フランドールの日記   作:Yuupon

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九月編5『レミリアさんのご乱心』

 

 

 

 九月十一日

 

 

 今日、咲夜と一緒に買い物に行った。

 紅魔館での仕事は大体済ませてあるし、最低限のことを覚えてくれたホフゴブリン達がいるのでゆったり色々見て回った。

 小鈴さんのところに行って挨拶ついでに新しい本を借りたり、街中でばったり会った阿求さんと世間話したり、それから美味しいって噂のお蕎麦屋さんでお昼ご飯にしてから陶器の店を見た。

 お茶碗とか皿とかが沢山ある。

 紅魔館のお皿って基本純白のお皿なんだけど。陶器職人が作り、絵師が絵を描いた和風なお皿も良いよね。

 でも今回気になったのは和風技術で作った洋風のお皿じゃなく、湯呑みだ。

 

 黒塗りの漆のされた湯呑み。アクセントに白い花が描かれていて、それはそれは職人技って感じのやつ。

「あの、すいません。これのお花ってなんの花なんですか?」

「ん? あぁそいつぁ月下美人ちゅーてなぁ。年に一晩しか花を咲かさないのよ。大輪ながら儚さを感じさせる花でな、女子(おなご)どもに人気っちゅう話じゃから絵師に書かせたんじゃ」

 

 ……理由はともかく良い陶器だよね。

 魂のこもった職人の湯呑みに繊細な絵を丁寧に描き上げた逸品。

 二組セットだったので買った。勿論私のポケットマネーで。

 で、片方を咲夜にあげた。すると「ふ、フランお嬢様……よろしいのですか?」と確かめてきたので「勿論。いつも咲夜にはお世話になってるから、今度これで一緒にお茶しましょ?」って答えたら涙ぐんで喜んでくれた。

 ……そんなに嬉しかったの? 何だかくすぐったいけど、まぁ喜んでくれたなら私も嬉しいな!

 

 

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「咲夜、これはどういうことかしら。私はフランから湯呑みなんて貰ったことないわよ」

「……いえ、お嬢様と妹様はいつも紅茶をお飲みになられているので湯呑みは不必要だと判断したのではないでしょうか?」

「やっぱりカリスマ(笑)な姉よりいつも尽くしてくれる従者の方があの子も好きなんじゃない?」

「霊夢さん! 言っていいことと悪いことがありますよ! いくらレミリアさんがその通りのカリスマ(笑)でものすごーく痛い中二病患者でバシュゴォであったとしても! また鏡の前で魔法少女のコスプレをしてポーズを取っちゃうところを人に見られるポンコツだとしても! それでも人には口にしてはならないことがあります!!」

「……早苗さん、言っていいことと悪いことがありますよ? あの、レミリアさん泣いてますから」

「……な、泣かないわよ? こ、こんな程度で……? か、カリスマもあるから! 中二病も違うし! バシュゴォ……あ。あ、あ……」

「レミリアがトラウマを思い出した!?」

「……れ、レミリアさんしっかり! 気を確かに!!」

「……あれ?」

 

 ただ霊夢さんの言葉を諌めようとしただけなのに、あれ?

 何かおかしい気がする東風谷早苗は首を傾げた。

 

 #####

 

 

 九月十二日

 

 気がつくと九月半ば。もうすぐ寺子屋の球技大会だ。

 九月に球技大会。十月に文化祭って結構一気にイベントを消費するよね。

 他のクラスの子達との練習試合も増えてきた。

 ちなみに球技大会の種目はドッジボールだ。でも妖怪達だってあって皆投げる球が速いよね。スピードガンで測ったら百三十キロとかだった。

 試しに私も全力で投げ込む。とはいえコントロールした上での全力だ。記録は……一六五キロ。うん、私人のこと言えないや。

 あとルナちゃん、ちょいちょい転んでるけど大丈夫?

