日記、一日分で五千文字。
どうなってるんだこれ……。
十一月十五日
早朝。約束通りアリスさんの家に行くと彼女から服を着替えるように言われた。
「私のお古だけど着ときなさい。何があるか分からないし、あの人の事だから何かに触発されて魔界を造り替えているかもしれないから」
青いリボンに青い服。青色の服を着るって中々無い私にとっては新鮮だ。アリスさんにちなんでいうなら、不思議の国のアリスになったみたい。
それで着て、アリスさんに見せると少し驚いた顔をしていた。
「驚いたわ。髪の毛の色が似てるからかもしれないけど幼い頃の私そっくり……ううん、殆ど同じみたい。眼の色とか違いはあるけど……ビックリよ」
へぇ。私、アリスさんに似てるんだ。えへへーちょっと嬉しい。
アリスさんってすっごく美人さんだから特にね!
ともかく装いも改めて早速行こうという話になったんだけど、何故か向かう先は博麗神社らしい。
アリスさん曰く、
「別に魔法を使えば魔界への道は作れるけどそれは非常ルートだから今回は正規ルートで行くわ。実は博麗神社の裏山にある洞窟の中に魔界との門があるのよ」
とのこと。
そんなわけで博麗神社の裏の山にある洞窟まできました。
少しひんやりとする洞窟内を反響する自分達の靴の音を楽しみながら歩いていると、やがてアリスさんが立ち止まる。
「ほら、ここよ」
指さされた先にあったのは文字通りの門だった。
大きな部屋にある鉄扉。大きな錠前が付いていて、とても開きそうにない。
成る程ーーつまりこれはあれか。
「これを壊せばいいんですか?」
「何がどうなってその答えについたのかは知らないけどそんな魔理沙みたいな開き方はしないわ」
イェイ、速攻即答大否定!
てっきり『魔界』なんて禍々しい名前してるくらいだから破壊してこじ開けて来いって意味かと思ったんだけど。
「違うわよ。この扉の開け方はちょっと特殊でね、魔界の合言葉を言わないと開かないの」
「合言葉ですか? 任せて下さい! えっと……開けゴマ!」
しかし扉は開かない。
「……え、えっとアロホモラ! あ、アブラカタブラ! ちんからほい!」
……しかし扉は開かない。諦めたように私は言う。
「ありすさん、ばとんたっち」
「はいはい。この扉を開ける合言葉はとある解錠呪文なのよ。じゃあ行くわね」
そう言ってアリスさんは扉の前に立ち、そっと呟く。
『アバカム』
瞬間、扉がギギギギィ……と重苦しい音を立てて外側に開き始めた。砂埃を立てて扉が開ききると向こう側から眩い光が降り注ぐ。
「さ、行きましょう」
「あっ、はい!」
アリスさんに手を引っ張られて門を抜ける。
抜けると同時に眩しい光は消滅し、ようやくまともに見えるようになったことで私は小さく息を吐いた。
すると横から声をかけられる。
「あら、アリス久しぶりね」
「ルイズじゃない。久しぶり」
見ると、いかにも旅行者といった出で立ちの女性がそこに居た。金髪で優しそうな笑みを向ける彼女は懐かしそうな目でアリスさんを見つめていた。
「前に会ってから何年振り?」
「確かもう十年近いわね。元気そうで何よりだわ」
ルイズ、と呼ばれた女性はそう言って目を細める。アリスさんの容姿を確かめて懐かしさが込み上げてきたのかもしれない。
でも私、一つだけ疑問があるんだよね。
というより、私。このルイズって人を知ってるかもしれない。
前にぐーやさん……輝夜さんに言われてネットにあるスレッドってところに誘われたんだけどそこにルイズって名前の子がネタにされてた覚えがあるんだよね。
くぎゅうううううう! とか。
ルイズぅぅうううわぁああああん!! とか。
もしかしてこの人なのかな? よく分からないけど彼女は有名人なのかもしれない。
するとしばらくアリスさんの談笑していた
何度も瞬きして、えっ、と明確な驚きを口にして彼女は言う。
「アリス……いつの間に子供をこさえたの? しかもこんな大きな子」
「いや、別に私の子供じゃーーーー」
「にしてもよく似てるわね! かなり前に見せてもらった小さい頃のアリスの写真そっくりじゃない! お嬢ちゃん、お名前は?」
「ふ、フランです。初めまして……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールさん?」
「それは別人よ! 私はルイズ、ただのルイズよ。それにしてもフランちゃんかぁ……良い名前ね。アリスも隅に置けないわねぇ、このこのぉ! もう、結婚したなら教えてよ! 呼んでくれればいつだって結婚式に行ったのにー!」
「いや、違」
「ほんと全く知らなかったわ! フランちゃん、お母さんの言うことちゃんと聞くのよ?」
「ルイズさん話を聞い」
「あっ、とそろそろ次の観光先に行くからまたねー! あ、アリスお幸せに!!」
「ちょ、待って…………、あぁ」
そんな具合にルイズさんは誤解したままどっかに飛び去ってしまった。
あのアリスさんが一方的にまくしたてられた……? 初めての光景を前に私は驚きを隠せない。
というか凄い勢いだったねルイズさん。
「あぁ……勘違いされた……私は別に良いんだけどルイズさん噂好きだから絶対あの人にも誤解したまま伝わるわよね? ……ちょっと憂鬱だわ」
呟いてからあっ、と私に気付いたアリスさんは慌ててフォローするように言う。
「あっ、別にフランちゃんが娘だったら嫌ってわけじゃないのよ? ただ……娘が出来たとか伝わるとちょっと厄介な人がいてね」
「厄介な人、ですか?」
「私の育ての親……といえば良いのかしらね。悪い人じゃないんだけど、ともかく会えば分かると思うわ」
少し溜息を吐きながらアリスさんが言う。
うーん、苦手な人なのかなぁ? でも育ての親ってことはアリスさんのお父さんかお母さんだよね? 複雑なご家庭ってやつかな?
