フランドールの日記   作:Yuupon

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 旅は八月二〇日までに終わります。



 


八月編3『幻想郷ぶらり旅3』

 

 

 

 八月九日

 

 

 人里に泊まった。思えば宿に泊まったのって初めてだね。

 それに紅魔館って洋風の建物だし、こういう和風の建物で一泊するのは中々珍しい体験かもしれない。

 料理も美味しかったよ、鍋。値段もお手軽だったし。

 で、朝。

 今日は何処に行こうか、と思いながら人里を歩いていたらばったりアリスさんに会った。

 

「あら、久しぶり」

「お久しぶりですアリスさん!」

 

 ……そういえば前に裁縫教えてくれるって約束したきりだっけ。

 今思い出した。でもアリスさんやっぱり優しい人だよね、そのことを謝ると普通に笑って許してくれた。

 ……ところで、人里に何しに来たんだろう? 気になって尋ねてみる。

 

「それでアリスさんは今日は人里に何の御用ですか?」

「糸を切らしちゃって、その買い足しよ」

 

 糸かぁ。そういえば沢山人形あったもんね。

 それで色々お話ししてからアリスさんとは別れた。

 

 ――アリスさんと別れてからは目的なくフラフラしてたんだけど、お腹を満たそうと寄った蕎麦屋さんで命蓮寺なるお寺があると聞いたので行ってみることにした。

 命蓮寺。妖怪と人間の共存を目指すお寺らしい。

 ……出来たら幻想郷崩壊するんだけどそれは、というツッコミはやめておこう。野暮というものだ。

 百聞は一見に如かずって言葉もあるしまずは行ってみよう、と向かうとお寺の入り口で掃除している人を見つけた。

 

「ぜーむーとーどーしゅー、のうぎょういっさいくー、しんじつふーこー、こせつはんにゃはらみつたしゅ、そくせつしゅーわつ、ぎゃーてーぎゃーてー♪」

 

 真言だっけ? 簡単に言えば仏教の中の真言宗の呪文。

 鼻歌を歌うように言えるってことは本当に歌い慣れてるんだろうな。流石お寺の人。

 とりあえず挨拶をする。

 

「こんにちは」

「こんにちは!」

 

 挨拶するとその人は元気な声で返してくれた。少々甲高い声で耳がキーン、とする。

 犬耳のついた緑髪の人ーーいや、妖怪だ。

 ともあれお寺を見せてもらうために交渉しないといけないので私は口を開く。

 

「このお寺を観光したいのですが、住職さんに許可をもらえませんか?」

「このお寺を観光したいのですが、住職さんに許可をもらえませんか!」

 

 オウム返しされた。あれ?

 

「あの、すみません?」

「あの、すみません!」

 

 ……………………。

 

「ミッキー◯ウス」

「ミッキーマ◯ス!」

 

 …………あっ、そっか。

 成る程。納得したよ。

 

「貴女、幽谷響(やまびこ)さんでしたか。てっきり馬鹿にされてるかと思いました」

 

 オウム返しを大義とする妖怪。逆にいえばオウム返ししかしない妖怪でもある。彼女がそうならこの反応にも納得というものだ。

 とりあえず住職さんを呼んできてとお願いすると彼女はその言葉を繰り返して神社の中に入って行った。

 それから数刻。中から豊満なおもちをお持ちな美人な住職さんが出て来た。

 

「あ、初めまして。この神社を見せて頂きたくて呼んだのですが」

「こちらこそお気づき出来ませんで申し訳ありません。私は命蓮寺の住職をしております聖白蓮(ひじりびゃくれん)と申します――それで、観光ですか? 勿論どうぞ、ご案内します」

 

 住職さんーー聖白蓮さんはとても物腰の丁寧な人だった。

 それでお寺を案内してもらったけど沢山の妖怪が暮らしていたよ。

 それから仏教についていくつか語り合ってからその場を後にしたけど流石詳しかった。私は仏教徒じゃないからそりゃ知識量は負けるけどそれでもかなりの本は読んできたつもりだったけどなぁ。

 

 さて、次はどこに行こうか。

 

 

 #####

 

 

「……命蓮寺ですか、最近こいしがよく居ると聞きますね」

「私達としてはライバルですねー、宗教合戦の」

「……いや宗教合戦、博麗神社も入ってるの?」

「そりゃ入ってますよ。博麗、守矢、命蓮、道教のこの辺りは皆ライバルです!」

「……宗教合戦は良いけど一旦自重しなさい。次のページにいくわよ」

 

 レミリアが告げて、次のページをめくる。

 

 

 #####

 

 

 八月十日

 

 

 今日は魔法の森に行くことにした。

 魔理沙や森近さん、アリスさん達に会うためだ。

 特に森近さんはバイトを中止にしてもらってからは心配かけているしここらで顔を見せるべきだろう。

 そう思ってまずは魔理沙に顔を見せに行ったけど、色々酷かったよ。

 魔理沙の家に行くと物でかなりごちゃごちゃしてた。

 仕方なく片付けてあげると出てくるわ出てくるわゴミの山。あと虫が沢山。

 気持ち悪いので虫は箒で掃いて外に捨てる。破壊しないだけ温情だ。

 で、紅魔館のノウハウをふんだんに使った掃除を終えると見違えるほど綺麗になった。魔理沙が凄い感謝してたけど、これからはちゃんと掃除しなきゃダメだよ? 

