ギリギリ間に合ったぜ……。
九月二十六日
めーりんと修行した。
書いてないけど寺子屋の日以外毎日やってるんだよね。
それでさ、めーりんって意外とスパルタなのよ。修行中は結構怖い。うん、かなり怖い。
全身に気を纏って目つきが悪くなったりするし。普段は凄い温厚なのにね。
あとで聞いてみると「恥ずかしながら戦闘中は一種の興奮状態になるんですよ」って笑ってたけど興奮なの? 威圧じゃなくて?
それと修行も大分慣れてきて動きも良くなってきた私だけど、やっぱり拳で殴り合うって女の子らしくないような気がする。
私の勝手な決め付けなのかなぁ?
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「まぁ幻想郷においてあんまり体術は要らないわね。何が面白くて女の子が拳で殴り合うような殺し合いしなきゃなんないのよ」
「えー? 殴り合いとか気とかって結構憧れません? ほら、ロマン! って感じで!」
「意外と男みたいなこと言うのね、あんた」
「そうですか? そういえば向こうでも女の子がロボ好きって変わってるなって男子に言われましたね」
「……まぁ趣味は人それぞれですから」
「ですよね!」
「……だからといって姉としての意見を言わせてもらうと妹が超近接特化の殴り合い上等になるのは複雑だけどね」
頭が痛そうにレミリアが言った。
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九月二十七日
来年の為に向日葵の種を採取した。
もうそろそろ向日葵って枯れるのよね。遅咲きのやつも含めて。
まぁ実は三ヶ月おきに種を植えたりしてるからこれから花を咲かせるのもあるけど、最初に植えたやつはそろそろ寿命だ。
ちょっと物悲しいけど仕方ない。また来年植えようと思う。
枯れちゃう向日葵達も「来年また私達の子供達が花を咲かせますから」って慰めてくれたし。枯れちゃう本人に慰められるって情けないなぁ、私。
もっと私の手入れが上手ければ咲いていれたのかなぁ?
幽香さんのところはもっと寿命長いって聞くし。
……うん、来年はもっと頑張ろう!
もっと向日葵達が長生き出来るようにね!
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「あぁ……そんな季節ですか」
「向日葵かぁ。育てたことないから分からないのよね」
「……そうですね。私の場合は地底に向日葵が無いので見ることもありませんし」
「そういえば向日葵の種ってあるじゃないですか?」
「なによいきなり」
「まぁまぁ。この中に向日葵の種って食べたことある人居ます?」
「無いわ」
「同じく」
「……あるわ」
「えっ、レミリアさんあるんですか? 意外です。ちなみに何処で食べたんですか?」
「食べた場所……えっと、その」
「??」
言いづらそうにしているレミリアに対し早苗は首をかしげる。
理由が察せないらしい。
(絶対フランの向日葵畑の種よね。食べたの)
言わないのが優しさかしら、霊夢はそう思った。
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九月二十八日
人里で事件が起きた。
事件が起きたのは私が阿求さんの家に行った時のことだ。前日に来てほしいと阿求さんに呼ばれていた私は、家に行って戸を叩いたんだ。
「阿求さん居ますか?」
稗田家は大きい家で、お手伝いさんもいる。私がそう声をかけると中からお手伝いさんが出て来て「フランさんですよね。ようこそ稗田家に」と入れてくれた。
そして私が阿求さんの部屋に行った時、その事件は発覚したんだ。
「失礼します……阿求様」
お手伝いさんが部屋の前で何度声をかけても阿求さんの反応がない。どうしたんだろうと不思議に思ってお手伝いさんにお願いして鍵を開けてもらうと、中で阿求さんが地面に倒れていた。……口から血を流した状態で。
