フランドールの日記   作:Yuupon

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六月編3『フランちゃんの音楽教室』

 

 

 

 六月八日

 

 

 昨日、一昨日とルーミアちゃんの件で疲れた。

 なんか身体が怠い。おかしいなぁ、再生力落ちた?

 新しく把握したばかりの『無かったこと』にする力を何度も使ったせいか分からないけど、寺子屋もやる気が出ない。

 あと、雨も降ってるし。ほら吸血鬼って流水が弱点だから雨も浴びるだけで全身がジュージュー言いながら灰になっちゃうのよ。

 まぁ傘差せるから雨は雨で好きだけど、毎年この時期になると梅雨入りってこともあってうんざりちゃうよね。

 個人的にはやっぱり曇りが一番好きです、うん。

 まぁ今日は全体的に平和な日だったよ。偶にはこんな日も良いね。

 

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「梅雨かー……毎年魔理沙が元気になるのよね」

「へ? なんでですか? 雨ってうざったくて……後透けるのに」

「その反応は透けたことあるのね……人前で。それはともかく魔理沙ーーアイツって魔法の材料に得体の知れないキノコを拾ったり生やしたりしてんのよ。それでこの季節はキノコの成長促進にピッタリだ、って」

「キノコねぇ……うちも咲夜が偶に仕入れるわね、松茸。個人的には炊き込み御飯が好きだけど」

「……チッ、サラッと高級食材の名前を出さないで欲しいわね。ブルジョワは黙ってなさい」

「当たり強くない? なんなら今度招待するわよ?」

 

 その瞬間時が止まった。

 霊夢の嫌味っぽいなこいつ、という顔が瞬時に満面の笑みに切り替わったのだ!

 

「……前言撤回、アンタ金持ちだけど良い子ね! いつにする? ねぇいつにする!?」

「ええい抱きつくな頭を撫でるな! 手のひらひっくり返り過ぎじゃない!? あと本当に感謝しているなら子供扱いはやめてレディーとして扱いなさい!!」

「……なんかそのセリフ暁みたいですね、ちょっとレミリアさん。『一人前のレディーとして扱ってよね!』って言ってみてくれませんか?」

「言わないわよ! なにその背伸びしたがる子供キャラ!? 一緒にするんじゃないわよ!」

 

 うがー! とレミリアのツッコミが冴え渡る。

 しかしなんだかんだ撫でられている彼女の口元は緩んでいるのでそれほど嫌がっていないらしかった。

 一方、

 

(……レミリアさん可愛いなぁ、……あとで私も撫でよっと)

 

 その様子(レミリアを撫でる霊夢)を見ていた早苗はあとで自分もやろうと決意していたーー!

 

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 六月九日

 

 今日は紅魔館にお客様が来た。

 ルナサさん、メルランさん、リリカさん。プリズムリバー三姉妹だ。

 どうやら前の約束を守る為に来てくれたらしい。

 早速お姉様を呼んで、あとはめーりんとパチュリーと小悪魔さん――それから咲夜と妖精メイド達。おまけにホフゴブリン達とチュパカブラを連れて演奏を聴くことにした。

 演奏は凄かったよ。盛り上がる曲とか静かな曲とか色んな曲を演奏していた。一曲一曲終わるたびに皆拍手してたし。

 お姉様も「貴女達、紅魔館で働かない?」と勧誘してたしかなり楽しんでくれたんじゃないかな?

 まぁ断られてたけどね。

 ただしばらく私の音楽の先生をやってくれるらしく、滞在してくれるとのことだった。「その間に私達を住ませたいと思わせてみてくれよ」というのがルナサさんの言葉だ。お姉様もちょっとやる気になったらしい。

 あと、それに伴って暫くの間めーりんの修行は中止になった。滞在は一週間ほどなので「小休止としましょうか」とめーりんから提案してくれたのだ。ありがとうめーりん! 

 その分音楽を頑張ってみるよ!

 

 

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「……どういう風の吹き回し? アンタが他人を紅魔館に誘うなんて珍しい」

「別に……あの三人がいれば暇を潰せると思っただけよ」

「ちなみに勧誘の結果はどうなったんですか?」

「…………」

「あのー、レミリアさん?」

「…………(汗)」

「どうしたんですか? 成功したか失敗したか答えるだけなのに」

「……早苗、アンタ偶に空気読まないわよね。察してあげなさいよ」

「いえ、違うんです霊夢さん。多分失敗したんだろうなーと予想はついてるんですけどほら、レミリアさんって反応が面白いからついつい虐めたくなってしまって……てへ♪」

「……虐めたく? ……オイ、風祝――貴様覚悟は出来ているか?」

「マジボイスやめて下さい! ちょ、ちょっとしたスキンシップですよ! レミリアさんが可愛くてつい!」

「……ハァ、もう金輪際そういうのはやめて欲しいわ。じゃないと私の恐ろしい真のパワーを見ることになるから」

「レミリアレミリア、ラスボスっぽいオーラ放ってるところ悪いけどちょっと涙出てるわよ? う、うぅぅー! って叫び出す手前だったのが丸わかりよ?」

 

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 六月十日

 

 早速今日から音楽の勉強だ!

