フランドールの日記   作:Yuupon

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六月編4『こころの仮面』

 

 

 

 六月十四日

 

 

 えっと……昨日の説明の続きだよね。

 私がアイドルになる話の。

 とりあえず初めから話そうか。昨日、私は魔理沙のところに行ったのよ。ほら、前に「アイドルになるならプロデュースしてやるぜ」って言われてたから。

 正直アイドルって言われてもピンとこないし、規模も外の世界でいうところのサークルみたいなものみたいだし。

 で、行ったら魔理沙が居た。何故かいつもの白黒魔法使いの服じゃなくて、スーツを着てた。

 

「……来たな、待ってたぜ。お前が私の元に来るこの時をな」

 

 いや、ノリノリだけどどうしたの魔理沙。いつもと違うよ? 全体的になんかおかしいよ? 具体的に言うと何もかも間違ってるよ?

 

「私がティンと来たアイドルだ……安心しろ。必ず成功する。あと既にプリズムリバーとの話も聞いた。それと紅魔館からもメイド長から(写真を送ること)で許可はもらった」

 

 いや根回し早いな。まさか私の気付かない時に紅魔館に来てたの?

 あと途中で魔理沙が「写真を送ることで咲夜から許可を得た」みたいなこと言ってた時、その瞬間だけ一瞬意識がふわっとなったけどなんだろ。もしかして幻聴だったのかな? ぼうっとしてたかもしれない。

 で、私を抜きで話がトントン拍子で進んでデビューが決まった。

 人里でのライブも決定し、七月七日に行われる『幻想ライブin人里』に霧雨プロダクションのアイドルとして参加するらしい。音楽は私の『魔法少女達の百年祭』と『UNオーエンは彼女なのか』をアレンジして歌詞をつけたものになるとか。間に合うの? と思ったけどなんかやたら魔理沙がパソコンを使い慣れていた。どうやら魔理沙の実家の霧雨商店は数年前から外の世界から幻想入りしたパソコンを導入していて、魔理沙もそれを何度も触っていたらしい。

 楽譜を渡すとほんの数十分ほどでPC上にデータとして保存していたのでかなり期待出来そう。楽曲アレンジはプリズムリバーも関わるみたいだし、なんか凄いね。

 ……なんか私が主役なのに一人だけ置いてけぼり状態だよ。

 正直まだ実感ないけど頑張らないとなぁ。

 

 #####

 

「へぇ、魔理沙がねぇ……」

「あれ、知らなかったんですか? 実際かなり凄いですよ。彼女、数学に強いですから経理も出来ますし簿記も出来ます。あと行動力も高いのでアイデアを実現することにかけてはかなりの実力があると思いますね。経営者向きですよ、魔理沙さん」

「……なんでアンタが分かった風に言ってるのかは置いておくとして。そうね、それに魔理沙は盗むことが得意だから人のアイデアも自分のものにしてしまいそうだしかなりやり手なのかもね、ああ見えて」

「まぁ外の世界だったら裁判ですけどね」

 

「……経営か、それこそ私の得意分野じゃない? 紅魔館を今日までもたせてきたのは他ならぬ私だし」

「いや、レミリア。経営とかも咲夜がやってたんじゃないの?」

「馬鹿にしないでよ。これでも紅魔館のデータは頭の中に入ってるわ。人員の数と給料、その捻出に至るまでの経路。収入ーー当主としてこの程度は出来なきゃ話にならないじゃない。それを放棄したらもう私、ただの我儘お嬢様になるわよ」

「あら、意外ですね。出来る方だったんですか、私てっきり全部咲夜さん任せかと……」

「そんな訳が無いでしょう。咲夜がするのは身の回りの世話だけよ」

「いわゆる子守ね」

「お母さんみたいですもんね、咲夜さん。フランちゃんもレミリアさんも。どっちも接し方がそんな感じがします」

 

「……んん゛。話を戻すわよ、にしてもフランがアイドルって何よ。咲夜から聞いてなかったんだけど」

「本人に聞いてみたらどうですか? 呼んだら出てくると思いますし?」

「……そうね、咲夜! ここへ」

「はっ。何用で御座いましょうかお嬢様」

「わっ、いきなり現れた……!」

「相変わらず心臓に悪いやつね」

 

「こほん、咲夜? フランの日記の中で、フランがアイドルになる時に貴女から許可を取ったという話が書いてあったのだけどどういうこと?」

「そのお話でしたか。以前ご報告しましたが?」

「聞いてないわよ。どういうこと?」

「では、その時のことを思い出して頂きましょう。こちらのフリップをご覧下さい」

 

