水着パーカーは好きですか?
七月十八日
昨日、香霖堂に行って知ったけど商売をする為には経理と簿記、それから外の世界では経済学が出来なければ基本話にならないらしい。
今回はそのうちでも経理と簿記。それをする為の数学力を鍛えようと思い、寺子屋が終わってから慧音先生に尋ねてみた。
「数学の先生か……外で学ぶレベルとなると、一人しか心当たりがないな」
心当たりがあるらしい。
お願いして今度教えてもらえるように計ってもらえないかと言うと「分かった」と返事してくれた。ありがとう!
うん。これで問題の一つがクリアかな。
今度その先生が来てくれた時に改めて教えてもらえるようにお願いしよっと。
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「数学の先生ねぇ……」
「ふふん。そうそうこの時期でした。にしても翌日からすぐ行動するあたりアグレッシブですよね」
「行動力があり過ぎとも言えるけどね」
特にツッコミどころが無かったのかそれぞれ一言ずつ述べて次のページへいく。
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七月十九日
今日は久々にパチュリーと魔法の研究をした。
いや、正直私の能力の本質が割れてからは反射とか必要無いんじゃと思ってかなり消極的な感じだったし、そろそろ放置し過ぎてパチュリーが可哀想だったからなんだけど……。
ともかくもう一度反射の構築を考えてみたけど難しいね。
理由? 単純に数学が出来ないからだよ。
そもそも向き――つまりベクトルなんだけど範囲的には外の世界では高校生が学ぶ範囲であって幻想郷の住民が学ぶレベルをとうに上回ってるからね。
私が知ってるのは単に本で読んだだけだよ。暇な時間が四九五年もあったもんで大抵の本は読んだ覚えがある。
にしたって無理だよこんなもん! 最初は出来るかなって思ってたけど論文読んでもほぼ解読作業だよ!
意味不明ワケワカラン単語の羅列過ぎるから! 能力開発とか明らかにオーバースペックだから! 絶対河童でも難しいからこれ!
そんなわけで半分頓挫してる反射研究だけど少しずつ進んではいるのもまた事実。
パチュリーって喘息持ちだから反射を使えたらウイルス丸ごと外に反射してしまえるので大分楽になるんだとか。あと体力不足も全身のベクトル操作で何とかなるらしい。
うーん……にしたって挑むのが早過ぎたかもしれない。もうちょっと頭が良くなってからならもうちょっと何とか出来るのに。
うん、しばらく放置かな。応援してるから頑張ってねパチュリー。
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「まだ諦めてなかったんですねこれ」
「香霖堂の件も相まって数学やらを教わる選択をしたのが想像つくわね……あ、そうそう。ちなみにその論文、二人は読んだことある?」
「いえ、無いです」
「私も無いわね。そんなのがあること自体日記を読んで初めて知ったわ」
「お姉様ェ……」「パチュリーの親友ェ……」
「ば、馬鹿にしてるのかしら? その喧嘩買うわよ?」
「淑女が喧嘩を買うとか言わないで下さい。レディなんでしょ?」
「一人前のレディだからこそ身の弁えない者に知らしめる必要があるのよ。上下の格差をね」
優雅に呟くレミリアだが、そのとき霊夢は二人のある一点に着目して口を動かす。
「上下の格差……あっ」
「霊夢さん、私とレミリアさんの胸を見比べてどうしたんですか?」
「……大丈夫よレミリア。貴女には将来性があるわ」
その顔は聖母のような優しい顔だった。
が、しかし。
「何を勘違いしてるか理解したくないけれどそんなこと一言も気にしてないから! だから変に胸を見比べないでくれる!?」
「そうですよ霊夢さん! セクハラですよ!」
当たり前な話だが二人は文句を垂れた。
方やゆさゆさとその豊満な胸部装甲を揺らしながら、方や揺れることのない幼い体躯を振り回しながら。
「……哀れな」
「誰が哀れよ誰がーっっ!!」
その光景に霊夢は人知れず涙を流し、次のページをめくった。
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七月二十日
今日から夏休み!