 ということで最初はリリカさんによるピアノ指導が始まった。

 まぁせっかくグランドピアノとかアップライトピアノがあるしね。有効活用しないと。

「じゃあまずは練習なんだけど、例えば弾きたい曲とかある?」

 ピアノの前に座ると、普段はキーボード担当のリリカさんが尋ねてきた。弾きたい曲か――まああるよ。実はずっと昔に弾けないけど、遊びのつもりで作曲した楽譜がある。

 存在すら忘れ掛けてたけどね。それに音楽のことを知らずに作ったからかなり本職からみたら拙いと思うけど……。

 

「これ? 『魔法少女達の百年祭』?」

 

 うん。二つ作ったうちの一つで一番最初に作ったやつ。弾けないけどピアノに触れたことはあるし、吸血鬼の鋭敏な感覚は絶対音感レベルまで聞き取れる。だからこそやってみたら出来ちゃった曲なんだけど……どうせなら弾きたい。

 そんな思いでお願いすると「でもこれ初心者には難しいよ?」という返事が返ってきた。

 でもやりたいのでもう一度お願いすると「分かったよ」と折れてくれた。

 ……そういえば今更だけど、リリカちゃんってソロでも活動してるんだよね。だから大抵の楽器が弾けるとか、あと人里でファンクラブがあるとか。そんな人に教わってるんだよなぁ。

 無理を聞いてもらったし頑張らないと!

 

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「絶対音感って言ったって順番違いませんか、これ?」

「どういうこと?」

「いや……だってパソコンみたいな音楽ツールも無しに弾けない人が作曲って中々出来るもんじゃないですよ。それに魔法少女達の百年祭は聞いたことありますけど、あの完成度をとてもとても素人が作れるとは思えないですが……だから順番がおかしいと思ったんです」

「出来ちゃったんだから別に良いんじゃない?」

「そう、ですかね。部活とはいえ音楽に携わっていた身としてはツッコミ所があるんですけど」

「そもそもこれまでの話が基本ギャグじゃない。ツッコミどころなんて今更よ今更。そもそもこの世界自体シュールギャグだし」

 

「……ねぇ、風祝」

「何ですかレミリアさん、あと私のことはお姉ちゃんと呼んで下さい」

「お、……い、言わないから! それよりも霊夢って時々電波な発言しない?」

「それは同意します。まぁそれも霊夢さんの個性ですし」

「いや、個性じゃないから。変な勘違いしないで欲しいんだけど」

「いやいや。別に私達は構いませんよ?」

「まぁ、ちょっと気になるって程度だもの」

「……いや、その妙に生暖かい目をやめなさいよ」

 

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 六月十一日

 

 

 意外にやれるもんだね。

 一日目で魔法少女達の百年祭は単に両手を使うだけでなら弾けるようになって、二日目はより多くの手を動かして弾けるかというところに集中した。というか数時間もやってたら手をバラバラに動かすことに慣れてきた覚えがある。ただ一つだけネックがあって、手が小さくて届かない箇所がある点だけど――それは吸血鬼のスピードで何とかなった。

 というわけで今日は二曲目の『UNオーエンは彼女なのか』を練習することに。こっちは比較的最近かな。アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』を読んでから作ったし。

 こっちはもっと早く弾けるようになった。

 昨日ので手の動かし方に慣れたからか、三姉妹からも「才能あるよ」と言われた。

 明日はこれら二曲の練習をして――それからメルランさんが『トランペット』を教えてくれるらしい。

 よろしくお願いします!

 

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「……案外早いのね」

「……意外と出来るものなんですよ、レミリアさん。私も初めてピアノに触ったとき、五時間くらい好きな曲を練習してたらそこそこ弾けるようになってましたなのでよく分かります。とは言っても本当に両手が使えてる程度で拙いことに変わりはありませんけどね」

「経験者が言うとなんかそれっぽいわね」

「『なんか』ってなんですか霊夢さん! これでも放課後ティータイムの皆とライブやったり、例の転校生と文化祭で歌ったりしたんですよ?」

「早苗早苗、なんか世界線ごっちゃになるからやめときなさい」

 

「……また電波入りましたよレミリアさん」

「そうね。また、ね。何なのかしらアレ」

「シッ、聞こえたら彼女、ブチ切れますよ?」

「――聞こえてるわよ。二人まとめて退治して欲しいの?」

「やめて下さい死んでしまいます!」

 

 なんか博麗の護符を構えた霊夢を見て危険を悟った早苗はそう叫んで、次のページをめくった。

 

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 六月十二日

 

