七月十四日
最近のめーりんの修行は比較的楽だ。身体が慣れたというのもあるけど、季節的に泳ぎながら弾幕を避ける修行とかはむしろ気持ち良いまである。
暑いんだよね、最近。汗で身体がベトベトしちゃう。
まぁそれも無かったことに出来るけど能力を日常で使い過ぎるとそれに頼り過ぎちゃうので使わない私なのだ。
にしても暑い……昨日来た妖夢さんとかが羨ましいなぁ。半霊、触るととても冷たくて気持ち良かったし。
幽霊とか怪談話って背筋が凍って体感温度が下がるとか言われてるけどその影響かな? ほら、妖怪とかって人間のイメージが重要だし。
吸血鬼だって人間が恐れるあまり弱点が増えたでしょ? 十字架に弱いとか完全にキリスト教が私達に対抗するためにでっち上げた事なのに、殆どの人がそう思ったせいで実際効くようになってるし。最近は微々たるものだけど。
そう考えると八雲紫が言ってる幻想郷の在り方ってものが分かりやすいかも。
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……あと今更だけどさ。日記覗くのやめてくれない?
……バレてないと思ったら大間違いよ?
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「「「!!?」」」
付け加えられた文章を見て三人は読み中にも関わらず日記を机の上にバサッと放り投げた。
いや、だって仕方ないだろう。
いきなり『覗くのやめてくれない?』と書いてあったらそりゃあ覗いてる側なら誰だってビビる。
「も、もしかしてフランちゃん、私たちが覗くのこの時点で予期してたっていうんですか!?」
「そそそそんなわけがないでしょ!? 私みたいに運命を操れるならともかく……!」
「ここ、声が震えてるわよレミリア」
「そ、そうねカリスマたる私がしっかりしなくてはね! まー、ま、ま、ま、ま、ま、ま、まずは、こ、こ、こ、こ、こ、これでも飲んでおと、おと、おと、おと、お落ち着きなさい。心が静まるハーブティーよぉ!!」
「落ち着いて下さいレミリアさんっ!!? 手が震えてますから! 熱々のハーブティー持ってる手が震えーーヴェアアアアアアアッッ!!? 熱っ! 熱っつ!! 頭からハーブティーがモロにかかって熱いいいいいッッ!!!」
「二人ともも、もちつきなさい! まだ慌てる時間じゃないわ!」
流石に見ていられなくなったのか阿鼻叫喚となった空間で霊夢が叫んだ。
そう。三人の中で彼女は気付いていたのだ。たった一つの事実に。
「まだ私達は読み中よ! 最後まで読めばきっと――!」
二人を背に、慌てて放り投げた日記のページをめくり直して元のページを見つけた霊夢は改めて読み直す。
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……あと今更だけどさ。日記覗くのやめてくれない。
……バレてないと思ったら大間違いよ?
――ねぇ、妖怪の賢者さん?
『あら、バレてたのね。てへりん♪』
追記
咲夜はともかく貴女が書き込むのやめて。あと流石にその書き方は年齢的にやめた方が良いと思(以下黒塗りで念入りに消されたあと)
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「って紫かよおおおおッッ!? 紛らわしいわ! つかあいつ何やってんのよ!?」
叫ぶようにツッコミを入れた霊夢は一人、心に決める。
これからはちゃんと最後まで読んでから反応しよう、と。
本来顔全体が火傷する出来事だった早苗は奇跡的に熱いだけで済み、レミリアが落ち着いたのを確認して三人は改めて次のページへと移っていく――――。
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七月十五日
八雲紫が来た。
うん、来るとは思ってたけど早かったね。でもわざわざ日記で忠告するくらいだ。ちゃんと事前に準備をしっかりしてある。
人の日記を許可なく覗いた罪は重いよ?
