九月二日
咲夜が変なお茶を淹れた。
思えば春からだよね。福寿草を混ぜたお茶みたいに季節ごとの薬草を混ぜて出してくるの。
あれちょっとやめて欲しいな。
「季節らしさをイメージしてみました」って言うけど安易なアイデア料理は危険よ? というか季節らしさも皆無だし苦いだけだから。
お姉様と一緒にシュガーを沢山入れて飲んだけどあんまり美味しくない。
うん……うええ。
今思い出しても舌に残る苦さが……。
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「……あぁ、あったわね。そんなこと。というかそれは今もだけれどそれはどうなの? 咲夜」
「あらあら、今年のはキチンと体に良いものを用意しておりますわ。良薬口に苦しという言葉もありますが、もしやお嬢様は苦いものを口に出来ないと仰られますか?」
「べ、別に苦いものだって飲めるし! 変に邪推しないの」
「ではこのお話はここまでです。妹様――フランお嬢様にも同じようにお伝えしておきますわ」
そう言って咲夜は優雅に礼をしてその場から消える。
それから数秒。何やら考え込んだレミリアはあっ、と小さく声を上げた。
「……もしかして上手くはぐらかされた?」
「気付くの遅っ! え、気付いてなかったんですかレミリアさん!? フリじゃなくて!? マジで気付いてなかったんですか!?」
「そ、そんなわけないじゃない!」
「……レミリアさんレミリアさん、この場には心が読める
「なっ、なんな―――!?」
「素直に認めなさいレミリア。変なところで意地張るからそんなことになるのよ。つかアンタの知能レベルは妖精か。うちの御神木に住んでる三妖精と対して変わらな……いや、もしかしてそれ以下?」
「そ、そんな筈が無いわ! この夜の帝王レミリア・スカーレットがそんな雑魚妖精なんかと同列かそれ以下だなんて!」
「馬鹿なのはどっちも一緒よ」
「というか夜の帝王ってもっと別の意味ですよレミリアさん」
「……早苗さんの意見は受け取り側の受け止め方で変わると思いますが……まあそうですね」
「うっ……うぐぐ」
コテンパンにされてレミリアは何も言えなくなる。
が、無言になれば敗北を認めたも同然のためそれも出来ないレミリアは仕方なく溜め息をついた。
ハァ、と吐息を漏らすと少しだけ心が落ち着く。
それからやることは簡単だ。
「こ、こほん」
ちょっと意識してあざとく溜め息を吐いてレミリアはこの場を誤魔化そうとするような顔を作る。
それから紅茶の入ったティーカップに手を掛けそっと持ち上げて、
「とりあえずこの話はここまでにしておきましょう。そろそろ次のページに――」
「レミリアあああ! 零れてるから! カップの中身零れてるから! 分かった! この話はここまでにするからまずはその傾けたカップを水平にしなさい!!」
「ん……!?」
平然とした感じに話をしめようとしたが手に持ったティーカップが傾いて中身がジョバジョバとテーブルに溢れていた。
慌てて霊夢がツッコミを入れるが時既に遅し。ビチャビチャと零れた紅茶がテーブルを伝ってレミリアのスカートにかかる。
「熱っ! 熱っつ!!」
熱い液体にレミリアが悲鳴を上げた。
なお、メイド長がやってきてレミリアを着替えさせ部屋の掃除までをも一瞬で済ませたことは言うまでもない。
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九月三日
今日は寺子屋だ。
慧音先生の授業は静かで良いね。
皆寝てるからかな。授業に集中出来る。
「偉人にも面白いエピソードがある。例えば隋の文帝は浮気が奥さんにバレて家出をしたことがあるんだ」
歴史って面白いよね。
歴史上の人物って言われると普通の人と違うようなイメージがあるけど意外と身近に感じられるエピソードがあったりするんだよ。
皆寝ちゃってて勿体無いなぁ。
「他にも外の世界の一万円札に描かれている福沢諭吉だが、彼は禁酒中に「ビールは酒じゃない」と言ってよくビールを呑んでいたらしい」
ビールはお酒じゃない、か。
なんだろう。なんか頭の中で神主さん――以前ライブの時にあった緑のハンチング帽をかぶったあの人が笑顔でビールジョッキを持つ姿が幻視出来たよ。
いやでも……気のせいかな? 気のせいだよね。
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「偉人のエピソードですかぁ。私は理系なのであまり詳しくありませんが……」
「ビールは酒じゃない……ねぇ?」
「……むしろ最近じゃお酒の代名詞ですよね」
「というかフランの言う緑のハンチング帽の人って誰よ?」
「レミリア、それは禁則事項よ」
霊夢が指を唇に押し当ててシー、と呟く。
納得いかないレミリアだがなんとなく首を縦に振った。
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九月四日
人里で魔理沙と会った。
なんか麻雀をしに行くらしい。良かったら付いてくるか? と誘われたので付近の雀荘に行くことにした。
でも私ルール分からないし役も知らないけど良いのかな。
ともかく雀荘に行くと既にざわざわと里人達が雀卓を囲んで麻雀をしていた。どうやらレートがあるみたいでお金を掛けてやる卓が大半らしい。無料のところはあまりなかった。
