フランドールの日記   作:Yuupon

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八月編4『幻想郷ぶらり旅4』

 

 

 

 八月十二日

 

 

 無縁塚で一日を過ごして、朝起きると妙な事が起きた。

 彼岸花が薄く花を広げていたんだ。

 彼岸花は普通秋に咲く花だけど――少し早い開花をしていた。

 花といえば咲夜にお願いして来た向日葵の様子も気になるけどそれはともかくだ。

 彼岸花が咲き乱れたことは良い。まだ早咲きと思えば納得出来る。

 でも、近くから水の音が聞こえてきたとしたらどうだろう。

 

 言っておくけど無縁塚は木に囲まれた墓地だ。そんなとこで一泊した私も私だけど、ともかく周りは木に囲まれた場所であって決して湖や川といったものが近くにあるわけじゃない。

 暫く辺りを歩いていると寝転んでいる死神を見つけた。胸の大きな死神さん。名前は小野塚小町さん。

 その名前は聞いた事があった。いつぞやの聖徳太子さんの授業の時に、幻想郷にいる死神の小野塚小町さんは小野妹子の子孫だと。

 寝ていたので起こしてこの現象について話を聞いてみると、返事はこうだった。

 

「んあ? ああ、ここは博麗大結界の交点だからね。冥界や三途の川、外の世界なんかとも繋がっちまうのさ。そもそもここは危険度極高の地域だから来るのはアタイとしちゃあまりオオスメしないさね」

 

 眠そうに欠伸を噛み殺しながらの話だったけど、成る程。

 ここは幻想郷の結界の交点であり綻びの起きやすい地域で、運が悪いと知らず知らずのうちに冥界や三途の川や外の世界に放り出される可能性があると……危なっ! え? 昨日私ここに泊まったけど超危ないじゃん! うわっ……。

 

「そんな怯えなさんな。折角来たんだし酒でもどうだい? アンタ吸血鬼だろ? そこそこイケる口と見た」

 

 私が驚愕していると小町さんはそう言ってカラカラ笑いながら手持ちのとっくりを傾けて私に渡して来た。

 折角だからと呑む。うん、萃香さんのと違ってあっさりとした味わいで美味しい……いや、度は濃いけどさ。あのほぼアルコール百パーに近いやつに比べたらお酒だった。

 

「ははは、美味いだろう! 地獄の酒だ」

 

 まーー良い話の土産にしとくれ、と彼女は言う。

 どうやら小町さんはとても陽気な死神らしい。

 …………、少々サボりぐせはあるみたいだけど。まぁそこは私が突っ込んだり説教するところじゃない。

 それからしばらく談笑しているとふよふよと無縁塚の墓地から白い幽霊が現れた。妖夢さんとか妖忌さんの半霊みたいなやつだ。

 幽霊はふよふよ浮いた後に私を見て、抱きつくように飛び込んで来た。

 

「うわっ、とと。なに?」

「その幽霊は……外の世界から紛れ込んで来たヤツのようだね。最近よく見るやつだ。忘れ去られたはずの幻想郷の存在を何故か知っていて――幻想入りだなんだと楽観視しているうちに妖怪に殺されちまったやつ。おや、どうやらフラン。アンタに会いたくてこいつはこの世界に来たらしいぜ?」

「そ、そうなの?」

 

 受け止めた体勢――つまり抱きしめたまま幽霊さんに尋ねるとこくこくと頷くように頭の方を上下した。

 てれてれと照れているようで若干頰が赤く染まっている。

 幽霊さんを眺めていた小町さんが通訳した。

 

「死んだ時は神様を恨んだけど、死んだ後にまさか会えるなんて思ってなかった。悔いが無いかといえば嘘になるけど、それでもアンタに会えて嬉しかった、ってよ」

「……そっか。よく分からないけど力になれて良かったよ」

 

 面識はないけど私のことを外の世界の人が知ってて――私に会うために来て殺されてしまったと考えると感情としちゃとてつもなく罪悪感あるけど。

 生き返らせてあげようかしら。でも本人は満足そうだし……。

 とか思っていると手の中の幽霊さんがパッと私の腕から抜け出すと小町さんの方にふよふよ飛んで行った。

 

