フランドールの日記   作:Yuupon

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七月編2『幻想郷ライブ!』

 

 

 

 七月四日

 

 今日は魔理沙に連れられて霊夢さんのところに行った。

 まだ、私の多くの人前での緊張する癖が治っていないかららしい。

 本番で極度に緊張して歌詞を忘れたりするのやだろ、って言われて私も納得だ。

 で、なんで霊夢さんかっていうと彼女はよく宴会や祭などで主催者の一人になることが多いとか。その為人と話すのも慣れているので、コツを教わりに行こうぜというのが魔理沙の話だった。

 確かに大切だよね。本番で失敗とかしたらお客様に失礼だし。何より私も恥ずかしいし。

 お姉様みたいに何処でも不遜な態度が取れればまた話は別なんだけど私はあそこまで非常識じゃないしなぁ……。

 で、霊夢さんに聞くと「緊張しない方法? はぁ、考えたこともないけど、そうね……」と何やら考え込んだ後に以下の答えをくれた。

 

「一番は当日にやりたいことをしっかりイメージすること。観客に何を伝えたいのか、それを一番に考えればそれだけは伝えられるはずよ」

 

 続けて注意点を幾つか。

 

「それと評価を求めない方がいいわ。流石あの紅霧の異変を起こした所の妹さんだねーーって思われるようにやらなくちゃなんて考えてたら余計に緊張するもの。折角のライブで、しかも出場者なんだから楽しみなさい。紅魔館のフランドールじゃなくて、ただのフランとして挑むのよ。そもそもお祭りみたいなものなんだから噛もうが呂律が回らなかろうが楽しんだら勝ちよ、私もそうだもの」

 

 忙しいのにわざわざアドバイスありがとう。

 ……楽しんだら、勝ちか。

 確かにそういう部分はあったかもしれない。お姉様が八雲紫に泣かされた日から、実は半分何かあった時は私が姉の代わりにカリスマとして紅魔館を支えなきゃいけないーーって思ってた部分もあるし、そのせいか最近は真面目な所では本当に真面目にしている。

 紅魔館の品位、も気にしているわ。外面を作るほどでは無いにしろ、優しくありたいなって思ってはいるから。

 ……楽しんだら勝ち、楽しんだら勝ちか。

 

 そうだね、折角のライブだもんね。

 ……精一杯楽しめるよう頑張ろう――そう思えた。

 

 #####

 

「……そうそう、来たのよね。この時」

「良いアドバイスじゃないですか! 霊夢さん」

「ふふん、それほどでもあるわね」

 

「……ねぇ、なんか私フランに半分カリスマじゃないって書かれてるんだけどどういうことよ」

「逆に今まで省みて一欠片でもカリスマがあると思ってたの?」

「…………、」

「え、あ、いや! 大丈夫ですよ、レミリアさんってすごーく可愛らしいですから!」

「そういう問題じゃないのよ……というかそれはそれで愛でられてるというか愛玩動物みたいで嫌なんだけど」

「レミリアは背伸び萌えなのよ。カリスマだカリスマだってワーワー騒いで、不遜に振舞ってるけど化けの皮が剥がれるとカリスマブレイクする。子供なのに頑張って大人を振る舞おうとしてる感が背伸びしててある種の萌えなのよね」

「急に何の考察よ!? あと萌えって何!? それからカリスマを纏うのはそんな子供っぽい理由じゃないわよ!」

「……その理由はともかくとして、可愛いのは事実ですよね。フランちゃんもそうですがすごーくお姉ちゃんって言われたいです! それでそれで、好きな時にギュッと抱き締めたいです! ほら、ぎゅー!」

「それもうただの願望じゃない! ってこ、こら! 撫でるな持ち上げるな抱きしめるなーっ!!」

 

 ニコニコと超笑顔の早苗に子供扱いされるレミリアだが、嫌そうではなかったことだけは追記しておく。

 ともかく数分間じゃれあった後、一行は次のページをめくった。

 

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 七月五日

 

