フランドールの日記   作:Yuupon

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十一月編2『商品開発!』

 

 

 

 十一月四日

 

 

 思ったよりレミィたんは優秀らしい。

 家事が倍近い早さで消化されてくし、めーりんと組手が終わるとタオルと特性のスポーツドリンクを作ってきてくれる。

 それでいて魔法で姿形を妖精に変えていて、唯一見抜けるだろうパチュリーの視界に入らないようにしているし。

 また、組手の相手をしてみたけどやっぱり私が作ったからか私の動きを一〇〇%再現出来るらしい。とはいえ人形なので多少私よりは能力が低いらしいが、それでもかなりの精度だった。お陰で問題点が分かりやすく見えてきたよ。

 あと咲夜には本当のことを話しておいたので、これで屋敷の中で違和感を持つような人は居ないと思う。

 ともかく家事が最近楽になってきたよ、

 咲夜、私、レミィたん。全てが瀟洒で完璧な咲夜とそれには一段劣るもののかなり出来る方であろう私とレミィたん。思考加速で二倍速で動き回って家事をこなす。

 それに加えて丁寧な仕事を確実にするホフゴブリン達も居るし、調教もとい説教した妖精達もそこそこ働いてくれる。

 これだけの布陣で挑めば家事なんてもののニ時間も掛からない。本気でやれば一時間を切るだろう(なお、その一時間の大半は料理などの時止めが出来ないものに限る)。

 咲夜も暇そうにしているなぁ。前よりお姉様の元に行くことが増えたみたいだけど、自分の時間が増えて少し戸惑っている感じだった。

 でも最近じゃ、趣味で人里に行ってウィンドウショッピングしたり自分の意思で遊びに行くことも増えてきたみたい。

 良かった良かった。正直、「私の仕事取られた」みたいな感じになる可能性もあるかなって思ってたし。

 メイドとしてじゃなく楽しんでいる咲夜を見てフランさんは大満足なのです。思えばすっごい労力掛けさせてたしね。

 だから恩返し出来たみたいで嬉しいよ、本当に。

 

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「ふふっ、ありがとうございます。最初は、自分の時間が増えた戸惑いもありましたけど。それでも毎日あちこちに行って楽しそうにしている妹様を見て私も学んだのです。好きに時間を使うことを」

「……うわっ!? び、ビックリした……」

「あら申し訳ありません。私としたことがお客様を驚かせてしまいましたか」

 

 パッと現れて感想を言い出した咲夜を見てさとりが目を見開いて驚いた。割と本気で驚いたらしくバクバクした心臓を抑えるように彼女はそっと胸に手を当てる。

 対して咲夜はあまり悪びれた様子もなく口元に手を当てて謝罪した。

 

「もう毎度よね」

「というか本当に驚くからやめてほしいんですけどね」

「……もう慣れたわ。でも咲夜、あまり客人を驚かせないように。もう何度も忠告しないわよ」

「えぇ、心得ました。ただお言葉ですがお嬢様? もし私がその度に扉をノックして入るとなれば霊夢の言う『尺』が厳しくなりますがよろしいのですか? また私の登場がワンパターンになりますが」

「だからその尺って誰の事情よ!? あとワンパターンって何!? えっ、そんなにも変化を求めてるの!? というか時を止めて来るのも十分ワンパターンじゃない!」

「その方が省けて楽なんですよ」

「だから誰が楽なのよ!?」

 

 レミリアの渾身の叫びであった。

 また、その会話を聞いていた霊夢は思う。

 

(……咲夜もこっち側(メタキャラ)か)

 

 まぁそれがどうしたってこともないけど。

 霊夢は紅茶を啜りながらぼんやりとそんなことを考えた。

 

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 十一月五日

 

 

 森近さんが本格的に事業を始めるつもりらしい。

 ただまだ何をするかを決めていないんだって。

 だからそれを考えることになった。

「僕が思うに、僕が主に扱う外の世界の物は幻想郷のインフラが整わない限り……具体的に言えば電気が一般化しないと厳しいと思うんだ」

「まぁそうですよね。今電気が使えている家庭は物好きな人か、それか裕福な人だけですし」

 ちなみに物好き枠に森近さんは入っていて、私は裕福派だ。

「じゃあそのインフラを整えるのはどうですか? 河童と協力すれば出来なくないと思いますけど」

「いや、厳しいだろう。僕が普及させる前に八雲紫あたりが手を出すさ。まだ幻想郷の文明自体は江戸時代後期から幕末レベルだからね。里人も着物だし。ただ(まげ)を結ったりはしてないけどさ」

