フランドールの日記   作:Yuupon

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四月編5『博麗神社へ』

 

 

 

 四月十三日

 

 もう完全に朝起きになれたフランドールです。

 いい加減修行はカットで良いかな? と思う今日のこの頃。

 とりあえず今日の朝は以前やった水泳をバージョンアップさせた、弾幕の雨を掻い潜りながら往復するというのをやった。そのあとに縛られるやつも。

 大分慣れてきた感じがする。疲れはするけどペースも分かってきたし……まぁ泳ぎながら弾幕をかわすのは初見だったけど。

 ぶっちゃけ半分くらい無茶が入ってると思う私はおかしくないだろう、絶対にめーりんの感覚が麻痺してると思う。

 身になってるから良いけど。あ、あと朝晩の向日葵の水やりもしっかりやってるよ! 幽香さんと約束したから。

 

 で、今日の午後。

 外出許可は前回もらったので何処にでも行ける……と思ったけどそんなことはなかったよ。

 

「待ちなさいフラン!」

 

 お姉様だ。昨日は混乱している時にサラリと許可を奪い取ることに成功したけど今日は違うらしい。ギャグで流そうかとも思ったけど顔がシリアスだったので断念する。

 

「どうしたの?」

「……また、何処かに出かけるの?」

「うん」

 

 神妙な顔つきで尋ねるお姉様とは対照的に無邪気に頷く私。

 だって許可はもらったし、昨日。

 

「ダメよ……昨日は済し崩し的だったけど今日こそは認めないわ」

 

 なんだろう。シリアス通り越してガチモードに片足突っ込んでいた。身体に妖力を纏っていて、これまで散々放り捨ててきたカリスマを顕現させている。

 その手にはスペルカード。弾幕ごっこをしてでも私を止める算段らしい。その勢いからしてどうやら逃げるのは無理そうである。

 ……仕方ない。

 

「ねぇ、お姉様。レミリア・スカーレットはカリスマが具現化した存在であるとか前に言ってたよね」

「……随分と古の話を持ち出すのね。良く理解してるじゃない。そう、私はかの吸血王ツェペシュの末裔たるスカーレット家の長女、カリスマの化身と言っても問題無いわ」

「へぇー」

「……最近はギャグ時空に流されていたけれど、フラン。貴女は私の大事な妹よ。狂気に染まっていたとしても私は貴女を愛している。だからこそ私は何の付き添いもなく不安定な貴女を外に出すわけにはいかないの。万が一にでも貴女が暴れてみなさいな。貴女も傷つき私のこの圧倒的カリスマも揺らぐ」

 

 大分口調が饒舌だ。気分が乗ってきたのだろうか。

 ……その発言、逆の意味で言えば誰かを連れて行けば問題無いの? ってなるけどそれは置いておくとして。

 確かに今のお姉様はカリスマを纏っていると言っても過言では無いと思う。けど、ゴメンね。その死に設定でこうやって外行くの邪魔されると色々と面倒だから――――その『言の葉(コトバ)』切らせてもらう!

 

()()()()()()()、ハッ。笑わせるねお姉様」

「…………何がかしら?」

「面倒だから端的にするけど、咲夜に言うよ? 昨日お姉様がツマミ食いしてたこと」

「――――へ?」

「あと、パソコンをもらった時によく分からなくて癇癪起こしたんだってね。子供みたい」

「え? あの、えっ?」

「それとカリスマ? 月でも『バシュッ! ゴオオオ』からの『カッ!』されてやられたらしいしもうカリスマなんて何処にもないじゃない」

「……や、やめてフラン。思い出させないで……擬音だけなのに心が痛いから!」

 

 ネチネチと最近聞いたお姉様の醜態をつらつら並べていくとやがてお姉様は涙目で頭を抱えだした。

 ……私が言うのもあれだけどメンタル弱いよお姉様。何その豆腐メンタル。こうもあっさりだと悲しくなってきたよ。むしろ開き直ってくれたらよかったのに。「それがどうした!」くらい開き直ってくれた方がカリスマあったよ。

 さっきまでの態度は何処へやら。今やお姉様は「バシュゴオオ……」と呟いては身を震わせていた。今更だけどお姉様をそこまで怯えさせる月人って何者なのよ。毎回こんな風に突っかかられると面倒だしその技術を教えて欲しい。