とりあえず詮索はやめておいた。
で、ここでちょっとルイズさんの印象が強過ぎて書いてなかったけど私達が今いる場所に付いて触れておこうか。
今、私たちは沢山の旅行者達が居る飛行場のような場所に居る。
うん、外の世界で見たような光景が目の前に広がってるんだよ。旅行者が沢山見えるし、ターミナルビルと言えば良いのかな。窓からまた外の景色がまんま『外の世界』だった。
宙に吊り下げられた電光掲示板や、人々が持つスマートフォン。着ている服も外のそれに酷似しているが、若干西洋風のドレスを着る人もちらほら見える。
「……改めて見ると、外の世界ですね。ここが魔界なんですか?」
「そうよ。そして私の故郷」
すまして言うアリスさんだけど、思ったより近代的で驚いたというのが私の正直な感想だった。
外の世界に所狭しと並ぶビル群は外の世界の映画で見たヨーロッパを思わせる雰囲気だ。また家々もそれに準じたものである。
なんていうか外国に遊びに来た感覚がするなぁ。
異世界に来たというよりは余程そっちの方が感情として早く湧いてきた。
そんな私がキョロキョロしていると、
「あっちで受付するから付いてきて頂戴」
とアリスさんに呼ばれ付いて行くと航空会社の制服のようなコスチュームに身を包んだお姉さんが対応してくれた。
「初めまして、入国管理局のサラと申します。魔界へは初めての渡航でしょうか?」
「いえ違うわ。えっとカードカード……っと、これね」
「確かにお預かり致しました……、えっ!? こ、このカードは……! たっ、ただいま認証いたしますので少々お待ち下さい!」
アリスさんがカードを差し出すと受付のお姉さんは慌てたように奥へと入っていく。
それから数十秒待っていると奥からお姉さんが偉そうなお爺さんを連れて窓口まで出てきた。
「対応が遅れ失礼致しました。私は入国管理局窓口長のマドグチチョと申します。ええと、アリス・マーガトロイド様ですね?」
「えぇ」
「そうでしたか。確かに確認致しました。して後ろの
「いいえ。友達よ、彼女は初めての渡航になるわ」
「では入国カードを作りましょう。こちらにおいで下さい」
「あ、はい」
呼ばれてお爺さんの後ろについていくと一枚の紙を書かされた。氏名年齢電話番号などの登録を終え、写真撮影を行いようやく一枚のカードが渡される。
「そちらがフラン様のカードになります、今後はそちらのカードをお持ちの上ご入国下さい。それとアリス様、一つよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
アリスさんが尋ね返すとお爺さんはアリスさんに何やら耳打ちした。初めはふんふん、と聞いていた彼女の顔が徐々に歪むのを見てあまり良い話じゃなかったんだな、と私は思った。
「あの人は……」
「全てはアリス様を心配しての事です……して、お顔をお見せになったりは」
「分かってる、そのつもりで来たから安心して頂戴。ついでに説教してやるわ」
「……左様でしたか。ではこれ以上は何も言いますまい」
お爺さんはそこで真面目な顔を崩すと、しわくちゃな笑みを向けて、
「では、魔界へようこそ。楽しんで行って下さい」
と私達を見送ってくれた。
そうしてようやく入国管理局なる建物を抜けた私とアリスさんは街に出た。
「じゃあここからは飛行で行くわ」
「了解です」
それからしばらく飛んで『Romantic』『Children』と書かれている2枚の看板がある街の宿に泊まることになった。
飛行中は眼下を眺めていたけど完全に雰囲気はあれだね。魔法がある外の世界って感じだった。箒に乗って飛んでいる人も多くいたし、地面には車も走っているしで入り混じった感が凄い。
というかハリーポッターみたいだよね。
街並みもホグワーツ……というかやくそうやポーションってものが売ってても違和感ない見た目だし。
それに降りた街でふと店に寄ったりしたけど普通に魔道具が一杯あったなぁ。
魔理沙が来たら喜びそう。あ、森近さんも。
なんか適当にお土産買っていこうかなぁ? 自分の分も。そう思って近くのクラシックなイメージのある小さな古魔法道具屋に寄ったら良さげなものを見つけたよ。
「わ、竪琴だ」
多分元は黄金だったんだろう、錆びた竪琴。アンティークってやつかな? かなりの年代物みたいだった。思わず衝動的に買いたくなったので店主さんに値段を聞くと、
「あぁ、そんなのもう置物にしかなんねぇから……まぁ材質が黄金にしても二万ってとこだな。買うかい?」
「あ、はい。日本円は使えますよね?」
「あぁ。通貨としちゃ信用があるからね。二万円確かにいただきましたっと、毎度あり! ありがとな嬢ちゃん!」
というわけで黄金の竪琴を購入!