 電気が一般化すればそれこそ一気に科学が広まっちゃうか。

 となれば狙い目は生活必需品かな。それとも娯楽か。人が欲しがりそうなもの……うーん。

「うーんそうだな。試しに想起してみよう。例えば幻想郷で人気があるものを挙げてみてくれないかい?」

「えーと弾幕ごっこ、甘味屋さん、それから抑え目で本屋さん? 後は麻雀や競馬も暇な里人がよくやってますよね。後はアイドルと、それから宗教?」

 とりあえず思い付くことを口にする。とはいえ弾幕ごっこを商品化するなんて出来ないし、甘味屋さんは既に人気のお店があるし、本屋さんも知名度あるからなぁ。アイドルは魔理沙が既にやってるし、麻雀や競馬も既に一つの会社が担っている。宗教は論外だ。

 正直、商品なんてないよね? それこそ関連商品じゃないとさ。それに弾幕ごっこは人気高いけどあれは弾幕撃てるのが最低条件だから出来る人は限られて…………あっ!

「あああっっ!!」

「な、何か思いついたのかい!?」

 なんで気付かなかったんだろう。そうだ、そうだよ! 弾幕ごっこは誰にでも出来る遊びじゃなかったんだ!

 でも、でもだよ? 一つずつ整理してみようか。

「森近さん、弾幕ごっこってやる人が弾幕を撃てるのが最低条件ですよね?」

「あぁそうだね。当たり前だ」

 まずスペルカードルールが導入されてから幻想郷は平和になった。元々は博麗の巫女が命懸けで妖怪を退治していたのが異変として扱われ、今もなお人々への影響は大きいもののそれはある種の見世物や賭けの対象として人気が上がってきている。

 だからこそ華やかな弾幕を放つ女の子達は子供達にとって憧れになっているし、大人の中にも憧れる人は居ると聞く。

 でも、

「人里の人って霊力を操れない人が居ますよね? 空も飛べない人が多いですし」

「うん。まぁそんなの妖怪ハンターでも無い限り不必要だからね。それに覚えたくても中々覚えられるものじゃないし」

 多くの人々のそれは夢で終わってるんだ。

 その理由は森近さんの説明通り、覚えるのに必要な労力が大きいから。特に人間だと覚えられるまでの時間に差がある。その差を人を才能と呼んでいるけど、私の目から見れば多くの人は最低限の霊力は皆宿しているんだ。ただそれを使えるようになる前に諦めてしまうだけで。

 でも弾幕や空を飛ぶことに憧れる人は多い。

 じゃあ問題だ。

「じゃあ例えば……もし仮に、どんな人でも弾幕を撃ったり空を飛べるようになるようになれる魔道具があれば、どうなりますか?」

「……あっ」

 森近さんも分かったらしい。

 そんな都合の良いものが作れるのか? という疑問があるけど心配はご無用だ。だって森近さんは魔理沙の八卦炉を作るような魔道具のスペシャリストなんだから!

 それにまずそれを発売して霊力が動かせる商品を作った後、空を飛ぶ補助として箒を売ったりと次の事業も繋げられる。

 可能性は無限大だ!

「……フラン、今僕は商売人としてかつてない興奮を感じてるよ」

「奇遇ですね。私もちょっぴり胸がドキドキしてます」

 かつてない高揚感を覚えつつ、全会一致でその魔道具の開発をすることに決定した。

 もしこれが幻想郷に広まれば凄いことになるよ。

 一部の人しか力を持たない状況が一変する。ただそれを妖怪の私がやるのもなんだか変な話だけどね。

 初めての事業がどうなるか、楽しみだ!

