十二月二日
昨日はレミィたんのせいで散々な目にあったよ。
まったくもう! いくら優しい私でもヘソを曲げちゃうんだから!
でも知らない間でも魔理沙がお父さんと和解してて良かったよ。
あ、そうそう。ひとつ気になったことがあるんだけどさ。
お姉様が何故か落ち込んでるんだけどなんでだろ?
それから何か思い当たったように大図書館に行って『反抗期』の本を借りてきて真剣に読み始めるし……。
まさかオヤツが少ないからって反抗期始める気? 勘弁してよ。
咲夜だって忙しいんだから変に無駄な仕事増やさないであげて欲しい。
「ねぇディータ」
「ハイ、オ嬢様ニハ困ラサレマス」
ディータ。まぁ前にもらったAIBOって犬のロボットに話しかける。
最近は大分会話も流暢になってきた。片言だけど家事の手伝いもしてくれるし助かる。
そういえばディータもなんか魔改造されてるんだよね。咲夜が弄ってるのかな? この前二足歩行でよたよたとピアノを移動させているのを運んでいるのを見てこれ本当にロボットか気になってるんだけど。
まぁ外の世界の科学は進んでるって話だし見た目に似合わないパワーを持っているのかもしれないけどさ。
でも会話しているだけで言葉の端々から教えた覚えのない言葉が出てくるしいつのまにか付喪神化してるとかないよね?
私のパソコンという前例があるから疑いがあるんだけど。
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「……反抗期を調べてたんですかレミリアさん?」
「だ、だって前日フランがいきなり『しばらく近寄らないで』っていって来たんだもん!」
「あぁ……」
「そういうとこ天然なのにあざといですよね。むむ、可愛らしくてちょっとズルいです」
「ちょっとちょっと風祝、頭を撫でないで!? 凄いと思うなら褒め称えてよ! 流石の私も頭を撫でられてることが子供扱いってことは分かってるんだから!」
必死にそう言って早苗の手を避けようとするレミリアだが僅かに頰が緩んでいるのを彼女は気付いているのかそうでないのか。
どちらにせよ自分の武器を活用するという意味じゃ素晴らしく才能のあるレミリアだった。
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十二月三日
人里を歩いていると熊を散歩させているお爺さんがいた。
周りの人は見慣れた顔をしていたけど私は普通に驚いたよ。
気になって話しかけてみるとお爺さんはとても優しい人だった。
「儂は人里から離れた小山の近くに家があってな。その頂上で尺八を吹くのが趣味でのぅ。それを毎日吹いておれば知らぬうちに獣どもに囲まれとってな、それでも日課のように吹いとると獣どもが儂の音楽を聴きに来ていると気付いてな。それ以来仲良くなったんじゃよ」
この熊もその友の一匹じゃよ、とお爺さんが言ってた。
熊さんもすっごく大人しくて私を背中に乗せてくれた。ゴワゴワした毛だけどあったかかったなぁ。
で、それからお爺さんにさよならすると近くで見ていたらしい華扇さんが声をかけて来た。
「フランさん、今の御老人は?」
「小山の近くに住んでるんだって。山の頂上で尺八を吹くのが趣味で、動物達と仲良くなったとか」
「まるで仏陀のようですね……人間は年老いて仙人より仙人らしくなる……か」
「仙人より?」
「あ、いえ。別に……ちょっとあの老人の所作が私よりも仙人らしく見えたので」
両手を左右に振って華扇さんが言う。ふぅん、そんなものなのかな?
私も最近一人で山に行って坐禅してて、ふと修行を切り上げようとしたら私を囲むように沢山の動物がいたりすることがあるから特に特別とは思えないけど。
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「……私、まだ坐禅しても動物に囲まれたりしないんですけど」
「まだ修行不足なんでしょ。早苗で無理なら私も無理ね」
「……というかもう仙人とか神様とかに片足突っ込んでますよね、フランさん」
「なんと言えば良いのか姉としては微妙な気持ちね……」
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十二月四日
午前中、知り合いのイチゴ農家さんに会って遊びに行くことになった。
で、その時発芽したばかりのイチゴを見たけど……うん。
なんだろうこの気持ち。イチゴって種がいっぱいあるのよね。あれの一つ一つからびっしりと草が生えているのを見て最初に思ったのはこんな感想だった。
「……こう言っちゃ悪いですけど、気持ち悪いです」
「あっはっは。そりゃそうだろな。安心しろ、俺も気持ち悪いと思ってるから」
あとからネットで『イチゴ 発芽』で画像を調べたけどなんと言うか生理的に受け付けない。なんか鳥肌が立つ。こう言うと農家さんとかを敵に回してる気がするけど本当にごめんなさい。ちょっとどうしても受け付けない。
「……後でお姉様に見せよう」
ちなみにiPhoneで画像を保存して後でお姉様に見せると一瞬物凄い真顔になった後、すっごい嫌悪感をあらわにした。苦手だったらしい。でも世の中にはこれを可愛いと思う人もいるから不思議だ。
で、午前はそんな感じで午後からは明日の打ち合わせを森近さんと霧雨商店、それから魔理沙も交えて行った。
とはいえ森近さんと霧雨商店で用意したプログラムを受け取って、あと私がMCをするだけのことだ。一応流れも頭に入っているし多分問題無いと思う。
実演に当たって霧雨商店に丁稚奉公してるお兄さんがデバイスを使用することになるけど森近さんがしっかりと確認したデバイスだ。きっと上手くいくと思う。
よし、明日は気合入れていっちょやるよ!
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「イチゴの発芽……あぁ。ネットでも閲覧注意とかかかれるくらいですからね。私は育てたことがあるので嫌悪感はないですね。あ、画像これですよ」
早苗がiPhoneで三人に画像を見せる。その中でレミリアが真っ先にうえっとした顔を見せた。
「……苦手だわ、これ」
「私は……ま、興味無いからどうでも良いわ」
「……身も蓋も無いことを。あぁ私は何とも無いです。むしろ人の心の方が気持ち悪かったりすることがあるので」
「あぁ、やっぱりあるの?」
「えぇ。初対面の人が私を見た途端……その、変なこと考える人がいて……。えっと、私の裸を想像したら……そのっ」
「それだけ見てて下の話は苦手なのねアンタ。顔赤くするくらいなら話すな、ったく」
「……ともかく話を戻すけど、次の日はデバイスの発表か」
「やっぱり気になりますよね。次めくっちゃいますか」
「そうしましょ」
早苗の言葉に霊夢が頷いて次のページをめくったのだった。
※試しにイチゴの発芽画像を調べて不快感を覚えても当方は一切責任を取りません。