七月十一日
今日も今日とて寺子屋なりー。
いつもなら慧音先生の歴史の授業なんだけど、今日はゲストが来た。
「初めまして、私は
「というわけで今日は彼女の口から『直接!』聖徳太子の人生を語ってもらおうと思う。じゃあ後は任せましたよ」
「はい、お任せ下さい」
そう、言わずと知れたあの聖徳太子だ!
直接、と言いながら何故か両手を前に出してた慧音もきになるけどそれはともかく。
「では早速授業を始めます」
うわぁ凄い、本物の聖徳太子だよ!
でも、前に紅魔館にあった外の世界の教科書で見た人物像とは大分違っていた。そもそも女の人だったし。
他の子も気になったのか質問してた。
けど、
「授業の前にすみません! あの、聖徳太子って男じゃ……あっ、よく見たら胸無いし男の娘タイプでしたか。すみません、勘違いでした」
勘違いなだけにこの精神攻撃はエグいと思う。
「む、胸が無い!? ……しょ、初対面相手にその物言いは随分と酷いですね。それと私は女です! 従来の教科書に男だと書かれているのは当時男尊女卑の世界だった為で、舐められない為ですから!」
聖徳太子先生が両手で胸を隠すように身体を抱きしめながら叫んでいた。
……可哀想に。あの様子だと普段から「(おもちの)戦闘力たったの五か、ゴミめ」とか弄られてるんだろう。
しかしうちのクラスのフリーダムさを舐めてはいけない。
一人目を皮切りに次々と質問を投げかける。しかも殆どタイムラグなしなのでワーワーとうるさいだけだ。しかし聖徳太子を舐めてはいけない。同時に十人の声を聞けるという彼女はすべての質問に的確なツッコミを返す!
「太子太子! 小野妹子は居ないの?」
「既に亡くなっています。あの人は仙人にならなかったので」
「太子! 飛鳥文化アタックやって! ほらこんな感じに!」
「教室で暴れないでください! 転がると怪我しますよ!?」
「無限に広がる大宇宙」
「挨拶ですかそれ!? 開口一番に何なのですか!?」
「小野妹子の名前なんだっけ? 確か、小野……イナフ……?」
「最初に妹子と言ってるでしょう!? 煽ってるのですか私を!?」
「お土産をもってこーい! 良いお土産を持ってこーい!」
「何様ですかあなた!? 私観光帰りじゃないですよ!?」
「草ってお前……石ってお前……」
「何ですかそのお土産の謎の連携!? というか悲しいですね!」
「あ、お菓子あるぞ食べる? ちょっと変な匂いするけど」
「それ腐ってますから! 変な物食べさせようとしないでください!」
「ツナが大好き聖徳太子」
「別に大好きじゃないですよ!?」
「彼女いねえ…………」
「そのカミングアウト必要あります!?」
「今日のポピー」
「会話ぶった切ってなんか花を出してきたっ!?」
「まっぱだカーニバル」
「真顔で何口走ってるんですか!?」
「僕は変態じゃないよ。仮に変態だとしても、変態と言う名の紳士だよ」
「それは誰に対しての説明なんですか!?」
「ところでここまでのツッコミ回数は?」
「十三回でもう十回超えてるんですよボケえぇぇッッ!!」
そこまで高速で言い切った先生はゼェゼェハァハァと荒い息を吐いていた。うん、凄いね。
というか地味に聖徳太子の同時に話を聞ける人数の限界突破してるけど良いのかな? こんな酷い話で限界突破してるけどそれはいいのかな!?
とりあえず、その後も生徒達のボケと太子先生のツッコミの応酬が繰り広げられていたことを追加しておく。
授業は潰れた。
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「まそっぷ!」
「いきなり何よ、早苗」
「いや何となくやりたくなりまして……というか授業潰れたんですね。それと太子さんですか。本物なんですよね、彼女」
「そうね。確か尸解仙だったかしら。仮死から蘇ることで至る仙人になる為に眠ってて去年に起きたのよね」
「流石に吸血鬼の私からしても歴史上の人物ね。聖徳太子は。まだ会ったことないしいつか話してみたいものだわ」
「あっ、レミリアさんに同意です。私も今度詳しくお話ししたいです。歴史上の人物と語り合えるなんて中々ある事じゃありませんし」
「そう? ハッキリ言って普段は大した事ないヤツに思えるけどね。勿論頭は回るしカリスマはあるけど、やたら命蓮寺を目の敵にしてるし。一度の恨みを引っ張り過ぎだっつの」
「昔の人だからじゃないですか? ほら、戦国時代でも親の仇みたいにずっと恨みを持ったり、子や孫、その先まで引き継いだりしてますし。多分私達と感覚が違うんですよ」
「そんなものかしら」
「きっとそうですよ!」
「……どうでもいいけど次のページいくわよ?」
そろそろ長いと思い始めたのかレミリアがそう言って次のページをめくる。
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七月十二日
今日は久々に咲夜とメイドの技術を教わった。
家事とかのお手伝いは勿論、ご飯もそうだね。後は主人への気遣いとかメイドの心得ってやつを教わった。
確か、大体以下の感じ。
「妹様。例えばお嬢様がガムを所望の場合はどうします?」
