フランドールの日記   作:Yuupon

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九月編6『炙ら鈴仙と十五夜』

 

 

 

 九月十五日

 

 今日は中秋の名月、つまり十五夜だ。

 紅魔館内でもパーティを開いて皆でお月見をした。

 ベランダで冷やした葡萄ワインを口に含みながらお団子を食べる。

 月見団子は十五個食べると健康と幸せが得られるんだって。

 ちなみに団子は私と咲夜とで作った。お姉様が十五個以上食べてたけど大丈夫かな? 食べ過ぎは良くないよ?

 あと満月が綺麗だったなぁ。まんまるお月様。皆で月を眺めながら談笑してたけど、でもこれで終わらないのがお姉様クオリティーだった。

「そうだ! 咲夜、ウサギを連れて来なさい!」

「ウサギ……ですか?」

 お姉様がご乱心だ(三回目)。

 多分月にはウサギがいるってあれだよね? ウサギと帝釈天の逸話。

 

 昔、狐と猿、うさぎが一緒に暮らしているとお腹を空かせて死にそうになっているおじいさんがおり、食べ物を恵んでくれとせがみました。

 狐と猿は食料を捕まえて持ってきますが、うさぎは何も捕って持ってくることが出来ませんでした。

 もう一回うさぎは食料を捕りに行きますが、どうしても捕って来れません。

 うさぎはおじいさんのために、自らの命を捧げてそばで焚いていた火の中に飛び込みます。

 おじいさんは悲しみ、うさぎの清らかな魂を誰しも見ることができるようにと月の中に写しました。

 

 って話。確か仏教の話だよね。

 それが逸話となっていつしか満月はウサギが餅をついているように見えるっていうのが通説になってたはず。ちなみに餅をついているのは米の収穫を感謝するためだった。

 ともかくウサギ……ウサギねぇ?

 咲夜は「はぁ……」と曖昧な返事だったけど探しに行ってた。お姉様とパチュリーが何か話してたけど咲夜一人に行かせるのは可哀想だし私も行くことにしたよ。

 ウサギといえば真っ先に思い浮かぶのは鈴仙さんだ。

 つまり永遠亭。道は覚えている……というか瞬間移動(ルーラ)の行き先の一つにしているので次の瞬間には永遠亭に到着する。

 で、酷い絵面が見えた。

「熱! 熱っつ! し、師匠やめてください! いくら帝釈天の逸話があるからとはいっても火炙りにしないで下さい〜!! きゃあ! スカートに燃え移った! あっ、師匠ッ! これ、やばいです! 本気でヤバイパターンですぅッ!! あ、あ、アーーーーッッ!!」

 鈴仙さんが両手足を木の棒に括り付けられてぶら下げられてた。で、その下にはメラメラと燃え上がる焚き火が。

 何やってるの? 馬鹿なの? 不思議に思って声を掛けると鈴仙さんが半泣きで叫んできた。

 

「そ、そこに誰かいるんですか!? だ、誰でも良いから助けて下さい! 焼けちゃう! 私死んじゃうからッ!!」

「あら、久しぶりねフランさん。あ、別に助けなくて良いわよ? ちょっとしたオシオキだから」

 

 あぁ、どうも永琳さん。

 流石に見ていて可哀想なんだけど。というか何をしたの?

 

「何もしてないわ? ただ過去にやらかしたことが私に露見しただけよ。特に貴女も当事者だからよく分かると思うのだけれど」

 

 当事者……? あ、授業か。前に鈴仙さんがお辞儀した瞬間教卓にウサ耳を打ち付けて取れちゃった事件。ついでにクラス全員を狂気に染めやがったアレだね。

 ……あぁ、そりゃそうなるね。

 

「ならちょっと鈴仙さんを借りれませんか? ちょっとお願いがあって」

「んー……そうね。まぁ当事者にお詫びした方が早いか。どうぞ、何なりと使ってちょうだい。ただ使用法は注意してね?」

「了解です」

「待って師匠!? 使用法ってなんですかッ!?」

 

 突っ込んでるけど放置。

 このあと鈴仙さんを紅魔館に連れ帰ってお姉様達の前で月の兎のお餅つきをやってもらった。

 お姉様が大笑いしてたよ。本人は「うぅ……」って泣き目だったけどそれでも炙られるよりはマシだと思うの。

 あと何匹か普通のウサギも連れ帰ったから私はモフモフの子を抱きしめながら見たなぁ。

 なんか毛玉みたいなモフモフしたウサギ。

 種類はアンゴラウサギだっけ? お酒を呑み終わって今度は寝ないためにコーヒーを淹れてきて飲んでると『……良いまろみじゃな。お前さん相当な腕前じゃろ』とかダンディーな声で言ってたけど幻聴? 幻聴だよね?