 いや、まぁ一番は普通に外出出来たらそれに越したことは無いけど。

 ともかく私の精神攻撃(スペルカード)は効果抜群だったのでした、まる。

 

「ううううううあああああ……! 最強の体術……」

「じゃあ行ってきます。咲夜、お姉様のことお願いねー」

 

 虚空に声をかけると次の瞬間、咲夜が姿を現す。

 その顔はあらあらと何とも言えない顔だったが、一礼すると「行ってらっしゃいませ妹様」と言ってくれた。

 

 さて、お姉様を退けて私は悠々と外に出たんだけど……。

 

「あ、また会ったな! くらえアイシクルフォール!」

「あ、チルノちゃん! 駄目だって……!」

 

 ふらふらと空中散歩を楽しんでいると聞き覚えのある声と同時に氷の弾幕が降り注いできた。眼下を見ると霧の湖がある。

 それから弾幕の飛んできた方を見ると一匹の氷妖精がいた。

 間違いない。あいつは以前、めーりんと湖を泳いでいた時に弾幕を撃ってきたやつだ。

 

「……そういえばやり返してやろうって思ってたっけ」

 

 氷妖精の隣にはあの時と同じく緑色の妖精が隣にいる。どうやら止めようとしているみたいだけど、もう遅い。売られた喧嘩は買う主義なのだ。じゃなきゃ幻想郷ではやっていけない。

 

「【禁忌】レーヴァテイン」

 

 スペルカードを一枚使用して出したのは燃え盛る炎の剣だ。いや、剣というのは語弊があるか。細かい説明は面倒なので省くけど、とにかくその炎剣で氷の弾幕を薙ぎはらう。

 で、次はなんだと構えていると、

 

「きゃーっ! チルノちゃんが溶けたあああ!!」

「ぐ……くそー! 覚えてろー!!」

 

 なんか溶けてた。いや、私何もしてないよ! 本当だよ! ただ氷の弾幕を炎剣で薙ぎ払っただけなのに……。

 もしかしてメチャクチャ弱い妖精だった、の? いやでも氷精だからって数十メートル離れてるのに剣振っただけで溶けるものなの? 意味分からなかったけどなんか勝った私は念の為、氷精の安否を確認する。

 

「何の用だこらぁ!」

「ち、チルノちゃん! ガン飛ばしちゃ駄目だよ! ほ、本当にごめんなさい! だから命だけは……!」

 

 近くまで行くと、かなり全身から汗が噴き出てたけど大丈夫だったらしい。隣の緑妖精の顔が凄いことになっている。真っ青な顔でペコペコ頭をさげる姿から苦労人オーラが滲み出ているように見えた。

 

「えっと、こちらこそゴメンね? やり過ぎたかも」

 

 それから若干罪悪感のあった私が謝ると緑妖精も安心したようで大分話しやすくなった。

 それでお互い自己紹介したんだけど……。

 

「あたいはチルノ! サイキョーの妖精よ!」

「あ、私は大妖精です。皆からは『大ちゃん』って呼ばれてます」

「私はフランドール。フランって呼んでね?」

 

 なんだろう。案外話しやすい。数分話してチルノちゃんが『馬鹿』というか『⑨』であることに気付いてからはもっと対応が簡単になった。

 大妖精こと大ちゃんは妖精にしてはかなり頭が良いし、ちょっと難しい話をしても問題無く受け答えしてくれるし。

 それで二人の話を聞くところによるとどうやら二人はよくこの霧の湖のあたりで遊んでいるらしく、特にチルノちゃんは所構わず弾幕ごっこをふっかける癖があるらしい。

 それで私達も攻撃されたとか。傍迷惑な話だ。

 でも話してみると悪い子じゃなかったし、今度遊ぶ約束もした。その時は他の友達も連れてくるんだって。楽しみだなぁ。

 

 

 #####

 

 

 バシュッ→ゴオオオ→カッ→レミリア敗北。

 

「……あ、あのトラウマは乗り越えたわ。もう大丈夫、最強の体術は健在なの、うん」

「……妹に精神抉られてあっさり駄目になる姉は姉として良いのかしら。しっかりしなさいよお姉ちゃん」

「ふ、ふん! 言われるまでもないわ! あの時はまだトラウマが残っていただけだもの!」

「どうだかね……」

 

