……やっぱり駄目だったよ(日数増やすのが)
十一月十六日
アリスさんに誘われてやって来た魔界世界。
それは想像の斜め上をいく魔法と科学の世界だった。
まるで創作の世界の中みたい。地面には車や電車、新幹線が走り空では箒に乗った人々が飛び回る。うん、
で、そんな世界で朝から起きた私達はアリスさんの実家だという家に向かっていたんだけど……、
「ばっ、ばばばばばばばばうはばっふ!!」
超寒いです。なんですかこれ。意味分かんない。
「フラン、何か言いたい事があるなら人の言葉で喋ってくれない? いきなり新言語を生み出されても反応出来ないのだけど」
「さ、さむっ、寒いんです! なんですかこの氷河期みたいな氷雪地帯!? 街からまだそんなに離れてないですよねっ!? 魔界ってどんな気候してるんですか!!」
「どんな気候って言われても、元は一人の人が創り出した世界な上にほぼ妄想で創られてるのよ? ……まぁ、私の育ての母なんだけど」
「お母さん!? お母さんがこの世界創ったんですか!?」
サラッと露わになる衝撃の事実だがいかんせん寒過ぎて思考が追いつかない。
我慢ならなくなった私は、自分の肩を腕で抱きながら、
「そっ、それに私。吸血鬼だからちょっとやそっとじゃ暑さや寒さなんて感じないのに……!」
「子供の頃に聞いた話だと氷点下一〇〇度を下回る地域もあるって聞いたわね。氷雪の神が眠っているとか……」
「ひゃ、マイナスひゃくっっ!?」
体感的に暑さならマグマレベル、寒さならマイナス五〇度程度を余裕で過ごせる私だけどどうやら桁が違ったらしい。
幾ら何でもこれは寒い。アリスさんは何故無事なんだろう?
私が考えるとアリスさんは答える。
「あぁ、私は温度を殆ど身体で感じれないのよ」
なにそれずるい!
しかしそんな事を言っている場合ではない。一刻も早くこの寒さを防がないと凍死しかねないのだ。
「レーヴァテイン! 燃えて!」
とりあえず私は
「はうあ!?」
「あ、言って無かったけど魔界って気候が無茶苦茶だから適当に技を出した程度じゃ直ぐ消されるわよ。特に炎の技は」
「ううううう! じゃあこれならどうだ!」
なんだその無茶苦茶な設定!? スペルカードが一瞬で掻き消されるってどんな気候よ!! ずっこい!
だがしかし私には奥の手がある。そう、私はレーヴァテインの威力を高めてくれる素敵な剣があるのだ。早速異空間から取り寄せーー
「はぁ、落ち着きなさい。私が魔法かけたげるから」
「お、おおっ、おおお願いします!」
――る前にアリスさんが溜息を吐いて魔法をかけてくれる。
やれやれという顔だがどこかお姉様に向けるような目を私に向けているのは何故だろうか。
『フバーハ』
ともかく、アリスさんが呪文を唱えた瞬間寒さを感じなくなった。
適温。うん、この時ほど普段暮らしている環境に感謝したことはないね。
「さ、気を取り直して行くわよ」
「は、はい!!」
そんなこんなでアリスさんの家に向かう。
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しばらく進んでいると巨大な建物が見えてきた。
そのまま私達はその巨大な建物に入っていく。
「アリスさん、あのここは……?」
「パンデモニウム。魔界の果てに近い建物よ。あの中が私達の家なの」
「パンデモニウム……?」
ともかくそんな場所らしい。
家というより空間って感じだけどね。外の寒さもパンデモニウムに入った瞬間消え失せたみたいだし。
だがここで見逃せないワードがアリスさんの口から飛び出してきた。
「ここまで来れば後少しよ。ここに長居するのは危険だしサッサと抜けましょう」
「……危険って?」
「瘴気よ。言っておくけど魔法の森なんか話にならない濃厚な瘴気があるわ。吹雪に紛れてたから分かりにくいけど、基本的に都市を除いて魔界では瘴気に溢れているの。それを別の世界の人が浴び続けると最悪死に至るわ。妖怪もしかりよ。魔界が地獄よりも怖いと言われるのがこれが所以ね」
瘴気? 感じないけど……あるのか。
魔界が地獄よりも怖いって初めて聞いた時は疑問だったけどようやくその疑問が氷解した。
(……そう言えば今更だけど咲夜も魔界に来たことあるみたいなんだよね。というか魔界は地獄よりも怖いって言ってたの咲夜だし)
ともかくだ。パンデモニウム内にあるアリスさんの家に着けば問題無いのだしサッサと行くべきだろう。
というわけで抜けて行くと急に世界が開けた。
具体的にいうとルビンの壺をあしらった空間を飛んでいたのが、いきなり自然豊かな場所の高台にある豪邸がある空間に繋がったのだ。
「うぇっ!?」
凄い、どーなってるんだろう? 素直に驚いた。
そこまで来ると飛ぶ必要も無いと判断したのかアリスさんが大地に降り立ったので私も降り立つ。
「す、凄いですねアリスさん。あそこがアリスさんの家ですか?」
「えぇ。あれが実家よ」
「こ、紅魔館みたい」
別に紅い館じゃないけど側から見た巨大なサイズの家に驚いた。
絶対メイドさんも居るんだろうなぁ、と思う。となるとアリスさんって思ったより良い家の生まれだったのかな?
お嬢様って立場とか。うん、すっごい似合う。それっぽいよ!
