八月二十六日
今日は日記を書く最後の日になるかもしれない。
雨が吹きすさぶとんでも豪雨だ。
……あぁ、痛い。俺が居るのは多分魔法の森だと思う。その中にある崖の底にある小さな洞穴だ。
血が止まらん。目が霞む。さっきまで痛みを感じてたのに今はあまり感じないからこれは本気でヤバいと思う。
……家の繋がりで稗田の子の為の薬の原料を取りに来ただけなのにな。風邪引いたって聞いたから。
今までは悪運強く生き残ったけど今回は不味い。日記も血に染まってきたな。
まさか妖怪に襲われるとは……しかも触手型とか俺を襲っても需要ねーだろが。あと崖下に落とした上に何度も地面に叩きつけるとか畜生にも程がある。
……まぁもう動くことはねーけどさ。
ともかく失血が不味い。精一杯足掻くけどどれくらい持つかな。
死んだ時の事を考えて遺書でも書いとくか?
……とりあえず本気で死ぬ寸前までいったら書こう。
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八月二十七日
あ……さ?
目が、霞む。
体が、動かし、づらい。
いちお……遺書、書いとく。
父さん、母さん。今まで…ありが
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八月二十八日
……悪運強いってレベルじゃねーな。
生き残ったよ。リアルに知らない天井だ、と言うことになるとは思ってなかった。
俺を助けてくれたのはアリス・マーガトロイドさんだ。前に寺子屋の授業にも来てくれた事を記憶している。
彼女曰く
「どうしてそんな怪我したの?」って聞かれたから触手のことを話したらなんか「うぇっ!?」って変な声上げた後に顔真っ赤にしてた。「早く退治しておけば……」とか言ってたから少し怒ってたのかもしれない。
何か因縁があるのか聞いてみたら「……ぁ、そ、その」とかモジモジし出したので触れないことにした。
なんかごにょごにょと小さく「恥辱の限りを尽くされた」とか言ってた気もするけど気のせいだろう。まだ昨日のダメージが残ってるらしい。
とりあえず助けてくれてありがとうございました。
アリスさんは命の恩人です。
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八月二十九日
あの後アリスさんが永遠亭まで連れて行ってくれた。
包帯まみれの俺を見て永琳さんが「またか」って言ってた。
仮にも医者が患者に向かってまたか、は無いだろ……俺だって傷付くぞ。
で、診断結果貰った。
全治一週間、案外早めに出れそうだ。アリスさんの治療のお陰だな。
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九月一日
今日は年に一度の人里の例大祭の日。
最近の俺はあまりにも入院するもんだから、もう一部屋俺専用で開けてもらってる状況になって久しい。
……この日の為に俺は入院中の数ヶ月かけて暇な時間に脱出口を作っておいたんだ。
実はこの部屋の壁の一部にてゐが作った隠し扉があってな。その先は中庭に繋がってるんだが、その一角にてゐが過去に作った落とし穴があってさ。
それを再利用する形でトンネルを掘り抜いたんだ。外に繋がるトンネルを。勿論普段は誰も落ちないように上に蓋を被せて、入院を終えてから外で縄ばしごを買って取り付けたり、知り合いの鬼に手伝ってもらって補強工事もした。
というわけで脱出して祭りに行ったぜ。
服の内側は包帯ぐるぐる巻きだがバレずに済んだようだ。
りんご飴買ったり、射的やったり楽しかった。
けど、人混みって事件が起こるもんなんだよな。引ったくりが現れたから叩きのめしたんだが、ボキッと俺の骨をやってしまった。いや、触手に岩肌目掛けて全身叩きつけられたせいで全身の骨にヒビが入ってたらしい。走って飛び掛かって組み伏せる、という一連の動きで複雑骨折に至り、永琳さんにドヤされた。鈴仙さんなんか「なんで毎度無茶するんですかぁ〜」って自分で言うのもアレだが痛々し過ぎるレントゲン写真を見て泣きが入ってた。
うんゴメン、でも人助けは性分なんだ。
あと全治三週間になった。
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九月十四日
最近は入院時の暇な時間に医学を教わってる。
もう何人か鈴仙さんの助手で怪我や病気を診た。
基本的に能力の無いちっぽけな人間の身としては人体構造とかを理解して有効な攻撃をする事を意識しないと妖怪相手の殺し合いは何も出来ずに死にかねないからな。
妖怪だろうが心臓を止められたら基本死ぬしな。偶に心臓が幾つもある妖怪とか居るけど。
強くならなきゃな……。
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九月二十一日
やっと完治した。
今回の怪我は治るまで時間が掛かったな……。
まぁ死に掛けたししゃーない。
次は怪我しないように頑張ろう。
……一番は次が無いことを願いたいけどな。
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九月二十二日
寺子屋で身体測定があった。
身長はちょっと伸びたな。体重も増えた。筋肉が増えたからかな。
スカーレットのやつが嬉しそうにしてたな。
あいつの周りがぽわぽわ〜って幸せオーラで満開だった。
ダイエットでも成功したのかねぇ? よく人里を走ってるの見かけるし。
運動、俺も負けてられないな。
もっと頑張ろう。