「なになに? これから三途の川を渡ってえーき様の判決を受けるんだろって? ……全く何処からそんな情報を得てくるんだか。そうだよ、これからアンタは私の船で川を渡って映姫様の元へ行く」

 

 私ですら知らないことを外の世界の人が知ってる。

 幻想郷大丈夫かな? 忘れ去られることで均衡を保ってきたんじゃなかったの? というか最近多いってことはそこそこ認知度あるんだよね。

 

「ん? あぁ、折角幻想入りしたと思えば直ぐに死んじまったせいでろくに幻想郷を見て回れなかったって? ……それは同情するけど規定は規定だからねぇ。冥界なら庭師辺りにくっ付いてあちこちいけるかもしれんが、ま、地獄なら観光させてやるさ。それに裁判の後に天国行きになれば希望して死神にもなれるし、案外悪いもんじゃないよ」

「……裁判、天国行きなら死神になれるの?」

「あぁ。死者は多いくせに死神の数が足りてなくてね、慢性的な人材不足で地獄はてんてこ舞いなのさ。そこで天国行きになった善行を積んでるやつに死神としての命を与える代わりに働いてもらう政策が最近出来たのよ」

 

 ふーん。世の中って地獄でも世知辛いんだね。

 そうこうしていると小町さんは船の準備をして幽霊さんがその船に乗った。

 

「アンタ、金はあるかい? 地獄の沙汰も金次第って言葉がある通りあったらそこそこ着くまでの時間が早まったり有利になったらするけど」

 

 そう、小町さんが幽霊さんに尋ねると彼はこくこくと頷いた。

 けどついでなので私が出してあげることにした。折角会いに来てくれたみたいだし、幻想郷(こっち)のお金は持ってないだろうし。

 そしてそこで二人とはお別れした。

 ……けど、この時私は知らなかったんだ。

 

 まさか、いきなり私の目の前の空間を切り裂いて、栗色の髪をした女の子死神が現れ「見つけたです幽霊狩り!」っていきなり手錠を掛けられるなんて。

 そのうえ、

 

「地獄に連行です! 神妙になりやがれです!」

 

 なんて無理やり地獄に連れて行かれる事になるなんて。

 ……………………。

 うん、そうだよ。今牢獄の中で日記を書いてるよ!

 私自身訳分かんないよ! 絶対冤罪だから! 幽霊狩りとか知らないから! 責任者出てこい! あと弁護士を呼べー!

 

 

 #####

 

 

「……え? 逮捕?」

「地獄って三途の川を渡った先よね? 死んでない? これ」

「……ねぇ、妹が捕まったなんて私知らないんだけど」

「……そもそも色々おかしい気がします」

「と、ともかく次のページをめくりましょ!」

 

 慌てたようにレミリアが言って次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 八月十三日

 

 

 こんにちは。私は今、地獄の裁判所にいます。

 なんかあれから紆余曲折あって私の無罪を晴らしてくれると言う青い服を着たツンツン頭の弁護士さんが出来ました。

 なんて名前だっけ。納得した時に言う名前だった気がする。

 サイバンチョ……じゃなくて裁判長は四季映姫さんだった。

 どうやら彼女は黒か白か分かる程度の能力で相手の有罪無罪を決めているらしい。

 無罪なら白、有罪なら黒だ。

 

「では聞きます。貴女は幽霊狩りと関係無いと仰いましたが、つい最近幽霊に関わりはありますね?」

「はい」

「白ですね……、真実のようです」

 

 裁判はこんな感じの質問形式だった。

 裁判長が質問して黒か白かを口にする。それを交えつつ、弁護士さんが尋問をしたりして有効な証言を引き出していた。

 途中、私が有罪にされかかったけど土壇場で弁護士さんが何か思い付いたように「異議有り!!」と叫んでからは一気に逆転していた。

 

「――証人の証言は明らかに矛盾しています!」

 

 ビシッと指を突き付けて言った姿は少しカッコよかった。

 あと、時々助手っぽいアホ毛の生えた男の子も「それは違うよ!」って叫んでた。何にせよ叫ぶんだね、うん。

 結果は無罪判決。

 良かった良かった。一時はどうなるかと思ったよ。

 それから元の世界に送り届ける時間まで地獄を観光してみたけどなんだろう。地底の街を現代風にした感じ?

