十月編のスタートじゃい!
十月編1『秋神様と霊夢式ビジネス』
十月一日
十月かぁ、秋だねー。
まぁそれはともかく。なんか霊夢さんがまたビジネスを始めるらしい。人里で人を集めてたので行ってみることに。
すると博麗神社に見知らぬ二人の女性が居た。
「ここに
「えっと……霊夢さん、私達そこまで大層な神様じゃないんだけど」
「シッ、ある程度効果出れば何も問題無いわよ! あんたらも信仰入ってウィンウィンでしょ?」
うん、霊夢さん。普通の人はともかく私には聞こえてる。
にしても秋の神様かぁ。この二人が秋神様なんだね。素朴な感じだけどお姉さんの方は紅葉を司るからかお洒落で、妹さんも豊穣を司るからか中々すばらなおもちをお持ちだ。やっばり美人だよね。神様。
人里の人達もかなり熱心に祈りを捧げてたよ。
そりゃあ豊穣に紅葉。秋神様だもんね。農家なら豊作祈願したいだろうし歌人達や文化人にとって紅葉はなくてはならないから。
霊夢さんも考えたなぁ。
でも、
「フランよく見とけよ? 霊夢って最初は成功するけど調子にのると失敗するから」
感心していた私とは一転して魔理沙は失敗する、と言った。
本当に? 普通に成功だと思うけど……。
ともかくしばらく霊夢さんの動向には注意だね!
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「……あったわね、こんなこと」
「秋神様って妖怪の山に住む野良神様ですよね。以前、霊夢さんが妖怪と間違えて退治しかけたとかいう」
「そ、それは私は悪くないわよ! 神様なのに力が薄かったあいつらが悪い!」
「いやいや。幾ら微力な力といっても神様の見分けが付かないのは巫女として不味いですよ? それくらい修行すれば分かります」
「サボるからそんなことになるのよ」
「……そうですね。『この怠け者!』って華扇さんが口癖のように言ってる気持ちが分かるような気がします」
「うっさいわね。本当に不味かったら覚えるわよ」
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十月二日
今日はばったり華扇さんと出会った。
物腰が丁寧で、案外仙人という割に俗っぽい人だね。仙人、なんて聞くと白髭のおじいさんとかみたいな感じのを思い浮かべるけどそういうこともなく、案外俗世にも詳しい。
ただ所々神仏には詳しくない……というか余り興味が無いみたい。
まぁそれを踏まえても良い人だと思うよ。
妖怪なのに妙に人間らしいのが気になったけど、仙人だからかな。
ともかく二人で話していると話題は自然と霊夢さんの話に移っていった。
「そういえば霊夢さんが秋神様を使ったビジネスを始めたみたいですね」
「えぇ、困ったものです。ここの所の霊夢は目に余る様子で、お金や参拝客のことばっか考えていて、つい説法してしまう」
「人間、ある程度の欲は有って当然だと思いますけど?」
「それでも目に余ります。あのままでは欲の塊になってしまいそうで……」
「そうかなぁ? 私が見る限り霊夢さんって邪念とかは無いと思いますけど」
「はぁ、そうですか?」
「はい。むしろ無邪気なんじゃないかなって。だって欲に忠実なのも言い方を変えれば自分に素直ってことでしょ?」
「……成る程。確かにそうかもしれませんね。霊夢は修行を付けても直ぐに効果が消えますし」
そんな感じに話して結構仲良くなれたんじゃないかな?
意外と気が合ったし。それからお互いの修行の話をしたり、意外と共通点も多かった。
「フランさんは吸血鬼ですがとても精進なされているんですね」
「いやいや、全部女の子らしくなりたいって欲が
「いえ、フランさん。目標に向かって日々努力することを謙遜することも卑下することはありません。欲が素でも真面目に誠実に頑張っているならそれは精進ですから」
本当どっかの巫女にも見習って欲しいわ、と彼女は呟く。
うーん、なんとなく慧音先生と似た雰囲気を感じる。不真面目な生徒に対して怒るって意味で。
良い人だとは思うしこれからも良い付き合いをしたいとは思うけどね?
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「華扇か……最近、魔理沙はいつもだけど早苗とあいつがよく来るのよね。というか華扇はほぼ毎日来てない?」
「確かにそうですね。私は一週間に二度か三度ですが、華扇さんはいつも見かけます」
「……もしかして友達居ないんでしょうか」
「仙人だから友達とかそんな感情無いんじゃない? 単に幻想郷で大切な巫女である霊夢を矯正しようとしているだけで」
「だとしても余計なお世話よ……まぁ役立ってる部分もそりゃあ多いけど」
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十月三日
台風だ。
しかも超大型台風。雨が五月雨のように降り注いで、風が竜巻のように襲った。
「向日葵いいいいい!!」
雨の中私は向日葵を守る為に魔法を使ったよ。全身ビチャビチャだ。
というか紅魔館の外とか酷かったよ。突風で物が飛びまくってた。あとめーりんも悲鳴を上げてた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!! キャアアアアアッ!! い、痛っ! なまじ弾幕より飛び交うバケツとかワプッ!? ゲホゴホ! 雨で服透けてるし……うわーん咲夜さーん!!」
いや、中に入れて上げなよ。流石に可哀想だよ。
私は幾らでも魔法で対処出来るけどめーりんは出来ないんだよ?
