フランドールの日記   作:Yuupon

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 予告通り閑話+一話です。
 六月編開始じゃい!!


 


六月編
六月編1『レミリアの受難』


 

 

 

「……ここで五月が終わりか」

 

 開きっぱなしの日記をテーブルに置き、霊夢は呟いた。

 ふと紅魔館の時計を見ると読み始めてからもう少しで一時間が経とうとしている。偶々フランが落とした日記を読んでいるのだが、そろそろ時間的にも彼女が日記を落としたことに気付いた頃だろう――そう巫女の勘が働いた霊夢は二人に対し声を上げた。

 

「ねぇ、そろそろフランが戻ってくる頃だと思うんだけどどうする?」

「んー……そうですね。じゃあ私の奇跡で何とかしましょうか?」

 

 すると机の上に胸を乗せて頬杖をついていた早苗が提案する。「何とかできるの?」と霊夢が尋ねると彼女は、「はい、多分ですけど出来ますよ」と答えた。

 

「それじゃあお願い。レミリアもそれで良い?」

「任せるわ」

「はい、じゃあ何とかやってみます。とりあえず今フランさんがいる場所はーー」

 

 むー! と首を傾げた早苗は奇跡の力を行使してフランの所在を調べていく。とは言っても特に不思議なことはない。

 頭の中に幻想郷中の場所を思い浮かべて、適当に一箇所を選ぶだけだ。本来、それはもはや奇跡の範疇にない。幸運などの項目に当てはまる行為だが――神に愛された奇跡の風祝はその『奇跡』を引き当てる。

 

「出ました! 多分、にとりさんの所です!」

 

「……あの霊夢、フランの能力も大概だけどこの緑カラーの能力も十分壊れ性能じゃない?」

「全てを奇跡で片付けられるからね――ま、巫女の勘でも似たことが出来るから余り特殊って感じはしないけれど」

 

 早苗が目の中に星を浮かべお祓い棒を振って『出ました!』という裏で二人はコソコソ話す。

 そんなことは知らない早苗はiPhoneを取り出し、何処かへと連絡していた。

 

『あ、もしもしにとりさんですか? 私、早苗です。今、そちらにフランさんって居ます?』

 

 フランの所在を尋ねると電話口から『居るけど何か用かい?』というにとりの声が返ってくる。

 ビンゴ! 早苗は内心ガッツポーズした。

 

『やっぱり! ちょっとフランさんに代わって頂いてもよろしいですか?』

『あぁ、分かったよ』

 

 承諾から数秒後、一瞬ザザッという雑音と共にフランの声が響いた。

 

『あ、今――代わりました! 何の用ですか早苗先生』

『今は仕事中じゃないからお姉ちゃんって呼んでも良いんですよ? フランちゃん! あ、そうだ要件なんですけど、今にとりさんのところに居るんですよね? ちょうど良かった! 私、今ちょっと紅魔館にお邪魔させてもらってるんですけど、ちょっと事故でレミリアさんのベッドにダメージを与えてしまったので修理をお願い出来ませんか?』

『お姉ちゃん呼びはしませんよ……あと、そんなことでよければすぐに向かいます。お姉様のベッドですよね?』

 

 うんお願い――早苗は返事をして電話を切ると、せいやー!! と思い切りレミリアのベッドを蹴り飛ばす。

 先程窓を突き破って入ってきた時に一番ダメージを受けていた足の部分を蹴り飛ばした瞬間、メキメキメキィ!! と明らかにしちゃいけない音がレミリアの天幕付き最高級ダブルベッドから鳴り、真ん中から真っ二つに割れた。

 

「あ゛ああ! 私のベッドがあああッ!!」

「よし、これで時間稼ぎ出来ますね。ほらほら日記を隠してください」

「……アンタ、意外にこういう時は悪魔なのね」

「現人神に対して悪魔とは失礼ですね! どうせ修理されるんですからちょっとくらい大丈夫です。寧ろ機転を利かせたことを褒めてください!」

 

 サラッとベッドを真っ二つに粉砕されたレミリアは「あ゛あ゛あ゛!!」とか何とか叫んでいたが、早苗が正面から抱きしめて顔を胸に埋まらせることで強制的に黙らせる。なんか「ムグッ!?」というレミリアの悲鳴のようなものが聞こえたが二人は気にしない。

 その隙に霊夢がフランの日記を服の内側に隠すと、直後にシュンッ!! という効果音と共にフランが現れた。

 

「こんにちは、って凄い壊れ方してますね! 真っ二つってなんですかこれ!? 何したんですか早苗さん!」

「ちょっと奇跡が起きちゃいまして……てへへ。すみません、お願いしても良いですか? 今度人里で甘味奢りますから」

「甘味!? 楽しみにしてます! 分かりました、早速にとりさんの工房に持って行って直してきます! 多分、一時間は掛かるかな……」

「ごめんね、お願いします! あとフランちゃん、私のことをお姉ちゃんって呼んでくれてもいいんですよ?」

「……それはそこで抱きしめられてるお姉様に言って下さい」

 

