十一月二十三日
ようやく香霖堂でお仕事に復帰しました。
どうもフランちゃんです。……と書いても咲夜しか読まないんだけどね。
あ、そうそう。咲夜といえば最近私気になってることがあるんだよ。
咲夜っていつも私の日記の添削してくれるでしょ?
でも不思議なことに、魔界に行ってる時とか幻想郷を旅行してる時、果ては外の世界で過ごしていた時でさえ添削してあったのはなんでだろう?
ちょっと怖いんだけど。何このホラー。
怖くて今まで日記に書けてなかったけど、外の世界で日記を書いて寝た後咲夜の添削がしてあった時は思わず悲鳴上げたからね?
正直、最近はもしかしたら私に発信機でも付けられてるのかとちょっと怖くて……咲夜、良かったらどうやって私の日記に添削してるのか教えてくれない?
咲夜
『メイドの秘密事項です☆』
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読んだ四人は黙り込んでいた。
「…………、」
「幻想郷や魔界はともかく外の世界でも……ですか?」
「……何それ怖っ」
「……さ、咲夜! これどういうこと!?」
怖くなったのか思わずレミリアが咲夜の名を呼ぶが、
「…………、」
「…………、」
「…………、」
「…………、」
――――出てこない。今回に限って出てこない。
四人は今度こそ完全に黙り込み、やがて霊夢がポツリと呟く。
「……レミリア、それは今度咲夜に聞いといて」
「そ、そうですよね! 私達みたいな部外者が聞く話じゃなさそうですし!」
「……すみませんがホラーは嫌いですから。レミリアさん、頑張って下さいね?」
「味方が居ない!? ちょっと待ちなさいよ!! わ、私も普通に怖いから! 実は私も前々から咲夜って私達への愛が大き過ぎて軽くサイコパス入ってるかもって考えた事もあったし! わ、私を一人にするなーっ!!」
大きく身振り手振りしてレミリアが叫ぶがここで真顔の霊夢が差し込むように呟いた。
「その後レミリアを見たものは居ない」
「やめてくれない!? それこそ完全なホラーというかフラグだからッッ!!」
その様子を見て早苗はこう思う。
(……うわぁ)
目尻に涙が溜まっていたので割と本気で怖いんでしょうね、と。
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十一月二十四日
駄菓子屋でこんな光景を見た。
私はじゃんけんグミを買いに来たんだけど、その時一〇歳くらいの男の子がコソッとポケットの中にうまい棒を入れて店の外に出てたんだよね。
万引きってやつ。いけないことだ。
すると店内に居たお客さんの二十歳くらいのお兄さんも気付いたのか、わざわざ外に出てその男の子に声をかけた。
「さっき盗んだモン、俺が謝って返してやるからもうやるな」
って。
男の子はしばらくお兄さんを見て唇を噛み締めてたんだけど、段々涙を溢れ出しながら「ごめんなさい」って謝ってお兄さんにうまい棒を渡したのよ。
お兄さんはその様子を見て少し口元を緩めてからこう言ってた。
「これは親切心から言うが、ちょっとした出来心でも男なら間違った事はしちゃいけねぇよ。今のだって本当は万引きっていう犯罪だ。人のものを奪うって事だからな。お前も友達に自分のおもちゃを取られて返してもらえなかったら嫌だろう?」
「……ひっく、うん……」
「だからもうこんな事するなよ。お前も男なら真面目に生きろ。その方が断然かっこいいからな」
それから「じゃあな」、とお兄さんが去ろうとすると男の子がお兄さんの袖口を掴んで引き止め、真っ直ぐ見つめるとこう口にしたんだ。
「ぼく……もう絶対しない。男だから」
「そっか。絶対守れよ」
「……うんっ!」
それだけ言い残して男の子は駆けていった。
その様子を見て私、お兄さん良い人だなぁ、人ってあったかいなぁって思ったなぁ。
お兄さんも男の子がそう言った事が嬉しかったのかうまい棒を齧りながら上機嫌で帰っていった。
うまい棒を齧りながら帰っていった。
「…………、」
前言撤回、やっぱり人間は無条件にあったかくないようです。
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「最低だっ!?」
