませんか?」
同時に鳴るグーというお腹の音。
……彼女は、完全無欠の生き倒れだった!
さて、そんなわけで私は家に帰って料理してあげました。
美味しい美味しいって食べてくれたけど……なんか話を聞くとかなり不憫な人だったよ。
最初にベビーシッターをしているって言ってたけどあれは本当のことで、よく人里の子供達や赤ちゃんを驚かして笑わせているらしい。
他にも無償でお世話してあげたりと言動を除いてキチンとしてる人のようだ。
しかし側から見たら変質者以外の何者でもなく、大人には鬱陶しがられて嫌われているらしい。
特に最近は親御さんから向けられる目が酷くなっていて手配書まで作られる始末。
「最近は……お店に入っても変な目で見られて、元々住んでいた墓地も他の妖怪にとられて……それでもなんとか得意な鍛治で生計を立てていたけど、霊夢さんに頼まれて新調した針で退治されるって皮肉すぎる出来事にあって……ぐすん」
なんか悲惨だった。
やる事なす事全てが裏目になり、更に最近だと無意味に萃香さんに吹き飛ばされたりするらしい。
それが積み重なり三日間何も食べれなくなり、唐傘お化けという性質から驚かせば腹は満たるので何とか人を脅かそうとするがそれも上手くいかずにいたところは私に会ったとか。
あまりに可哀想なのでちょっと提案してみた。
「その、うちで働く?」
「良いんですか!? お願いします!」
即決された。まだ雇用条件も話してないのに
そんなに切羽詰まってるのか……。なんか妙に物悲しくなったよ。
ただ口調がお姉様と同じだったり仲良くなれそうなので案外悪くない子だと思った。
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少し可哀想な内容に四人は何とも言えない曖昧な顔をした。
が、やがてさとりがレミリアに尋ねる。
「……で、この小傘さんは今どんな感じなんですか?」
「……私の友達よ。咲夜にもなれないある意味特別な友達。この前は一緒に人間を驚かしに行ったりしたわ」
口元を緩めてレミリアが言うと四人の間にあった緊張が弛緩する。
それから霊夢があぁ、と手を叩いて、
「あ、それ知ってる。おどろけー! と、ぎゃおー食べちゃうぞー! でしょ?」
「いや何ですかその驚かす気のないセリフ!?」
「な、なにおう!? 私達が考えた驚かしの決まり文句なのよ!」
「…………」
「…………」
「それが本当に決まり文句なら咲夜さんがどこに居てもレミリアさんを心配する理由が何となく分かるんですけど……」
「…………」
「…………」
「……次のページ、行きましょうか」
「……うん」
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十二月九日
とりあえず小傘さんとお姉様を会わせたら意気投合した。
なんか二人して「「エクスプロージョン!」」とか言ってた。
さて、そんなわけで私は昨日行けなかった神社巡りを改めてしようと思う。
時間が無いから急ぎめだけどね。
「瞬間移動」
まずは命蓮寺。
お賽銭入れてお祈りした。白蓮さんとも少し近況をお話しした。
「デバイスですかー。妖力を操るのが苦手な子がうちにも居ますからあるとありがたいですね」
その時にサラリと商品説明したけど中々好感触だったんじゃないかな?
ただお祈りは欲があるからアレだけどね。
「(デバイスが売れますように)」
とにかく手を合わせたらこんな声が聞こえてきた気がした。
「(へぇ、デバイスなんて作ったんだね。イエス、フランさんが面白いもの作ったみたいだよ?)」
「(本当、ブッダ? へぇデバイスかぁ。確かに便利な物作ったね。まだ幻想郷には無かった商品だから欲しがる人は多そうだね)」
……なんか知り合いの声だった気がするけど気のせいだろう、多分。
で、お次は神霊廟。
神子さんに挨拶するとものすっごい怪訝そうな顔で見られた。
「……フランよ、久しぶり。で、どうやって来た?」
「瞬間移動ですけど」
「え?」
「瞬間移動ですけど」
いくら神霊廟が隔離された世界だからと言って甘く見られちゃ困るよ神子さん。
一口に瞬間移動といっても場所や地点に移動するのと、気を読み取って移動するのと色々種類があるんだから。特に気の方は何処に居ようといけるし。
で、お祈りしました。
「(デバイスで皆が弾幕ごっこを楽しんでくれますように……!)」
するとまた声が聞こえてきました。
(この加護……フランちゃんですか。神に至れども信仰は変わらないその姿勢、勉強になります)
この声……イザナミさん? 優しい声だった気がする。
それから次は守矢神社だ。
「あ、フランちゃんこんにちは」
「こんにちは早苗さん」
挨拶してから参拝とお祈り開始!
「(デバイスが売れますように……)」
するとまたまた頭の中に声が響きました。
「(……この数多の加護、これが八坂の言っていた吸血神フランドールか。ふむ、力を封印するとは中々面白いことをするやつだな。この
これで守谷神社も終わり!
そして最後は博麗神社だ!
「こんにちは霊夢さん」
「あらフランこんにちは」
軽く挨拶してから参拝だ。お金を入れると霊夢さんに「この子が神様か……っ!」とか言われた。
……神格を持ってただけに否定しづらい。
と、それはともかくだよ!
「(デバイスが売れますように……!)」
これで最後の祈願。
両手を合わせて真剣に祈ると最後も声が聞こえてきた。
「(デバイス、へぇー! 勿論私も協力するわよぉ! フランちゃん可愛いもん! その代わりアリスちゃんとこれからも仲良くしてね!)」
「(おい神綺、程々にしておけよ。私だって魔理沙からこの子のことはよく聞かされてて加護を与えるつもりなんだから……)」
「(もー、魅魔ちゃんったらそれくらい良いでしょ? 私のお気に入りの子なのよ?)」
「(下手に加護をやりすぎると影響が出るんだよこの馬鹿!)」
……うん、気にしないでおこう。
ともかく無事にお祈りは終わりました!
あとは明日の発売を待つのみ!
やれることはやった!
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四人が日記を読み終わったそのタイミング。
空気を切り裂きスキマが出現し、中から一人の女性が現れた!
「……この時は困りましたわ。幻想郷に同時に神の加護が与えられたんですもの」
「げえっ!? 八雲紫!」
妖怪の賢者にして幻想郷の創生者。
――――八雲紫である。
しかし、シクシクと涙を流しての登場であった。
「もー……聞いてよ。仏陀にイエス・キリスト。
「あー……えっと」
「それは……御愁傷様?」
「あの……その、妹がごめんなさい?」
「本当に大変だったわ……幻想郷始まって以来の出来事だった。ええ、今更ながらに思うとよく収めたものですわ……」
そのままシクシク泣きながら八雲紫はまたスキマに消えていった。
「「「…………」」」
「……とりあえず次のページ、行きます?」
静まり返った空間で、さとりの質問に一同は無言のイエスを示したのだった。