また増えた……。
十一月九日
香霖堂に行き、森近さんと話してようやく商品の具体案が出来た。
で、問題になる量産する為に雇わなければならない人なんだけど、予想外の方法で解決出来るらしい。
森近さんは奥の部屋に入って何やら紙束のようなものを持ってくると私の前でそれらをバラまいて言う。
「出ておいで式神達」
その瞬間、ボンっと音を立てて紙束が生き物に変化した。
なんだろう……見た目は白い四角に角ばった足と手を付けたイメージ? お腹に大きな四角いマークがあってそれぞれピョンピョン飛び跳ねたりとかなり動き回る生き物達だった。
「これは式神といってね、まぁ呪符に術者の呪力を込める事で形をヒトや鳥等へと形を変化させ、術者の命で働く存在を生み出す術だ。今はクレイ人形みたいな感じだけど力をこめればそれこそ僕と同じ見た目にしたり出来るし、能力を使わせることも出来る。まぁ僕だって伊達に長く生きちゃいないさ」
へぇ、そんな便利な技が。
でも式神といえば橙ちゃんとか藍さんを思い浮かべるけどアレとは違うの?
「うーん……まぁ説明すると同じ名前の別の技だね。あっちは既存の妖怪に符を付けることで文字通りその人物の式にしてしまうことで、こっちは呪符を使うから。原理を説明すればまるっきり違うわけではないが……」
その辺りを説明しても別に意味はないから、と森近さんは言う。
「ねぇ、森近さん。それって私も使える?」
「あぁ、キミなら使えると思うよ。僕もそのつもりでこれを話したんだ」
そう言うと、ほらこれが呪符だ、と森近さんは紙束を渡してきた。
どうやら最初から教えてくれるつもりだったらしい。そういう技って普通長年の研鑽の末に得るものなのにそう簡単に教えて良いのかな? 能力とか。
「まぁあれば便利なものだからね。ついでに修復術も教えておこう。言葉の通り壊れたものを修復する術だ。かつて……先代以前の博麗の巫女の代の頃の博麗神社も一度これで修復したことがあってね。覚えておいて損はない。それに廃れつつある術だから僕個人としてはむしろ覚えてくれると嬉しいよ」
ふぅん、そうなんだ。
じゃあ遠慮なく覚えさせて頂きます! えーっと、
「式、出てきて!」
先ほど森近さんがやったように呪符をギュッと握り締めて力を込める。どのくらい込めれば良いのかな? 体内の魔力の半分くらい? とりあえず込められるだけ込めてみよう。
と、その前にあれを外そうか。もう付けてることに慣れてしまって付けてることすら忘れてたけど、封印の道具付けてたんだよね。というか今思い出したよ。
で、外すと身体中から抑えていた魔力や気やらが一気に溢れた。
「え?」
自分のものとは思えない濃厚な魔力が溢れ出て――同時に式神に吸い込まれていく。
そして、あれこれヤバイ? と思って慌てて溢れ出る力をコントロールし始めて……それが収まる頃には私の溢れた魔力の殆どが式神に吸い込まれた後だった。
もう完全にアウトだった。
「……フラン、ちょっと、その。式神にはそんなに力を込めなくても良いんだよ?」
「もう遅いです森近さん」
諦めたように私が言うが早いが一枚の呪符がハラリと落ちて、ボンっと音を立てて変化する。
そして――煙が晴れて出てきたのは筆舌し難い美女だった。
「んっ……」
(えっ?)
思わず見惚れてしまう。一目その姿を見た瞬間に心が大きく揺り動かされた。
「ここは……なるほど、そういうことね」
(……うわっ、うわっ)
その女性は濃い黄色の髪を片側のサイドテールにまとめていた。髪を纏める素材として私のナイトキャップに付いているヒラヒラのリボンが使われており、それが髪の横でひらりはらりと揺れていた。
顔は化粧がいらない程度には整っており、瞳の色は透き通るような真紅で、それでいて鋭くなく優しさを持っている。服装はゆったりとしたワンピースの上から紅いカーディガンを羽織り、季節感ある装いだ。またそのゆったりしたワンピースの上からでも分かるたわわな胸が見る人を惹きつけた。
しかし私の心を大きく揺り動かしたのはそこではない。
私の心が揺さぶられたのは。
「ふぅ、呆けた顔してどうしたの? ――――私」
私がぼんやりと見つめていると、彼女はクスリと笑って微笑みかけてくる。その様子で私の心臓が跳ねた。
だって、仕方ないだろう。
私の目の前に現れたのは未来のなりたい自分をそのまま体現した女性だったんだから――――。
正直この後のことはあまり覚えていない。
自分の憧れを体現したような人が出てきて私もビックリしてるんだよ。というか物凄い憧れの目で見ちゃったし。
ただ彼女をこのまましておくことは出来ないので、色々考えたけど彼女は香霖堂でスタッフとして働いてもらうことになった。
私の溢れ出る魔力の大半を注ぎ込んだお陰で数年以上活動出来るらしいし、それが良いよね?