 まぁ科学はこっちの方が上だったと思う。

 ともかく良かったよ、無罪なのに有罪とかなってたら最悪だもん。

 弁護士さんにはお礼を言って別れた。

 あと無縁塚まで戻ってきたのでまたウォーターベッドで眠る。

 危険だけど眠いし。まぁ大丈夫だろう、多分。

 頭が働いてなかったけどそんなことを考えて寝た。

 ……予想通り書いてるのは翌朝です、はい。

 まぁ今日のことは明日書くから、ね。

 

 

 #####

 

 

「無罪か……よかった」

「いや、これ逆裁にダンロンじゃないですか!」

「……早苗さん、そういうことはあまり突っ込まないようにした方が良いです」

「……いや、レミリアしかフランの無罪を気にしてないのは色々とどうなのよ」

「霊夢さんは失礼ですね! 心配してましたよ!」

「……そうですよ! 失礼しちゃいます」

 

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 八月十四日

 

 

 ここ何処だろう。

 目が覚めたら幽霊のいっぱいいる場所に居た。

 何を言ってるのか私も分からないけど何が起きたのか分からないので説明のしようがない。

 寝ていたベッドも見当たらないし……何処よ?

 もしかして冥界かな。一昨日、小町さんから聞いたけど。

 冥界なら白玉楼があるはずだけど……霧が濃いなぁ。

 とりあえずしばらく歩いて探してみようか。

 と、思って探してたら案外普通に見つかった。

 大きな桜の木。西行妖ってやつだよね。春雪異変の時の。

 咲いたら綺麗だろうなぁ。異変の詳細は知らないけどこの大きな桜で花見がしたいし来年の春頃来ようか。

 と、私個人の予定はともかく白玉楼にお邪魔すると妖夢さんと妖忌さんが居た。

 

「おお、フラン殿。お久しゅうございますな」

「フランさんお久しぶりです」

「お二人ともお久しぶりです! お元気そうでなによりです」

 

 軽く挨拶してから事情を話すと妖忌さんが真剣な顔で私を見てきた。

 

「……知らぬが仏と言ったところでしょうか。フラン殿、二度とそのようなことはなさらないで頂きたい。今回は無事でしたが無縁塚は危険です。あれは単に冥界や三途の川や外の世界に繋ぐに留まる場所にはござらんのです。アレは、そう。自己の存在を揺るがす――もっと根源的に危険性のある場所」

 

 口調自体は落ち着いたものだったけど声色は真剣だった。

 どうやら本当に危険な場所だったらしい。

 うーん……迂闊な事しちゃったのかな。それから二人と話して今日は白玉楼でお世話になることになった。

 歓迎してくれるらしい。あと白玉楼の主らしい西行寺幽々子さんって人にも会った。

 おっとりとした印象で柔らかな雰囲気のある人だった。

 でもかなり危険な能力を持ってるよ。一瞬だけど私の命が握られかけたもん。

 私の目がひとりでに潰れそうになってるのを見てビックリした。

 多分だけど幽々子さんの能力って相手を殺す力だよね。普段から破壊に特化した私だから気付けたけど、自分の能力が通じるか確かめつつ話をするのはやめてほしい。

 怖いしこっちとしても気が抜けないし。

 

 それはそうと幽々子さんは大食いだった。

 大量の食べ物が胃袋の中に帰るのを見て唖然とした。

 途中、幽々子さんの近くにピンク色のボールみたいなやつが「ぺぽっ」って言いながら食べ物を吸い込む姿が幻視出来たけど妄想だよね? 現実じゃないよね?

 ……ともかく、今日寝れるかな。

 

 

 #####

 

 

「サラッと怖いこと書いてあるわね」

「それは命的な意味でですか? それとも食料的な意味でですか?」

「…………どっちもよ」

「……というか話の内容にも出てきましたけど、そんな危険な無縁塚に毎回のように物拾いに行く森近さんって実は凄い人なんでしょうか?」

「分からないけど、かなりやり手だとは思うわよ。手合わせしたことないから実際のところは分からないけれど」

 

 紅茶をすすりながらそう、霊夢が言った。

 ともかく一同は次のページをめくる。

 

 






 最近日記の進むペースが落ちている。


 

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