フランドールの日記   作:Yuupon

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 日記一日分を書くのに一話。
 ……うん、問題無いな(白目)


 


十二月編
十二月編1『さあ挑め、魔理沙のしがらみへ』


 

 

 

 

 

 

 十二月一日

 

 

 幻想郷に初雪が降った。

 例年より少し遅いらしい。

 と、それよりもだよ! 新商品デバイスの発表会まであと四日しかない! その場に私はアイドルとして出るために魔理沙からの許可を得る必要があるわけだ。

 ついでに魔理沙と霧雨商店の仲直りのお手伝いも出来れば尚良し。

 でもそこに一つ問題があってさ。

 何が問題かっていうとほら、私って魔理沙と霧雨商店の事情を何も知らないのよ。なんで家を飛び出したのか、両者にどんな確執があるのか。

 だからこそまず交渉の席に着くためにそこらへんの理解が必要だと思うんだよ。というわけでその準備をすることにしました。

 で、それに当たってレミィたんに協力を要請したんだけど……。

 

「――ってわけなんだけど……」

「成る程、ジョーカー・ゲームね」

「ジョーカー・ゲームってなに!?」

 

 若干電波の入ってるらしいレミィたんは何を勘違いしたのか、何処にでも居そうな村娘のコスチュームに身を包み人混みに紛れるようにしてそう言った。全く目立たない、お姉さまの姿にも関わらず村人Aに見える程自然な様子である。

 でも、うん多分何か根本的に間違えてると思う。

 私が首をかしげると、

 

「じゃあ忍者? アイエエエエ!」

「ごめん、ちょっと意味分かんない」

 

 ちょっと引きつった顔で対応するとレミィたんはここらが引き際と考えたのか途端にニヤついた顔を元に戻して言う。

 

「……魔理沙と霧雨商店の間にあった事実関係を知りたいの?」

「うん。敵を知り己を知れば百戦危うべからずって言葉もあるし、知っておけば魔理沙を説得しやすいかなって。多分お姉様なら何も考えずに真正面から行くけど私はどっちかというと頭脳(ブレイン)派だからさ。キチンと事実関係を知って、その上で真正面から行くつもり」

「ふうん、生き物って面倒なのね。私はスペックも知識も貴女譲りだけど人形……付喪神として生まれて間もないから生き物の感情は興味深いわ。初めて感じるものですもの。でも不思議よね、ほら見てみなさいよ」

 

 一転して態度を変えたレミィたんはとある方向を指差す。

 そちらを見ると寺子屋の子供が喧嘩していた。とはいえ子供なので可愛いものだ。お互いに「ばか!」とか「あほー!」とか言い合う程度なのだから。

 しかし声を聞いたのか慧音先生が駆けつけてきて、二人の生徒に何やらいうと片方が「ごめんなさい」と頭を下げていた。するともう片方も気まずくなったのか「ごめんなさい」と頭を下げる。

 それからまた二人は仲直りの指切りをしてまた楽しそうに遊び始めた。

 

「ほら、あれを見てると私は不思議なのよ」

 

 まるで目の前でこれが起こることを予期していたように飄々した顔付きで一部始終を眺めたレミィたんはそう前置きした。

 

「魔理沙と霧雨商店との縁を戻すのにまどろっこしい事なんて必要ない。だってたった一言で仲直りできるのもの……『ごめんなさい』ってね。勿論大人は事情が複雑化しているとか色々あるんでしょうけど、それはあくまで当人のプライドの話じゃない。それとも感情が納得しないか。それがなんでか分かる?」

 

 分かる? と聞かれても私はすぐに答えられなかった。

 

「そ、れは――――」

「短い間の観察で理解したの。子供の間は心からの『ごめんなさい』が出来るのに大人になると表面だけの薄っぺらい『ごめんなさい』になる理由」

 

 それはねフラン、と彼女は言う。

 