まぁ式だから消すことも出来るけど……それはどうも私には出来そうにないや。憧れの人を消すとか無理だよ、うん。
あと、彼女の名前だけど。
「ここに住むのは構わないが……彼女をなんて呼べば良いんだい?」
「わ、私が考えるんですか?」
「ふふっ、自分で考えても良いですよ? でも名前っていうのは人から与えられるものだからやっぱり名付けてくれると嬉しいわ」
「うぅっ……じゃあ、リアラという名前はどうでしょう? レミリアのリアと、フランのラで」
そう言うと彼女は少し考え込むように手の甲を頰に当てて、やがてにっこりと笑ってこう言ってくれた。
「リアラ……リアラ・スカーレット。良い名前ね、気に入ったわ。ありがとう、フラン」
こう書くと幼稚であまり好かないけど。
憧れの人にこう言ってもらえてすっごく、嬉しかったなぁ。
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「……カリスマのレミリアさん人形ときて、今度は大人版フランちゃん式神ですか」
「もうポンポン使い魔みたいなのが増えてくわね。というか香霖堂で急に同居始めた金髪の美人さんってあれ式神だったの!? てっきり霖之助さんが良い人を捕まえたのかとばっかり思ってたわ」
「すっごい良い人ですよね。気遣いが程よくて」
「……というかここまで読んできてなんだけど衝撃な事実が発覚し過ぎてお腹いっぱいよ、私」
上からさとり、霊夢、早苗、レミリアの言葉である。
というかもうレミリアに至っては諦めムードだった。
もう何が起きてももう驚かないわ、と言わんばかりの態度である。
そして辟易したように彼女は次のページをめくった。
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十一月十日
しばらくは森近さんとリアラさんとで商品開発を進めるらしい。
その間、私はおろそかに……という程では無いけど少し時間を減らしていた勉強に力を入れることになった。
「じゃあフランちゃん。こっちの二次関数を解いてください」
早苗さんに指定された問題を私はスラスラ解いていく。問題は基本、公式さえ覚えておけば後は当てはまるだけだ。
とはいえそれは基本問題だけで、応用になるとまた別の技が必要になるけれど。
「紅茶、置いておくわね」
「あぁわざわざすみません。妖精……さん?」
視界の端で妖精に扮したレミィたんが紅茶とお菓子を置いていく。早苗さんは笑顔でありがとう、と言ってふっと表情を怪訝そうなものに変えた。え、バレた?
「……………?」
どうやら何かが頭に引っかかっているらしい。
少し首を捻っていた早苗さんはやがて、まぁいいかと思ったようで思い出すのをやめていた。
うーん、何かバレる要素があったのかな?
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「で、どうなのよ?」
「えっと……確かあの時は紅茶を渡してくれた子からも神格を感じたので疑問に思ったんですよ。もしかしたらフランちゃん経由かな? と思ったのと、なんか妙に私のお姉ちゃんレーダー(奇跡タイプ)が反応して」
「……いやお姉ちゃんレーダーって何ですか。あぁいや口にしなくて良いです。えっと……私がお姉ちゃんと呼ばせたいと思える女の子レーダー……うわぁ胡散臭い」
「というか私もお姉ちゃんって呼ばせたい女の子に入ってるの!?」
「いやーまぁレミリアさんは保護欲が湧きますからね。色んな意味で」
「ちょっと待って風祝。その色んな意味でって部分を詳しく説明してみなさい!」
レミリアは突っ込むが突っ込まれた早苗は曖昧な笑顔を見せた後、何も言わず次のページをめくるのだった。