昨日の終業式の校長先生の話の時に「明日から夏休みーーノォ! 筈でしたがあっ!!」って幻聴が聞こえたけど気のせいだろう。気のせいったら気のせいだ。
宿題もきちんと沢山出たけどそれは計画的にやるとして……。
外の世界では今日は海開きの日らしい。
幻想郷には海は無いんだけど、代わりに湖開きの日として『霧の湖』が夏の間だけビーチとして賑わうのだ。
普段修行に使ってる場所がビーチ……というかお祭りでよく見る店々が立ち並ぶという光景は中々壮観だよ。
それに私達が妖精達と一緒に人里からの道を作ったおかげか例年より人が多く、霧の湖は泳ぎを楽しむ人で溢れていた。
「さて……じゃあ今回はここで海の家を開く」
で、私なんだけど今日からしばらく森近さんの店にバイトとして参戦することとなった。
夏休みだし良い機会だと思う。森近さんも本格的に商売をする最初の事業だ、ということで気合が入っていた。
今回森近さんがやるのは外の世界の水着や海用の遊び道具などを集めた海の家らしい。
基本服も道具もレンタルで行うとか。また、料理も提供するのでわざわざ香霖堂から私の異空間に大量の荷物を入れてくる必要があった。
で、私がやるのは料理と売り子だ。外の世界のものらしいフリフリのついた可愛いビキニを着て、上から前を開けたパーカーを羽織って可愛く売り子をする。森近さんからは可愛いよ、と太鼓判を押された。
「女の子はそういうところが有利で羨ましいよ。僕みたいな陰気臭い男は売り子しても人が寄ってこないからね」
ビキニに着替えた私をみて森近さんが溜息をついてた。
あ、でも「似合ってるよ」と褒めてくれたのは嬉しい♪
で、早速今日から売り子と料理を始めたけどお客さんがいっぱい来て大変だったよ。
売り子をする時はこんな感じですよーって具合に商品を見せたり、幻想郷じゃ珍しい外の世界の水着を見せたり。
肌の露出が若干多かったかな。まぁそこは森近さんがかなり気を遣ってくれたけど。
それと料理も大人気だった。なんかやたら男の人がたくさん来て買って行ってくれた。その中には罪袋さん達も居たよ。
あとナンパ? ってやつもされた。
「可愛い売り子さんだね、にしても仕事疲れたろ? 今からビーチバレーするんだけど遊ばないか? ほら、あっちの岩場の人のいない方でやるんだけどさ」
数人の男の人達に囲まれて正直困った。
けど、一瞬目の前がブレて咲夜が見えた気がした直後に消えてた。
気を遣ってくれたのかな? 咲夜ありがと。
ちなみに遊びもちゃんとしてることは追記しておこう。一番忙しいお昼時は無理だけど午後二時くらいからは普通に遊ぶことを許可してくれたし、かなりバイト代を弾んでくれた。
ようし、明日からも頑張ろう。
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「湖かぁ。守矢神社の側にも山上の湖があるからあまり行かなかったんですよね。そこで諏訪子様と泳いだりしてました」
「ふふ、私は行ったわ。浮き輪に乗って有象無象共が泳ぐ姿を優雅に眺める……クク」
「それ、泳げないだけじゃ」
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「クク、ゲホッゴホッ! なななにか言ったかしら?」
「レミリアさんレミリアさん。分かりやす過ぎです」
「だ、だって吸血鬼よ! 流水は苦手なのよ!? それなのに若干とはいえ波の出来る規模の湖で泳ぐなんて……」
「あぁそんな設定ありましたね。フランちゃんの話を読んでてすっかり忘れてました」
「いや設定じゃねぇから! 世間一般で言われる弱点であってそれを無視してるフランがおかしいから!」
「レミリアさんレミリアさん、言葉遣いが荒くなってます!」
「うるさい! その原因は貴様だろうがこの乳おばけ!」
「……流水が苦手って今更だけど難儀よねぇ。シャワーも駄目って」
わーわー騒ぎ立てる二人を横目にずずっと紅茶をすすりながら霊夢は呟いた。
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七月二十一日
今日は一日のスケジュールを書こう。
朝六時・起床。咲夜と共に昨日仕込みをした朝食と店用の料理の準備をする。
朝七時・朝食。片付けなども私の担当。それが終われば夏休みの宿題を開始。
朝七時半・宿題を終えめーりんの修行開始。最近はマラソンと組手の組み合わせが多い。
十時・訓練終了。軽く大浴場で汗を流してから水着とパーカーに着替えバイト先の霧の湖に向かう。それならバイト。
二時・昼休憩。昼食もこの時にとる。大体三時頃からお客さんの数も減ってくるので自由時間も増える。
五時・バイト終了。森近さんも私もホクホク顔。バイト代をもらって撤収。それ以後は自由時間だけど最近は咲夜のメイド修行か人里の道場に行って剣術を学ぶ。
六時・夕飯準備開始。咲夜と共にメニューを決め、作る。最近は慣れてきたからか一品は自由に考えて良いと言われた。
七時・夕食。お姉様の反応によって変わるけど毎回ドキドキする。他の皆は美味しい美味しいって言ってくれるけどね。
八時・大浴場で風呂を沸かし入浴。汚らしいと思われるのは嫌なので丁寧に全身を洗う。
九時・自由時間開始。外に遊びに行ったりもするけど最近はパソコンいじりが多い。あとは本を読んだり魔法の勉強をしたり、足りない自学をしたり。参考書は大図書館に溢れてるから勉強環境は良いと思う。
