今度こそ十一月編の始まりじゃあ!
十一月一日
アリスさんの家に行った。
裁縫を教えてもらって縫いぐるみを縫ったよ。
不恰好で形も整ってないけど初めて作った縫いぐるみ。
抱きしめると暖ったかいね。不格好でも抱きしめ心地は良い。
アリスさんも「初めてにしては上出来よ」と褒めてくれた。
にしても縫い物って奥が深いんだね。
アリスさんって人形遣いでしょ? だからとってもたくさんの人形が家にあったんだけど、それぞれきちんと表情があるのよ。
というより感情があるのかな? 嬉しい時は笑顔になるし、悲しい時は悲しそうにするから本当に生きているみたいだ。
帰ってからどうやって編めばそうなるんだろう、って思ったんだけど。うーん……魔力を込めて編み物をすれば良いのかな? 魔法生物を人工的に作るってイメージで編み物に魔力を通していく感じ。
……ダメ元でやってみよう。
まぁアリスさんもまだ完全自立は出来ないって話だし出来るわけがないんだけど。
えっと魔力を込めて……、祈る。
良い子に育ってねって心のうちで深く祈る。
今回編むのはお姉様をイメージした人形だ。えっとお姉様……お姉様……あっ出来たーーーー。
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「出来たってって何が出来たんですか!?」
「魔法生物でしょ言わせんな恥ずかしい」
「……恥ずかしいんですか? と、それはともかくアリスさん涙目でしょうこれ! なんで初心者がこんな簡単に他人の長年の夢のようなものを叶えちゃってるんですか!?」
「というか私をイメージした人形って嫌な予感しかしないんだけど……」
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十一月二日
どうしよう。
お姉様が出来た。いや、これじゃ分からないか。
えっと……昨日作った人形になんの因果か分からないけど命が宿ったみたいで、一日放置してたらお姉様のクローンみたいなのが出来てた。ただ羽はなんだか不恰好だし、服も所々ほつれてるけど。
「貴女が製作者ね。とりあえず定石としては名無しの人形である私に名前でも付けて欲しいトコロだけど……あら、混乱してるの? まさか本当に出来るなんて思って無かったって顔をしているけれど」
しかも妙に察しが良いし話し方も真面目だ。お姉様みたいに中二病が入っていない。
「とりあえず私は何をすれば良いのかしら? 自由に行動しても良いならこの屋敷を探検したいわ」
ちょ、ちょっと待ってよ! お姉様と鉢合わせするかもしれないからダメ! それに名前って……?
「ハァ、貴女は私の製作者でしょう? 私は人形だけれどきちんと生きているわ。分かりやすく言えば付喪神か魔法生物とでも思えば良いかしら? とまぁ、そんな風に生きている私だけどそれでも本質は人形なのよ。人形は主人の為に尽くすものなの。だからこれから貴女を支える為にも呼び名が欲しい」
至極真面目な顔でお姉様人形……ええい言いにくい! ともかく人形がそう言った。
ともかく話をまとめると主人としてペットに名前を付けてくださいってことで良いんだよね?
「名前……名前……えーとえーと、あっ」
「何か浮かんだの?」
「レミィたん、貴女の名前はレミィたんね!」
「……とりあえず聞くわ。なんでその名前にしたのかしら?」
「貴女のモデルが私のお姉様のレミリア・スカーレットなの! で、お姉様って唯一の親友からレミィって呼ばれてるから、レミィたん」
「いやその「たん」って何処から来たの?」
「レヴィアタンから想像しました」
「嫉妬の悪魔!? えっ、何この子。この僅かなやり取りで私のことをそんな風に判断したの? ちょっとあんまりじゃないそれ!?」
「とりあえずレミィたん。貴女は何が出来るの?」
「こっちの質問は無視か! 全く横暴な主人ね。何が出来るかって言われても困るけれど、それなりに優秀なつもりよ。モデルが吸血鬼なお陰かかなり身体能力も高いし、家事関連も出来るわよ。というか貴女が出来ることは基本的に出来ると思って頂戴。あっ、ただ能力は無理よ? あれはあくまで固有のものだから」
「能力以外で私に出来ることかぁ……うん、分かった。じゃあ早速一つ目の命令をします」
「何かしら?」
「万が一の時にお姉様の影武者になって。姿形はほぼ同じだから、まぁ滅多なことは無いけどさ。あと普段はその姿形がバレないように周りに溶け込めるならお好きにどーぞ」
「御意。まぁ万が一の時に代わりに死ぬのは構わないわ。それよりも良いの? 溶け込めばあとはお好きに、だなんて」
「だって貴女も生きてるんでしょ? 私の創ったものといっても生きているならそんなに強制はしないわ。むしろ万が一があれば死んでもらう使命を与えてるんだからそんなの当たり前の話でしょ?」
「そう、優しいのね。貴女に裁縫を教えたあの人形遣いも人形の中に爆弾を詰めて投げたりしているけれどね」
口元を三日月に歪めて彼女はクックッと笑う。人を惹きつけるような妖艶な笑みは真剣な時のお姉様と重なった。
「いや、何も考えてなかったのよ。まさか本当にこんな風に完全自立が出来るなんて予想してなくてさ」
「ハハハ、面白い洒落ね。あれほど神と関わりを持っているのにたかが命を作らないと思っているの?」
「……神?」
「おっと。なんだ主人は気付いていなかったの? まぁ無闇に知る必要は無い、か。ともかく影武者の儀、しかと承ったわ。しばらくは妖精メイドの中にでも溶け込むとする」