「人間は成長するにつれて謝罪する時に素直になれなくなるからよ。いや、人間だけに限った話じゃないか。例えば幼い頃、小さな子供は悪いことをすると本当に謝るわ。心の底からこれは悪いことなんだって思って変えようと理解する。でも成長していくと謝罪は形式的なものになっていくの。一〇を超える頃にもなれば謝罪の時間が好ましくないからとりあえず泣いておこう。反省するフリをすれば少しは相手の心象も稼げるだろうなんてのは当たり前、最後には形式的に謝罪だけ済ませて自分に降りかかる面倒を払いのけようとする。それに大人になると責任が絡んでくるから結局のところ謝っても許されない。自分が間違っていても直ぐに間違いを心から認め、反省し、猛省し、改めようとする人間がほぼ居ないからよ」

 

 レミィたんの鋭い眼光が私を射抜くように貫いた。

 思わず何も言えなくなった私にレミィたんは続ける。

 

「それにねフラン。貴女は両者を取り持ちたいと言うけれど結局貴女はどうしたいの? 魔理沙を人里に戻したいのか、それとも霧雨商店側に魔理沙が魔法使いになることを公的に認めさせたいか。ただ皆仲良くなんて甘い考えを持ってるようじゃ上手くいかないわ。そんな優しさなんてクソくらえよ。そもそも情報を得たところで貴女は部外者に変わらない。森近霖之助は霧雨の家と懇意にしていたから身内と言えるけれど貴女は正真正銘この件に関しては部外者よ。もしかしたら余計なお世話だと払いのけられるかもしれない。それでも手を差し伸べるというの?」

「私――――?」

「誰にだって触れられたくないデリケートな部分。隠したい部分はあるわ。そもそも魔理沙だって今は楽しく生きているでしょ? それを無理にこじ開けて縁を取り持つ必要なんてあるの? アイドルとしての出演許可だって必要だと言えば貰えるでしょうに。フラン、貴女の言葉を借りれば魔理沙だって商売人よ。なら、この件に絡むことにより発生する利益は誰だって分かると言ったのは貴女じゃない」

「…………ッ!」

「ハッキリ言うわ。フラン、人の踏み入られたくない場所に踏み入るにはそれ相応の覚悟が必要なの。私は人形だけれど姿形は貴女の姉。だからこそこれだけは聞かないと私は貴女に協力するわけにはいかないわ。フラン、貴女に魔理沙のしがらみを破壊する覚悟はある?」

 

 真っ直ぐとレミィたんは言った。

 私は目を閉じて考える。破壊する覚悟なんて持っちゃいなかった。

 最初から私の頭の中にあったのは所詮皆仲良くなんていう子供にでも分かる理論しかない。

 確かにレミィたんの言葉にも一理ある。私が不用意に足を踏み入れることで今度こそ魔理沙と霧雨商店との関係が、いや。私と魔理沙の関係すら全て壊れてしまう可能性はある。

 でも、一つだけ私の頭の中をよぎる過去があった。

 

 

 あれは――そう、紅霧異変が終わってしばらくしての事だ。

 異変の時に私が魔理沙に負けて以来、なんどか彼女が遊びに来ることがあった。

 人と話すこと自体に飢えていた私は魔理沙と会うととっても饒舌に話をする。その日も私ばかり話をしていた。

「ねぇ、魔理沙。外ってどんな感じなの?」

「……外かぁ。口で言うより出た方が早いんじゃねぇか?」

「ううん、魔理沙の口から聞きたいわっ!」

 そうやって強請(ねだ)ると魔理沙は溜息を吐いて外の話をしてくれる。何処其処が絶景だとか、人里の団子屋が美味いとか、そんな他愛のない話が多いけれどその中でも特に香霖堂の話が多かった。

 だから私は後に香霖堂を訪れることになるんだけどそれは置いといて、その時の魔理沙はやれ香霖は不摂生とか、やれ香霖はもっとアクティブに活動すれば良いのにとか霖之助さんの話題が多かった。

