フランドールの日記   作:Yuupon

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十二月編4『メイドと門番の休日』

 

 

 

 十二月六日

 

 

 霖之助さんは今日も忙しそうだった。

 朝から晩までデバイスを作っている。霖之助さんの式神もやっているけど式神は魔力を使うから辛そうだ。それにデバイスには魔法陣を埋め込むから余計に魔力を使うし。

 何か私に出来ることないかな?

 例えば魔力を送るとか……、霖之助さんを元気にしてあげるとか。

 それか肩たたきをしてあげるってのはどうかな? 

 と、そんな具合に色々考えてみたけど思いつかなかったから霖之助さんに行って直接尋ねてみた。

「霖之助さん、何か出来ることはありませんか?」

「発売日までは何も頼むことはないね。うーん……そうだな、じゃあ僕を応援してほしい」

「応援?」

「男ってのは単純なモンでね。女の子から頑張ってって言われたらやる気が出たりするんだよ」

 デバイスを作る手を止めずに霖之助さんが言う。別に他意は無いのだろう。もしかしたら発言にあまりリソースを割いていないのかもしれない。

 でも、うーん応援かぁ。

「ねぇリアラさん」

「なんですか?」

「衣装って作れる?」

 応援といえばチアだよね? 手にポンポン持って踊るやつ。

 その衣装が作れないか聞いてみると「出来ますよ」との事だったので教えてもらうがてら作りました。

 最近進化した思考加速を使って四倍速で作ったよ。

 で、応援しました。リアラさんもノリノリで着てた。結構張り付く感じの素材だったせいか体つきが凄いことになってたよ。透けたりはしないから問題無いけど、もう端的に言うと扇情的だった。

「霖之助さーん、こっち見て!」

「なんだい……っ!?」

 で、呼びかけると森近さんがリアラさんと私を見て驚いた目をした後に一瞬リアラさんの方に目線が――いきそうになって虚空で止まる。

 それから何か可哀想なものを見る目で私を見つめ出した。

 けど、関係なく私は応援を始める!

「頑張れ、頑張れ霖之助さん!」

「フレー、フレー、きゃー頑張ってー」

「………ごめん僕の言葉が足りな――いややっぱり二人とも奥の部屋に入っててくれ。というかやっぱり君、レミリアの妹だね。なんか納得したよ」

 

 

 ……そう言われたきり追い出された。

 なんで?

 

 #####

 

 

「なんでも何もないでしょ……」

「というかこういう天然な発想がレミリアの血筋のソレよね」

「はぁ? なにおう、私のどこがこんなポンコツなのよ?」

「いやどの口が言ってるんですかソレ……」

「……それがレミリアさんなんでしょう」

「ほう。また馬鹿にしたわね? 流石の温厚なレミリア様といえど怒るわよ!」

 

 ぷんすか! とレミリアが怒るがその様子を見て早苗は思う。

 

(……怒ったところで本気で怒らないから結局変わらないんだよなぁ)

 

 というかそれが可愛さになるあたりやっぱり吸血鬼の魅力(チャーム)って凄い、そんな素直な感想を抱いた。

 

 

 #####

 

 

 十二月七日

 

 

 今日はなんか咲夜とめーりんがとっても構ってくれた。

 いつもはお姉様につきっきりなのに。

 紅茶とクッキーを出すと「美味しいです」って喜んでくれた。

 あとめーりんは今日はお仕事お休みだったから、いつもお疲れさまって肩もみをして上げたらとっても嬉しそうにしてくれた。

 あと二人ともお返しに頭を撫でてくれた。

 人によってやっぱり撫で方って違うね。

 咲夜はまるで壊れ物でも触るようにそっと触れたあと、絶妙な手触りで髪の毛が乱れないように撫でてくれる。咲夜の手は冷たいけど、でも撫でる位置が一々私の気持ち良いところだからついついウトウトしちゃうんだよね。

