八月十五日
幽々子さんの白玉楼にお世話になって翌日のこと。
「今日はお盆ですから面白いものが見れますよ」
あむあむと朝食を食べていた時に唐突に妖夢さんがそう言った。お盆ってアレだよね。死者の霊が里帰りしていくイベントだよね?
で、ご飯を食べ終わってからその面白いモノが見れるところに行った。巨大な桜、西行妖の下だ。なにやら幽霊が沢山集まってふよふよ浮いていた。
「直ぐに始まりますからちゃんと目を開けてて下さいね?」
ほら、と指差された方を見ると一匹の幽霊が青い光を帯びた。
ふよふよと首を傾げながらあちこち見回したその幽霊は、やがて一気に更に飛び立って光とともに消滅する。
なんだろう。花火みたい。とても綺麗な光景だった。
「お盆は幽霊の里帰りの日ですから。ここ、白玉楼からも殆どの幽霊達が故郷へと帰っていくんですよ。それがあの光景です」
へぇ。見ると次々に幽霊が光を纏って閃光のように飛び上がり消えていく。無数の幽霊達が飛び上がっていく様はまさに壮観だった。
……綺麗だったなぁ。
皆で空を見上げながら酒を呑んで、楽しかった。
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「綺麗な光景にお酒は定番よね」
「幻想郷では、ですけどね。そもそも外じゃ私お酒呑めませんし」
「え? 外じゃダメなの?」
「駄目……というかルールがあるんですよ。肝臓が成長しきる二十歳まではお酒を呑んではならないってルールが。それを破ると補導されて将来がパーになりますから、呑むにしても他人の目のない家族間だけですね」
「……人間基準で考えると、二十歳を超えている私やレミリアさんでも見た目的に外で酒を呑むのも問題になるんですかね?」
「なると思いますよ。さとりさんもレミリアさんも見た目小学生ですから」
「面倒臭いわねぇ。子供だからってお酒を呑めないとか人生の半分は損してるわよ」
「霊夢さんの人生の得の半分はお酒なんですか!?」
「そうよ」
「そうなんだ!?」
思わず最後は敬語が取れてしまう早苗だがそれくらい驚いたらしい。え? マジですか? と繰り返し呟いているが霊夢は無視して次のページをめくる――――。
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八月十六日
白玉楼の皆さんとサヨナラした。
次はどこに行こうか。
と思ってたけどそろそろ帰るべきかもしれない。
……いや、寺子屋の始まりが二十日なのよ。で、旅が始まって十数日。その前はバイト漬け。
――――夏休みの宿題が終わっていない!
やばい。これは全体的に不味い。
二学期開始の合図が慧音先生の頭突きとか嫌だよ私!?
というわけで帰る。誰が何と言おうと異論は認めない。
久々に帰ると紅魔館の皆は暖かく迎えてくれた。
あと向日葵の花も咲きかけてた、観察日記の宿題もあったので丁度良い。
明日から宿題漬けじゃー! …………、憂鬱。
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「あるあるですね。夏休み終了直前まで宿題が終わってないやつ」
「宿題ね……。そんなもん出さなくても成績が良ければ良いんじゃないの?」
「小学生の頃は許されないんですよね、それ。宿題はやるのが当たり前って風潮で先生にも怒られますから」
「……多分風潮とかじゃなくとも当たり前だと思うんですけど」
「面倒な話ね。良くやるわ」
ズズッと紅茶をすすり霊夢は言った。
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八月十七日
ドリルが終わった。
全教科気合いで終わらせた。まぁ思いの外多くなかったというのもあるけど、全部解き方分かってたのが大きいだろう。
真面目に授業聞いてて良かった。
あと向日葵の花が咲いた。
綺麗に大輪の花を咲かせてた。
一輪だけ『人の笑顔』みたいな顔をしてて「キマッ! キマッ!」って声をあげるヒマワリがいた気がするけど気のせいだろう。
これで観察日記も完璧だ。
今度、幽香さんに咲いたって報告しに行こっと。
あとめーりんにも褒められた。
「妹様! 綺麗なガーデニング空間になりましたね!」って。
えへへ、嬉しい。
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「楽しそうですね」
「……元はといえば美鈴さんがガーデニングを作れとフランさんに言ったんでしたっけ?」
「そうよ、さとり」
「ガーデニングかぁ……スペースあるし私も始めようかしら」
「いや、レミリア――アンタ陽射しを防ぐ手段あるの?」
「あっ」
「…………」
「…………」
(…………ないんですね)
色々と察して益々今度何か教えてあげようと深く決意する早苗であった。
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八月十八日
プリント終わった。
二日頑張れば終わるもんだね、宿題。
なんか清々しい気分だよ。色々悟った感じが体にある。
気持ちも大分リフレッシュ出来たんじゃないかな?
久々に体が動かしたいし明日からまためーりんや妖忌さんにお願いしよう。あと咲夜にもまたメイド技術教えてもらって、それからアリスさんには裁縫とにとりさんには機械と、森近さんには商売と。
……書いてみると思ったより多いな。
ともかくやれることを頑張ろう!