というか普通に犯罪よ、ストーカーとかで逮捕出来るよ。
幻想郷には外の世界の警察みたいな犯罪者を取り締まる組織がないから無理だけどね。
個人なら居るらしいけどツテないからどっちにしろ無理な話だ。
ともかく紫とお話をしました。色々と。八雲紫からは私の動きが最近妙だったから監視していたと正直に言われた。また、能力のことでも話があると言われた。
どうやら私の能力は幻想郷の存亡を揺るがせる程のものになっていたらしい。それで釘を刺された。妙な真似をしたら紅魔館がどうなるか、と。
そんな気は無いけどムカつく。でも仕返しもちゃんとしたよ。
具体的には紫が来る前に、橙ちゃんを通して藍さんを呼んでたんだ。
「紫様? 何をなさっているんです?」
「ら、藍!? 貴女なんでここに……。私の仕事を任せて来たのに」
「事前に聞いてたんですよ。橙の友達のフランさんから、最近貴女に監視されてるって。勿論貴女の幻想郷への思いも理解してますが、本当にその釘刺しは必要なんですか? 最近監視しながらニヤニヤする姿をよく見ますけどストーカーじゃないんですか紫様?」
「す、ストーカーとは失礼ね! 私がそのような低俗なことをすると思う?」
「思います。紅魔館のメイドに協力願いまして、一度時を止めて貴女がスキマを覗く姿を観察したことがありますがその時、確かにフランさんの姿が映っていました」
「い、いつの間に和解を……? それにその時は偶々そうだったってだけ――――」
「御託は入りません。帰って説教です」
「で、でもちょっと許してほしいかなーって」
「慈悲はありません」
「(´・ω・`)」
そう言って藍さんは紫の首根っこ掴んで帰っていった。
紫の姿が見えなくなる瞬間、「私を倒しても第二第三の私が必ず――」とかなんとか小芝居じみた言い方で叫んでいたので、多分あちらさんとしては戯れ感覚だったのだろう。
勝ったのにこの悔しさはなんだろうか……。
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「まぁ普通に考えれば危険ですけどね……フランちゃんの能力。ただ監視と言いながらニヤニヤしながら眺めてるのは完全に事案です。ギルティです」
言いながら立てた親指を下に向ける早苗だが、それは色々とやっちゃいけないポーズなのはともかくとして。
「ふむ、その言葉の響き良いわね。
レミリアがうっとりとそう言った。どうやら本気で気に入ったらしい。ギルティ、ギルティと何度か呟く。
「またレミリアの変なスイッチが入ったわね……」
「中二病っぽい言葉が好きですもんね。リユニオンとかマテリアとかどう思います?」
「何それ良いわね! なんて意味なの?」
「再会の集いと書いて『
「成る程……使い方は理解したわ」
呟いてレミリアは片目を覆い隠すようなポーズをとって叫ぶ。
「うぐっ……我が
「……痛たたたた」
「良くやるわね。あんな恥ずかしいの」
「私の格好良いポーズになんて言い草よ!? というかやらせておいて痛たたたたって言うのはどういう了見か説明してもらおうか!」
レミリアのカリスマ(中二病)とツッコミは絶好調であった。
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七月十六日
今日は道場に行った。
最近、人里に行くとやたら声をかけられる。大分慣れてきたからかな。頭撫でられたりとかされてなんか可愛がられてるんだけど……これは妖怪として良いのだろうか。でもちょっと嬉しい私がいたり。
ともかく道場に行くと妖夢さんと妖忌さん。それから門下生の皆さんが迎えてくれた。
私が道場に来た理由は妖忌さんに手合わせして貰うためだ。
これでも毎日一万回の素振りは欠かしてないし、そこそこ振り下ろすことに関しては慣れてきている。技も以前罪袋さん達からもらった案は大抵出来るようにしといたので自分の力が試したくなったとも言う。
もちろん、剣だけの勝負だ。弾幕もスペカも無しの本気勝負。
「
「九手の剣か……急激に腕を上げましたな! しかし――九手斬るなら十手斬るまで!」
技も使わずに防がれたよ。炎とかも纏ってるのになぁ。丸ごと斬られるとやっぱり実力差を感じるよ。まぁ今回は道場内なので木刀を使ってるってこともあるけど。
最後には負けちゃったよ。流石だね。で、終わってから感想を聞いてみた。
