アカン、迷走してる。
十月十三日
久々に吸血鬼らしく夜に散歩してみた。
真夜中の幻想郷。薄い月明かりに照らされて私は歩く。
秋も半分を過ぎて徐々に肌寒くなってくる頃。吐く息が白くなるほどではないけど小さくくしゃみをした。
どうでもいいけど月明かりの下を歩くのって風情があるよね。僅かに揺れる羽の影がお気に入りだ。
ともかく夜って落ち着くんだよね。
やっぱり私って吸血鬼なんだなぁ……。最近じゃ朝起きが当たり前になってるけど。
なんていうかな。外に出て気分が良くなった。
それから意味もなく空に飛び上がって満月を見つめる。
黄色い丸いお月様。そういえばお姉様ってあそこに行ったんだよね。何かしらのトラウマを植え付けられたみたいだけど。
咲夜に聞いてもあんまり詳細は教えてくれないんだよね。なんというか、
「知らない方が良いこともございますよ?」
らしい。ううむ……どんなチートに出会ったんだろう。
名前だけは聞けたけどね。確かよ、よ、よ……。
よ、から始まる人だった。えっと……吉田さんだっけ?
その人に幻想郷勢が全員敗北したとか。弾幕ごっこで私に勝った魔理沙も負けたってことはかなりの実力者だよね。というか霊夢さんが負けたのが普通に信じられないんだけど。
あの人と弾幕ごっこした時、全て勘で何が来るか予測されて、その上私の動きまで全てを勘で先読みされたからなぁ。
最終的にはこの先数十秒の未来を破壊するなんて無茶苦茶なことやってようやくまともな勝負になったし。
その吉田さん? って人と出会ったら気を付けないとね。まぁ月に行く予定も無いし行くこともないんだろうけどさ。
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「フラン、それちゃう。吉田さんちゃう。依姫や!」
「どうしたんですか霊夢さん、いきなりエセ関西弁なんか使い出して?」
「せやかて早苗」
「バーロー、ってそんなことはどうでも良いんです! 霊夢さん、レミリアさんを見てください!」
「はぁ?」
早苗に指差され霊夢がレミリアを見ると彼女は脳裏に残る恐ろしい記憶が蘇ったのか目を見開いて、指先を震わせていた。
「いやまたか! つかアンタどんだけトラウマなのよ!?」
「……」
霊夢が尋ねるがレミリアは返事を返さない。
代わりにさとりがレミリアの思考を読み取る。
「……やっぱり最強の体術がお好みってわけね! ――バシュゴォ……ですか、酷い記憶ですね。二コマで倒されたことが相当堪えているみたいです」
「いや二コマってなんですかさとりさん!?」
早苗が突っ込むがさとりは完全無視の体勢だ。
するとさとりの言葉を聞いて霊夢がオロオロし始める。
「で、でもレミリアはまだマシなのよ? 魔理沙なんかマスパを撃とうとしたら手から餅が飛び出てたのに……」
「マスパ撃ったら餅が出てくるってどんな状況ですかそれ!? え、そんな妙な能力者にボコボコにされたんですか霊夢さん!?」
「強いて言うなら画力の問題よ」
「誰の事情ですかそれ!? というかアレですか、第二次月面大戦の話を統合すると弾幕を餅に変える妙な能力者、吉田さんにボコられて帰ってきたんですか!?」
「さとりさとり、早苗が全く話を理解出来てないんだけど……」
「……彼女は理系ですから仕方ないですよ」
「いや、理系とかそれ以前にその意味不明の会話が問題なんですってば! レミリアさんも何とか言ってやって下さい!」
「……バシュゴォ」
「せめてなんとかって返してぇっ!? あとその理解出来ない謎言語やめてくれません!?」
そこまで言い切って、早苗はゼーハーゼーハーと息を整えながら次のページをめくるのだった。
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十月十四日
今日は寺子屋だ。
そして久々にあの先生がやって来た!
「というわけで今日は久々に臨時講師として妹紅が来てくれた! よろしく頼むぞ」
「あぁ……いや、どうも」
慧音先生に紹介されてテンション低く挨拶をしたのは妹紅先生だ。寝不足なのか目の下にクマが出来ている。
また輝夜さんと殺し合いでもしてたのかな?
「じゃあ後は頼むぞ妹紅」
「投げやりだな、まぁ任された」
と、ここで慧音先生が退室する。残された妹紅先生は疲れた表情で教卓の前に立つと皆に改めて挨拶を始めた。
「というわけで久々だな皆。元気してたか?」
「「「「はい!」」」」
「ちなみに私はグロッキーだ。ちょっとクソ烏天狗に連れてかれて妖怪の山に監禁されてな。一日中ゲームして帰って来たとこだ……あいつ死ねば良いのに」
え、意外。妹紅先生、ゲームなんてしてたんだね。
何やってるのかな? ポケモンとか? というか烏天狗ってもしかして文さんかな?