 そう言って咲夜は数枚のフリップを取り出した。

 いつ用意したのかは定かではない。メイドにとって当たり前の技術である。

 どれどれ、レミリアが眺めると何枚かの絵が描いてあった。

 大体以下の感じの内容である。

 

 1、プリズムリバー三姉妹を紅魔館に引き込もうと、何か彼女達が欲しがるものはないかと探しているレミリアの図。

 2、しかし見つからず部屋でうー、とやるレミリアの図(注釈でカリスマポーズと赤ペンで書かれている)。

 3、その後、まずは三人のことを知ろうと壁から顔だけ出して覗き見るレミリアの図。

 4、そこに咲夜が颯爽と現れ「お嬢様、ご報告が御座います」という図。

 5、「話しなさい」と三姉妹から目をそらさずに言うレミリアと「かしこまりました」と説明を始める咲夜の図。

 6、聞き終わった後に「本当に聞き逃してないですか?」と尋ねるとレミリアが「分かったから下がりなさい。この紅魔の王が一度聞いたことを忘れるわけないでしょ」と突っぱね、仕方なく下がる咲夜の図。

 

「これで納得頂けましたでしょうか? それとも映像が必要ならお持ちしますが」

「……咲夜、下がって」

「御意」

 

 瞬間、咲夜が部屋から姿を消す。レミリアの頬が赤く染まっていた。

 ――――羞恥。彼女が感じていたのは羞恥である。そのまま黙り込むレミリアだがそこにツッコミを入れない霊夢ではない。

 

「……全部アンタの聞き逃しじゃない」

「はぅあ!!」

「しかも紅魔の王が一度聞いたことを忘れるはずないってーー忘れてんじゃねーか!」

「ゴフゥッ!!?」

「最低ね、咲夜が可哀想だわ。あいつちゃんと報告してたのに」

「うぐッ!?」

「で、これらを踏まえて早苗はどう思う?」

「えっ、私ですか? そうですねーー今度からは間違えないように頑張りましょう、ね?」

「う……」

 

 正論のナイフでメッタ刺しにされた上に子供扱いされた。霊夢はともかく早苗に至っては撫で撫でされた上に子供に向けるような声色で励まされている。

 ボコボコだった。色んな意味でボコボコだった。

 しかしここで泣いてしまってはそれこそカリスマ崩壊からの子供化に拍車をかけてしまうので我慢するレミリアである。

 ともかく――、

 

「……次のページ」

 

 全力で誤魔化そう。話題を移してしまえ。

 その思いでレミリアは次のページをめくる。

 

 #####

 

 

 六月十五日

 

 

 今日も一日、頑張るぞい!

 ……うーん難しいなぁ。「ぞい!」のところを下げるか上げるか。個人的には上げるべきだと思うけど。

 と、そろそろ話に入ろうか。

 今日はダンスレッスンをやった。なんだろう、音楽練習はどこへ行ったのやら。

 コーチは魔理沙が秦こころさんって人を引っ張ってきてた。無表情だけどとても可愛い人だ。なんかお面で感情を表すらしい。

 無理やり連れて来られてたのに「……じゃあ始めよっか」と言ってくれたあたり、大人しいけど純粋で優しい人なんだろう。

 普段から舞をやっているとのことでアイドルの踊りは専門外だそうだが、大体で良いならと真面目に考えてくれてた。

 にしてもお面の数多いね。

 変なお面も一杯だったけど。魔理沙が森近さんも呼んでたので幾つか鑑定してもらうと『石仮面』とか『ムジュラの仮面』とか『ゲコたの仮面』とかがあった。かぶるとその性格になるらしい。

 試しに森近さんにかぶらせてみると、「僕は人妖をやめるぞーッ!! ジョジョーーッ!!」とか叫んでた。

 面白かったので色々かぶせて遊んだ。

「ハハッ!(妙に高い声で)」「僕は香霖じゃない――こーりんだッッ!!(何故か褌一丁になってた。凄い筋肉だった)」「元気百倍! こーりんマン!」「ボクはキミの中の希望を愛しているよ……」「フナッシィイイッッ!!」「その幻想をぶち殺す!」「ちくわ大明神」「誰だ今の」

 

 ーーうん、楽しかった。森近さんが凄い疲れてたけどゴメンね? 

