ちょっと今回変にシリアス入ってますが次回から元のほのぼのギャグ路線に戻します。
六月四日
寺子屋!
うん、もう特筆することはない。今日は普通の授業だった。
歴史って面白いよね。
特に日本の戦国時代って物語みたいだし。今川義元率いる大群を少数の奇襲で打ち破った織田信長。で、その信長の元で武将をやってた元農民の豊臣秀吉――最後に関ヶ原で石田三成率いる西軍を打ち破り天下をモノにした徳川家康。
なんか、一人一人が面白いね。エピソードとかもさ。
でも個人的にはやっぱり真田幸村が好きかなぁ。でもでも天才軍師で知られる竹中半兵衛とか黒田官兵衛も捨てがたい。……そういえば武将ってパソコンのゲームだとやたらかっこいい絵柄なんだよね。
時代的には私も戦国時代が始まる前に生まれたし、その時から知ってればなぁ……ちょっかい出してやったのに。
『忍者』だとか言ってれば飛んでも疑問に思われなさそうだし。
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「アイエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」
「……何よ早苗、いきなり叫び出して」
「いや、忍者ってワードを聞くとついやっちゃうんですよ。特にこの場だと私しかネタ知らなそうですし」
「……なんの使命感でやってるのかしら? それは」
「察してあげなさい、レミリア」
「…………ううむ」
「まぁまぁそんなことはどうでも良いじゃないですか! ところでお二人は好きな武将っています?」
「好きな武将? そうね……私は――戦国時代だと武将じゃなくて商人だけど、納屋助左衛門かしら? あの時代に台湾、ルソンの壺のあの目の付け所が参考になるわ。結果的には秀吉の怒りを買って私財を奪われるけど、そのあとに海外でまた大金持ちになってるし」
「あぁー……なんか予想の斜め上の答えですね。で――レミリアさんは聞かなくてもいっか。次のページいきましょう」
「いや待ちなさいよ!? なんで聞かなくて良いの!? カリスマたる私の意見が聞けるチャンスなのよ?」
「だって、レミリアさんはどうせ伊達政宗が好きっていうんでしょ? かっこいいですもんね独眼竜。生まれさえ早ければ天下取りに関われたかもしれない片目の天才武将」
「な、……なにをいってるのかしら? 私が伊達政宗と答えるワケがな、ないじゃない?」
「レミリアレミリア、声が震えてるから変に意地はるのやめなさい。伊達政宗で良いじゃない。尊敬出来る人よ伊達政宗は」
「…………分かったわよ。伊達政宗が武将の中で一番好きよ!」
「いや、そこで流される素直さを見せるのもどうかと……」
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六月五日
修行は上々だ。
最近は封印状態でめーりんと肉弾戦をしている。とはいえ勝ち目はほばない。ボコボコにされては怪我を能力で破壊――つまり『無かったこと』にしてリザレクションしてはまた立ち向かう。
気を纏い、弾幕をグミ打ちしたりビームにしたり。それから拳で殴る殴る殴る!
この組手のルールは簡単だ。殴り飛ばされて立てなくなったら一敗判定となる。一度戦うたびに私は自分の怪我を無かったことにしてまた立ち向かってるわけだ。
で、また負ける。やっぱり何百年もの修行差は大きい。師匠はそう簡単に超えられないね! やっとの事で掠るのが精一杯だ。
今日の結果は0勝、二四敗。
あぁーーーーーー『また、勝てなかった』
そういえば話が変わるけど午後に魔法の森を歩いてたらルーミアちゃんの頭の『リボン』が落ちているのを見つけたよ。
多分落としたんだろうね。明日は寺子屋だし返そっと。
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「あの封印状態ってなんですか?」
「運動能力が人間レベルまで下がるらしいわ。妖怪としての種族の力を封印するものだとか」
「……その状態で素の美鈴さんに肉弾戦で攻撃を掠らせることが出来るってかなり凄いんじゃ?」
「……そうね、封印が無ければ肉弾戦で勝てるんじゃないかしら? まあ美鈴も本気は出してないから何とも言い難いけれど」
「そうですかーーって霊夢さんどうしたんですか? さっきから黙り込んでますけど」
「……ルーミアのリボンが落ちてた? 確か先代巫女――母さんが封印したと……まさか?」
「どうしたんですかいきなりシリアスな顔して」
「……気にしないで。次のページを読みましょう」
「? 分かりました」
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六月六日
ちょっと今日の日記は日記らしくなくて、ついでに長くなることを先に書いておくよ。