「数年分のレベルアップを果たされたように思います」
「ありがとうございます!」
「しかし……どうやら木刀を使いこなせていないようですな」
「え? 木刀……真剣より威力出ないですし」
「ふむ。ではその認識を変えましょうか。かつて、私は若い頃一人の男と戦ったことがあります。白髪の天然パーマな男でしてな、彼は木刀が得物でした。木刀片手に砲弾を貫き大砲を破壊するどころか機械兵器すら破壊してしまうーーそんな無茶苦茶な男でしたが、その剣の腕は私と同列……いえ、一時期は私を超えておりました。今は一線を離れたと聞いていますが、木刀も使用者によって違いはあるのだと真に思わされました」
「……木刀が得物」
凄いな。銀髪の天然パーマってところで以前寺子屋に一日担任をしてきた銀八先生を思い出したけど多分関係はないのだろう多分。
なんかあの先生木刀背負っていた気がするけど関係は無い、うん。
世の中には凄い人も居るんだなぁ……。
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「……いや、それ多分銀八先生で殆ど間違いは無いと」
「早苗早苗。妙に突っ込むのはやめときなさい。大体皆察してくれるから」
「いや皆って誰ですか!? というかさっきから天井見上げながら話してますけど霊夢さんには何が見えてるんですか!?」
「早苗ーー幻想郷は、全てを受け入れるのよ……」
「いや何の話ですか!? 何を受け入れちゃったんですか霊夢さん!?」
「……霊夢も時々電波発言するわよね。奇跡とかも大概だけど」
意味分からないわー、と呟いてレミリアは次のページをめくる。
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七月十七日
久々に香霖堂に行った。
もう忘れかけてたけど前にバイトしてみないかと誘われたことを思い出したからだ。
行くと森近さんが「久しぶりだね、待ってたよ」と暖かく迎えてくれた。
それで早速バイトしたいと言う旨を話すと「といってもうちは商品を探しに行くか時折来るお客さんを相手にする以外は基本暇だから経理とかを教えようと思うけどいいかい?」という返事をもらった。
いや、むしろありがたいね。バイトって働くことなのに逆に教えてもらえるなんてお得だよ!
それに私、勉強好きだしさ。
でも経理とか簿記とかとなると流石に難しかった。
レベルが違うっていうのかな。算数とかその辺りだと厳しい。数学レベルの知識は必要そうな感じだった。
バイト自体は片付けしたりとかしたけど数学はネックだなぁ。今度慧音先生に良さそうな先生が居ないか聞いてみよっと。
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「へぇ、ここから繋がったんですか」
「……何がよ?」
「それは後の楽しみにしましょう。この話は私も初耳だったので、あぁ成る程と納得してしまっただけなので」
「???」
「ねぇ、守矢の風祝」
「なんですかレミリアさん。前から言ってますけど名前呼びとかお姉ちゃん呼びで構いませんよ?」
「んんっ、えっと……その。数学って難しいのよね?」
「そうですね。一般的に苦手な人の割合が大きいと思います」
「……じゃ、じゃあ経営とかに携わるなら必要?」
「必要ですね。寧ろ無いとほぼ終わります。事業失敗フラグが立ちます」
「……そうなの。えっと……あの」
「クスッ、分かりました。今度レミリアさんにもお教えしますよ。勿論フランちゃんには内緒で。負けてられないですもんね?」
言い淀むレミリアを見て直ぐに察した早苗が優しく言うと、レミリアが顔を輝かせて頷いた。
そうして一行は次のページをめくる――――。
今回出てきたネタ
・まー、ま、ま、ま、ま、ま、(ごちうさが元ネタだが本家ではこんなに噛んでいない。ニコ動で出来たネタ)
・ヴァアアアアアアア!!(ごちうさのココアの悲鳴、一時期モンハンのフルフルに似ていると話題になった)
・もちつけ(2ちゃんねるのネタより)
・(´・ω・`)(ショボーン、顔文字より)
・リユニオン、マテリア(両方FF7のネタ)
・九頭龍閃(るろうに剣心より)
・白髪の天然パーマな男(銀魂より、坂田銀時)
次回は飛ばしめに書きたい(願望)