というか幾ら仕事でも哀れだよ。というか普通の人なら事故死とかあり得るよこの雨。
仕方なく私が許可を出しました。というか今更ながら私って当主の妹だからね。そこそこ発言力や命令権もある。
それから一緒にお風呂に入った。うちにある大浴場って結構大きくて、博麗神社の所の露天温泉なみなんだよね。
それで洗いっことかしたけどやっぱり大きい。何処とは言わないけど張りもあるし艶も良い。というかめーりんの身体って妖艶というか艶かしいのよね。
ちょっと羨ましいついでにムカついたのでおもちを揉んでやった。
余計精神的ダメージを受けた。
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「……フランちゃんも中々やりますね」
「というか美鈴の胸って地味に私も揉んでみたいんだけど」
「あぁ、女の子でもありますよね。案外胸の大きな子を見るとどんな感じなのか確かめたくなる感じ」
「……それを早苗さんが言うんですか」
「そうよね、というか揉んでいい?」
「駄目です。というか揉んだ分だけ私の胸が更に大きくなるわけですけどそれは良いのかな?」
「その発想はなかった」
「えぇ……」
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十月四日
魔理沙の予言が当たった。
昨日の台風で収穫前の食物に大打撃を与えた上、紅葉に関しても殆どの葉っぱが落ちたらしい。
博麗神社にブーイングコールが起こってた。
秋姉妹は既に失踪したらしく『探さないでください』という手紙を残していったとか。
霊夢さんが悲鳴を上げてた。
……今年は秋の紅葉とか無しかぁ。
流石に物足りないし、軽く手を加えておこうかな? 前に気を習った時に自然からパワーを受け取る方法を教わったから、その応用で逆にパワーを分けるとか。
やってみたけど私一人じゃ厳しいなぁ。体力の方が先に尽きる。
いっそ能力で元通りにしちゃう? でもそれはそれで自然の摂理が壊れるしなぁ。
と、思いながら歩いていると人里で人だかりが出来てた。
「皆さん。今からこの東風谷早苗が自然を元どおりにしてみせます!」
早苗さんだった。
彼女は奇跡で最低限自然を元どおりにするという。
「さぁ、ご覧あれ! ――奇跡!!」
瞬間、幻想郷が眩い光に包まれた。
閃光のように激しい光に思わず目を瞑る。それから数秒だろうか。光が収まりゆっくりと目を開けると近くの街路樹に葉っぱが戻っていた。いや、戻ったというより新しく小さな葉っぱが生えていた。
「おおおお!」
人々が歓声を上げる。その中心で早苗さんは疲れた顔をして、
「すみません、私ではこれ以上は無理そうです。ただ作物に関してもこの冬を越えられるほどは収穫出来ると思いますのでご安心下さい」
と言って頭を下げた。どうやら霊夢さんの失敗を利用して自分達の信仰を広めようというよりは、本当に台風による影響を不味いと考えての行動だったらしい。
力を使い果たしたのかそれだけ言ってフラフラしながら早苗さんが帰路につこうとしていたので声をかけて送って行くことにした。
「あぁ、フランちゃん。すみません、助かります」
それはこっちの台詞だよ。わざわざありがとね?
「いえ、私は風祝ですけどその前に現人神でもありますから当然のことです。むしろ元通りに出来ない私が不甲斐なくて……」
それに霊夢さんへのフォローも考えなきゃと彼女は呟く。
そういえば霊夢さん、キリキリ舞いになってたなぁ。しかも今回早苗さんがなんとかしたって聞いたらそれはそれで拗ねるというか、信仰的な問題も起こるだろうし。
「……まぁ博麗神社ですから滅多な事にはならないとは思いますが」
弱っていると人は心配性になるのか口では何とか言っているが早苗さんはどうも不安げだった。
話を変えようと思った私は別の話題を振る。
「そういえば早苗さん。幻想郷中の自然に干渉するなんて実はかなり実力者だったんですね?」
「あはは……そうだったら良かったんですけど実はアレ、私だけの力じゃないんです。昨日秋神様達が守矢神社に来て、私に今年の秋の力を授けてくださったんです。『信仰されてこんなに力を得たのは初めてで嬉しかったけど、やっぱり私達は祭り上げられるのに向かないから』と仰っていました。今日のはその力を使っただけなんです」
なので本当の実力となると大した事はないですよ、と彼女は笑う。成る程。通りでそれだけの自然に干渉出来たわけだ。
それから私は早苗さんを送り届けた。
ちなみに秋神様に失踪されて泣いてた霊夢さんは華扇さんが慰め&説教したらしい。
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「こんなこともあったわね」
「ですねー……あの時は驚きましたよ。目立つのが嫌だからこの信仰された秋の力で幻想郷に秋を与えてちょうだい、なんてまさか言われると思ってなくて」
「そこが疑問なのよね。私に力を与えればそれで済んだのに」
「あぁ……それはですね、霊夢さんが修行不足だからだと思います」
「修行不足?」
「はい。野良だとしても神様の力ですから、それを受け取り正しい効果を発揮させる為にはそれなりの技術が必要となります。多分それが不足していると判断されたのではないでしょうか?」
「……修行不足が祟ってるじゃないですか」
「というか手遅れになってからじゃ駄目って典型的な例じゃない」
「う、うるさいわね! 別に良いのよ!」
少し怒ったように霊夢が言うと、やがて次のページを開く――――。