 顔面からいってるよ? あとクラスメイトに「口みたいな栗しやがって!」とか言われてるし。

 ともかく弾幕ごっこ経験者も多いし皆避けるのも取るのも上手いから本番は楽しめそうだね。

 

 

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「……タイムリーなネタですね。外の世界でも丁度野球の日本最高記録が――――」

「早苗早苗、そのタイムリーなネタってのはしばらく経てばタイムリーじゃなくなるからやめときなさい。あとから来た人の為に。ちゃんと考慮しないと減るわよ?」

「何の話ですか!? というか何が減るんですか!?」

「……えっと霊夢さんの頭を覗く限り『どくしゃ』が減るとありますが、その」

「霊夢って時折天然なのよね。だから放っときなさい」

 

 やれやれとレミリアが突っ込んで次のページをめくる。

 

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 九月十三日

 

 またお姉様がご乱心だ。

 今日は寺子屋の日だったんだけど、慧音先生が他クラスの授業ということで副担任の先生が教卓に立ってたんだ。

 それで先生が言うことには「今日は特別講師が来るぞー」ということらしい。今回はどんな先生が来るのかな、とワクワクして教室の扉を見つめていると入って来たのはお姉様だった。

 ()()()()()()

「初めまして、私は紅魔館当主のレミリア・スカーレットよ」

 お姉様は入って来るなり教卓の前に立って優雅に礼をする。いや、なんでいるのさ。そんなツッコミをさておいて副担任の先生が続けてこう言った。

「彼女はこう見えて異変を起こしたこともある人でな、それで異変といえば幻想郷の一大事だろう? そこで異変を起こした首謀者である彼女に異変を起こした理由と、万が一異変に巻き込まれた時の対処法を教えてもらう。ではレミリアさん、よろしくお願いします」

「ククク、任されたわ」

 お姉様は不敵な笑みを浮かべると、教卓の前から先生が立つ教卓の裏に戻って――、

「……あれ、教卓思ったより高――」

「あ、すみません。椅子使いますか?」

「あ、ありがとう。お、お礼はちゃんと言えるわ」

 思いのほか高かった移動教室の教卓で私達の姿が見えなくなったのか戸惑いの言葉を上げたところで副担任の先生が椅子を持って来る。

 お姉様は複雑な表情でそれに乗ると腕を組んで改めて話し始め――、

「――あの」

「なんです?」

「……横に立たないでもらえる?」

「何でですか?」

「えっと……その、椅子に乗った私より背が高い人が横にいると……その、悲しくなるのよ」

「???」

「と、ともかく! 図が高い!」

 あれれ、授業の壊れる音が聞こえたぞー?

 何だろう。お姉様は横に立ってサポートする形の副担任の先生が気に入らないらしい。先生、身長高いからなぁ。隣に立つと大人と子供というか……まぁ大人と子供だけど何かお姉様の琴線に触れるところがあったのだろう。

 先生は全く分かってないらしく首を傾げるばかりだ。そのうち恥ずかしくなって来たのかお姉様は叫んだ。

「とっ、ともかく授業よ!」

 うわ、声うわずってるよ。あとさっきのやり取りが恥ずかしかったのか頰真っ赤だよ。なんか他人なら微笑ましいんだけど姉だからかただただ残念としか思えない……。

 それからお姉様は異変を起こした理由と、お姉様が起こした異変の内容を話し始めたけど説明が下手!

 簡単にまるっとかけば幻想郷を紅い霧で覆えば太陽の光に当たらなくて済むってことなんだけど。

「この邂逅は世界が選択せし定め――我が名はレミリア! 吸血王ツェペシュの末裔にして、最強の体術と神槍グングニルを操りし者! そんな私が作った歴史の一ページを知ることを汝らは欲するか? ならば、我の話をとくと理解する覚悟をせよ!」

 ーー痛い! 開幕から痛い! しかも無駄に格好付ける為か話し始める前にパチュリーの魔法か何かで早着替えまでしてやがったよ! 魔法使いっぽい衣装に眼帯まで付けて完全装備だよ!

 副担任の先生もなんか困ってるから! 「あれ、なんかこいつ頭おかしくないか」って顔してるから!