 そう言って曖昧な笑顔でレミリアを見つめた後フランは真っ二つのベッドを抱えて再び瞬間移動で消えてしまう。

 フランちゃん私、貴女がお姉ちゃんって呼んでくれる日まで諦めませんからね! と早苗が言い返し――ギュッと抱きしめられていたレミリアを離した。その豊満な胸――もといおもちに顔を埋めさせられていたレミリアは「ぷはぁっ! ゲホゴホ! ……こ、殺す気!!?」と涙目で叫ぶ。

 

「……チッ」

「霊夢さん!?」

 

 それを見ていた霊夢が舌打ちしたのはともかく。

 しばらくフランを追いやることに成功した三名は改めて六月のページを開き直した。

 

「さて、読みましょうか。お二方!」

「その前にベッドを壊されたり乳圧で殺されかけた私に何か言うことはない!? いい加減腹も立ってるのよこの緑巫女!!」

「だって日記読みたいでしょう? 必要な犠牲です。それにスカーレット家なら大したことないですよね?」

「大したことあるわ! 当主が殺されかけたのよ!? しかも乳圧で殺されるって不名誉な殺され方をしかけたのよ!? せめて謝るのが常識ってものじゃない!?」

「レミリアさん知ってますかーーこの幻想郷では常識は投げ捨てるものなのですよ?」

「どうでもいいけどいい加減にしてくれない? レミリア、博麗の巫女を怒らせたいの?」

「何で私なのよ!? どう考えても悪いのはこの緑カラーじゃない! わ、私は謝らないわよ!?」

「うっさい。あーもう面倒だから読み始めるわよ!」

「なんでよ!? 不条理じゃない!」

「そっちこそどうでも良いことを延々と引っ張るんじゃないわよ! いい加減このやり取り書いてたら尺がなくなるわ!!」

「あの、尺ってなんですか霊夢さん?」

「もう二人とも黙れーー!! これ以上何か言ったら二人まとめて夢想封印撃つわよ! 知ってるーー幻想郷って博麗の巫女がルールだから! 私の意志でぶっ飛ばしても咎められないのよ!?」

「うわ、スペルカード向けないでください! 分かりました! 分かりましたから!!!!」

 

 物凄い剣幕でスペルカードを構えた霊夢にたちまち二人は黙り込んだ。

 なんか身も蓋もないことを叫んでいたような気もするが、ともかく場を収めた霊夢は六月の一ページ目を開く。

 

 

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 六月一日

 

 

 今日は人里で遊ぶことにした。

 具体的には食べ歩きかな? 普段からお手伝いありがとう御座いますーーって咲夜からお小遣いを一杯貰ってたからそれを使ってみようと思ってさ。

 里のお団子屋さんに寄ってお茶とお団子を食べた。

 いやぁ、美味しかった。普段からこんな風に食べ歩きすることってないから新鮮だし。

 それにお金を使うのも慣れてないのよね。出す時ちょっと緊張しちゃったよ。

 で、そんな風に歩いていると稗田阿求さんって人に声をかけられた。

 どうやら幻想郷縁起ってものを編纂してるらしく、見慣れない私を見て思わず話しかけたとのことだ。

 良ければインタビューを受けてもらえませんか? とのことだったので色々質問に答えた。レミリアの妹だと告げると阿求さんはとても驚いていて「姉妹でこうも違うものなんですね」と言っていた。

 にしても一族で代々編纂か……完全記憶能力を持ってると話してたし大変なんだろうけど本気で頑張ってるんだろうなぁ。

 応援してるよ!

 

 

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「阿求か……そういえばあいつ記憶を代々引き継げることを代償に寿命が短いらしいのよね」

「霊夢さん、いきなり湿っぽい方向に持ってくのやめません? いきなり寿命とか言われてシリアス出されたらコメントし辛いんですけど」

 

「……というか姉妹でこうも違うってどういうことよ。酷く不本意な事を思われてる気がするのだけど」

「そういえば私、幻想郷縁起のフランちゃんの項目読んだことあるんですけど凄いべた褒めでしたよ? 危険度が極低で説明文が『人間妖怪問わず、余程の事をしなければ危険度は皆無。能力こそ危険だが行使する気はあまり無い模様。また姉はあのレミリア・スカーレットだが物腰は柔らかく頼み事も聞いてくれる。様々な才能を持ち、本来敵である宗教への理解も深い。噂によるとあのイエス・キリストやゴータマ・シッダールタとも面会したという』ってなってました」

「なにその評価……妖怪にしては破格の好待遇な書かれ方ね。基本的に人間に手は出さないレミリアも危険度は極高だった覚えがあるのに」

「本当それよね。インタビューをカリスマ全開で答えたからかしら」

 

(……いや、レミリアさんの項目って確か『※ただし普通にしていればただの子供なので存分に甘やかしてあげよう。しかしやり過ぎるとお付きのメイド長がナイフ片手にやってくるので注意』って追記されてた気がするんですけど……)

 

 何だか噛み合わないが、ともかく三人は次のページを開く。

 

 

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 六月二日

 

 

 今更だけど寺子屋って特別講師多いよね?