 でも、その日私は何気無く一つの質問をしてしまったんだ。

「もしかしてその香霖さんって人が魔理沙のお父さんなの?」

「――ッ!!」

 一瞬顔をしかめたのを見て私は慌てて手を振りながら「教えたくないなら良いよ! 好奇心だから!」と言うと魔理沙はいつものように溜息を吐いて話してくれた。

「……いや、違うぜ。私の父は人里にいる霧雨商店の店主だ」

 今は絶縁してるけどな、と彼女は言う。

「そうだな、どうせだし聞いてくれるか」

 その時は深くは教えてくれなかったけど、一つ魔理沙はこう言っていた事を確かに私は覚えていた。

「……勘当されて、夢の魔法使いになれたけど今も時々思うんだ。これで良かったのかなって、もっと良いやりかたがあったんじゃないかって。もしもの話もたらればの話もあり得ないのは理解してるけどな」

 そう話す魔理沙は少し残念そうで、後悔しているように見えた。

 

「――――」

 

 ゆっくりと目を開く。

 もう私の答えは決まった。

 

「――それでもやりたい。魔理沙との全てを壊す覚悟で挑むよ」

 

 難しい事を考える必要なんてなかったのだ。

 記憶の中に後悔している友達がいた。

 全ては彼女の事情で私は何の関係もないかもしれないけど、私は今のままいるなんて選択をするよりも最高の結末(ハッピーエンド)を迎えたかった。

 だから、挑む。

 これは、たったそれだけの話だ。

 

「……それで」

 

 私はレミィたんを見据えた。彼女との約束に私は答えを示したからだ。

 

「言う必要は無いわ。貴女の方針は分かった。それでこそ私の妹よ、とオリジナルなら言うわね――さて、これから私の全身全霊をもって貴女のサポートをしよう、主様(あるじさま)

 

 三日月に歪んだ口元から鋭い牙を見せながらレミィたんは上品に笑う。ここに二人の思いは一致した。

 そして二人は目的の友がいる場所は歩き出す。

 さあ挑もう。

 最高の結末(ハッピーエンド)を掴み取るために、全てを賭けて。

 

 私達はその覚悟で魔理沙の家の戸に手を掛け開く。

 と、

 

「よおフラン」

「あぁどうも。初めましてフラン嬢。魔理沙の父です」

 

 …………………………………………。

 …………………………………、

 ……………………………(汗)

 

「…………ねぇ、どういうことかな」

「し、知らん……私は知らない……」

 

 小声でレミィたんに尋ねると彼女は首を横に振る。

 本当に知らないらしい。軽く睨んでやるとレミィたんは全身から気持ちの悪い汗を噴き出して全力で目を逸らし始めた。ありとあらゆるものを破壊すると称された少女は重く静かにゆらりと立ち上がる。

 

「あれだけ堂々と私に選択迫っておいてどういうことかな? 私も本気で全てを懸ける覚悟だったんだよ、それこそ魔理沙との関係が壊れる覚悟で挑むつもりだったんだよ?」

「待って、その……わ、私は悪くないの! 我ながらあの説教はなかなか良かったでしょ!? あ、姉としてキチンと大切な事を教えようと、そう! 大切な事を教えようとしただけなの!!」

「はぁ? あれだけ啖呵切らせておいて何を言うかと思えば私は悪くない? 私が魔理沙に挑むどころか既に話着いてるじゃん!! この羞恥心を!! どこに!! ぶつければ良いんだ!? ああん!?」

「待って待ってフラン馬乗りは待って!! 貴女普段の口調が壊れてるわよ!? 貴女自分のキャラが壊れてる自覚はないの!?」

「ブチ切れたら口調くらい壊れるわ! しかもいくら姉だからって肝心な所を似てんじゃねーっ!! 何だこの意気込んで来てみれば全て終わってて空回りしてただけって! 道化か!? 妹をピエロにしたいのかっ!?」