 

 #####

 

 

 四月一四日

 

 

 修行中、めーりんにいつになったら拳法を教えてくれるのか尋ねてみた。

 今更だけど私が修行を始めたのって女性らしい体型とかダイエットだけじゃなくて拳法をやってみたいからでもあるのよね。

 で、今やっているのって地獄マラソンに地獄水泳に拘束、地獄弾幕回避じゃない? 拳法じゃないよね、これ。

 で、尋ねてみると叱られた。

 

「拳法を舐めないでください妹様。素の力が出来上がってない人が拳法をやろうものならたちまち身体中の気が暴発して『ボン!』ってなりますよ!」

 

 ボンッ! って何よ。もしかしてキュッとしてドカーン的な爆発が起こるの? 何それ気って怖い。っていうかめーりん普段からそんな危ない力使ってるの? 大丈夫?

 

 結局、なんかの身の危険を感じて真面目に修行に励んだ。私を笑うがいい。ただ一つ言い訳するなら、キュッとしてドカーンの怖さは誰よりも私が知ってるんだから仕方ないでしょ!

 で、なんだかんだ午後。今日は何をしようかな、と思ってたところそういえばお姉様は暇な時によく、『博麗神社』に行っているらしい事を思い出した。

 博麗霊夢さんって人が巫女をやってて幻想郷にとって必要不可欠な人なんだとか。お姉様も気に入ってるらしい、そう咲夜が言ってた。

 どうせだし行ってみようかな。暇だし、そんな人なら話してみたいし。

 ……と言っても手ぶらで行くのも礼儀がなっていないので、その前に咲夜にお願いをする。

 

「咲夜、クッキーの焼き方教えて?」

「クッキー、ですか?」

「うん、これから博麗神社に行こうと思うんだけど手ぶらで行くのは礼儀知らずみたいに思われそうだし」

「……そ、そうですか。ではお教えしましょう」

 

 一瞬どもったのが気になったけど何となく理解する。

 あっ、お姉様は手ぶらで行ってるのね、と。なんかここ最近お姉様の株が安くなりすぎてカリスマメーターが破産しそうだ。いっそのこと可愛い姉枠に押し込んでしまうのはどうだろう、とどうでも良いことを考えながら咲夜とともに厨房へ。

 

「では早速作りましょうか」

「うん!」

 

 材料は砂糖、ケーキ用マーガリン、卵にバニラエッセンス。それと小麦粉とベーキングパウダーだ。

 バターを練りながら砂糖を加え、また練る。そこに卵とバニラエッセンスを入れてよくかき混ぜる。それから粉が消えるまで混ぜてから半分を別の容器に移し、そちらにココアパウダーを加える。それから冷蔵庫で三〇分放置、がスタンダードだけど魔法で簡略化。

 お好みの型にくり抜いて、それからオーブンを使って熱するんだけど、それも魔法で簡略化。

 こんがり焼けて出来上がりだ。

 試しに出来たクッキーを試食するとかなり美味く出来ていた。これを私が作ったと思うととても嬉しい。流石咲夜だね! うちのメイド長は教え上手です!

 

「美味しいです妹様! 初めてで凄いですね!」

「咲夜のお陰だよ! 本当にありがとうね!」

 

 早速作ったクッキー☆、じゃなくてクッキーを箱に入れて持っていく。とはいっても全部じゃなくて八割くらいだけどね。

 で、それを手土産に博麗神社へと向かう。

 人里を抜け、長い階段をひとっ飛びで飛び上がり、着地!

 思えば博麗神社に来るのって初めてなんだよね。結局、お姉様が起こした紅霧異変の宴会も参加しなかったし。

 で、神社の鳥居をくぐって建物まで近付くと、魔理沙がいた。

 

「お、フランじゃないか! 珍しいな……ってあれ? お前確か紅魔館から出ないんじゃなかったか?」

 

 魔理沙っていうのは私の友達だ。白黒の魔法使いで異変の時に私の部屋に迷い込んできて弾幕ごっこをした仲である。まぁ負けちゃったけど、その後も何度か弾幕ごっこをやっていて戦績は五分五分ってとこかな? 紅魔館に来るのはパチュリーの図書館に本を借りに来るためらしいけど。