昨日のリボンを返してあげよう――と、そんな気持ちで寺子屋に行くとルーミアちゃんが休みだった。
慧音先生に聞いても『何も連絡は来てない』とのこと。ミスティアちゃんが「風邪かな?」と言っていた。
それで、心配になった私は落し物を届けがてら寺子屋が終わってからルーミアちゃんの家に行くことにしたんだ。
ルーミアちゃんの家は魔法の森にあるらしい。
大きな木の枝にあるツリーハウス。入り口は木の上だけど、ツリーハウスの中から木の中に繋がっていて、木の中まで生活空間になっているらしい。木が枯れないのかな? と思ったけど妖力でなんとかしているとか。流石妖怪。あ、私も妖怪か。
ともかく行ってみると目的の家はすぐに見つかった。
コンコン、とノックして中に入る。中は暗闇に染まっていた。外の光が部屋の中に射し込んでも暗闇のまま。
……さてはルーミアちゃん闇を操ってるな。とりあえず無事そうで一安心。あとは軽く一声掛けてから帰ろうかな、と思っていると暗闇の中から『ルーミアちゃん』の声がした。
「フラ、ンちゃン?」
「ルーミアちゃん大丈夫? 風邪? あとリボン落としてたから拾って持ってきておいたよ」
そうやって声をかけると暗闇がふらりと揺れた。もしかしたらルーミアちゃんはベッドに寝ていて、今立ち上がったのかもしれない。そんなことを考えていると、闇の中から悲鳴のような声が上がった。
「リボンーー? 封印……アァ……!! フラン、ちゃ……逃げてッ!!」
「えっ?」
瞬間だった。私の手の中のリボンがまるで意志を持ったかのように浮かび上がってーー暗闇に消えた。
逃げて? どういうことだろう。言葉の意味を測りかねていた私は暗闇に手を伸ばして声を掛けようとした。でも――それは出来なかった。
伸ばした手が斬られて落ちたからだ。
ボトリ、と手首から先が落ちた。そして――ソイツは落ちた私の手を拾い上げ暗闇の中からヌゥッと姿を現したんだ。
「ク、……フフッ。何年ぶりかしらね、封印が解けたのは」
現れたのは金髪のお姉さんだった。
何処かルーミアちゃんの面影がある。しかしその内包された妖力の差が半端ではなかった。
仮に、ルーミアさんと書いておこう。そのルーミアさんの頭の上には先程私が持っていたリボンが丸い輪っかのようになって浮いていた。その背には漆黒の翼が生えーー右手に聖者の十字架を変形させた大剣と左手には球状に集めた闇の魔力を手にしている。
そして――口には先程落ちた私の手が咥えられていた。グチュグチュと彼女の口が咀嚼するように何度か動く。まるでガムを噛み潰したような音だった。時折骨のポキポキという音も聞こえる。どうやら彼女は私の手を食べているらしかった。
やがて――ごくんと呑み込んだ彼女は、口の中に残った骨を唾のように横合に吐き捨てる。噛み砕かれ、唾液にまみれたぐちゃぐちゃの骨片が部屋の隅に落ちた。
「お腹が空いてたから食べてみたけど、人肉と違って妖怪の肉はそれほど美味いモンじゃないのね。聞いた話じゃ脂肪が少ないとか酸っぱい味とかするとかウワサだったけど、なまじ人間より耐久性あるせいか繊維の束を千切ってるみたい」
「……貴女、何者? ルーミアちゃんじゃないよね?」
「手を食われても案外動揺してないのね。私はルーミアよ? それも本来のね。先代の博麗の巫女に封印されてからはずっとーー貴女がいうルーミアちゃんだったけどね」
口の端から垂れた血液をペロリと舐めとって、ルーミアさんは妖艶な笑みを浮かべる。
それほど封印が解けたのが嬉しいらしい。斬られた私の手はもう修復完了していたので問題は無い。けれどこの状況は不味かった。
別に負けるとかそんな話じゃなくて――話ぶりからしてどうやら目の前のルーミアさんが危険な妖怪だからという点だ。
このまま彼女が放置していれば間違いなく八雲紫がルーミアさんを始末する。そうなればルーミアちゃんはもう――。
それに問題はまだある。幻想郷は弾幕ごっこがルールであり、本気の殺し合いなど認められていない点だ。それを破れば幻想郷を守護する八雲紫は問答無用で動く。その自信が私にはあった。
つまり――弾幕ごっこをせずに本気で止めることをすれば私が八雲紫に始末され――逆に何もしなければルーミアちゃんがルーミアさんごと始末されてしまう。
目の前のルーミアさんは弾幕ごっこなんて絶対に守らないだろう。だからこそ今ここで――私が止めなくてはならないのにそれが出来ない。
(どうしよう)
正直、止める方法はいくつもある。
力づくでも良いし、能力で止めてもいいし。でもそれをやったら八雲紫さんが怒る。というか始末しにくる可能性が高い。
せめて封印が出来れば良いんだけどそんな技術は持ってないし。
と、そこで一つ名案が浮かんだ。そうだ、簡単な話じゃないか。
(封印が解けた事実を無かったことにすればいいじゃないか!)