「きゃああああッッ!!」
お手伝いさんが悲鳴をあげた。私はあまり出来事に一瞬、呆然とする。
でもすぐに意識を取り戻した私は言った。
「お、お手伝いさん! ひ、人を呼んできてください!」
「は、はい! 分かりました!」
なんとか現実に焦点を合わせてようやく言うとお手伝いさんがドタバタと部屋を出て行く。それから私は阿求さんの側に寄って生きているか確かめる為に口の前に手をかざした。
……息はある。微かだが風が手に当たった。
良かった、生きている。その事に安心した私は改めてあたりを眺めてみる。
部屋の中は密室だった。窓には鍵がかけられていて侵入された形跡は無く入り口も鍵が掛かっていた。扉を開けられたのはひとえに鍵を持つお手伝いさんが居たからだ。
部屋の中心に阿求さんが倒れていて口から血が垂れている。
今度は阿求さんの様子を見る。と、そこで変なものを見つけた。
「……あれ?」
阿求さんの口元に血に隠れて白い粉が付いている。
軽く拭って舐めてみると、それが何か分かった。
「ペロッ、これは粉ミルク……!?」
なんで粉ミルク? 探してみると阿求さんの横に空のカップが転がっている。いや、空じゃない。よく見ると阿求さんの服にべったりとコーヒーが染みていた。
カップを覗くとミルクの粉が付着している。恐らく彼女はこの中に粉ミルクを入れたんだろう。多く入れ過ぎたせいで溶けきらなかったようだ。
そこまで考えて私は事件の真相に辿り着いた。
数分後。
阿求さんを別室に運び着替えさせ、医者に引き渡した上でお手伝いさんを含め人を呼び私は推理を披露する事に。
「フランさん……犯人が分かったとは本当ですか?」
「はい。トリックも全て解けていますーーじっちゃんの名にかけて」
私を部屋に連れて行ったお手伝いさんが尋ねて来たので頷く。他のお手伝いさん達も私に注目した。
「さて」
私は名探偵におきまりの言葉から始める。探偵は推理する時にこの言葉を言わなくてはならないらしい。いつか忘れたけどサングラスの人に言われた。
「まず確認しましょうか。事件の起こった部屋は密室だったのは間違いありませんね?」
「はい。確かに窓も閉まっていて扉も開いてなかったと……」
「聞きましたか。今回の犯行は密室事件です」
密室事件。それは不可能事件だ。お手伝いさん達がざわめく。
「バーロー、んなわけないだろ」とか「美雪、それは違う」とか聞こえたけど幻聴だろう。うん、気のせい。
「それで一つお尋ねしたいのですが、阿求さんはコーヒーを飲もうとしていたそうですね。誰が淹れたのですか?」
「あ、それは阿求様ご自身です。なんでも阿求様が妖怪の賢者から良いコーヒー豆をもらったとかで……」
「成る程」
頷いて私は確信する。間違いない。犯人はあの人だ……!
「ところでなんでコーヒーについて聞いたんですか?」
「それはコーヒーがこの事件において重要な意味を持つからです。具体的にはその中に入った粉が、ね」
「粉!? ま、まさか麻薬の類が!?」
「違います。ただのミルクの粉ですよ。どうやら不思議な事にこのミルクの粉が被害者の口元に付着していたのです」
「し、しかしそれが何の関係が!?」
「被害者の阿求さんは非常に身体が弱かったそうですね。喘息を持ち、更に稗田家の特性から寿命も短いとか。例えばそんな彼女が激しくむせるような事になればどうなりますか?」
「そ、それは血を吐いてお倒れに……あっ!」
「その通り。そしてコーヒーには解けきらないほどのミルクの粉が入っていたのです。つまりこの粉を入れた人物――それが犯人です」
「そ、それで犯人は誰なんですか!?」
「……コーヒーカップに大量の粉ミルクを入れ、彼女を咳き込ませ殺害しようとした犯人、それは――――」
私は一人を真っ直ぐ見据え、指を指す!
「――貴女です! 稗田阿求!」
寝ている阿求さんへとーーーー!!