私が褒めちぎっているとアリスさんが言う。
「フランだってリアルお嬢様でしょうに」
「それはそれ、これはこれです!」
でもニコニコしながら押し切るとはぁ、と息を吐いて引き下がってくれるあたり優しいよねアリスさん。
ともかく彼女は実家だという豪邸の扉に手を掛け、開けた。
中には綺麗に掃除された豪邸内が見える。どうやらエントランスもあるらしい。
そして、
「夢子ー、居る?」
中に入りアリスさんが人の名前を呼ぶとメイドさんが飛んで来た。
ロングの金髪で赤い半袖のメイド服を着ていて、胸元には黒い紐を蝶々結びにしている女性だ。
「あ、アリスお嬢様!? お、お帰りなさいませ!」
「ただいま夢子。久しぶりね〜」
本当にお嬢様だったんだね。夢子と呼ばれたメイドさんは久しぶりに見たらしいアリスさんを見て顔をほころばせていた。
「音沙汰無くもう十年にもなりますか。お元気そうで何よりです」
「それはこっちのセリフよ〜。それでお母様やユキ姉やマイ姉も元気してる?」
「えぇそれはもう!」
夢子というメイドさんは嬉しそうに言って、それから私を見て目を丸くした。
「……えっ?」
口が半開きだ。驚いているらしい。あ、そう言えば私って幼い頃のアリスさんに似てるんだったよね。だからかな?
「えっ……ルイズさんの言ってたこと冗談じゃ無くて本当に……?」
と思ったけどどうやら違うらしい。
というかあの人私達と会った後にここに来たのか。
ともかくメイドさんが驚いていると、そこに二人の女性がやって来た。
「ん? あー! アリスじゃない!!」
「えっほんとだ。アリス! 久しぶりね!」
「ユキ姉、マイ姉。二人とも元気そうで」
やって来た二人にアリスさんが懐かしそうに声をかける。
どうやら黒い服を着て黒い帽子を被って横から後ろまでが肩にかかる長さの金髪の方がユキさんで、白い服を着て背中に白い翼が生えている水色の髪の後ろが肩よりも長めな方がマイさんらしい。
そんな具合にアリスさんの後ろからスカートの裾を掴んで会話する様子を見つめているとメイドさんが話しかけてきた。
「こんにちは?」
「こ、こんにちは」
「初めまして、メイドの夢子と申します。お名前を教えて頂いてもよろしいですか?」
「ふ、フランです」
「フラン――フランお嬢様ですか。良い名前ですね」
そう言って夢子さんは私にニッコリ笑いかけてくる。
名前を褒められると悪い気がしない私もにへら、と笑った。
「〜〜〜〜ッ!!」
あれ、なんかメイドさんが悶えた。
どうしたんだろう? 顔を押さえてプルプルしている。えっ、やだ。もしかして変なところがあった? 宿屋から出てくるときキチンと顔をチェックしたのに……。
とかそんなことを思っているとアリスさんの方も話がひと段落ついたらしい。
ユキさんとマイさんが夢子さんと話している私の方に歩いてきて、へぇーと声を上げて言う。
「この子がルイズの言ってたアリスの娘ちゃん? よく似てるわね」
「ほんとほんと! 超似てるじゃん。眼の色以外ソックリ。それにしてもアリス、いつのまに結婚してたの? 家族なんだから結婚式に呼んでよー!」
「そうね。お母様もちょっと怒ってたわよ?」
「ち、違うわよ! 私結婚なんてしてないから!」
それ全部誤解だから! とアリスさんが説明しようとすると空気が凍った。
「え? アンタまさかヤリ捨て……?」
「なんでそうなるのよ!? 別にフランは私の娘じゃないの! 友達よ、友達! あぁもうルイズが勘違いしたせいで面倒なことにー!」
そう言ってアリスさんが髪をぐしゃぐしゃ掻き混ぜて、やがて溜息をつこうとした時だった。
「ア・リ・スちゃーんっ!!」
館の奥から赤い衣を纏い白銀色の髪の左上でサイドテールにしている女性がアリスさんを瞬間的に抱きしめたのを私は見た。
その胸はたわわに実っていた。
「もー久しぶりじゃない! もっと顔見せてくれないと〜! ともかく元気そうで良かったわ本当に!」
「むごごっ!? むぐぐごぐっ!?」
アリスさんが顔を胸に埋めて何か言っているがその女性は完全無視だ。すりすりと顔を擦り合わせたりやりたい放題にアリスさんにボディタッチする。
それからやがて満足したのか、それとも初めて気づいたのか私の方を見た。
「……小ちゃいアリスちゃん?」
一秒、嫌に長く感じる一秒間の空白が生じる。
が、やがて女性は私にも飛びかかってきた。
「可愛いいいいいいいっっ!!」
「むぐぐごぐっ!?」
後のことは覚えていない。
胸に顔が埋められて意識が落ちたのは間違いない。
でもなんだかあったかい匂いがした、そんな気がする。
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「何があったんですかこれ!?」
「神綺ね。アリスの育ての母よ」
「……成る程、随分お子さんが好きな方のようですね」
「おいそこぉ! 私にも分かるよう説明しなさいよ」
「一言で言うとアリスが好き過ぎるママ」
「分かりやすい……!」
「いや、今の説明で分かるんですかっ!?」
「というか今更だけどこれ日記じゃないわよね。小説よね」
「そして霊夢さんは何言ってるんですか!? 確かに書き方がそうですけれども!!」
「咲夜、添削したの?」
「しましたけど書き方は自由ですから……」
「シレッと混ざりますね咲夜さん……」
早苗がひとしきり突っ込んで、ともかく次のページをめくるのだった。