 今日は皆で最終確認をした。

 プリズムリバー三姉妹が演奏して、罪袋さん達が音響などの設備確認や本番の通りの動きをする。こころさんも常に居て、私の踊りのミスが無いか確認する構えだ。

 入って来てからの挨拶も考えてある。最前列の席は確保しているらしく、万が一のことがあればカンペを出すみたいだけどやっぱり自分で言いたいよね。

 それで本番と同じようにやったけど挨拶が難しかった。

 昨日考えた方を改めたけど、それでもまだ緊張が抜け切れてない。

 スゥッと深呼吸して精一杯話したけど正直所々噛んでいた気がする。緊張で楽しむどころじゃなかったのもマイナス点かな。

 幸い、曲は楽しく歌えたしダンスも出来たけれどそれも本番じゃ分かったもんじゃない。

 大体そんな具合だった。

 あと二日、皆頑張ってるんだ。私だってやってやる!

 

 

 #####

 

 

「うおおお、とうとう来ましたね。あと二日。読んでる私が緊張して来ました!」

「落ち着きなさいよ。子供じゃないんだから」

「霊夢霊夢、なんで子供といった時に私を見たのか理由を聞かせてもらおうじゃないか!」

 

「別にアンタを見たのはこの場においての子供がアンタしかいなかったからよ。別に居ればそっちを見たわ」

「しかも開き直った!? く、私は紅魔の王だぞ! 偉いんだぞ! 分かったら子供扱いせず淑女として扱いなさい!」

 

(……それが子供っぽいってのに)

 

 反論してくるレミリアを温かい目で見た霊夢は、ふぅと息を吐く。

 それからそっと次のページをめくった。

 

 

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 七月六日

 

 

 明日の情報が届いた。

 今年は一三組が参加するらしい。私達は七番目の出番だそうだ。

 内訳は幻想郷内でのバンド参加が一二組で、最後の大トリに外の世界から参戦して来た人達が居るらしい。

 本番の前日に情報が届いたの原因もそれだ。

 どうやら主催者が外の世界にいる人で、幻想郷に深い関わりのある人らしい。で、その人がこちらに今日、八雲紫を通して幻想郷に来たらしく初めて情報が発布されたとか。

 ……外の世界の人かぁ。幻想郷に来れるツテがあるって凄いね。

 というか外界から隔絶されてるのが幻想郷なのにそんなにホイホイこれて良いのか?

 よく分からないけど罪袋さん達は当たり前って顔をしてたから私が知らないだけで案外普通のことかもしれない。

 カルチャーショックってやつか。

 いや、まぁ幻想郷に来たのは比較的最近の話だけれども。

 

 ともかく明日だ。キチンと寝れるように今日は早めに寝ておこう。

 おやすみなさーい。

 

 #####

 

 

「って書いてあるけど、移住以外で外の世界から来るのって普通なの、霊夢?」

「普通じゃないわよ。最近じゃ眼鏡のJKだとかが適当に入って来てるけど、あんなのは特別中の特別よ」

「……なんでしょう。私、その人のこと知らないんですけど相対した時に多分逆らえないような感覚がします。奇跡もどうにも出来ないと囁いてますし」

「……あー。まぁ、続きを読みましょうか」

 

 若干納得したような顔で頷くと、霊夢は次のページを開いた。

 

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 七月七日

 

 

 今日はちょっと真面目に描写しようと思う。

 日記らしくないけど書きたいし良いよね。

 

 人里は朝からザワザワしていた。

 年に一度の音楽の祭典、幻想郷ライブが開催されるためだ。

 人々は広場に集まっていた。広場では、そこら一体を囲い込むように音楽施設が設置され、大量の椅子が配置されてある種のコンサート会場の様相を呈している。

 入場用の前売り券は既に完売しており、当日チケットも飛ぶように売れていた。私達、バンド組は人々が押し寄せている波のその横にある関係者専用入口から現地入りする。

 中に入って真っ先に見えたのは薄暗いコンサートホールの空間と、天井に数多く吊るされたスポットライトだ。そこから正面の台の奥にある関係者用の部屋に向かい、私達は順番を待った。