「というか最後で全部台無しよ!」
「男なら真面目に生きろと言った本人が食べてどうするんですかっ!!?」
「……息ピッタリですね、三人とも」
上からレミリア、霊夢、早苗、さとりの発言である。
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十一月二十五日
日本史教師「はいっ最近ちょっと進みが遅れてしまったからね! 今日は室町幕府45分で滅亡させますー!」
日本史の先生に言われた衝撃的な言葉。
……ちょっと今日は眠いしこれだけにしとこう。
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「もう、幕府ってレベルじゃねーぞ、オイ!!」
「……なんですか早苗さん、急に叫んで」
「こほん、失礼しました。私の中の衝動的なリビドーが発生しただけです。ともかく、もう完全に昼夜逆転してますね。吸血鬼が夜眠いって」
「それは同意ね。でも人間にもあるでしょ? 昼にふと眠くなること」
「あー、あんな感覚なの?」
「多分そうよ」
「多分なんですか!?」
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十一月二六日
今日は久々の商品開発。
折角なのでレミィたんも連れて香霖堂で行う事になった。
面子としては私、森近さん、リアラさん、レミィたんの四人ね。
「始めまして、レミィたんよ」
「あらあら初めまして。フランの式神のリアラです。よろしくねレミィちゃん」
「僕は森近霖之助だよ。まぁよろしく頼む」
そんな感じの自己紹介から今回の会議は始まった。
「さて、早速だけどこれを見てくれないかな?」
開幕、そう言って腕輪のような
どうやら魔法道具は誰でも弾幕ごっこが出来るようになる道具の試作品らしく、エクセルの試算は開発費用のようだ。
「まずはこの魔法道具について説明しようか。最初は杖型デバイスの予定だったけどあのままだと外に出る時、手に持たなくてはならないからそれを解決する為に腕輪にしてみたんだ。早速嵌めて、軽く魔力を込めてくれないかな?」
言われるままにレリーフの彫られた腕輪に手首を通して軽く魔力を通す。すると腕輪が小さく光ると、目の前に杖が出現した。
「腕輪に魔力や霊力を通す事で起動し、杖になる。腕輪状態の事を僕は『待機モード』と呼んでいるけど、つまりフォームチェンジ可能にする事を思い付いたんだ。これによりかさばらない魔道具が出来た。あぁ、コストも余り掛からないから安心してくれ」
それに後からアクセサリー型を作って売ればまた売れそうだから色々売り方に幅が出来ると、森近さんは言った。
「ともかくこれを売る上で一番の問題は魔法回路の組み方の効率化とデザインだと僕は考えたんだ。安全性は解決の目処が付いたから、これから僕らが気にしなきゃならないのは使う人の使用感、つまりデザインとこの複雑な魔法回路を如何に魔力消費を抑えて内部に埋め込んでいくか、つまり大量生産に向けた対策だ」
私の腕にはめた腕輪を外して彼は言う。
「ここまで良いかな? 何か意見があるなら言って欲しいけど」
「いや、良いと思いますよ? 待機モードは盲点でした。確かに杖だと出かけるときにかさばりますからね……」
「だろう?」
流石経営者だよね。
やっぱり商売となると森近さんも凄いんだなぁ、と思っていると待機モードの発想の出所はどうもリアラさんらしい。
「ふふ、力になれてたら嬉しいわぁ」
ぽわぽわした笑顔でリアラさんがそう言ってた。
「……驚いた。思いの外、真面目に商品開発してたのね」
レミィたんも舌を巻いたみたい。
私も正直驚いた。
ともかくこの方向性で完成目指して頑張ろう!
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「だいぶ形になってきましたね」
「……完成まであとちょっとですかね?」
「幻想郷に弾幕ごっこブームを巻き起こす超兵器……か」
「まぁ言っても実力者とやりあえる人は限られるけどね」
四人はそんな事を駄弁りながら次のページをめくるのだった。