 

 続いて森近さんのところに行くと森近さんは店の会計のところで寝てた。疲れてたのかな? とりあえず奥から掛け布団を持ってきて肩に掛けて、それから手紙を書いて置いておいた。

 私は元気です、って感じに。

 それで手紙を置いた時なんだけど妙なものを見つけた。

 『森近霖之助の日記』

 とても分厚い本だった。古びていたので数百年近く昔の本だろう。

 気になって、頭の中でごめんなさいしてから読んでみたら幻想郷の歴史が日々綴られていた。

 幻想郷の出来た日から今日までの日記。それには日々の生活や人里の様子。起きた出来事などが詳細に綴られていて、歴史書のようにも思える内容だった。

 その中にこういう文章があったよ。

 『幻想郷に歴史はない。何故なら幻想郷の歴史=妖怪の歴史だからだ。妖怪は長命で、歴史とは当事者が死なない限り、事件が歴史らしい歴史にならない。だから半妖である僕が描こう――幻想郷の歴史を――この幻想郷の歴史書を。長い時間を生きてこの目で見てきて思ったことをそのままに』

 

 いつか書籍として出版するとも書かれていた。

 内容も外の世界に関して以外はとても信用出来るもので、とても丁寧だったと思う。いつか出版される日が楽しみだ。

 

 で、最後にアリスさんの家に行った。

 とはいえアリスさんとは昨日再会してるし、内容はなんてことない世間話だ。あと裁縫も教えてもらった。

 人形とかをいきなり作るのは難しいからまずはポーチを作った。

 肩から掛けられるポーチ。

 最初にしては上出来よって褒められた。ちょっと嬉しい。

 あと今日はアリスさんの家に泊まることになった。

 お世話になりまーす。

 

 

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「知り合いを多く巡ってるわね」

「まぁそこはフランちゃんの好きにすることですから」

「……それに知り合い以外を尋ねることって勇気が必要ですし」

「私にはよくわからない感情ね。まぁ旅なんて好きにしてなんぼじゃない?」

 

 

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 八月十一日

 

 

 今日は無縁塚に行くことにした。

 場所は魔法の森を抜けた先にある再思の道を抜けたところにあるらしい。無縁仏による墓地だそうだ。

 博麗大結界の綻びがある交点があるみたいで、外の世界の物も沢山落ちているのだとか。

 以前諦めたiPhoneとかもあるかもしれないし探してみよう。

 そんな思いで着いた無縁塚だけど思いの外凄いよ。

 超デカイ枯れ木があった。これ、紫の桜で妖怪桜なんだって。

 近くの花がそう言ってた。なんでも六十年周期に起こる幽霊の増加では、大量の罪深い人間の幽霊が紫の桜の花を咲かせ、罪を認めることで花びらが散り、解放されて三途の川へと続く「中有の道」に進むことができるんだとか。

 そして何より外の世界のものが沢山落ちてた。

 宝の山だよ! 早速漁りまくってたら目的のiPhoneもあった! 画面が割れてたけどそれくらいなら何とか出来る。

 魔力で丁寧に直して、ついでに汚れも能力で落として、良し。

 後は充電かな。充電器落ちてないかなー、あった。じゃあこれをパソコンに挿して……うん。充電出来てる。

 

 で、数分待ってから押し込めるボタンを押すと画面が表示された。

 やった! これで私も携帯ゲット……と思ったけど、そうならなかった。

 『パスコードを入力して下さい』

 四桁の番号入力があった。うん……しかも間違え続けると数時間とかの間、開かなくなる制限ついてた。

 …………泣きたい。

 とりあえず不貞寝してやる。幻想入りしてた壊れたベッドを直してその中にくるまる。

 なんか冷たくて涼しい。なんだろう、水が入ってるのかな。ウォーターベッドってやつかもしれない。凄く快適だった。

 

 

 #####

 

 

「夏はウォーターベッド最高ですよね、分かります」

「そもそもウォーターベッドってなによ?」

「簡単に言えば水のマットレスです。ただアレってコンセント刺さないと温度調整出来ない気がするんですけど……」

「……多分、単に水が溜まってたから冷たく感じただけかと」

「ウォーターベッドねぇ……。そんなに良いなら今度導入しようかしら」

 

 顎に手を当ててレミリアはそう言った。

 

 

 

 


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