 めーりんは包み込むように撫でてくれる。体に関して精通しているめーりんは撫でるポイントも分かっているらしい。でもなんかめーりんはお母さんに撫でられてる感じがするんだよね。あとめーりんの手はすっごく暖かい。『気』を使うから体の血流が良いんだって。

「妹様もいつも頑張ってますよ」

「はい、本当によく頑張ってます」

 そんな風に二人から褒められて、咲夜に膝枕してもらって撫でてもらってたらいつの間にか寝ちゃった。

 こういう日も良いなぁ。

 

 

 咲夜@追記

 妹様へ、この日を私視点で書き綴りますわ。

 

 この日八雲紫に呼ばれて賢者達の集会に向かわれたお嬢様の「今日は休みでいいわよ」とのお言葉を頂き私と美鈴の二人は手持ち無沙汰でした。

 久々に昼間から美鈴と仕事中以外で他愛のない話をしていたのを覚えています。

「こういう休みは久々ですねー。私、年がら年中外で門番だからなぁ」

「あら、今年は毎日のように妹様も一緒に居たからいつもの年よりは楽しかったんじゃないの?」

「確かに、あの子は素直な良い子ですからね。春頃に『気』を教えてくれと言われた時は驚きましたが……私の言った修行を真面目にやってくれますし毎日が楽しかったかもしれません」

「春、そういえば四月からよね。妹様が急に活発になったのは」

「四九五年も地下に居たなんて今の姿を見たら信じられませんね」

「そうね。妹様の問題はお嬢様が長年抱えていたものだからそれが解消されて何よりよ。ふふ、来年が楽しみね」

「そうですねー」

 そんな具合に話しておりましたら次第に話は今日の休みに移っていきました。

「そういえば咲夜さんは今日は何をするんですか? レミリアお嬢様の居ない完全オフなんて中々ないでしょ?」

「妹様の元に行くわ。最近頑張って疲れているみたいだし、最近家事以外で何もしてあげられてないから……」

「あっ、じゃあ私もいきます! 修行も半年以上続けてますけど、褒めたりはしてませんから! ちょっと存分に甘やかせたいです」

「……美鈴、妹様が素直で可愛らしいからといってただ甘やかせたいとか考えてたら張っ倒すわよ」

「じょ、冗談ですよ!? だからナイフ見せないで下さいってば! というかナイフは張っ倒すというより突き刺すものですからっ!?」

 全く、美鈴は主人の妹君に対する礼儀がなってません。

 ともかくそんなわけで私達は妹様のお部屋の扉を二度ノックいたしました。

「どうぞー」

 その返事を聞いて中に入室いたしますと妹様はベッドに腰掛けて本を片手に座っておりました。

 しかし私達の姿を見るとパァっと満面の笑みを浮かべ、本を置いて立ち上がり駆け寄っていらっしゃいました。

「咲夜にめーりん! あれ、どうしたの? 今は仕事じゃ?」

「いいえ、お嬢様よりお休みを頂きましたので、妹様とお茶出来ないかと尋ねて来ました」

「本当!? 二人とのお茶会なんて久々だから嬉しいな!」

 無邪気に笑うと妹様は早速パタパタと紅茶の準備を始めましたが、その手を私は止めます。

「お待ち下さい。私が紅茶を……」

「良いの良いの! 二人はお客様なんだからほら座って座って!」

 そう言って妹様は私が教えた丁寧な所作で椅子を動かすと、流れるように紅茶を淹れ始めました。その動きは私から見てもかなり洗練されており、春からの成長率がしっかりと認識出来ます。

 それから美鈴と共に席に座ると妹様から出来た紅茶を頂きました。風味を楽しみそれから口を付けると絶妙な味わいがありました。

(……こんなにも伸びるものなのですね)

 春の紅茶はお世辞にも手慣れたものとは言えず、美味しさも人並みでまだまだといった具合だったのがここまで伸びると感慨深いものです。思わず目頭を熱いものがこみ上げてきましたがグッと我慢しました。