 緊張はしていたと思う。うん、していた。

 七番目ということで最初の一時間ほどは控え室で軽く準備と発声練習をしたのち、会場から聞こえて来る他のバンドの歌や反応を聞いて落ち着かせていた。

 音楽、こと演奏に掛けては私たちは負けていない。問題は私の歌だ。コンサートホールには魔物が棲むという。慣れない環境からくる緊張という恐ろしい魔物が。

 だからこそ私が頑張らなきゃ、と思った。しかしそう思えば思うほどに緊張は増していく。心臓のドキドキが外に聞こえてるんじゃないかってくらい震えていた。

 そう、震えていた。気付いたら私は震えていたのだ。

 手のひらにのの字を書いてみた。効果無し。

 深呼吸した、少しだけ呼吸が楽になった気がした。

 そうして――そうこうしているうちに私達の順番が回って来た。震える手を握りしめ、私は本番の会場へ向かう。

 通路は会場の熱気とは違いヒンヤリとしていた。何となく爪先立ちになる。多分緊張してるんだろう。かつてないほどに。

 そして会場手前での出来事だ。曲がり角を曲がろうとした時、丁度別の方向からやって来たらしい男性にぶつかった。

 

「痛っ……」

「おっと、ごめん。大丈夫かな? ……って、ん?」

 

 男の人はひょろりとした眼鏡を掛けた痩せ型の男性だった。

 手にはビールジョッキを持っていて、頭には緑色のハンチング帽を被っている。その男の人はぶつかった私を見て、あれっ? と妙な顔で首を傾げた。

 だがそれも数秒。少ししてから「キミも出るのかい?」と尋ねて来たので頷く。

 

「緊張してる?」

「…………はい」

 

 何だろうこの人。初めて会ったのに初めての気がしない。

 見た目も頼りにならなそうな感じなのに妙な雰囲気があった。まるでお父さんみたいな――そんな感覚が。

 ライブが迫ってるのに考え込んでしまう私だけど、その時男の人が後ろ手で何やらゴソゴソして小さめのジョッキを出してきた。

 あれ? さっきはそんなの持ってなかったのに……錬成したの?

 とか思ってると男の人は最初に持っていた方のジョッキをグビリと呷ると赤い頬を見せながら、小さい方のジョッキを私に渡して来た。

 なんとなく受け取ると、ジョッキにビールを注ぐ。

 

「これ、僕が作ったビールだけど良かったら」

「ど、どうも」

 

 今更ながらに思うと私って危機感が足りないのかもしれない。

 初めて会った人にビールをもらうなんて普通考えられないことだから。でもその時の私は不思議と拒む気持ちは無かった。

 なんだかはわからない。

 ともかく、もらったビールを呷ると身体全体を不思議な高揚感が包んだ気がした。

 

「緊張は解けた?」

「は……はい」

「そう、じゃあ僕はこれで」

 

 それだけで男の人は行ってしまう。

 けど、そのまま行かせるわけにはいかなかった。

 名前が知りたかったんだ。後ろから声をかけると彼は足を止めて、一言こう返した。

 

「神主って覚えてくれればいいよ」

 

 そうして。それじゃ楽しんでね、と言い残し男の人は曲がり角の先に消えてしまう。

 もっと話したいこともあったけど時間が足りなかった。

 

 

(次のページ)

 

 

 #####

 

 

 ライブ会場は凄い熱気に包まれていた。

 私が配置に着くと、罪袋さんが合図してカーテンが開く。

 同時に開幕の音楽が鳴り出した。最初に歌うのは私の曲じゃなくて、魔理沙さんが製作した完全オリジナルのものだ。登場と同時に最初の曲を歌うスタイルを取れば多少は私の緊張も取れるんじゃないか、とスタッフさんが考えてくれたらしい。

 

 ――手を振りながら会場へ飛び出し、マイクを握って踊りながら私は歌う。

 不思議と緊張は無かった。さっき呑んだビールの程よい苦さが私の心を落ち着かせてくれたのだ。

 会場全体を見渡しながら私は笑顔を振りまく。精一杯の歌と精一杯のダンスと精一杯の笑顔。それが魔理沙に求められたことだ。

 『やれることを出し切って――楽しんで来い!』

 そう言って背中を押してくれた彼女には感謝しかない。

 そして良い雰囲気のまま一曲目が終了し、挨拶に移る。

 

『皆さん初めまして! 『紅の幽霊楽団』のフランです!』

 

 紅の幽霊楽団とは私達のバンド名だ。

 私が挨拶をすると観客達はわああ!! と声を上げる。

 

『ありがとうございます! 今日が初めてのライブ本番ということでとても緊張してるので皆さん盛り上げてくれると助かります!』

 

 わあああああっっ!!

