フランドールの日記   作:Yuupon

49 / 141
九月編7『金は命より重い』

 

 

 

 九月十八日

 

 

 今日は妙な日だった。

 今日私の身に起こったことを書いてみよう。

 

 一つ目、人里に行くと隣を歩いていた人が飲んでいたコーラが爆発した。多分振ってあったのかな。悲しい顔をしていたのでティッシュを差し上げた。

 二つ目、少し休もうと広場のベンチに座っていると突然地面が揺れだした。え、地震!? 驚いた私は思わず立ち上がると隣に座っていた人が物凄い貧乏揺すりをしているだけだった。メタルバンドのドラマーかよ。

 三つ目、道を歩いていると急に羽音がして頭上からガスッと衝撃が襲った。チクリとした感触は一瞬、慌てて首を動かしてあたりを見回すと空からカァ、とカラスの声がした。カラスさん、私の頭を踏まないで下さい。

 四つ目、お姉様が真面目だった。人里でふと姿を見かけたんだけどとても真剣な顔でいつものボケとかポンコツが無かった。余裕とカリスマ溢れる姿で優雅に歩いてた。誰だよあの人。

 五つ目、人里の和風食堂で佇む幽々子さんを見つけた。妖艶な仕草でおにぎりを食べた手を舐める彼女はボソッと呟く。

「何故……おにぎりは食べるとなくなってしまうのか」

 食べたからだよ!

 

 うん、まぁこんな日もあるの……かな?

 

 

 #####

 

「普通はないと思います」

「というか最後の幽々子で話の内容全部吹っ飛んだんだけど」

「……ある意味哲学、ですよね」

「食べたからだよ! で全部解決してるけどね」

 

 上から早苗、霊夢、さとり、レミリアの言葉だ。

 

 #####

 

 

 九月十九日

 

 せっかくiPhoneを手に入れたのにあまり触ってないな。

 と思ったので色々弄ってみた。それでツイッターってやつを見ることに。

 幻想郷内にも何人かやっている人が居るらしい。

 前に会った全身キラキラの存在感の塊少女ことこいしちゃんもやってた。覗いてみると……うーん、さとりさんっていうお姉さんのことをよくツイートしてるのかな。

 

 こいし@元世界一位

 「お姉ちゃんのコスプレ撮れた〜」

 さとり

 「え!? こ、こいしいつの間に!?」

 火焔猫燐

 「さとりさま、本棚にさとりんという名前の人が描いてるR18の同人誌があったんですが」

 さとり

 「お燐、そのツイートを今すぐ消しなさい!」

 おくぅおくぅ!

 「さとりさまの部屋で謎のノート発見しました!」

 さとり

 「や、やめて! お願いそれだけはやめて!」

 おくぅおくぅ!

 「うpしまーす!」

 さとり

 「お空、お願い! 何でもするから!!」

 

 酷いね。これ以上はなんか可哀想だったので別のをみることにした。

 次のは……なんだろ。布都って人のアカウント。

 

 文々。新聞

「【速報】命蓮寺また燃える」

 村紗水蜜

「派手にやるじゃねぇか!」

 布都

「ち、違う! 今回は我ではないぞ!」

 屠自古

「お前さぁ……もう庇えないよ」

 布都

「本当に違うもん! お願い信じて!」

 星@毘沙門天の化身

「私……お鍋の火消しましたっけ?」

 

 星くーん! 犯人居るじゃないか!

 というか意外と幻想郷にもユーザーいるんだね。

 外の世界と隔たりのある世界なのに不思議な話だなぁ。

 

 #####

 

「待ってください。え、幻想郷内でツイッターやってる人居るんですか?」

「……実は地底には外の世界の物が流れつくスポットがありまして。それと封印された河童もいるものですから」

「え、意外と地底って科学進んでるの?」

「……はい。核融合エネルギーを使い電力供給を済ませ、また河童の手助けもあり研究者達が凄い速さで発展を促しています」

「うーん、複雑ですね。地上での守矢神社の政策の殆どは失敗してるんですけど」

「というか科学の進歩って幻想郷的には良いのかしら……?」

 

 #####

 

 

 九月二十日

 

 

 久々に人里の道場に行くと妖夢さんの泣き声が聞こえた。

 何かあったのかと思ってそっと覗くと涙目の妖夢さんがいた。

「良い加減にして下さい! 泣きますよ!」

 いや泣いてるから! 完全無欠にボタボタ涙零れてるからぁッ!! というツッコミはさておき。

 何かあったのかな?

