フランドールの日記   作:Yuupon

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 予告通り今回で六月編終了!


六月編END『妖忌と妖夢』

 

 

 

 六月二十七日

 

 

 最近罪袋さん達の種類が増えてきた。

 罪って書かれた袋をかぶってるのが通常の罪袋さん。最近増えたのは顔が黄色い文字で『P』ってなってる『プロデューサーさん』と顔が『T』ってなってる『提督さん』。正確には皆違うらしいけどオタクなのは同じらしいって罪袋さんが言ってた。

 あ、そうそう。Pさんによるアイドルレッスンの休憩時間の合間に妖忌さんに昔話をしてもらった。

 元々妖忌さんは白玉楼という場所で庭師兼剣術指南役をしていたらしい。孫娘とお嬢様。二人の面倒を見ながら日々を過ごしていたのだとか。

 ところがある時、悟りを開いたらしい。それを大きな機会と見た妖忌さんはまだまだ未熟だが半人前にはなっていた孫娘さんに後を託し、一人修行の旅をしていたんだって。

 それからもう幾年もの月日を経てまだ一度も帰っていないとか。

 ……こういうのもあれだけど偶には帰った方が良いと思うよ? お孫さん寂しがってるんじゃない? それにそのお嬢様に怒られるよ? 話を聞く限り無断で出てきたみたいだし、それも仏教的に言うなら『不徳』になるんじゃないかな。

 ――それとなくそんなことを話してみたけれど「全ては覚悟の上。例え天地神明が罰しようと、この果てしなき道の果てへ辿り着くまでは帰るつもりはありません』と答えられてしまった。

 少し目を伏せていたからちょっとは未練あるはずなのに……。

 

 

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「あの、妖夢さんの話をして良いですか?」

 

 この日の日記を読み終わり、早苗が挙手した。特に意見の無かった二人が頷くと彼女は話し始める。

 

「去年の従者会議で、二人きりで話した時に――妖夢さんこう言ってました。『年月が過ぎて、師匠――お爺ちゃんの居ない生活には慣れました。でも、時折思い出すんです。幼い頃の日々を。剣を教わるたびにやり方を聞いては技を盗めって怒られた時のことを……あの時から私は成長しました――肉体的にも精神的にも。でも半人前のままです。だって私はまだお爺ちゃんに認められてませんから』って」

 

 今も時折探しているんですよ。この幻想郷のどこかできっと生きているって信じてますから。って言ってました、と早苗は語った。

 続けて、そしていつか見つけて、認めさせてやるんです。全身全霊をかけて――魂魄流の技を見せ付けて、私は一人前になれましたかって聞いてやるんです! と語った。

 

「……そういった意味では、まだ本人が半人前だと言っている状況でお互いが会わない選択をしているのはお互いにとって良い事なのかもしれません。でも、それって悲しいことだと思います」

「…………私も意見を言って良いかしら」

 

 次に手を挙げたのはレミリアだった。ふぅ、ふぅと小さく息を吐いた彼女は熱く注がれたティーカップの液体を一口含み、呑み込んで、話し始める。

 

「……二人は祖父と孫よね。そして同時に師匠と弟子でもある。二人が優先しているのは後者の関係よ。それ自体私は悪いことだと思わないし両者の考えが一致している以上他者が言葉を挟む余地は無いと思う。でも――それでも家族としての関係も重要だと思うの。師匠として、じゃなくて。祖父として孫の顔を見に行くことに何を忌避する必要があるの?」

「………………、」

「フランの日記の最後に目を伏せていたと書いてあったわ。アレは本当は――心の底では愛している孫娘に一目会いたいと思っているんじゃないの? ……まぁ、私が言える話でも無いけれどね」

「…………、レミリアさん」

 

 目を伏せたレミリアを見かねて早苗が声を上げたが、彼女はそれを手で制した。当の本人の行動とあれば何か話すわけにはいかない。途端に早苗は黙り込んで、視線を宙に向けた。

 最後に。小さく溜息を吐いて霊夢が手を挙げた。彼女は二人の返事も肯定の様子も確認することなく話し始める。

 

「一つ。一つだけ博麗の巫女として言うなら、私達は介入しない。二人は話し合ってた意見も結局はフラン視点の話でしかない――だから本人の気持ちがどうかなんて確かじゃないわ。それに、仮にそうだとしても私達には関係無いもの。結局は本人が動くかどうかなの。異変と妖怪退治以外で博麗の巫女は動かない。勿論この言葉が届かないことは理解してるけどね……。さ、変な考察はやめて次のページを読みましょうか。やりにくくて仕方ないから」