 

『では、時間も無いので二曲目行きます! 行くぜっ! 少女達の百年祭!』

 

 勢いそのままに二曲目に行く。

 私の作った曲ということで歌詞はバッチリだ。所々、観客が「あばばばば」って叫んでたけど何だろ。まぁいっか。盛り上がってるし。

 で、そのまま勢いを保持しつつ三曲目も歌い終わり、最後に『UNオーエンは彼女なのか』を熱唱する。

 楽団の中で一番盛り上がる曲だ。最後に持って来たけど大成功だった。

 前半は地上でのダンスと魅せる弾幕を撒き散らすのが多かったけどこの曲はスペルカードを使って行う。いわばボス戦状態だ。

 かつて魔理沙と戦った時を思い出すよ。飛び回りながら激しく弾幕を放ち、歌う。

 終わってみれば拍手喝采で終えることが出来た。

 大成功、うんそうだ。

 歌っている時、心の底から楽しかった。

 

 

 (次のページへ)

 

 

 #####

 

 

 私の出番が終わってから気付いたんだけど、緑色のハンチング帽をかぶったあの男の人は例の外の世界から来た主催者さんらしい。

 最前列に席が用意されていて、沢山のお酒が置いてあった。

 そしてもう一つ気になってた大トリだけどやっぱり凄かったよ。なんかもう、レベルが違ってた。

 

『( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!』

 

「「「「「「( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!」」」」」」

 

『( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!』

 

「「「「「「( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!」」」」」」

 

 アロハシャツを着た男の人が腕を振り下ろしながら歌うたびに観客の殆どが同じように腕を振りながら叫んでた。

 妙な一体感を感じた。風、そう風だ。

 この場の全員が一つになるような妙な風。

 それはさながら台風のように――けれど優しく心を撫でてノリの極致とも呼べる世界へと(いざな)う力があった。

 ただ観客席にいた永遠亭の赤と青の服を着た女の人だけが頭を抱えて何とも言えない顔で突っ伏してたことは追記しておく。

 主催者の人もアロハの人も声をかける前に帰ってしまったけど凄かったなぁ。また来年、参加しよう。

 

 さて、と。長くなったし今日は寝るかな。

 また明日からはめーりんの修行だ。じゃあおやすみ!

 

 

 #####

 

 

「……フランがライブを楽しめたようで何よりだわ!

「そうですね!」

「突っ伏してた永琳ェ……」

「「…………、」」

 

 数秒間、三人は黙り込んだ。

 が、しかし。

 

「……もう、言いたい感想は無いわね。最後の連呼は突っ込み辛いし」

「じゃあ次のページに行きましょうか」

「「賛成!」」

 

 下手にツッコミ入れるのが怖かった三人はスルーを決め込む。

 そんなこんなで長かったアイドル編も一区切りつき、三人は次のページをめくった――――。

 

 

 




 


 今回出てきたネタ&人
・眼鏡のJK(東方深秘録より宇佐美菫子)
・緑色のハンチング帽をかぶり、ビールジョッキを手にした男(東方Project、博麗神主ことZUN)
・アロハシャツの男(ナイトオブナイツや最終鬼畜フランドールも彼の楽曲。ご結婚おめでとうございます、また最近ではラスボスこと小林幸子さんともコラボしたりしている。ビートまりおさん)
・( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん(Help,me,ERINNNNNN!!より、多分東方知ってる人の殆どが知ってるはず)

 アイドル終わったので明日からはまた好き勝手始めます。


 

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