「対戦ゲームなんだがやたらぐーやってやつに邪魔されてな。腹が立つわ。輝夜じゃねえけど殺したくなった」
いや妹紅先生、それ輝夜さん!
というか授業で殺すとか言わないでよ!? やたら荒んでない!? 主に心がさぁ!
「つーわけで授業だ。今日の授業は……えっと安土桃山時代か。あの頃は確かノブの時代だな。ハゲネズミも懐かしいわ。最後はガリガリ狸が天下取ったけど」
「ノブ?」
「ん、あぁ。織田信長な。実は一時期、織田家に身を寄せてた事があって知り合いなんだ。ちなみにハゲネズミは豊臣秀吉な。ガリガリ狸は徳川家康だ。あいつ狸って言われてるくせにあまりメタボでも筋肉質でも無かったからさ、あだ名つけてそう呼んでた」
まさかの史実の武将と知り合い!? というか全員安土桃山時代の主役級じゃないそれ!?
「他にも結構知り合いはいるな。私ってなんだかんだ名家の生まれだから、作法とか頼まれて京都の御所にノブと行ってさ、一緒に挨拶したら偶々通りがかった天皇に何故か見初められてな。最終的に本能寺の変でちょうど明智ちゃんがノブを殺しに来たからいっそ本能寺燃やして死んでしまえって逃げたけどいやー、懐かしい思い出だなぁ」
「先生、信長はどうなったの?」
「死んだよ。一緒に逃げるか聞いたけど断られて、その場で敦盛歌ってさ、最後は私に体を処理してくれって頼まれた」
歴史が壊れる音がする。
というか信長の骨が本能寺で見つからなかったのって妹紅先生が持ち帰って処理したからなの? なんだそれ……。
というか普通に話がエグい! 反応しづらいよこの話!
「まぁ個人的な話はここまでにしておくか。えーっと、織田信長は桶狭間で今川軍を打ち破った……おい。歴史の教科書間違ってるぞ。桶狭間じゃなくて田楽狭間だったぞ、今川義元討ったの」
で、教科書に戻ったけど普通に間違い判定された!?
というかその時生きてる人が言うんだから間違いはないんだろうけど、なんというかどう反応すれば正解なのだろうか。
ともかく終始こんな感じの授業だった。
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「信長と知り合いって地味に凄いですね妹紅さん」
「というかあだ名呼びって……そんなに軽かったの戦国時代?」
「……それ以前に一日中ゲームって幾ら不死でも体に悪いですよ」
「なんというか……随分と凄い人生を歩んで来たのね」
上から早苗、霊夢、さとり、レミリアの言である。
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十月十五日
今日は懐かしい夢を見た。
もう四九五年も前の夢だ。昨日とはテンションが打って変わってって感じだけど懐かしいので書こう。
四九五年前……私が幽閉(自分の意思もあるけど)をされる前、私達はヨーロッパの古びた古城で家族と大勢の従者に囲まれて過ごしていた。
そこには勿論私達のお父様やお母様も一緒だった。その頃は能力の心配も私の狂気も起こっていなくて、お姉様も私もまだまだ子供として遊んで毎日を過ごしてたっけ。
お姉様も子供ながら頑張ってお姉ちゃんをやってくれてたなぁ。
そんな夢の中でお姉様と遊ぶ夢を見たよ。
お父様とお母様が私達を見て笑っててさ、私もお姉様も笑ってる。そんな――とても幸せな夢。
もうその頃にはめーりんも居たっけ。確かその時はまだ客人だったんだよね。旅の途中でふらりと訪れて、私達に旅のお話を聞かせてくれてそれからずっと側に居てくれた。
沢山の人に笑顔を向けられた頃の夢……小さい頃を思い出すとどうしてこんなにも戻りたくなるんだろうね。
まぁ時は前にしか……いや、まぁ一部の例外を除いて時は前にしか進まないから今更戻るなんて出来ないけどさ。また何も考えてなかったあの頃に戻って、お父様やお母様に会いたくなった。
で、ここからが驚きなんだけど。
夢を見て少し懐かしさを覚えてさ、ご飯を食べながらお姉様にそのことを話してみると「フランもその夢を見たの?」と返事が返って来た。
なんとお姉様も同じ夢を見たらしい。
偶然かな? ……それとも。
ううん。下手に考えることじゃないか。
それからお姉様とあの頃はこうだったねという昔話に花が咲いた。
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「あったわね、こんなこと。あの時は私も驚いたわ。まさか全く同じ夢を見てたなんて思いもしなかったもの」
「確かに二人が同じ夢を見るなんて中々無いですからね。ただ私個人としては夢と聞いて……ドレミーさんが浮かびましたけど」
「あいつは関係無いでしょ。接点無いんだから」
「……奇妙な話もあるものですね」
呟いてさとりは思う。
(……というか絶対偶然じゃないですよね)
明らかに何かフラグめいてます。さぁ鬼が出るか蛇が出るか……はたまた何も出てこないのか。
少しウキウキしながらさとりは次のページをめくる。
次回はほのぼのにしたい……(多分)