 

 一息に言い切った霊夢は次のページに手をかけた。

 そして面倒そうに一ページをめくる――――。

 

 

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 六月二十八日

 

 

 フラグって言葉がある。

 意味は特定のイベントを起こすための条件が揃うことを指すんだけど、他にも『ゲームとかでこのキャラ死ぬな』みたいに伏線を感じた時にも『フラグが立った』と使うらしい。

 これが今回の話の事前知識ね。

 まぁ簡単に言ってしまえば推理モノで「この中に犯罪者がいるかもしれないのに一緒に寝れるか! 俺は自分の部屋に戻るぞ!」と言って暫く経って部屋で死んでいる姿を発見されることと言えば分かりやすいかな。

 この場合、「この中に〜」ってセリフを言った瞬間『死亡フラグ』が立ったというんだけど。

 まぁ端的に言おうか。

 

 

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 詳しくは明日書く。

 

 

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「シリアスを返して!」

「つか私達の発言も丸ごとフラグって言いたいのか!?」

「いや、それ以前に何ですかこれ!? 前日に『修行を完遂するまで帰らない』って言ったからですか!? にしたって酷過ぎませんかレミリアさん!」

「わ、私は関係無いわよ! 運命操ってないから!」

「と、ともかく次のページを読みましょう?」

「分かりました」「分かったわ!」

 

 

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 六月二十九日

 

 

 いや、アレだね。まさかってやつだね。

 一瞬、お姉様が運命操ったのかと邪推するくらいのタイミングだった。

 とりあえず最初から書こう。

 昨日、アイドルレッスンと剣の訓練を終えて休憩時間に入っていた私達は足りない物を買うついでに軽く散歩しましょう、と妖忌さんと一緒に人里へ買い物に行ってたんだ。

 買い物自体は楽しかったし順調だった。

 団子屋ではお店の常連さんらしい元月の兎の鈴瑚(りんご)さんって人にオススメの団子を紹介してもらったり、花屋では久々に幽香さんと再会して花の談義に花咲かせたり。

 あとは妖忌さんが気になったらしい剣道の道場にちょこっとお邪魔したりとね。

 

 ……一昨日の言葉が運命を決定付けたのかは分からない。

 ただ、ふらりと寄った剣道場を後にしようとしたその時に私は丁度入ってくる人にぶつかったんだ。

「あぅ」「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 ぶつかった時はそんな感じだったと思う。ぶつかった相手の人は尻餅をついた私に手を差し伸べてくれたんだけど、その時妖忌さんが小さく呟いたんだ。

 

「……妖夢?」

「……お爺、ちゃん?」

 

 白髪に黒いリボンを付けた一〇代後半の女の子。

 手を差し伸べたポーズのまま魂魄妖夢さんは完全に固まっていた。

 妖忌さんも想定外の事態に狼狽えていたようだったけど、何事か思ったのか口を動かしていた。

 

「久しぶり、じゃな」

「――――ッ!!」

 

 感慨深い、いや。もっと色々な感情が詰め込まれた一言だったのだと思う。瞬間、妖夢さんが妖忌さんに抱き付いていた。

 ペタペタと本物なのかどうか確かめるように。抱き付いて――数秒間そのままだった。けど、やがて目の前に居るのが本物の妖忌さんだと理解した彼女は次第に嗚咽を上げて泣き始めた。

 多分言いたかったことは沢山あったと思う。でも彼女が真っ先に見せたのは無事で良かったという安堵の気持ちとその表れだったと私は思う。

 道場の中でも何人か驚いているようだった。何でも妖夢さんは人里の剣道場で剣を教えていたらしい。普段は凛々しく真面目で弱音など見せたことの無い師範であった彼女があんなにボロボロと泣き崩れている。その姿が信じ難い光景だったみたいだ。

 妖忌さんは戸惑いながら――その時ばかりは師匠ではなく祖父としての顔で対応をしていた。

 ひとしきり泣いてひとしきり聞きたいことを聞いている様子を私はただ見た。

 それらを終えて妖夢さんは初めて怒りを見せたところも、怒った孫に罪悪感から意外にタジタジだった妖忌さんの姿も。

 二人の後ろから――ギャラリーから隠すように立ってただ、見つめていた。

 

 ……その後の話だけど。妖忌さんは白玉楼に連れ帰るらしい。

 それは私も構わない。というかそうするべきだと思う。離れていた時間を少しでも取り戻すべきだ。

 だから私は、まだ返されてない分のお礼を返す方法として妖忌さんにこう提示した。

 

『白玉楼でキチンと話し合って、失った時間を取り戻して下さい。それが終わったらまた、紅魔館に来て剣を教えてください』と。

 

 何も言わずに飛び出した過去を清算して下さい、と。

 修行も結構ですけど、仏教徒ならそれ以上に人との繋がりで不徳を働き我儘で修行するのは良くないから――。

 だから、今度はちゃんと了承を得て下さい。

 

 血の繋がりのある家族と、大切なお嬢様なんでしょう?