 ともかく腕で抱きしめたり頭に乗っけたり温かかったなぁ。

 

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「フランさん、多分それ永遠亭のウサギじゃないです」

 

 早苗が突っ込んだ。

 が、意外にも三人はこれをスルー。

 

「それより十五夜か……博麗神社だと特に何もやってないのよね。折角だしパーティに混ざってくれば良かったかしら?」

「確か魔理沙は来ていたわよ。あいつはよく来るのよね、紅魔館で何かあるたびに……」

「……まぁ幻想郷で一番アウトドアな人間ですからね、彼女」

 

 三人のこころを読んださとりは総評して言った。

 

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 九月十六日

 

 

 人里に行くとお寺のあたりが騒がしかった。

 どうやら『狂言』をやっているらしい。演目は『附子(ぶす)』だとか。

 聞いてみたけど狂言って不思議だね。ほら、笑う時とか泣く時のパターンが固定されてて皆大きな声で特徴的なのよ。

 他にも物を投げる動作とか。普通、石を投げる動作といえば遠心力を使って腕を振り切るよね? でも狂言って、例えばえいえいえいって腕をぐるぐる回してから一度ピタって止まるの。それからえいやっ、と手を動かして投げ切らずにまた止める。

 その理由は投げたものが飛んで行く方向を見ている人に分かりやすくするためなんだとか。

 あっ、そうだ。附子って話の説明もしないとね。

 附子は狂言の中でも基本中の基本となる話だ。

 

 住職さん――主人が一つ山向こうまで出かけることになってお寺を留守にするんだけど、主人は壺の中に入った水飴を持ってて、それを従者である二人。太郎冠者と次郎冠者に食べられたくないのでこの壺の中に入っているのは風を浴びただけで死んでしまう猛毒『附子』だって説明して、蓋をして決して開けないように言ってから出て行く。

 で、残された太郎冠者と次郎冠者は壺の中を見て、水飴だと気付いた彼らはなんと全部食べてしまうの。

 で、カラになったツボを見て主人に怒られるどうしようと思った彼らは考えた。そしてなんと主人さんが大事にしている掛け軸を破り、次に大事なツボを叩き割っちゃうの。

 その上で帰って来た主人さんにこう言ったんだ、「御主人様の大切な掛け軸とツボを壊してしまい、もはや許されないと思い附子を食べて死んでしまおうと食べました」と。

 

 まぁこんな感じの話かな。初めて見たけど面白かったよ。

 というかマイクも無しに良くやるよね。凄いなぁ。

 

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「狂言ですか。実は私、これにカルチャーショックを受けましたね」

「カルチャーショック? どういうこと、早苗」

「外の世界の狂言って大体ホールとかを事前に借りて、チケットを販売して行うんですけど。幻想郷の狂言って全く許可も取らずにお寺とかでいきなり始めたりするじゃないですか? 初めて知った時は驚きましたよ。昔は外でもそうだったみたいですが」

「へぇ、外では違うのね。初めて知ったわ」

 

 霊夢が呟く。

 そこでレミリアが横槍を入れた。

 

「ねぇ、狂言って私、見たことないけど面白いの?」

「……面白いですよ。一度ご覧になってはどうでしょう?」

「え、見たことないのアンタ?」

「外の世界でも学校行事で見たりするのに……?」

「だって古い言葉遣いでよく分からないって聞いたし」

「アンタ自分の年齢思い出しなさいよ。人間と妖怪の古いの尺度を一緒にすんな! つーかその古い言葉を使ってた時代にアンタ生きてたでしょうが!!」

「……あ、そういえばそうね」

 

 霊夢が突っ込んで初めて気がついたようにレミリアが目をパチクリさせる。

 

「「「…………、」」」

 

 三人は目の前のポンコツ吸血鬼に呆れた!!

 

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 九月十七日

 

 

 寺子屋が終わって紅魔館に帰ると魔理沙が居た。

 なんか私に用があるらしい。

 話を聞くと「次のライブが決まったぜ!」とのこと。

 ライブ? あ、そういえば私アイドルやってたね。

 ともかく次は地底ライブを行うらしい。どうやら地底でもアイドルの大会みたいなのがあるみたいで、グランプリに輝くと賞金とトロフィーが貰えるとか。

 ちなみに去年はヤマメさんが優勝したそうだ。

「地底に霧雨プロダクションからの参戦だぜ。既に地底の主人とは話をつけててな、エントリーも済んでる。日程は十月十日な」

 プロダクション……。アイドル私だけだよね? ともかくライブかぁ。前回歌った時はすごく楽しかったから楽しみだなぁ。

「あと今回は私も歌うぜ! 暇な時間多かったから何曲も出来ちゃってさ」

 おぉ、魔理沙も歌うの? 魔理沙は星の弾幕を一杯使えるから演出も良いんだろうなー。

 ともかく十月十日だね! 覚えたよ。

 

 

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「成る程、これで地底に話が繋がるわけですね」

「早苗さんのご察しの通りです。まぁネタバレはつまらないのでこれ以上は話しませんが」

「というか良く許可したわね。地底の連中はあまり表に関わらないんじゃなかったの?」

「……いえ、核融合の件があってからも八坂様とはまだ仲良くお付き合いさせて頂いてまして、副産物の温泉事業も上手くいっているためか地上からの観光客も増えているので最近では地上に興味を持つ方も多いんですよ」

「へぇ、利が元とはいえ両者が歩み寄れているのなら良い話じゃない」

 

 各々感想を言って四人は次のページをめくる――――。

 


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