「わぁ、これ美味しいですね」

「えぇ、本当に美味しいです。成長なされましたね」

「そう? 良かった!」

 口元を緩めお褒め致しますと妹様は本当に嬉しそうにします。

 本当に素直で無邪気な方です。しかしそれが魅力なのでしょう。

 お嬢様とも甲乙つけ難い程に可愛らしく魅力があり、思わず庇護下に置かないと少し心配になってしまうくらいには私も思っておりますから。

 それから数分。

 少し時間が経ち、楽しく会話を繰り広げていた私達ですが妹様がポツリと「そういえばめーりんっていつも外で門番やってるよね」と発言なされました。

「いつもお疲れさま! 肩揉んであげる!」

「わわっ、ありがとうございます妹様!」

 向日葵のような笑顔でそう言って妹様は美鈴の肩に手を掛けてにぎにぎと揉み始めます。見たところかなりマッサージもお上手のようでした。ふむ……どこで習ったのやら。今度調べておきましょう。多分ツボなら美鈴かしらと私が思っておりましたが、楽しそうにする妹様を見ているとどうも詮索することもどうでも良くなってきてしまうのが不思議です。

 そしてマッサージが終わってから私は口を開きました。

「妹様、最近はいつも頑張っていらっしゃいますね」

「そう?」

「えぇ。頑張っている証にご褒美です」

 本来主人の妹様の頭を撫でるなど従者としては問題のある行為ですが、お嬢様も同じようにすると嫌そうに口では言うものの喜んでいるのは理解しております。

 ですので妹様にも頑張っているご褒美を、と優しく抱きしめながら頭をお撫でさせて頂きました。

「よく頑張りました」

 指先をそっと頭の上に乗せると妹様はピクリと反応しましたがそれからゆっくりと手先を動かし始めると途端に目を細め、気持ち良さそうにはにかまれました。

 しばらく撫でた後は美鈴に交代です。

「今度は私です妹様!」

 美鈴もまた丁寧に妹様を撫でます。私の冷たい手と違って彼女の手は暖かいですから妹様も安心するでしょう。

 心の優しい人の手は冷たいなどと聞きますが、少々悔しいです。

 そしてそれが終わると今度は妹様を甘やか……失礼。ご奉仕するために膝枕をさせて頂きました。

 私の膝の上に頭をこてんと載せて、その体勢のまま頭を撫でる。

 最初は私たちと会話していた妹様も段々とウトウトし始め、やがてお眠りになられました。

 すーすー、と私の膝の上で寝息を立てる妹様の可愛らしいこと。

「……寝ちゃいましたね」

「えぇ、そうね」

「普段は意識しませんけどこうしてみると可愛いですよね」

 美鈴がそう言って妹様の手に人差し指を近付けると寝息を立てる妹様は無意識にギュッと握りました。その姿がまた愛らしい。

 顔を見ると安心しきった様子で従者としては信頼されているのだな、と喜ばしい限りです。

 

 

 #####

 

 

「フランさんの日記より咲夜さんの追記の方が長いですね」

「咲夜……私が外に出てる日にこんなことを……」

 

 レミリアが呟くと霊夢が首を傾げる。

 

「そういえばレミリアはこの日何してたのよ?」

「妖怪の賢者に呼ばれて集会。年末近いし今年一年の振り返りをするとかで集まったの」

「……あぁ、神奈子様が毎年行ってるアレですか」

「何それ、私知らないんだけど。博麗の巫女が知らないとか不味くないの?」

「……多分問題ないかと。あくまでその土地の権力者達が集まって今年一年の振り返りと来年に向けての話を軽くするだけですから」

「そんなものなの?」

「そんなものよ。内容もさして特別なモノはあまり無いしね」

 

 ひらひらと手を振ってレミリアが答える。

 それから四人は次のページをめくるのだった。

 

 

 


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