で、早速能力で黄金の竪琴を直す。具体的には錆びるまでの歴史を全て破壊してしまえばちょちょいのちょいだ。
とりあえず一番良い音色の鳴る時期まで戻せば良いだろう。
で、直したんだけどそこで握り手のところに名前が彫ってあることに私は気付いた。
「……ブラギ? 元の持ち主さんかな?」
私的にブラギと聞くと北欧神話のオーディンの話に出てくる人を思い出すけどそんなわけないしね。
ともかくブラギさん、竪琴大事に使わせて貰いますね!
「それでは早速弾いてみようかな……」
これでも音楽は騒霊三姉妹に教わっているのだ。ハープが弾けるし多分竪琴も同じ要領でいけるはず……。
とりあえずUNオーエンは彼女なのか? を弾いてみる。
「〜〜♪ 〜〜♪」
竪琴はとても綺麗な音色を奏でた。
透き通る音というか、心に届く音というか。弾いてる私もついつい目を閉じて音を楽しんでしまう。
そして一曲奏で終わってふと目を開けると驚いた。
「ブラボー!」
「素晴らしい音色だ!」
「このような音楽に出会えるとは……!」
いつのまにか私の周りを覆うように沢山の人が集まっていて、皆私を褒め称えていた。
あと沢山のおひねりが飛んできた。
ええっ!? ちょ、ちょっと待って! おひねりなんて困るよぉ!
ブラギさんの竪琴が凄いだけで私なんて全然凄く無いんだから!
そうやって戸惑う私だけど、
「他の曲は無いのかい?」
「感動した! 感動したよ……!」
「もっと聞きたいわ!」
……やるしかない雰囲気。
わ、分かったよ! アイドルとして音楽も出来るってところを見せてあげる! 今の私はそう――音楽家フランちゃんだ!
「次、魔法少女達の百年祭を弾きます」
余談だが、一曲弾くたびに割れんばかりの歓声とおひねりが飛んできたことは言うまでもない。
結局、アリスさんが私を見つけるまでずっといろんな曲を弾いていた。
うーん……もしかしたらこの竪琴、凄い力のある竪琴だったのかな? 私の演奏の手であそこまで人々が熱狂するなんてあり得ないし。
個人的には普通に楽しんでもらえるなら嬉しいけど、あまり多用する物じゃないのかもしれない。
とりあえずは異空間を開いて、前にゲットした炎剣と一緒にコレクションしておこう。
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「……魔界かぁ、懐かしいわね」
「というか待ってください。ブラギってあれじゃないですか? 北欧神話のオーディンの息子さん……」
「知っているのか早苗!?」
「詳しくはありませんが……ブラギの竪琴という神話に出てくる魔法道具があるんです。北欧神話きっての詩人と呼ばれるブラギが持っていたとされる竪琴で、父であるオーディンが小人達に作らせた物だとか。その音色は全てを聞き惚れさせるそうです」
「……あの、皆さん一ついいですか。実は以前香霖堂とあるプロジェクトで提携した際に聞いたのですが、魔理沙さんが持ち込んだものの中に本物のレーヴァテインが紛れていて、それをフランさんが持って行ったという話を聞いたのですが……」
「待ちなさい。つまりあれ? フランは二つの神器を持っている……?」
「………………、」
「………………、」
「………………、」
「………………、」
「……その、次のページ行きましょうか?」
暫し黙り込んだ四人だが、やがて痺れを切らした早苗の声に頷く形で次のページをめくるのだった。
次は日数を進めたい(願望)