「私だって知らなかったのよ! 私も今すっごい顔赤くなってるんだから! ほら恥だって一緒なら恥ずかしくないわ! どうせなら一緒に恥として受け入れましょうって待って待ってグーパンはやめて!?」

「ぶん殴ってやる! お前もう本気でぶん殴ってやる!!」

 

 有能なお姉様枠だったのに今回の件で本質が対して変わらないと気付いて、こいつを信じた私が馬鹿だったというか、なまじお姉様と似たようなミスをしたからこそ腹がたつやらでもう思考が一杯だった。

 ぜえぜえはあはあと荒い息を吐く私だがそこでようやくストップが入る。

「ちょっ!? お前人んちでいきなり何しだしてんだ!? ちょっとレミリア倒れてるから! ノックダウンしてるから!」

「止めないで魔理沙! こいつ殴れない!」

「いや止めるからっ!? 自分の家でいきなり姉妹喧嘩始められたらそりゃ家主として止めるからっ!!」

 

 そうやって魔理沙の説得もありようやく私達は落ち着いて話をする態勢に移行する。

 

「……で、家に来るなりいきなりなんだ。レミリアもレミリアでフランに一方的にやられるっていつの間にそんな関係なってんだよ」

「う、うるさいわね。ちょっと私のミスで恥かいただけよ」

 

 どうやら魔理沙はレミィたんをお姉様だと勘違いしているらしい。

 まぁその方が下手に説明するより面倒は無いのでレミィたんもそのまま話を進めるようだ。

 

「そ、それよりもいつの間に魔理沙と魔理沙のお父さんは和解を……?」

「ん、あぁ昨日だぜ。香霖の言葉で目が覚めたって言って親父が瘴気のある魔法の森に命懸けで来てな。私に謝って来たんだ。それでお互い積もる話もあったからして……それで私も謝った。それだけだよ」

「霖之助さんには世話になったよ。彼は魔理沙が幼い頃や俺が店を空ける時に店番を頼むがね、まさかあんな風に正面から説得されるとは思わなんだ。実は俺も前々から魔理沙のことは気に掛けていたし、いつか縁を戻したいと考えていたからね……今回やってみようっていう勇気をもらったんだ」

 

 霖之助さんが全部解決してたんかい!

 何よこれ!? 私達本当にただの恥ずかしい子じゃない!!

 あと事情聞かれて話したら二人の反応は思った通りなんか生暖かい目を向けられたし!

 

「魔理沙の事をそんなに思ってくれていたとは親として嬉しいな。ありがとう、これからも仲良くしてやって欲しい」

「あの……そのなんだ。お前ら変なところで天然でポンコツだけどそういうところ私も嫌いじゃないぜ」

 

 お父さんはともかく魔理沙はもうなんかアホの子を見るような顔だった。

 それから説教された。喧嘩は駄目だと。昼間に外で遊んでいた子供達と同じように二人の前で『ごめんなさい』をさせられた私達の恥ずかしさはもう筆舌しがたい。

 もう顔から火が出るってこの事だね。

 レミィたんに折檻でもすれば気持ちも落ち着くけど仲直りしたせいでそれも叶わない。

 だから、

「あっ、フラン」

「お姉様、しばらく顔見せないで」

「なんで!?」

 ……本物のお姉様をからかって溜飲を下げたのは内緒。

 

 

 #####

 

 

「これは……恥ずかしいですね」

「……うわぁシリアスが一瞬でギャグになりました」

「というかフランに冷たくされた理由がそれなの!? 私何も悪くないじゃない!!」

「まぁ……そのレミリアはご愁傷様と言っておくわ」

「同じく」「はい」

 

 霊夢の言葉に頷いて三人は哀れなものを見る目でレミリアを見つめながら次のページを開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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