とりあえずルールが分からないから魔理沙のを見てたけど雰囲気だけで結構楽しめたよ。
「ロン、満貫だぜ。ほらサッサと払いな」
魔理沙は結構強いみたいだった。
何が起きてるか分からなかったけど見てて楽しかったよ。とりあえずルールブックを貸してもらってようやく分かったけど、でも難しいなぁ。
と思ってたらなんか近くにいた白髪でやたら鼻とアゴの長い人に打たないかと誘われた。賭け麻雀じゃなくて普通に打たないかとのことなので、初めてだけどやってみることに。
勿論ルールブック片手にだ。
数分で四人集まったので、早速卓を囲む。
「狂気の沙汰ほど面白い……」
「さて、
「御無礼」
なんでだろ。そこから先の記憶が薄らぼけだ。
なんか叩き潰されまくって、残り点数がほぼゼロまで追い込まれたところで一回だけ上がれた気がする。
すごーく点数の低い上がり方だったけど。気が付いたらさっき打った三人は帰ったのか姿を消していた。
でもこれで終わらなかった。今度は女の子に誘われたんだ。また四人集まって打ち始める。
「麻雀って楽しいよね!」
「(……見た所この嬢ちゃんはトーシロ……っ! 勝てる……っ! まずは普通に打ってそのうちレート有りに誘い込めば……っ!)」
「不思議なマジックだよ。何あるか分からんよなぁ、素人は」
なんか鼻とアゴの長い人が嶺上開花されまくってた。
イカサマだ……っ! 皆もそう思うだろ……っ!? ほら、ノーカン! ノーカン! って叫んでた。多分その人の台詞じゃない気がしたけどまあそれは良いや。
私もルールブックを見ながら一回上がれたよ。でも役がバレバレなのかすぐに看過されちゃってた。
意外とやってみると面白かったけど、お姉様あたりが聞いたら怒りそうだなぁ……。麻雀ってイメージ的に。
まぁ日記に書いてる時点で別にバレても良いけどさ。
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「……麻雀。白黒魔法使いめ……」
「別に良いんじゃない? 将棋とかと大して変わらないでしょ」
「で、でもイメージ的に……咲夜もあまり教育に良くないとか言ってたし」
「最近じゃそんなことないですよ。むしろ漫画読んでネット麻雀やってる人も多いですし」
「……麻雀ですか。将棋もそうですけど私は出来ないんですよね。全部心を読んで分かってしまうので」
勝ってもイカサマと言われますし、とさとりが言う。
「あー……うん。それは、何ともコメントしづらいわね」
「……ともかく次のページいきましょうか」
そう言って反応しづらい話題に空気が重くなったのを感じた早苗は次のページを開いた。
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九月五日
今日はにとりさんのところに行った。
機械のことを教わるためだ。
試しにと言うことでにとりさんの持ってた壊れた携帯電話二個を使ってニコイチをすることになった。
ニコイチというのは、壊れた機器の壊れてない部品同士を使って直すことを言うらしい。
まずは分解してそれぞれパーツを忘れないように置く。
それから壊れた部品と壊れてない部品を組み替えて直していく。
携帯ってやたら細かいね。あとパーツが多い。
とりあえず指示を受けながらやったら上手くいった。ちゃんと画面もついたし。
ただ旧式の携帯電話なせいか、電話とメールしかできないっぽい。
ウェブもやろうと思えば繋げるけど最低限だし……。
……iPhoneのパスワードさえ分かればなぁ。
無縁塚で拾った携帯を見つめながら私はそう思った。
「……あ」
いや、待てよ。もしかしたら?
「キュッとして……」
一つ思いついた私は憶測の域を出ないまま能力を行使してみることにした。
まずは左手でiPhoneを起動してパスワード画面まで表示する。同時に右手で能力を発動だ。破壊対象は携帯のパスワード。
正直どうなるか分からない。携帯ごとボンッ! ってなる可能性もあるけどその時はまた無縁塚に行くまでだ。
そして私はパスワードを破壊する――――!
「どかーん!」
瞬間、iPhoneの画面がブレた。
ザザッと砂嵐のように画面が震えて暗転する。
……壊れちゃった? 嫌な予感がしたけどそっとiPhoneの画面を起動し直してみる。
すると――、
「あっ……ついた」
画面がついた。それもパスワード画面じゃなくて、普通に開いていた。パソコンで見た通りの画面だ! 四角いのが沢山あってタッチするとソフトが起動する。
それから設定で色々弄ってみると前の人のものらしいパスワードとかメールアドレスとかが登録されていたので改変。
……まさか機械の中にまで能力が通用するとは私も思ってなかったよ。というかその発想に行き着けた自分にビックリだよ。
……にしても案外やってみれば出来るものなんだなぁ。
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「もうこれ何でも有りですね」
「早苗、あんただけには言われたくない」
「霊夢霊夢、それ霊夢の言える事じゃないわ」
「……運命を見れて軽く弄れるのも大概だと思いますが」
「さとりにも言われたかないわよ」
「「「「………………、」」」」
そして誰も話さなくなった。
無言で次のページをめくる――――!