 謝ると「やれやれ、今後は勘弁してくれよ」って許してくれた。

 あ、勿論ダンスレッスンもしっかりやったよ、ホントダヨ。

 

 

 #####

 

 

「――嘘だッッ!!」

「何急に叫んでんのよ早苗……」

「いや、誰かがやらないといけない気がして」

「……なんでもいいけどビックリするからやめてくれない?」

「すみません」

「にしてもこころか……あの子は良く祭りで舞を踊ってるわよね」

「ですねー、とってもお上手で綺麗なんですよねぇ」

「ふぅん。舞か……私も見に行こうかしら」

「イベントごとは顔だした方が良いわよ? 楽しいから」

「そうですよね! お祭りとか出店も多いしーーくじ引き屋とか一部の店は出禁にされてますけど楽しいですから!」

「必ず早苗が一番欲しい景品が当たるものね。大抵店の一等賞とかだし商売あがったりよ、アレ」

「奇跡も考えものですよね。まぁ私としては他でも楽しめますし、本当に欲しいものは大抵何かしらで手に入りますから」

「……貴女の能力、もうそれ奇跡じゃなくて幸運じゃないの?」

「そうですね、幸運でも良いですけどーーやっぱり神様ですから! 奇跡って書いた方が見栄え良くありません?」

「意外と俗物的な考え方なのね」

「だってそりゃ、ついこの前までピチピチのJK――おっと、女子高校生でしたからね☆」

「まぁ暇潰しにでも来なさい。後悔はしないから」

「そうね――考えてみる」

 

 #####

 

 

 六月十六日

 

 今日はスケジュールが合わないとかで自由な日になった。

 なので昨日、色々疲れるようなことをしてしまった森近さんに埋め合わせしようと香霖堂に行くことに。

 店に入ると森近さんが椅子に座って本を読んでいたので、挨拶して「何かお手伝いさせてください」と言うと「気にしてないけど、分かったよ。是非頼む」とのこと。

 で、一日店の中の商品の片付けと売り子をやった。

 商品のリストを作って、最近慣れたパソコン操作を活かしてビラを作製。で、それを森近さんの店にあったコピー機と紙で印刷。

 本日大特価! と銘打って人里で配って――とやってたらかなり繁盛した。

 森近さんが目を丸くしてた。こういうのって楽しいね。お店屋さんごっこみたいで。

 あと売り子してる時によく「偉いねー」って撫でられた。ふふん。

 それから、店を閉めてから森近さんの肩を揉んであげてる時に不意に森近さんにこう言われた。

「フラン――キミ、商売をする気はないかい」

 どういうことか聞くと私には商売の才能があるらしい。元々、趣味程度に店を開いていた森近さんだそうだが、今日の働きを見て商人としての食指が動いたとか。

 それで商売をしてみないか、という発言に繋がったみたいだ。

「勿論、キミがアイドルをやるという事は理解している。だから暇な時で構わない。バイト代も出すから香霖堂で働いてみないか?」

 うーん……面白いからやってみたいけど。やっぱり今は考えにくいかなぁ。

 とりあえずライブが終わってから考えても良いか、と言うとそれで構わないと言ってくれた。

 どうしようかなー。

 

 #####

 

「霖之助さんがそう言うって事は本当に繁盛したのね」

「……ところでなんですけど、森近さんの好みって何でしょうね」

「本当に唐突ね、どうしたのよ?」

「いや、フランさんって合法ロリですよね。でも中身は五〇〇年以上の熟女要素もある」

「別に霖之助さんはそんな気持ちで誘ってないでしょ。つかそんな気持ちで誘ってたら軽く引くわよ。魔理沙は八卦炉捨てるだろうし私は今持ってる巫女服全部捨てるわ。全部森近さん製だし」

「霊夢霊夢、それ軽く引くってレベルじゃないと思うわ」

「まぁこんな些細な話が名誉毀損とかになったりするし深く話すのはやめときましょう。ほらほら次のページ」

 

 霊夢はそう言って次のページをめくる――。

 

 

 




 

 今回出てきたネタ
・ティンときた(アイドルマスターより)
・魔理沙パソコンに強い説(正直有りそうな気もする)
・今日も一日頑張るぞい!(New Gameより。ハッカドールで先にネタにされてたけど個人的にはハッカの方が好きだったり)
・石仮面(ジョジョより)
・ムジュラの仮面(ゼルダの伝説、ムジュラの仮面より)
・ゲコたの仮面(とある科学の超電磁砲より)
・ハハッ!(夢の国の鼠、名前を書いてはいけない)
・変態こーりん(東方二次創作ネタ)
・元気百倍!(アンパンマンより)
・ボクはキミの中の希望を愛しているよ……(ダンガンロンパ2より狛枝凪斗のセリフ)
・フナッシィイイッッ!!(ふなっしー、あの奇声絶対喉メチャクチャ使うと思う)
・その幻想をぶち殺す!(とある魔術の禁書目録より上条当麻の決めゼリフ)
・ちくわ大明神(2ちゃんねるなどで使われる。ちくわ大明神、誰だ今の、というようにいきなり使われるのが特徴)
・嘘だッッ!!(ひぐらしのなく頃により)

 今回小ネタとはいえネタ多いな……。



 

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