他作品ネタの発作が出た。
あとギャグのキレが……キレが……無い。
十二月五日
人里。
かつてアイドルコンサートを行った開けた広場後のステージに私が入ると、そこに待っていた男が立ち上がった。小ジワのある、いかにもやり手の商売人という雰囲気を醸し出す中年の男性である。
「おはようございます霧雨さん。どうですか、今日は?」
「なかなか良い気分だよ。魔理沙と和解出来たお陰かね、昔は娘を取られたとあれだけ憎かった魔法も今じゃ……悪くない」
広場に設置されたスタッフルーム。そのソファにかけた男性は愛嬌のあるぎょろりとした目を向け笑いかけてくる。人里一の商店、霧雨商店当主の男だ。
「結構早めに出たつもりでしたが遅れちゃいました?」
今回の発表の名目はあくまで香霖堂の新商品だが、商品への信用性を与える為、また霧雨商店にも委託販売をする為わざわざ呼んだのである。
「まさか、君が二番目だよ。にしても霖之助さんには困った。本来彼が一番に来るべきなんだがね……」
霧雨父の言葉に、私は「霖之助さんも忙しいですから」と肩を竦める。どうやら霧雨父は霖之助さんが早く来ないことに少し呆れを覚えているようだ。
しかしなんだかんだ一番頑張っていたのは霖之助さんなのだ。具体的に言うと商品は全て彼かその式神が作っているといえばその忙殺さも分かるだろうか。やはり魔道具ともなればそれなりに研鑽された技術が必要らしい。リアラさんも覚えようとしているがまだ販売段階には無いのだとか。
「まぁ本番までには来ますよ。リアラさんが連れて来ます」
今頃仮眠を取っている頃だろう。初期生産用のデバイスを夜通し作っていたのだから少しくらい休んでもバチは当たらないと思う。特に霖之助さんは凝り性で確実に完成したもの以外は完成品と認めないから時間が足りないのだ。発売開始までのあと五日で初期ロット五〇〇を揃える為に頑張っているのを見ると何も言えない私がいる。
「……ともかくです。今日は絶対成功させましょうね!」
「あぁ、そうだな」
手をグーにして言うと霧雨父は妙に優しく子供を見るような目で私を見てきた。
……解せぬ。
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商品発表。
すなわちプレゼンをする前に一つ大事な事がある。
それは聴衆、聞く人を集めないといけないことだ。何を当たり前なと思うかもしれないけどこれはめちゃくちゃ重要だと言っても良い。
で、私達は実はその為に商品発表の前日までに霧雨商店のツテを利用して外の世界の新聞配達のように各家庭にチラシを配っていた。
でも対策がそれだけだと聴衆の数が少ないと困る。
というわけで私は今、
「あっ、そこのお兄さん♪ ここでやるプレゼン見ていきませんかー?」
出来うる中で一番の笑顔でチラシ配りをしていた。
というか若干ぶりっ子すら入っている。あざといというやつだ。
アイドルで鍛えた笑顔と可愛いポーズで主に男の人を中心に話しかけてチラシを配っていく。
……なんか自分が計算高い女みたいな変な気分だけど、でも魔法とかそういうのってやっぱり女の人より男の人の方が好きだよね? 罪袋さん達も協力してくれてるけど、やっぱり魔法とか大好きって言ってたし。
「我が名は以下省略、エクスプロージョン!」
「リア充にザキ!」
「くらえ、ブラがズレた感触になるブラズール!」
「魔法ダメージ受けて中破したら服脱げるってマジですか?」
うん、よく分かんないことを話してた。
ともかく客寄せをしてそれから時計の針が十二時を回ろうかという時間帯に霖之助さんがやってきた。
「おはよう……遅れてすまないね」
それから事前打ち合わせを済ませ――いざ本番が近づいてきたその時だった。
「ちょっと通してね」
見知らぬ男性の声がスタッフルームに響いた。
思わず顔を上げると青い服を着た恰幅の良い男性がいた。物凄いダミ声で見た目から青狸ってイメージがピッタリ合う。
その後ろには数人の部下らしい人達の姿もある。すると霧雨さんが驚いたような声を上げた。
「ドラ屋……!?」
「やぁ霧雨くん。なんでもまた事業を始めると聞いてきたんだよ。それも嫌っていた魔法に手を出すなんてね。もしかしてドラ屋の後追いかな?」
「ドラ屋……何の用だ?」
「いやいや、ただ魔法に手を出すと聞いて様子を見にきただけだよ。魔法業種の先輩として気になってね。まぁ霧雨さんのところなら多少は売れるだろうね、『多少は』」
散々な物言いだった。
ちょっとカチンときたよ!
「しかし……君は実に馬鹿だな。よりにもよって今日商品紹介を行うとは。霧雨くんは運が悪いね」
「何がだ!」
「何を隠そう、僕らも新商品を出すんだよ。それも今日」
なっ!?