 ――――と。

 

 #####

 

 

「……フラン、良い子に育って」

「レミリアさん、ハンカチです」

「ありがとう……ズビビビ!」

「あぁっ! 鼻をかまないで下さい!!」

「……あんたらときたら」

 

 ほろりと涙を零し早苗の渡したハンカチで鼻をかむレミリアとそれに悲鳴を上げる早苗を見て霊夢はやれやれと呟いた。感動的な話じゃないの。なのにこいつらと来たら。

 これじゃあ色んな意味で台無しじゃない、と彼女は思う。

 

「……うぅ、私のハンカチが」

「……今度紅魔館の物を見繕うから我慢して頂戴」

「本当、馬鹿馬鹿しいわね。ちょっとは感慨深さを味わさせなさいよ」

「……だって、姉として嬉しくて」

「だっても何もないでしょ。つかあの子は良い子だけどアンタは我儘娘って評価なのは変わらないからね?」

「まぁまぁ霊夢さん。日記の内容はともかく私達はこんな感じで良いじゃないですか」

「……どういうことよ?」

「だって、私たちが何しようと日記の中はハッピーエンドです。後は妖忌さんと妖夢さん、後は幽々子さんに任せるしかないんですから。私達に出来るのは出来るだけ感受性を持って読むことだけなのですよ!」

「その為に感慨に浸らせろっつってんのよ! 日本語理解してんのアンタ!? 私は感動を感じる為にそのハンカチの下りヤメろって言ってんの!!」

「……後、なんか奇跡が言うにはまだ六月編一ページあるのに下手にシリアスシリアスされるとギャグで流しにくいと――――」

「何処の事情よ!? そんな事情で水差すな! つかオチに困ったからってメタネタで曖昧にするのこれで何度目!? いい加減に――――!」

「……運命が囁いているわ。次のページをめくれと」

「――――って人が話してる時に勝手に話を――――」

 

 進めんな! と霊夢が言い切る前にレミリアは次のページをめくった。同時にワーワー騒ぐ霊夢を二人は不審な目で見る。

 ……現実は非情だった。

 

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 六月三十日

 

 今日で日記も三ヶ月目。

 完全に習慣づいた、と思う。

 というかライブまで後一週間か。緊張してきたよ。

 曲も明日には完成するらしい。衣装もだ。

 よーし! 気合入れていっちょやるよ!

 やるからには一番盛り上げてやるぜーっ!

 プリズムリバー三姉妹も気合入ってるしね。

 ……そういえば『幻想郷ライブin人里』って名目だけど他のグループはどんな感じだろ。ちょっと気になるなー。

 

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「……もう言うことないわ。さっきスルーされた事で」

「サッサと七月に移りましょうか」

「夏シーズンね! 月の帰りに造った擬似的な海で良く遊んだものだわ」

「私はよく妖怪の山の湖で諏訪子様と泳いだなぁ」

「私は……まぁ。うん、涼しく過ごす為に頑張ったわよ」

 

(具体的にはチルノを捕まえたり幽霊を捕まえたり、ね)

 

 二人に比べ自分のやってることが割と酷いことに気付いた霊夢は一人、ショックを受けていた――――!

 だがしかし。

 気を取り直して霊夢は次のページをめくる。

 

 

 季節は夏。幻想郷の暑い夏の日記が始まった――――。

 

 

 

 

 




 

 今回出てきたネタ
・頭がPのプロデューサーさん(アイドルマスター、二次創作ネタより)
・頭がTの提督さん(艦隊これくしょん、二次創作ネタより)
・フラグ(死亡フラグ、恋愛フラグ、生還フラグとか色々ある)
・いっちょやるよ!(逆転裁判より)
・幻想郷の暑い夏が始まるーー(二次創作アニメ、東方夢想夏郷のナレーションより)


 今回ネタは抑えめな感じでした。
 さて、夏だ。夏といえば水着……俺のターンが来たぜ。


 

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