「うん、よろしくね」
そんな感じに話したけど……本当に出来ちゃったんだよね。
完全自立型の人形。しかも命を宿したタイプ。
……でもレミィたんには悪いけど見た目が同じって、本人――お姉様からしたら嫌だろうし成り替わりとかも考えちゃってしまいそうだから表に出すわけにはいかない。
でもこのまま放置も可哀想だし何かあるたび遊んだりどっかに連れて行ってみよっかな。
命を生み出しちゃった身としてはそれくらいやってあげないと。
というかある意味私の子供みたいなもんだし、ね。
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「レミィたんが完全にレミリアの完全上位互換じゃない!」
「いや、本当それですよね」
「私のクローン……しかも私より高性能……だと? 怖っ、何それ怖っ!? というかフラン、サラッと命を生み出してるけどいつから私の妹は神様の仲間入りをしたのよ!?」
「……今更じゃないですかね?」
「レミリアさんレミリアさん、昔ドラえもんで自分の陰に成り代わられてしまう話があってですね」
「なんで今その話をした!? 恐怖を煽らないで頂戴!?」
ちょっとだけ――いや、そこそこ真剣に成り替わりの恐怖を感じていたレミリアのツッコミである。
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十一月三日
正直昨日の出来事は色々考えるべきだけどとりあえず忘れることにした。まぁ上手くやるでしょ。私のスペックあるなら。何かあれば呼べば良いし。
で、今日の話だけど。
「こんにちはフランちゃん! 早苗お姉ちゃんが来ましたよっ☆」
早苗さんが来ました。
というか前々から定期的に来てるんだけど、数学の授業で来てくれてるんだよね。ベクトルとかから今は微積分まで進んだ。数Aから数B。数Ⅰから数Ⅱまで進んだ感じかな。二、三ヶ月でかなり詰め込んでるけど、大概私の頭のチートだと思う。一回聞くだけで大概暗記出来ちゃうから公式もすぐに覚えられるし、使い方も一度覚えればもう忘れないし。
あぁそうだ。数学の本つながりでさ、いくつか問題に対する疑問があるんだよね。どうせだし書いてみようか。
数学、算数の不思議集。
その1、同時に家を出ない兄弟。
問題で偶にあるけど、先に弟が出て分速五キロメートルで歩き、兄は二十分後に分速七キロメートルで追いかけました。追いつくのは何分後ですか? みたいなのあるじゃん。
目的地は同じなのに時間差で外出するよね。一緒に外出したくないほど不仲なのかな? そして毎回どっちかにトラブルが起きたりするのも付き物なのも不思議だ。
その2、人数分用意されないお菓子
子供会で1人に6個ずつあめを配る予定でいました。ところが、人数が予定より5人増えたので、一人に4個ずつ配ったところ、2個余ったそうです。子供会に来た人は何人でしたか?
こんな感じの問題あるじゃん。
途中参加の子どもがいたのかな? なぜか人数分用意されない設定のお菓子。ホールのケーキや、ジュースなどなら分け方によって乗り切ることが出来るけど、個包装のものはどう考えても仁義なき戦いが勃発するのは避けられないよね? 最悪の場合、子どものカーストにより、あぶれる子どもが出ることも予想できるよね? うん。
その3、栓をしないでお風呂を入れる
お湯を入れている途中で排水口が開いていることに気がついて排水口を閉めました。このため、予定より10分長くかかってしまいました。排水口を閉めたのは、お湯を入れ始めてから何分何秒後ですか。
この問題はハッキリ言うけど最悪だね。
メイド目線で言うなら激怒間違いなしだよ。栓をしないでお湯を入れることに何か意味でもあるのと言いたいね。
……それで前にすっごい咲夜に怒られたし。
その4、動き続ける点p
長方形ABCDがある点Pは毎秒1センチの速さでこの長方形の周上をAからB.Cを通りDまで動く点PがAを出発してからx秒後の△PADの面積をy平方センチとして次の問いに答えなさい。
生き物じゃないのに動き続ける、点P。なぜ動くのか、何が目的なのか、全てが謎だよ! 面積を求めなければいけないみたいだけど動く必要ある!? むしろなんで動くのかが気になって仕方ないよ!
他にも時速300キロで走るたかしくんだとか色々ネタはあるけどともかく問題自体に謎があるのはやめてほしい!
思わずそっちを考えちゃうから! 何で? と素直に疑問だから!
……まぁ微積はそういうのないんだけどね。
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「ないんかい!」
「というかお風呂の栓……怒られたことあるんですねフランちゃん」
「フランはしっかりしているようで案外ドジっ子なのよ」
「……でもレミリアさん程ではないと思いますけど」
「黙りなさい地底の。と、とにかくそうなの!」
「レミリアレミリア、自分のことを棚に上げるのは感心しないわよ」
「それはこっちのセリフだから! ちょっと前に私に対して努力しろとかほざいた口はどの口だったかしらっ!? ちゃんと覚えてるのよ!」
「私の辞書に努力という言葉はないわ」
「ナポレオン!?」
サラッと言ってのける霊夢に対し、突っ込んだり怒ったりと忙しいレミリアであった。
ともかく四人は次のページをめくる。