私達は驚く。すると恰幅の良い男性はそれに満足したのかこう言い出した。
「特別に見せてあげるね、これだよ」
そう言ってドラ屋の主人は腹に付けた半月型の白いポケットから何やらごそごそするとパッパカパッパーッパッパー♪という謎の効果音を奏でながら道具を出す。
「\たけこぷたぁ/」
そして出てきたのは……なんだ。
黄色い竹とんぼの軸に小さな半球を取り付けたような形の道具を出してきた。けど、待って。ちょっと待って!?
「あの、全体的にモザイクが掛かってるのはなんでですか?」
モザイク。うん、どう見てもモザイク処理が掛かっていた。
魔法? 魔法だよね? このありとあらゆるものを破壊出来る力を持つ私の目ですら完全無欠にモザイク掛かってるんですけどぉっ!?
というかなんか完全アウトな見た目してるからぁ! ちょっとドラ屋で気になってたけど私これ見たことあるよ!? 外の世界で金曜の夜にやってるのを見たよ私!?
「……ちょっと、黙ってないで答えてください!?」
「僕ドラ○もン゛ン゛ッ!!?」
「噛んだっ!? あとなんかピーって音が聞こえた!! なんかピーって音が聞こえたぁ!」
「ぼ、僕ドラ……ドラ……焼き……!」
「僕ドラ焼き!?」
どうしよう、なんかついていけない。
青い恰幅の良いお腹にポケット付けたドラ焼きさん(仮名)に私ついていけない。
ともかく混乱している間に復活したらしいドラ焼きさんが話し始める。
「こほん、たけこぷたぁは頭に付けて『飛びたい』と思ったら空が飛べる魔法道具なんだ。試しに僕たちが連れてきた人を襲って殺処分予定だった妖怪で試させようか」
そう言ってドラ焼きさんが近くにいた狼の妖怪の頭にたけこぷたぁを付ける。すると狼の妖怪が一気に浮かび上がった。
「おおお!?」
「ギャ……ギャオンっ!?」
私が思わず声を上げると上空から妖怪の悲鳴が聞こえる。きっといきなり飛び上がって驚いたのだろう。
言葉はあれだけど効果は本物……これは強力なライバルかも! と、近くで観察しようと思った私が飛び上がると瞬間、ブチブチィ! という音を立てて妖怪の首と胴体が千切れて離れた。
「は?」
同時に降り注いだ肉塊と血が私の頰を掠めて地面に落下していく。
ヒュルルルル、グチャ。そんな間抜けな音を立てて妖怪の身体が地面に落下した。それからプルルルル、と竹とんぼの回転音を響かせながら遥か遠くへ飛んでいく首。
それらを見送って、ドラ焼きさんが言う。
「……これを僕は人間向けに今日発売でね」
「………………」
うん、これはあれだな。
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変な茶番が入った気がする。
うん、気のせいだ。狼妖怪の死体なんて落ちてないもん。空の果てに飛んでった首なんて見てないし。
う、後ろで自警団によって両手に鉄の輪っか付けられて連行されてる人なんて知らないからぁ……。
私達も犯人逮捕と通報のお礼なんかい、言われてないし……。
「これより香霖堂と霧雨商店による商品説明を始めます!」
と、そんなこんなでプレゼンが始まった。
なんだかんだビラ配りをしたからか人もかなり集まってた。
私はMCなので司会進行をする。衣装も用意されているのを着用済みだ。今日のはちょっと早いけどサンタコスプレだね。ただちょっとスカート短くてスースーする。
というか吸血鬼的にサンタコスってどうなの?
「今日の司会進行は私、フランが務めます♪ では早速香霖堂社長の森近霖之助さんから今回の商品のご説明をお願いします!」
「はい、ご紹介に預かりました。香霖堂社長の森近霖之助です。では早速ですが商品説明を始めましょう。今回皆様にご紹介する商品はこちら、『誰でも弾幕ごっこが出来る』をコンセプトに作りました、『デバイス』です!」
森近さんが腕輪を掲げる。
わああああっ! と歓声が上がった。
「デバイスは腕輪型の魔法道具で、最初に登録した持ち主の魔力や霊力を登録します。具合的には腕に嵌るとまず魔力検査が行われ、データとして保存されます。その後体内の霊力や魔力を動かすことで使用者に体内に眠る力を確認させ、またそれを使いやすくするサポートが主な使用目的です」
そんな開幕からいくつかの説明を経て実演などもすると人里の人達はかなり盛り上がっている。
「三十歳、自称魔法使いの罪袋Dさんの魔法を使う夢が今、叶いました!」
今回の実演をお願いした人里の人も嬉しそうにガッツポーズをしている。お願いして受けてくれたけど半信半疑だったのだろう。
それから霧雨商店が正式に香霖堂とタッグを組んでこのプロジェクトに参入することなども含めて話してから、商品説明は幕を閉じた。
……正直かなり上手くいったと思う。
十日の発売……売れればいいな。
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「ドラ焼き……は触れなくて良いですね」
「人里の人を使って実演するのは良いアイデアよね」
「……というか途中のは一体」
「……レミリアさん、突っ込まないでください」
さとりがレミリアの口を塞ぐ。
しばらくもがもがと何か言いたげにしていたレミリアだがやがて諦めたのか、おとなしく次のページをめくった。