 まぁそんなわけで今日も来ました。特別講師。

 

「皆、初めまして! 家庭科の特別講師として来ました――アリス・マーガトロイドです」

 

 そんなわけで今回の特別講師はアリスさんだった。

 教室に入ってきた時の皆の反応がすごかったよ。「アリス姉ちゃーん!」「アリスさんだー!」「この前の人形劇楽しかったよー!」「アリス・メガトロンさんだ!」「えっ? アリス・マーガリンでしょ?」「違うよ! アリス・マーガレットさんだよ!」「お前ら本当はアリスさん大好きだろ」「アリスーー! 俺だー! 結婚してくれー!」

 そんな感じにすごーくガヤガヤしてた。

 で、今回の家庭科なんだけど裁縫の授業らしい。今度教えてもらう約束だったけどまさか先に授業で教わることになるなんて思ってなかったよ。

 とりあえず幾つか縫い方を教わった。まつり縫いとかね。それから真っ直ぐ縫ったりする練習をしてから巾着を作ることに。

「そうそう、上手よ」

 アリスさんにご指導頂きながら、どうせだし、と魔力を込めて魔道具にしてやろうと集中してたらなんか出来た。

 なんだろう『袋の中に異空間が繋がってた』。

 ゲームの袋みたいに何でも入る巾着といえばいいのかな? そんなのが完成した。

 まぁ要らないけどね。私異空間幾つか持ってるし。

 ……そういえば森近さんのところで貰った剣とか入れっぱなしだなぁ。ちゃんと使わないと勿体無いしそのうち使うかーー。

 

 

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「なんかもうサラッととんでもないことしてますよねこの子」

「……本当にね。多分こっから更にその方向に加速すると思うと今から頭が痛くなってくるわ」

「異空間……か。まぁその程度なら私にも出来るからまだ許容範囲内だけどね。確か人里の聖徳太子も持ってるって話だしまだマシよ」

 

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 六月三日

 

 今日、人里に行くとバンド? をやってた。

 そこにいた人に聞くとプリズムリバー三姉妹が演奏をするらしい。

 三人の音楽はそれはそれは凄いそうだ。

 しばらく待ってると、件の三人が出てきた。

 ヴァイオリンのルナサさん。トランペットのメルランさん。キーボードのリリカさん。

 演奏は凄かったよ! 話だけ聞くと大丈夫かなって組み合わせだけどとてもフィットしていた。

 お祭りみたいな感じの盛り上がる曲調で心が躍ったよ!

 演奏が終わってから話をしに行くとどうやら彼女達はあちこちで演奏をしているらしい。

 「今度紅魔館でも演奏しない?」と尋ねてみると喜んで! という返事が返ってきた。やった、今度咲夜にお願いしよっと。

 あと楽器を見ていた時にさ、ルナサさんが「音楽に興味あるの?」と尋ねてきた。頷いたら「良かったら教えよっか?」と嬉しい提案をしてくれた。

 是非お願いします! うちにもピアノとか楽器はあるし、弾いてみたいと思ってたんだ!

 そうしたらメルランさんとリリカさんも話を聞いてたのか「楽しそうだし私達も教えるよー」とのこと。

 嬉しい! ありがとう三人とも!

 

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「……コミュ障ってなんでしたっけ?」

「死に設定ってやつじゃない? それか大勢の前で発表することだけが苦手だとか」

「にしても音楽か、そういえばフランは弾けるものね……」

「あ、じゃあ今度教えますよ。前の料理とかも一緒に。私も最近暇してますから」

「…………いいの?」

「勿論ですよ! レミリアさん」

「あら、いつもなら人に教わるなんてーーってカリスマの心配をするのにどうしたのよ?」

「……別に。なんか変に意地張るのが馬鹿馬鹿しくなってきただけよ。何も出来ないままカリスマを建前に駄目だと切り捨ててばかりいる方が器量が無いと思われるしね」

 

(……この数時間でちょっと成長したのかしら? ま、良い傾向と考えておくか)

 

 レミリアの言葉を聞いて霊夢は小さく頷く。

 まぁ元々日記を見始めたのだって個人の興味もあったが、それ以前にレミリアが下剋上だと云々言ったことが原因だ。

 だからこそ彼女がこうして対応を変えるようになるというのは素直に喜ばしいことだろう。

 

(――ま、これだけで判断するのもアレだけど)

 

 単にツッコミに疲れてどうでも良くなっただけかもしれないし――そんなどうしようもなく悲しい可能性を捨てきれない霊夢は小さく微笑んでから次のページをめくった。

 

 

 

 




 


 今回出てきたネタ
・お姉ちゃんって呼んで!(ごちうさより)
・乳圧で死ぬ(死因としては結構幸せかもしれない)
・尺(察しろ)
・アリス・メガトロンさん(昔流行ったネタで、アリスの名前をやたら間違えることより)
・ふくろ(ドラクエのふくろ)

 おや、レミリアの様子が……!

 

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