早速やってみようーーとしたけど上手くいかなかった。
理由は簡単だ。私の力は概念とか、事実すら壊すことが出来る。
けれどそれは一つ前提があったのだ。
例えば怪我した事実を無くしたって前に書いたよね? あれは――その怪我はいつのものかとか、ちゃんとその事実というものを把握している上で私は能力行使して、壊してるんだよ。
けれど今回はその情報がない。いつどこでどのようにしてルーミアちゃんの封印が解けたのか――それが分からない。ようは壊す対象を知らなければ壊せないのだ。
……だけど、一つだけ妙案が浮かんだ。
(テレパシーだ。目の前のルーミアさんの中にいるルーミアちゃんにテレパシーで聞けば――)
先ほどの口ぶりからしてルーミアさんは私を知っているようだった。それ即ち、封印されていても意識は残るということに他ならない。つまりルーミアちゃんの意識も彼女の中にある筈なのだ。
それを前提に何度も何度も私は心の中で呼びかける。すると雑音と共に小さなルーミアちゃんの声が聞こえてきた。
そしてその声は話し始める。封印が解けた理由。そしてその出来事を。私はその言葉に耳を傾ける。同時に――私はルーミアさんにも語りかけていた。
「復活して――何をする気?」
「人里を襲う。そうそう寺子屋なんてものもあったわね。アレも潰すわ。そもそも間違ってるのは私じゃなくてーー貴女だもの」
「……私が間違ってる? なんで……って聞いていい?」
「妖怪は人間を襲い、人間は妖怪を恐れ――退治しようとする。これが本来あるべき姿に関わらずこの子を含め最近の妖怪は人間の中に溶け込もうとしている。封印された後――ずっと私はこの子の目を通してこの世界を見てきたわ」
「だからって人里を襲うのは極論だと思うよ。それこそパワーバランスが崩れてしまう。それこそ幻想郷の終焉を推し進めることになるわ。そんなの私だけじゃなくて世間も許さない――それに八雲紫も」
「文句があれば掛かってくれば良いのよ。本来、弾幕ごっこなんてもので勝敗を決めて良いわけがない。そもそも最近の人間共も人間共で私達女妖怪をマスコットか何かと勘違いしているしね。一度大きく失えば二度とそうはならないわ」
「その喪失が全て壊すことになっても良いと?」
「えぇ。貴女が先程言った世間という言葉を使うなら、それが妖怪――世間の同一思想に他ならないわ」
「……それは違う。現に私は」
「世間というのは、君じゃないか。太宰メソッドよ。それは貴女の意見に過ぎない」
「それを言うなら貴女もでしょう?」
「そうよ。だからこそ話は平行線――何も変わらないし何も進まない。かくなる上は命を懸けて証明するしかないでしょう? 貴女か、私か。どっちが正しいのかを」
それは駄目だ、と私は思った。
ここまでルーミアさんとの会話をしてきて実はちょっとは淡い期待も抱いていたんだ。
もしかしたらーー話せば分かるんじゃないか? 共存という道を選べるんじゃないか?