 また妖忌さん関連? と思って中に入ると、

「あらー、フランさんこんにちは」

 幽々子さんがいた。その手には空のお茶碗と箸。

 話を聞いてみると、幽々子さんが朝食を食べ終わりしばらくしてお腹が空いたので妖夢さんと妖忌さんのいる道場まで来てご飯を作ってくれとお願いしにきたらしい。

 ……空のお茶碗と箸を持って。

 しかも最近は毎日。量を増やして置いていっても意味はなく修行と何度も中断させられるのでとうとう我慢の限界になっての行動らしい。

 うん、そりゃキレるわ。

 仕方がないので私がご飯を作ってあげた。

 ただし。普通に作ってはキリがないので少々魔法を掛けて。

 『満腹魔法』。食事を摂ったあと指定した時間の間お腹が減ったと感じなくなる魔法。使い所がほぼない上に即興で作ったものだけど幽々子さんには効果的だと思う。妖夢さんにも教えておいたので多分これでマシになるんじゃないかな?

 とはいえその時間を過ぎると普通に空腹を感じてしまうからちょっと大変かもだけど前よりはマシだろう。

 妖夢さん……ファイト!

 

 #####

 

「幽々子ェ……」

「空のお茶碗と箸を持って道場まで来るって中々太い神経ですよね」

「……まぁ普通は恥ずかしいですからね」

「でも従者として半人前ね。咲夜ならもっと上手くやるわ」

「……その、何でもこなせる超人と同じに扱うのは可哀想では?」

「いや、むしろ今後一流を目指すなら常に先を見据えるのが成長を促す為の一番の近道なのよ」

 

 #####

 

 

 九月二十一日

 

 

 博麗神社で公演をやるらしい。

 霊夢さんが人里の皆さんに向けて『お金の話』をするとか。

 折角なので行ってみた。

「……この博麗霊夢。こと金に限り、一切虚偽を言わないわ」

 行ってみると結構人が集まっていたよ。

 ザワ……ザワ……。と人々がざわめきながら話を聞いていた。

「……金はね、命より重いのよっ! 世間の大人どもが本当のことを言わないなら私が言ってやるっ!! 金は命より重い。そこの認識を誤魔化す者は一生地を這うのよ!!」

 なんだろう。何故かアゴと鼻と肩幅が尖ってみえる。でもなんだか霊夢さんの言葉には説得力があるような気がした。

「金は尊い……貴方達の認識より、はるかに重い。だからこそそのお金をどう使うべきなのかを考える必要があるの」

 説得力が、

「ただ、目先の利益に囚われてはならない。長い目で利益を上げ続けるのが最も効率の良いことよ……じゃあ聞くわ。この世界を護りしものはなに? 幻想郷を続けていくために何が必要か? それは結界であり、それを護る博麗の巫女よ!」

 説得力が…………あれ?

 なんか話がズレてきたよ。周りの人達も「投資募ってんのか?」とか「引っかかるわけないだろ」とか話している。

 それは次第に野次に変わって言った。

 「ち、違うのよ」としばらく霊夢さんは右往左往していたけど、最後の方で「駄目巫女!」だとか「やめちまえ!」とか言われたあたりでプッツンしたのか急に叫び声を上げた。

「良いから黙って、全部私に投資しろぉお!!」

 はい、もう見てらんない。なんか叫んだ霊夢さんだけど後ろから現れた華扇さんに頭を蹴飛ばされて回収されてってた。

 ……今更だけど霊夢さんってもしかして、意外と残念な人なのかな?

 

 

 #####

 

 

「あの……霊夢さん」

「……霊夢さん」

「…………、認めるわよ」

「……霊夢、本当にお金に困ってるなら紅魔館に来ても良いのよ?」

「レミリア。痛いからやめて、その無自覚な優しさは凶器よ」

 

 

 そして次のページを開く――――。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。