 

 

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「……これがあの商品発明のキッカケですか」

「幻想郷中に広まったキラー商品ですよね。しかも同時にフランさんが『正しい弾幕ごっこ』っていうルール本を書いて大ヒットしてましたし」

「その後魔理沙のとこと提携して作った香霖堂製の箒が爆発的ヒットして、あと私と早苗んとこの防護用の護符もそこそこ売れたのよね。落下した時とか弾幕が被弾した時の怪我を抑えるグッズとして。あの時は有り難かったわ。霖之助さん様様って思ったわね」

「ただ紫さんや藍さんが忙しそうでしたね。ルール本が出たとはいえ弾幕ごっこのルール違反者が多くて」

「……それが起きてからよね。弾幕ごっこのルールを守らないと罰金とかの外の世界の法律みたいなの導入したの」

「ここから私の知らないところで紅魔グループが発足したのよね。異変のおかげで紅魔館の当主が私と認識されてるから、やたら周りの陣営から「やりますねぇ」って威圧されるのよね。ほんと成功したのは良いけど嫌になっちゃうわ」

 

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 十一月六日

 

 

 早速森近さんが試作品を作ったらしい。早速外に行って実験しようと言われて、商品を見せてもらうとどうやら杖型のアイテムのようだった。

 見た目はおもちゃの魔法の杖ってイメージね。ただ何か薄いもの……カードを差し込むような隙間がある。

「僕はこれをデバイスと名付けたよ。人工知能があればインテリジェンスデバイスに出来たけど、まぁただの霊力操作装置さ。ともかくこの杖を持ってこのカバーされた金属の部分を触ってくれないかい」

 言われた通り、カバーを外して金属部分に触ってみる。すると私の体内の霊力が杖の中に吸収された。体内で霊力が動く感覚がハッキリと感じられる。

「その金属部分が持ち手だ。この杖は持っている人の霊力を吸収してストックする魔法陣を内蔵していてね、と。このカードを刺してみてくれ」

 そこで森近さんが一枚のカードを渡してきた。

 言われるままにカードを刺すと、杖の先から霊力弾が射出された。それからバババババ!! と弾幕がばら撒かれる。

「このカードはスペルカードとしての役割を持つ。まぁようはカードにスペルカードを登録するとその通りの弾幕が撃てるって仕組みさ」

 まぁ今の所はこんなもんかな、と森近さんは言うけど結構私の想像よりすごいの作ってきたね。たった一日で。

「霊力を操るコツはまず霊力ってものがどんなものか理解することだからね。だからわかりやすく霊力を動かす物にしたけどどうだろう?」

「方向性は良いと思います。ただカードを読み取るのは補助としてどうなんですか?」

「……そこが問題なんだよ。弾幕はともかくスペルカードは霊力の消費が激しいから、自分の力量を把握してないと弾幕ごっこの最中に落下して大事故になりかねないだろう? だから事前に霊力を吸収して、それをスペルカードにすれば問題無いかと考えたんだ」

「でもそれじゃ登録したスペルしか使えないから、上手くなれませんよ?」

「ううむ……」

 カード方式だとそのカード自体を商品に出来て良いけど個人的には弾幕ごっこが上手くなりにくいと思う。

 没だ。まずは単に魔力が撃てるだけのものでも良いと思う。霊力が何かさえ分かれば動かすのも出来るし、あとはその人次第だ。

 スペルカードだって相手が動けばその都度弾幕の位置調整しないといけないしね。特に誘導弾とかは。

「とりあえず事故に関しては護符はどうですか? 霊夢さんや早苗さんのところの護符ならまず死ぬような事にはならないと思いますけど」

「それを買うとは限らないからね。それに何か僕ら側で対処はしておかないと企業として問題がある」

 うーん……難しいね。

 事故に対する備え……何かないかな? 外の世界に行った時にいくつか学んだけど、例えば車にはエアバッグみたいなのがあるけどああいうのは導入出来ないか。

 ともかくこれは時間をかけて考えないとね。

 

 

 #####

 

 

「あの商品がこうやって作られてたって知ると楽しいですね」

「開発者が悩みをそのまま書いてるし、やっぱりリアリティーがあるわ」

「……あの機能かって分かるあたり本当に普及してますよね、あれ」

「……苦労してるけどフランも楽しそうなのよ。少なからず私が屋敷で見かけた時はそうだったわ」

 

 四人はそれぞれそんなことを言う。

 ただ、これ以上特に言うことも無かったのか次のページをめくるのだった。

 

 

 

 

 

 


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