でもそれは幻想だったらしい。幻想じゃないにしても私には無理だった。努力すれば届いたかもしれないけど――それをしない怠惰を私は選んだ。
「分かったよ」
私が選んだのは全てを元に戻す道だ。
ここまで話すまでにルーミアちゃんから全ては聞いていた。だからこそ――今度は『なかったことに出来る』。
「……ルーミアちゃんの封印が解けた事実を――」
右手を突き出し、そっと拳を握り締める。
「――無かったことにした」
……これ以上は書きたくない。別に後に残す話じゃないしね。
私がしたのは単にルーミアちゃんの封印が解けたことを無かったことにしただけ。また万が一にでも封印が解ければまたあのルーミアさんが出てくると思う。
そしてその事実が無かったことになっていることはルーミアちゃんも覚えているはずだ。
…………もう、今日は寝よう。
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「……やっぱり、ルーミアの封印が」
「霊夢さん、これって――」
「……無かったことを話しても仕方ないわ。次のページをめくりましょう」
「でも……」
「良いの。次をめくって、お願い」
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六月七日
驚いた。
ルーミアちゃんが紅魔館に来た。
どうやら見せたいものがあるらしい。
昨日のこともあって、なんだろうとちょっと身構えてしまう。
で、ルーミアちゃんがおもむろにリボンを取った。
あの、リボンを取った。
驚いたよ。本当に心の底から驚いた。昨日の話だとルーミアちゃんはリボンを外すことが出来ない筈なのにいきなり、そんなのは死に設定だオラァッ! って感じに鷲掴みにして投げ捨てたから。
ともかく私は臨戦態勢になった。だってそりゃ当たり前だ。昨日のことを考える限り危険極まりないもん。
でも、出てきたのはなんか違ってた。
「あー、なんかゴメンね? 実は昨日新月だったでしょ? 久々に復活したせいもあってついついハッスルし過ぎちゃって……ちょっと酒酔いじゃないんだけど闇酔いしててつい人里滅ぼすって言っちゃったのよ」
誰だこの人は。あと闇酔いってなんだ。
それから曖昧な顔でゴメンねー、と軽く言う目の前の美人さんは誰なんだ。
私、こんな人知らないよ? いきなり腕切り落としてきたあの人はどこなの?
「本当にゴメンね? 痛かったよね?」
あ、いや、はい。
なんか一日経ってルーミアさんが滅茶苦茶優しいお姉さんになってた。どういうことよ? 意味不明だよ!?
「いやー、前に封印されちゃったのも新月にハッスルし過ぎたのが原因でさー。巫女にゃん――あっ、これ先代の博麗の巫女なんだけど一緒に酒飲み過ぎて酔っちゃってさ、ノリで巫女にゃんが私を封印しちゃったのよ。ゆかりんも笑ってるばかりで封印解いてくれないしさー、それで昨日までルーミアちゃんだったわけ。ちょっと良い加減怒りが溜まってたのを表に出しちゃってて。本当にゴメンね?」
なんだこの軽い人!?
本当に同一人物なのだろうか。
ともかく話を聞くと、今後はルーミアちゃんが基本表だけど時折ルーミアさんが出る形で話はついているらしい。
ということでじゃーね! とルーミアちゃんに戻り、言ってから帰ってったけどなんだったんだろ……。
何にせよ和解出来たならハッピーエンド……なのか?
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「さっきのシリアスを返して」
「……なんでしょう。このシリアスから無理やりギャグにしようとして微妙な空気になってる感じ」
「……もう、何も言えないわ。というかコメントしたくないわ」
「……とりあえず、次のページいきます?」
「「うん」」
見なかったことにしよう。
三人はそう結論付けて次のページをめくることにした。
今回出てきたネタ
・戦国時代(大体安土桃山あたりの人を出した。多分一般的に認知されてないのは納屋助左衛門だけだと思う)
・アイエエエ!!(ニンジャスレイヤーより)
・グミ打ち(ドラゴンボール、ベジータより)
・また、勝てなかった(めだかボックスより球磨川禊の口癖。また、彼は無かったことにする力を持っていたりと若干フランの能力の拡大解釈の礎になってたり)
・EXルーミア(東方の二次創作ネタ。紅魔郷のテキストに実は髪の毛に巻いているリボンはお札でルーミアは触れられないーーと書いたあったことが元で生まれた)
・太宰メソッド(太宰治の人間失格より)
次回はほのぼの(確約します)