 そんな彼女は私の登場に驚いたらしく首をひねっていた。

 

「最近、外出許可をもらったんだ! 出てから思ったけど外って楽しいね」

「おー、そっか。そりゃ良かったな! あ、そうだ。外でれるなら今度私の家にも遊びに来いよ! 歓迎するぜ?」

「うん、是非行かせてもらうね! で、それはともかく。今日は霊夢さん? に会いに来たんだけど居る?」

「ん、あぁ居るぜ。霊夢〜、お客さんだぞー!」

 

 魔理沙が神社の方に声をかけると「はいはーい」という返事が返ってきた。

 

「今度は誰よー、って……貴女は?」

 

 出てきたのは黒髪の女の人だった。脇が丸見えの紅白の巫女服で髪には大きなリボンが乗っかっている。発育はそこそこ。魔理沙よりはあるね。私の中の胸……いや、『おもちメーター』がそう言っていた。

 

「初めまして。私、レミリア・スカーレットの妹のフランドールと言います! よくお姉様がここに来ると聞いて来ました!」

 

 ぺこりと頭を下げて「あとこれ、クッキー焼いたのでどうぞ」と渡す。結構丁寧に挨拶したせいか、霊夢さんも「あら」と優しげな声で対応してくれた。

 

「わざわざありがとう。アイツの妹にしては気が利くのね」

「ちょっと待って下さい。第一声で気が利くのねって姉は普段どんなことやってるんですか!?」

「……家族なら何となく想像出来ると思うわよ。咲夜がいる時のアイツの姿を想像してみなさい」

 

 あっ(察し)。想像ついたよ、残念なことに。殆どのことを咲夜に任せて好きに喋りまくりはしゃぎまくった上無駄に高いプライドとカリスマを保とうとする姿がね!

 そんなことを考えていると、

 

「縁側で座っときなさい、お茶淹れてくるから」

 

 と霊夢さんは台所へ歩いていく。

 咲夜とは違う方向だけど言葉の内容とは裏腹に態度は丁寧な人って印象だ。妖怪と接するのに手慣れているようで、普通な感じだった。

 この人が異変の時にお姉様を倒したのかぁ……まあ何となく納得かも。纏う雰囲気がのんびりしているけどやっぱり只者じゃないし、何より『目』に触れられない。人と違う輝きをした『目』だ。仮にこれを壊そうとするなら相当に苦戦するだろう。もしかしたら無理かもしれない。そんな生命の輝きを持っていた。

 

 それからお茶をとって戻ってきた霊夢さん達と三人で暫く駄弁った。

 普段話さないような話が多くて、魔理沙が仕入れてきた話とかとっても楽しかった! 未知を知るのってやっぱり楽しいなぁ。

 帰るときには「また来なさい」と霊夢さんに言われたし、その内また来ようと思う。

 

 

 #####

 

「……日記内での私の書き方に悪意が無いかしら」

「いや無いわよ。ありのままに書いてあるから」

 

 ボソッと呟いたレミリアにツッコミを入れて霊夢は語り始める。

 

「……あの時は驚いたわよ。前にもアンタから妹は危険だって散々聞かされてたから。思わず、『夢想天生』(常時攻撃無効)を使ったし。実際話したらまともな子だったし、妖怪にしては物腰も丁寧だし、警戒して損だったけどね」

「流石私の妹! と言いたいけど事前に忠告したのが私だから何とも言い難いわね。大分カリスマが身についてるじゃない……うん」

「まず妹より優れた姉なんていねぇ! って状態を何とかしなさいよアンタ……お前が言うなってやつよそれ」

「うー……」

 

 レミリアのカリスマが復活するのはいつのことか。

 本当に大丈夫かこの姉、と疑問に思いつつ霊夢は先のページを読み進めていく――――。




 

 進行日数:二日。
 ……次回からザックリ書くとは何だったのか。


今回出てきたネタ
・バシュッ!! ゴオオオ! カッ(東方儚月抄より)
・身体中の気が暴発してボン!!(Re:ゼロから始める異世界生活より魔法の説明)
・クッキー☆(ニコニコで淫夢ネタに用いられる動画)
・おもち(咲-saki-より。胸のこと)
・あっ(察し)

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