いや、まぁ分かるよね。そりゃ当たり前だよね。
どう考えてもコーヒーに粉ミルク入れ過ぎて、むせて倒れたよね? というかそれはそれで発見が遅れたらヤバかったけど。
探偵の真似事をしてみたけど難しいな。
それに生きているかは正直見ただけで分かってたし、遊び半分だった。ちょっと不謹慎だけど。
ちなみに阿求さんは無事快方に向かったそうです。
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「無闇に粉なんか舐めたら駄目ですよ。麻薬や青酸カリだったらどうするんですか」
「大丈夫よ。某漫画だとペロッ、これは青酸カリ! で済んでたから」
「いや死にますからね!? 一ミリでも舐めたら死にますから! フィクションを現実に持ってこないでください!」
「ハッ、早苗こそここが現実だと思ってるなら大間違いよ! そんな設定この世界じゃ通用しないわ!」
「やめてくださいメタいです霊夢さん! って奇跡が囁いて来ました! つか意味不明なこと口走らないで下さい!」
「……ねぇ、地底の」
「……何ですか、レミリアさん」
「……話についていけないわね」
「……そうですね」
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九月二十九日
このくらいになってくると段々夏も完全に終わって秋めいてくる。
妖怪の山も徐々に紅葉が始まってるみたい。
高くまで飛び上がって眺めてみるとうん、確かに赤と黄色に見える。
そういえば妖怪の山には豊穣と紅葉の神様が居るんだよね。いつか会いに行きたいなぁ。
と、それはともかくだよ。
秋といえば食欲、読書、運動の秋と聞くけどもう一つ重要なことがある。
そう、恋愛の秋だ。
まぁ簡単に言えば香霖堂に行った時。よく魔理沙か霊夢さんが来てるのよ。
魔理沙はわざわざ香霖堂に来て森近さんに料理を振舞ったりしてて、八卦炉とかも森近さんに作ってもらったみたい。森近さんも魔理沙には甘いらしい。で、もう一人、霊夢さんは霊夢さんで自分の巫女服を直してもらって居る間(霊夢さんの巫女服は森近さん製)森近さんのシャツをこっそり着たりしてる。それに香霖堂には霊夢さん専用のお茶もあるし相談にも来てるみたい。
……怪しいよね?
面白そうだよね?
と思って本人に直撃してみました。
まずは森近さんからだけど……、
「森近さん、好きな人って居ますか?」
「恋愛の話かい? いや、生憎心に決めた人は居ないね。友人としてならいくつか当てもあるが」
ガードが硬い。仮に居ても教えてくれなそう。
というわけで次の人。次は魔理沙だ。
「魔理沙、魔理沙って森近さんのこと好きなの?」
「へ? え、えっーっ!? ななな何だいきなり!? というか何でそんな話になった?」
「いや、魔理沙ってよく森近さんの店に行って料理を振舞ったりするじゃん? 通い妻みたいだなって」
「通い妻じゃない! つか香霖はアレだよ! その……好きな人ってより信頼してる人って感じでな……料理は単に普段から世話になってるから……」
ううむ……これはどうだろ。分かり辛い。
後半語尾が小さくなってて恥ずかしさからか頰も少し赤かったけど惚れてる程でもない……のかな?
じゃあ最後に霊夢さん。
「霊夢さん、霊夢さんって森近さんの事が好きなんですか?」
「へ? えぇ、好きよ」
まさかの肯定!? え、えっーーッ!?
と思ったけどよく聞いてみたら「友達として」ということらしい。
信頼もしてる良い人ってカテゴリで友達として好きだとか。
紛らわしいよ!
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「……いや、まさか恋愛話を振ってきてたと思わなくて」
「いやいや。男の人相手なら普通そうでしょ」」
「恋愛ごとには疎いけど、多分風祝の言う通りよ霊夢」
「……まぁ常識ですよね」
「そう? まぁ友達として好きなのは本当よ。良い人だし、大人として頼りになるもの」
「そりゃ霊夢さんと魔理沙さんに対応出来る人ですからね」
「……一度買い物に行ってみるのも良いかもしれませんね」
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九月三十日
そろそろ衣替えの時期かな。
というわけで半袖の服装をやめて長袖の服装にした。
スカートももう少し丈の長いやつに変更!
帽子は……このままでいっか。
明日から十月! これから寒くなるし寒さ対策しとかないとね!
まぁその前に秋が本格的に来るけどさ。
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「衣替えか……」
「外の世界もありますよ衣替え。学生とかだったらカッターシャツからブレザーとかもしくはカーディガン羽織るとかそんな感じで」
「転換期ってやつね」
「……ともかく次から十月編ですか」
上から霊夢、早苗、レミリア、さとりの言葉である。
ともかく次回から十月編! 休みなしで読もう、と意見をまとめて四人は次のページを開く――――。