 プープー。

 トランペットってコツ掴まないと上手く音さえ出ないね。

 難しいや。ちなみに使ってるのは紅魔館にあったやつです。

 ピアノはともかく弾けば弾くほど上手くなるって話だから今後もやっておくとして――トランペットって中々教わる機会無いよね。

 やっぱり難しいなぁ。ようやくコツを掴んでどの音も出せるようになる頃には夕暮れになってたよ。

 あ、そうそう。とりあえずそこでトランペットは一旦切り上げた。

 それから歌の練習をすることに。

 音楽といえば歌らしい。なんか三人とも私の声はかなり『歌い手』というか『歌手』に向いてると思っていたようで凄い勢いでやってみてと言われた。

 とりあえず歌ったよ。歌い終わってから見ると三人とも口を開けて放心してた。

 えっ? もしかして酷かった? そんなことを思っていると「私達の音楽団に入らないか!?」とルナサさんが言ってきた。

 とても良かったらしい。是非歌手として入って欲しいと他の二人からもお願いされた。うーん、どうしよう。

 歌うってお仕事だよね? 歌手? アイドル? それは分からないけど。

 

 ――そういえばアイドルといえば前に地底のアイドルの黒谷ヤマメさんのところに魔理沙と二人で行ったなぁ。あの時は大勢の前に立ったときに話せなくなる――コミュ障を治すためだったかな。

 結局解決してなかったっけ? あと魔理沙がアイドルをやるなら『プロデュースするぜ』とか言ってたような気がする。

 アイドルにせよ歌手にせよ仕事って大切だからちゃんと考えて答えないとね。一旦返事は保留にして、明日魔理沙にアドバイスもらおっと。あと咲夜とめーりんにも。

 じゃあ今日は眠いし寝よっと。おやすみー!

 

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「――これが後に幻想郷のアイドルと呼ばれるフランちゃん爆誕のキッカケであったことをまだ誰も知らない」

「……なにナレーションしてんのよ早苗」

「いや、何となくやりたくなりまして。にしてもこれがキッカケだったんですねーー初めて知りました」

 

「……そういえばアイドルには私も勧誘されたわね。まだ返事してないけど」

「レミリアさんもですかー。まぁ美少女姉妹っていかにも売れそうな設定ですからね。しかも片や運命を操り、片や破壊を司るとかーーどんだけキャラ濃いんですか二人とも」

「奇跡で何でも解決出来る上に髪が緑色のアンタには言われたくないわよ。あと風祝でありながら神なんでしょ? 充分濃いわ」

「言われてみると……そうかもしれません。となるとこの三人だと意外に霊夢さんが一番普通……なんですかね? それでも黒髪黒目の美少女っていう正統派ジャンルですけど」

「そうね。余り興味は無いけど」

「……なんか奇跡が私に囁いたんですけどそれ、嘘ですよね? よく分からないのでそのまま言いますが、『人気投票気にしてるあたり』滅茶苦茶気にしてますよね?」

「……古明地こいしは倒した。一位は私の指定席……そう、そうよ」

 

「れ、レミリアさん。なんか霊夢さんがブツブツ呟き出したんですけど!?」

「ほ、放っておきましょう。つ、次のページ」

「分かりましたレミリアちゃん!」

「今どさくさに紛れてちゃん付けしなかったかそこの風祝!?」

「気のせいです!」

 

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 六月十三日

 

 私、アイドルになります。

 なんか今日は疲れたから明日に細かく書くよ。

 ……うん、一言言わせて。

 どうしてこうなった。

 

 #####

 

「短っ!? そして何が起きたんですかこれ!?」

「どうしてこうなったって私が聞きたいわよ! ともかく次のページをめくりなさい風祝!!」

「分かりました! お姉ちゃんに任せて下さい!」

「……いや、勝手にお姉ちゃん名乗るな! 私はお前の妹じゃない!」

 

 そしてワーワーと騒ぎながら早苗とレミリアは開いたばかりのページをすぐにめくる――――。

 

 

 

 

 




 

 今回出てきたネタ
・暁(艦隊これくしょんより。ちなみに話はズレるがこの素晴らしい世界に祝福を! の作者の暁なつめ先生の暁もこのキャラから取られたらしい)
・魔法少女達の百年祭(東方紅魔郷EX道中の曲名)
・UNオーエンは彼女なのか(東方紅魔郷EXボスの曲名。つまりフランの曲)
・早苗さんのネタ(お姉ちゃんと呼んで=ごちうさ。放課後ティータイム=けいおん! 転校生=涼宮ハルヒの憂鬱より。早苗さんの学校ってなんだろうね(白目))
・東方人気投票(東方キャラのナンバーワンを決める投票。こいしが一度一位を取ったがそれ以外の全ての投票で霊夢は一位を取っているため指定席と揶揄されることがある)

 そういえばレミリアって早苗さんのことなんて呼ぶんだろう……。今は風祝呼びだけど。

 


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