あ、ちなみに今日は宿題終わってから久々にチルノちゃん達と遊んだ。
霧の湖近くでサッカーをした。超次元サッカーだ。
ルールはそれぞれ必殺技として魔力を込めてシュートを撃てる。皆わちゃわちゃしながら楽しくプレイした。
私は足に炎を纏って、蹴るとボールが燃え盛りながら四つに分身するシュートを必殺技にしたけど、ゴールした時に審判のチルノちゃんが変な判定出してたよ。
「ゴール! 満塁ゴール! フランちゃんチーム四点!」
「満塁ゴールって何なのチルノちゃん!?」
大ちゃんがツッコミ入れてたけど本当なんだろう。
カオスだったなぁ……。
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「満塁ゴール……」
「野球なのかサッカーなのか」
「……酷いわね」
「でも私は満塁ゴールってフレーズ、聞いたことあります。TASって動画の中に――」
「……早苗さん、多分私達含めて多くの人が分からないネタを振らないで下さい」
「…………はい、さとりさん」
ピシッと突っ込まれて早苗は黙り込んだ。
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八月十九日
今日はめーりんと修行だ。
午前一杯使って体を動かし、組手をする。ていていていてい!
精一杯殴る蹴るを繰り返す。私だってただ傷心旅行に出ていた訳じゃないのだ。今日の為に考えていた技をこれでもかと繰り出す。
パンチを放つと手から気弾が飛び出す技とかは不意をつけた。直撃した隙に初めて確かな一撃を与えれたし。
あと瞬間移動と組み合わせたコンボだね。大分昔に覚えたドラゴン波を撃つ寸前に瞬間移動して、背後からぶっ放すって技。
直撃はしなかったけど吹っ飛ばすことは出来たので、あとは瞬間移動してブン殴って吹っ飛ばし、先回りしながら殴り飛ばし続けるだけでいい。
でも強い。
すぐに態勢を立て直して反撃してくるのは流石としか言いようがない。
結局今日も初勝利とはならなかった。
惜しかったけどね……まぁ次回もチャレンジだよ!
あと午後はパチュリーと魔法の研究をした。
今回は反射の研究じゃなくて最強のレーザーを考えているらしい。
曰く、魔理沙がよくマスタースパークってレーザー砲をぶっ放すスペルカードを使ってくるらしいけどそれに対抗する技が欲しいのだとか。
レーザーねぇ……。いずれにしても強力な技になるなぁ。
でもパチュリーは喘息だから力任せなんて出来ないし、それこそ制御に力を入れるだけみたいなレーザーでも無いと……。
そういえば制御といえば組み合わせ技とか良いよね。相反する技の組み合わせみたいなやつ。
前にチルノちゃんとやったよ。炎と氷で。
……? 炎と氷? 組み合わせ……。
………………うん。
とりあえず面白そうだしやってみようかな。弾幕ごっこって美しさ重要だし。炎と氷が混ざる弾幕って綺麗そうじゃない?
で、早速やってみた。
右手で炎の弾幕を生み出し、左手で氷の弾幕を生み出す。
氷の弾幕は苦手だけど使えないわけじゃない。ともかくその二つの弾幕を一つに重ね合わせて――爆発した。
いきなり力の本流が乱れた。一瞬、黒い塊のようなエネルギーが出来た気がしたけどとんでもなく魔力制御が難しかった。
……新しい技出来るかもしれない。明日もやってみよう。
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「……あの、みなさん。私この技知ってるんですけど」
「……早苗、悪いけど嫌な予感がするから聞かないでおくわ」
「私も同じく聞かないでおくわ」
「……心を読んだので分かりましたがそれで良いと思います。危険な技ですし」
早苗の心を読んだらしいさとりが「……非常識な技ですね」と呟いてそう言った。
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八月二十日
夏休み最終日だ。
昨日やってみた技だけどもう一度やってみた。
魔力制御が難しいので今回は最初から全力全開だ。
右手で炎の弾幕を、左手で氷の弾幕を。
それぞれ大きさの質が均等になるように作り出し、それらを一つに融合する。
細心の注意を払って一つにすると黒い弾幕が生まれた。
ダークマターと言うべきかもしれない。とんでもないエネルギーを秘めた弾幕だ。
試しにそれを宙に向けてレーザーとしてぶっ放してみた。
通った場所が空気ごと破壊されたよ。
……炎と氷を組み合わせると極大消滅魔法になるんだね。初めて知ったよ、私。
でも危険じゃない? これ。大気ごと消し飛ばしたよ?
多分私も直撃したら吸血鬼の再生とか関係無く死ぬよ?
跡形もなく消滅すると思う。弾幕ごっこじゃ使えないな。
とりあえず『
……魔法って難しいね。
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「…………」
「…………」
「…………」
「…………、えっと」
四人の反応はそんな感じだった。
どう反応すれば良いのか分からなかったのだ!
静寂を切り裂いたのは早苗だった。
「……こわっ、極大消滅魔法ですって、皆さん」
「サラッと幻想郷を終わらせられる魔法を作らないで欲しいわね」
「……妹が遠いんだけど」
「……レミリアさんレミリアさん。私も同感です」
内容も意味合いは大きく違うが、同じく妹に悩まされる姉二人はともに肩を叩きあったのだった。
長かった旅がようやく終わりました。