 うぅ……妹として恥ずかしいよ。

「世界が紅霧に塞がると共に――幻想郷の命脈も尽き果てる!」

 超ノリノリにお姉様は言う。痛い――ただ痛い。

 でも、

「なんか面白いなこの人」

「ノリノリだな」

「可愛いから許せるな、うん」

 意外と高評価! ただ妹目線だと痛いし恥ずかしいだけだよお姉様! 意味不明言語喋ってればカリスマに見えるってわけじゃないんだよ!?

 あと椅子の上で暴れたら危ないから! もうグラグラしてるから! と思った側からドンガラガッシャンと音を立ててお姉様が椅子から落ちーー、

「おっと……危ない危ない。こんな事もあるかと横に立ってて良かった。お怪我はないですか?」

 る前に副担任の先生が空中でお姫様抱っこでキャッチ!

 凄いよ先生! なんか物語の主人公みたいだよ! タイミングといいキャッチの仕方がお姫様抱っこなのといい!

 お姉様も流石に恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてた。「離しなさい!」って叫んで立ち上がってから「ぁ……その、ありがとう」のコンボって中々凄いね。

 前に早苗さんが言ってた『可愛く見せる方法』だ。まさか実戦でやるとは……というかお姉様それ知ってたのね。

 結局その後は差し障りのない感じで授業が終わった。

 ちなみに寺子屋の中でお姉様の呼び名が『頭のおかしい紅魔の子』になった。

 

 

 #####

 

 

「ほうほう、お姫様抱っこねぇ?」

「やりますねー、ヒューヒュー」

「べ、別に変な意味は無いわよ! ただ……男の人にあんな事されたの初めてだったから……」

「……レミリアさんレミリアさん。その言い方だと完全に誤解を生むのでやめた方が良いですよ」

「あんなこと、ねぇ?」

「それはどんなことですかねー?」

「……ほら、早速語弊が」

「……あれ?」

 

 ポンコツ系少女、レミリア・スカーレットは首を傾げた。

 だがすぐさま空気を変えるべく彼女は叫ぶ。

 

「そ、それより頭がおかしいとは何よ! 失礼ね!」

「いや、レミリア。読んだ限り頭がおかしいと思う」

「同じくです」

「……以下同文です」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ……………………。

 全員黙りこくった空間で、誰かが静かに次のページをめくった。

 

 

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 九月十四日

 

 

 今日はバイトだった。

 香霖堂。魔法の森という超が付くほど立地が悪い、商売する気があるのかと言われてしまう辺鄙な土地にあるお店。

 ボロクソに言ってるけど真実なので仕方ない。

 ともかく森近さんに顔を見せると「久しぶり。手紙を読んだけどやっぱり直接顔を見た方が安心するね」との返事。

 手紙……? あぁ、そういえば前に行った時森近さんが寝てたから毛布をかぶせた後書き置きを残したっけ。

 ともかく今日のバイトは無縁塚で拾って来た商品の選別だった。

 売れる物と売れないもの。壊れてないかどうかのチェック。また森近さんが能力で物の名前を調べ、私がiPhoneで検索して取扱説明書の作成。

 バイトとはいえずっとiPhoneを触っているわけだからどうもバイト感が無かった。まぁ外の世界の道具の知識も入るし文句は無いけどね。

 

 

 #####

 

 

「iPhone使いこなしてますねー」

「……私も始めようかしら?」

「今度無縁塚で拾って来たらどうですか? その時は奇跡でパスコードを開けてみせますよ?」

「遠慮するわ。パスコードが開いた先の運命を見れば一発だし」

「……なんでしょうか、この会話」

「たった四桁でしょ? 何百桁とあるわけじゃないんだからそのくらい勘で当たるわよ」

「…………(本当にそう思ってる。地上って凄いわね)」

 

 周りの三人が一般からズレていることをど忘れしていたさとりは勘違いする。

 ともかく一同は次のページを開いた――――。

 


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