「うーん、何を食べたいか聞くかなぁ。味が色々あるし」
「はい。それが普通ですよね? ですがメイドとしては×です」
「え? なんで?」
「良いですか。お嬢様がガムを所望の場合、銘柄は聞かず……まずはグリーン。押さえで梅とブルーベリー。万が一に備えてクールミントとバブリシャスをそっとポケットに忍ばせておくのがメイドの嗜みなのですよ」
つまり咲夜は毎回そこまで気を回してるのか。一流のメイドって凄いね! まだまだ私も半人前だよ……。
一流のメイドは遠いや。なんで一流のメイドを目指してるのかは分からないけどとりあえずノリで頑張ろう。楽しけりゃオッケーだ。
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「……凄いですね。というか幻想郷にもあるんですね、クールミントとかバブリシャスとか」
「ある……というか外の世界から流れてきたのを里の菓子屋が分析して作ったらしいわ。河童から個人的に超ハイテクマシンを譲り受けた人で、工場みたいな大量生産が可能なんですって」
「……まさかのオーバーテクノロジーじゃないですか!」
「あの店は私も時折寄るわね。外の世界のお菓子って和菓子とかとは別の意味で美味しいし……ただ、咲夜はあまり買ってくれないけど」
「まぁお菓子って食べ過ぎると身体に毒ですからね。ポテチとかも肥満とかを誘発するだけじゃなく発ガン性物質があるって聞きますし、飴も歯に悪いってテレビでやってました」
「それにしたってちょっとくらい良いじゃない。美味しいんだから……ちょっと夕ご飯を残したくらいで怒られるし」
「お母さんしてるわね、アイツ」
「お夕飯は食べないとだめですよ? レミリアさんの体の事を考えて咲夜さんは頑張ってるんですから」
「…………うん」
珍しくもレミリアが素直に反省したところで一行は次のページをめくる。
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七月十三日
今日はプリズムリバー三姉妹がうちに来た。
どうやらピアノとかの楽器を教えに来てくれたらしい。実はそんな約束して有耶無耶になってたっけ……と半分忘れかけてたのは内緒ね。
で、ピアノレッスンだよ。
手じゃなくて指を動かすって案外疲れるのよね。何というか手全体はよく動かすけど、指一本を意識して動かすって中々ないでしょ?
で、今日はピアノの音の出し方を教えてもらった。
どういうことかを簡単に説明すると、ピアノの音って触り方によって変わるじゃない?
強く強引に叩けばダーンって感じの音が出るし、優しく触ればポーンって感じの音が出る。
この適切な指圧の掛け方を教わった。やっぱり曲にも綺麗に聞こえる圧のかけ方とかがあるらしい。
まだ素人を抜け出していない今のうちに覚えておけば後々楽だというのがルナサさんの言葉。
音かぁ、意識してなかったよ。とにかく弾ければ良いって感じだったから。
よし! 次に三人が来るまでにちゃんと出来るように頑張ろう!
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「今更ですけど努力家ですね、この子。普通そろそろ怠くなって来る頃なのに」
「習慣付いたのかしらね。フラン」
「私には考えられないけどねー。修行だって真っ平ゴメンだし」
「そういえば霊夢さん、紫さんが以前嘆いてましたよ? 『霊夢は天才気質だけど修行しないからいざという時に足を掬われそうで怖いのよ』って。巫女同士、それとなく言ってやってくれないかってお願いされましたし」
「あー、紫のヤツ。早苗だろうが誰に言われようが修行なんてしないわよ……必要に駆られるまでは」
「でも必要な時って大抵手遅れだと思うわよ霊夢。一週間に一度でも良いから真面目にしてみたらどうかしら?」
「アンタも説教? レミリア、つか屋敷でふんぞり返ってるアンタには言われたくないんだけど……」
「うっ……それを言われると何も言えなくなるわね」
「弱っ!? レミリアさん!?」
「……だって事実だもん」
「だからって変なとこで素直にならずにふんぞり返って下さい! キャラ崩壊も甚だしいですよ!?」
「つか、次のページいくわよ。よいしょっと」
早苗が二人に突っ込んだりしていると霊夢が次のページをめくった。
そこでツッコミを切り上げ、早苗もそちらを見る――――。
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七月十三日
今日は妖夢さんがやって来た。
どうやら私に話があって来たらしい。
「改めてですけど。祖父の件、本当にありがとうございました」
いやいや、別に行き倒れてたから助けただけだし。
気にしなくて良いよ? 本当に。
「ところで祖父から剣を学ぶと約束されたと聞いて来たんですが本当ですか?」
うん、習ってたよ。魂魄流剣術。
そう答えると妖夢さんが伏せ目がちに尋ねて来た。
「……あの、不躾ですけどお願い事があるんですけど」
はいはいなんでしょう。
「一度お手合わせ願えないでしょうか? 剣で」
手合わせ? なんでだろうか。
……まぁ、良いよ。封印モードでやればいい?