一〇時・就寝。遅くても十一時には寝る。じゃないと成長ホルモンが身体に作用しないらしい。まぁ吸血鬼だからお姉様とかは深夜まで起きてるけど私は毎日忙しいし疲れてるからすぐ寝ちゃうんだよね。
まぁあまりにも自由時間が無くて、なおかつどこかに行く予定がある日は別だけど。
ちなみに今日もバイトだった。気の良いおじさん達が「おう! フランちゃんじゃねぇか。前のライブ良かったぞー!」とか声をかけてくれたり頭を撫でてくれたりする。「子供なのに頑張ってるなー」と皆私を見る目が優しくてちょっと嬉しい。
多分まだ子供なんだろうね、私。
お姉様もだけど、頭を撫でられるとか完全に子供扱いなのに頰が緩んじゃうもん。
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「アイドルですね」
「人里のアイドルね」
「我が妹ながら私より目立つなんて……」
「にしても一部を除いて幻想郷の皆さんって気の良い方が多いですよね。私も人里で買い物をするときとかによく声をかけられますし」
「世話焼きが多いのよ。コミュニティのレベルが江戸時代と変わってないから。だから子供を見かけたら大体の大人が自分の子供のように接するし悪い事をすれば他人の子供でもきちんと説教する」
「良い習慣だと思うわ。私は不本意ながら子供側に入るけれどそういう形態は成長に良いしね」
「ですねー。外の世界はそれとは大分変わってますし。最近の人は他人の子供だと遠慮して怒らないんですよ。他の家の家庭方針もあるし人の子供を叱るのは失礼だって勝手に相手の事を想像しちゃうんです。まぁそうじゃなくても児童虐待だとか直ぐに裁判沙汰になったり因縁付けられる世の中なので極力踏み込みたがらないんですけど」
「外の世界は便利だとか聞くけどそういう面もあるのね。便利故に地域コミュニティが廃れている……人里の人が知れば驚くわ」
驚いたように霊夢がいうと、言いづらそうな顔でレミリアが呟く。
「……ところで話が変わるけれど今更ながらにフランのスケジュールギッシリ過ぎないかしら?」
「子供にしてはギッシリですね。普段から家事をする身から言わせてもらうと似たくらいの日々を送っているつもりですが、確かに多いと思います」
「私だったらストレス溜まるわ。こんなの。やっぱり縁側で緑茶を飲みながらぼーっとしてるのが一番ね」
そうして三人は次のページをめくる。
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七月二十二日
バイトだー!
と思って働いてたら幽香さんとメディスンちゃんが来た。
「久しぶり、フラン。さっき紅魔館に寄らせてもらったけど向日葵、かなり育っていたわね。もう少しで元気に花を咲かすわよ」
「フラン、おはよ! 湖で働いてるって聞いて遊びに来たわよ!」
上から幽香さん、メディスンちゃんの台詞だ。
どうやら向日葵の様子見がてら遊びに来てくれたらしい。
「おや、友達かい? なんなら遊んでくると良い。僕が店番をしているから」
店の前で話をしていると森近さんがそう言ってくれたので久しぶりに遊んでから談笑することにした。
早速似合いそうな水着を店から見繕って着せて――、メディスンちゃんの猛毒が漏れないように私が魔法でコーティングして準備オッケー。
浮き輪とイルカを持って湖に突撃して遊ぶ。はしゃいでいると水を掛け合ったりするだけで楽しいもんだね。
泳ぐのも得意だしかなり遊べた。遊び終わってからは店に戻ってジュースを作って談笑を開始する。
久しぶりだから楽しかったよ。
でも今日はあまりお仕事出来なかったなぁ……。あんまりお金は受け取れないや、と思ってたけどいつもと同じ額が入ってた。
で、森近さんに、こんなに受け取れないよって言ったら、
「フランが楽しそうに遊んでるのを見て、あの水着は何処でレンタルしたのかって話題になったみたいでね。まぁ宣伝ってヤツだよ。キミは意識してなかったようだけど、これも立派な仕事さ」
と言って「だからこれは正当な対価だ」と言って袋を改めて渡して来た。
……宣伝。そっか、そう言うのも商売に必要なのか。
森近さんってやっぱり凄いなぁ。
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「フランちゃんは可愛いですからね。宣伝効果も十分出たんでしょうね、本当に」
「というか私の中で香霖堂の店主の評価がうなぎ登りなのだけれど。偶に商品を買いに行くけど、今度からはついでに世間話でもしてみようかしら」
「確かに顔は悪くないし性格も良いわよね。なんとなく雰囲気的に恋人とかそんな感じになる気はしないし惚れもしないけど」
「それ分かります! すっごい良い人なのに惚れるとかそういうのは無いんですよね」
「ある意味可哀想じゃない? それ? 良い人止まりって」
「だってそうだから仕方ないじゃない」
「ですのだ」
「……まぁ分からなくもないけどね」
結局のところ同意してしまう時点で同じ穴の狢なのだがそこにレミリアは気づかない。
森近霖之助は良い人で人として好かれるけど惚れはしないというある意味酷い結論を投げつけて三人は次のページをめくる――――。
今回出て来たネタ
・明日から夏休みーーノォ! 筈でしたが!(ファンタCMより)
・ですのだ(咲-Saki-より)
ネタが少ないけど偶にはこういうのも良いと思う。