ノンストップで十一月編になると言ったなーーあれは嘘だ。
閑話
「今更だけど、レミリアは何でフランが下克上を企んでると思ったの?」
このまま読み進めよう。
そう話を決めた四人だったが、ポツリと霊夢が零した言葉でページをめくる手が止まった。
確かに、と同調するように他の二人も呟いてレミリアを見つめる。
「え、なんですかその話」
「あぁ、早苗は居なかったものね。説明すると、そもそもこの日記を読み始めた理由がソレなんだけど、どうもレミリアはフランが下克上を企んでいると思っているらしいのよ」
霊夢が事の始まりを説明し始めると二人は怪訝そうな顔をする。が、いち早く状況を理解したさとりがつまり……、と説明した。
「……成る程。その相談に霊夢さんを呼んだところフランさんが日記を落として、読む流れになったと」
「流石『
「そうだったんですか! ふむぅ、確かに謎ですね。どうしてそう思ったんですか? レミリアさん」
その説明でようやくピンと来たのか早苗が手を叩いた。それからレミリアを見て問いかける。
少し目をパチクリしてレミリアは答えた。
「いや、だって日記を見れば分かるじゃない。私、基本的にフランと会う時は中二病だなんだと馬鹿にされたり、ポンコツな部分を晒したり、その上それを人に吹聴されて余計恥ずかしい目に合うんだもの。逆にフランは良く出来た子って噂が広がって……今じゃ人間達の間でも私は『甘やかしたい萌えるポンコツ系中二病の頭のおかしい吸血鬼』なんて変な風に見られて、逆にフランは『可愛く気立てが良く将来性も良い天才系妹の優しい吸血鬼』って言われてるし……それに最近咲夜とフランの会話を聞いてても咲夜の話し方が明らかに私より高度な話し方だし……それにそれにっ、いつのまにか私よりフランの方が知り合いが多くて屋敷を訪ねる人だってフランの方が多くて、しかもどれもそれぞれの専門的分野で話してて……フランは私の知らない世界を沢山知ってるんだ、お前とフランとじゃこんなにも差があるんだって思い知らされているみたいでなんていうかちょっと嫌になったのよ!」
「……簡単にまとめると妹の方が凄いって思われてるのが気に入らないってこと?」
「それだけじゃなくて紅魔館内の立場もヤバイわ! 妖精メイドもホフゴブリンもフランの命令で動いてるし、覚えもないのに他の妖怪と会合した時に『流石紅魔グループですね。また事業に成功したみたいじゃないですか』って言われるし。なんていうか、人も資産もフランが握ってるの! 辛うじて経理だけはやってるけどこれを奪われた時が私の最後よ!」
深刻そうに、というか最後の方は悲鳴染みた声でレミリアは叫んだ。
それを聞いて霊夢は怠そうに頷く。
「ふぅん……まぁとりあえずアンタがフランが下克上を企んでいると考えた理由は理解したわ。で、そんなアンタに朗報よ。全てを解決出来る方法が一つだけあるわ」
「……そんな方法が?」
「えぇ」
そんな都合な方法があるの? レミリアが尋ねると霊夢は頷いた。
早苗達もそんな方法が? と首を傾げ霊夢の言葉を待つ。
やがて――霊夢のその唇がゆっくりと動いた。
「いや努力しろよ」
………………。
「…………努力?」
「うん、努力。フランと同じように頑張れば良いじゃない」
「………………」
サラッと言われた言葉を考え込むように暫しレミリアがフリーズした。腕を組み、何かを思案するように指で顎を触れて、それからうゅ? むぅ? むむむ? うーん? と唸り声を上げて、ようやくポンと手を叩くとこう言った。
「その手があったk」
「気付くの遅ぇ!!」
コンマ0、5秒。早苗渾身のツッコミであった。
いや、だってこんなもんそれしか言えないだろう。たったあれだけのことを考えるのに深く考え込んだ挙句、「その手があったか」だ。
(遅いです! なんですかこの子!? 本当にレミリアさんですか!? 実はチルノちゃんが化けていたって方が納得出来ますよ!? 仮にも異変の首謀者でしょう! え、もしかしてあれですか? 元々こんな鳥頭で、なんかの条件でカリスマになるんですか!?)
全体的に遅過ぎるのだ。英語にするとスロウリィである。
ついでに言えばこのレミリア、中二病属性にポンコツ属性、更には子供属性やかりちゅま属性を兼ね揃えるとんでもない濃いキャラだが今はそれはどうでも良い。
え、これ本当にレミリアさんですよね? 真面目に不安になって来た早苗はチラチラさとりを見るが、彼女は優しく笑顔を向けると諦めたような目で頷いた。
(やっぱり本物だったーっ!?)
「でもそれは一旦置いておくわ。ともかく私が問題にしてるのはフランが下克上を企んでいるということよ」
「そもそもそれが勘違いじゃないの?」
「……薄々そんな気もし始めてるけどまだ疑いは持ってるわ」
「えっ、あれだけフランちゃんのことを持ち上げといてですか?」
「それでもよ。主君は孤独だもの。いついかなる時も周りは敵だらけ。その敵は別の陣営もしかり八雲もしかり、そして身内にすら存在する可能性があるじゃない。それがある以上とりあえず私は疑うわ」
寂しげな顔でレミリアは呟く。
その様子を見て早苗はあぁ、と一つストンと胸の内に引っ掛かりが落ちたような気がした。
そうだ――これって。確信した早苗は言う。
「霊夢さん霊夢さん、この子それっぽいこと言ってますけどただ中二病気取りたいだけじゃないですか」
「え、今更? 最初からカリスマ兼中二病を気取ってたじゃない。日記を読んで普通に考えたらとっくにそんな疑い消えてるのにまだ疑ってる時点でそうじゃなかったの?」
「おいそこぉッ!? 私が真面目に話してる時に中二病だなんだと散々に言いやがって!! 私を馬鹿にしているなら真っ正面から言ってもらおうじゃないか!」
「いや……だってねぇ?」
「ですよねぇ……」
「……そもそも解決策も簡単ですし」
霊夢、早苗、さとりは顔を見合わせる。
三人とも呆れ顔だ。レミリアはちょっとムッとした様子で尋ねる。
「何よその解決策って」
「……妹さんと話し合うことです。そもそも真の意味で解決したいならそれが一番でしょう。愉快な誤解って可能性もありますから。話し合う――コミュニーケーションにそれ以上はないんです」
まぁ心が読める私が言うのも変な話ですがね、さとりは自嘲するように小さく笑って告げた。
それから彼女は続けて言う。
「……まぁその辺りは全てレミリアさんが決めることですから、私に出来るのは精々助言程度です。意見の一つとして聞いてもらえれば結構ですよ」
「…………そう」
ニッコリと。笑顔で善意の言葉を言われてはレミリアも何も言い返せなかった。
代わりに、彼女はコホンと誤魔化すように咳払いをしてこう言った。
「……確かに下手に決めつけすぎたかもしれないわ。だから……話し合うかは分からないけど方法を考えてみる。その……ありがと」
最後の方は少し恥ずかしがって言って、それからんーっ! とわざとらしく伸びをしてレミリアは叫ぶ。
「と、ともかく続きを読みましょ! その話と読むか読まないかは別だもの! 続きが気になるし!」
「……ふふっ、そうしましょうか」
「そうですね!」
「えぇ、そうしましょ」
ありがとうと言い慣れない彼女の顔は真っ赤だった。
その様子を微笑ましそうに見つめて、三人は頷く。
そして――改めて新たなページをめくり直すのだった。