「いえ、真剣でお願いします。祖父は一度本気で向かい合ったと聞かされましたので」
あぁ、確かに。妖忌さんには吸血鬼の力有りでも防がれたし、その孫娘の妖夢さんならいけるかかもしれない。うん、下手に封印して戦うとか言ってごめんね?
舐めてるわけじゃないんだけど普段の修行がそうだから。
と、そんなわけで決闘しました。
「妖怪が鍛えたこの楼観剣に切らぬモノなどあんまりない!」
「前口上? じゃあ私も――あなたが、コンテニュー出来ないのさ!」
始める前にかっこよくそう言って妖夢さんは楼観剣と呼ばれる剣の切っ先を向けた。
対する私は正体不明の剣。森近さんにもらった火力上がるヤツを装備して向かい合う。
そして開始の合図が審判のめーりんから鳴らされると両者同時に動いた。
本気という話だったので本気でやろう。そう思っていた私は開幕から気を纏い、フォーオブアカインドで分身。フォーオブアカインドは今までと違って魔力を籠めた私、妖力を籠めた私、気を籠めた私の三人が増えるように調整しているんだけど、更に小手調べで弾幕をばら撒きつつ、火力を籠めたレーヴァテインで四方八方から斬りかかる!
「えっ、あっ……ちょっ!?」
なんか妖夢さんが頬を引きつらせてたけど本気の勝負だから。
完全に意味不明って顔してたけど妖忌さんは防いでたし妖夢さんもいけると思う。
「みょ、みょおおおんっ!!?」
とか思ってたらピチュッた。
最初の数発は切り刻んだけど弾幕が集中するとアレだった。修行だったら本気で戦っても良い幻想郷の謎ルールに則っての弾幕ごっこなんて無視した避ける密度のない弾幕だったけど思いの外、厳しかったらしい。
というか予想してなかったのか。
爆発の煙が晴れると、そこには妖夢さんが倒れていた。
「……ヤムチャしやがって」
めーりんが何やら呟いてたけどそんな場合じゃないよこれ!?
大丈夫!? ねぇ大丈夫!?
慌てて駆け寄ると倒れていた妖夢さんがゆっくりと起き上がった。
「うぐぐく……な、なんですかさっきの! あんなの弾幕ごっこのルール範囲外ですよ!?」
「え、前に妖忌さんが修行だったら本気で戦ってもオッケー、弾幕ごっこ? あぁアレは女子供の遊びじゃから大丈夫って言ってたし」
「そういえば弾幕ごっこって女子供の遊びでした――ってそうじゃない! 修行だったら本気で戦っても良いなんてルールあるわけないでしょう!? 幽々子様からも聞いたことないですよ!? というか本当に祖父はあんなの防いでたんですか!?」
「うん、完璧に防がれたよ」
「マジですか凄え……、ともかくこの勝負は私の負けにしておきます。防げなかったのは事実ですしまだまだ私が半人前だと分かりました」
起き上がってポンポンと服の汚れを叩きながら妖夢さんがそう言った。
真面目な人だなあ。
「と、本題に入りましょうか。本来は姉弟子として貴女の魂魄流の腕を確かめたかったのですが致し方ありません」
ふぅ、と息を吐いて彼女は話をする。
「祖父が白玉楼に帰ってから、主人の幽々子様を交えて沢山話をしました。これからの事です。間を説明すると時間が掛かるので結論を言うと、祖父はしばらく白玉楼に留まるそうです。ですが、フランさんとも剣のお約束をしたのもまた事実――そうですよね?」
「うん」
「そこで、暇な時で構いませんので人里の道場に来てもらえませんか? 祖父もこれから師範としてしばらく活動するそうなので、貴女が訪れた際は優先的に鍛えるとのことです。それでご恩を返したいということで皆一致して」
成る程。それが本題か。
むしろ万々歳だよ、わざわざ伝えに来てくれてありがとね。
「いえ。むしろいきなり決闘などを申し込んですみませんでした」
それから――それでは、と言って妖夢さんは帰っていった。
道場に行けば剣を教われると。うん、覚えたよ。
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「決闘か……」
「酷いですね、これ」
「半人半霊の娘には同情しておくわ」
「話が変わるんですけど、人里の道場に今度私も行こうかなと思うんですけどお二人はどう思います」
「剣ねぇ……覚える必要ある?」
「私の得物は槍だしね。まぁ槍も可能なら行くことは
「そうですかー。折角だし私は剣使いたいですけどね。かっこいいし」
仲間はいないか……残念、と呟いて早苗は次のページをめくる――――。
今回出て来たネタ
・直接!(ニンテンドーダイレクトより)
・戦闘力たったの五か、ゴミめ(ドラゴンボールよりラディッツの台詞)
・飛鳥文化アタック以下のボケ(ギャグ漫画日和より)
・銘柄は聞かず……以下(ハヤテのごとくより)
・ヤムチャしやがって(ドラゴンボールより、派生した言葉)