フランドールの日記   作:Yuupon

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五月編3『地下でのこと』

 

 

 

 五月八日

 

 

 昨日は泊まった旅館でしこたま呑まされた。

 やっぱ凄いね旧都って。その場で会ったばかりの鬼の人が酒を勧めてきたよ。幸い、私は酒豪を名乗れるくらいには酒に強いから大丈夫だったけど魔理沙が深刻だった。

 

「うわへへ……ふりゃん、呑んでるかぁー……」

 

 ちょっと魔理沙、呂律回ってないよ。で、そんなくらい飲まされたもんだから朝の魔理沙はグロッキー状態だった。

 

「ぅあ……頭痛ぇ、二日酔いってマジ辛いわ」

 

 それでも約束は約束なので魔理沙の知り合いに会いに行くべく、私達は旧都に繰り出したわけだ。

 で、しばらく歩いていると気になる女の子を見つけた。

 なんていうか――やたらキラキラと光っている子だ。個性の塊、というか存在感の塊のような女の子で、本人もやりにくそうに歩いていた。

 

「……うぅ、人の目が」

 

 見た目の年齢は同じくらいだったので試しに、と話しかけてみると普通に話せた。若干慣れてないのかオドオドしているが、コミュニケーションが取れない訳ではないらしい。

 

「あ、私。古明地こいし、よろしくね?」

 

 古明地……そういえば地底の主人の名字がそんなのだっけ?

 尋ねてみるとこいしちゃんは「妹だよ」と答えた。

 それからなんでそんな存在感の塊みたいになってるの? と尋ねると言いにくそうに彼女は言う。

 

「えっと……実は私って本来『無意識』を操ることが出来るんだけど、『人気キャラ投票』で世界一位を取った日から何故か能力が使えなくなって常時こんなキラキラ状態に……」

 

 人気キャラ投票ってなんだ。

 ともかく彼女が言うところには本来の自分は無意識を操り、人の目を一切浴びずに過ごせるとか。また人の意識と無意識をあやつることもできる……うん、チートだね。

 つまり無意識を弄れば目の前の相手を『無意識に自殺』させたり出来るわけだ。嫉妬もそうだけど地底って怖い……いや、冗談じゃなくよ。

 まぁそれを言ったら私の能力も地底レベルのものかもしれないけどさ。

 

「うう……悟り妖怪みたいに一般に嫌われる妖怪が存在感の塊って……うぅ……」

 

 ま、よく分からないけど大変そうだった。

 とりあえず時間が押してたのでそこでこいしちゃんとは別れて、本題の人の元へと向かう。

 そして件の彼女がいるらしい旧都の一角に着くと、こんな声が聞こえてきた。

 

『みんなー! 元気してるかぁーっ!!』

「「「「「イエーーーーーー!!!!」」」」」

『地底のアイドル! 黒谷ヤマメちゃんが今日もみんなの為に精一杯歌いまーす!!』

「「「「「Ураааааааа!!!」」」」」

 

 ……アイドル?

 大音量の音にまだ頭が痛いらしい魔理沙が顔を顰めるが、どうやら魔理沙が言っていた件の少女はこの『黒谷ヤマメ』さんらしい。

 彼女が立つステージには一本のマイクがあり、その上でくるりくるりとダンスしながら歌っている。

 観客の鬼達のテンションはマックスだ。「ばんざーーい!!」だとか「勲章ものだな」とか「Ураааа!」とかそこかしこから聞こえてくる。

 

「ほら、あんな感じに歌えたらコミュ障も治るだろ」

 

 歌の最中、ボソリと私に魔理沙が耳打ちした。

 うん、確かにね。でもちょっと待って、コミュ障治すためにアイドルやれと魔理沙は言いたいの?

 

「あぁ大丈夫、お前なら売れる。なんなら私がプロデュースしてやるぜ」

 

 いや、安心できないからね? 

 なんかスチャっとサングラスつけてるけどやらせないからね?

 確かに服は可愛いし、歌も好きだし、あぁいうのは女の子としてちょっと憧れるけど――――。

 

「まぁ仮にだけどさ、やるならちゃんとプロデュースするぜ。なにせお前の姿を見てティン! と来たからな」

 

 うーん……アイドルかぁ。

 ちょっとやってみたいかも――って元々コミュ障を治す話だったから! 危ない危ない、流されるところだった。

 とりあえず歌が終わってから軽くヤマメさんと話してから地上に戻ったけど、正直その前の魔理沙の言葉が頭を離れなくてよく覚えてないや。

 とりあえず疲れたから寝る、おやすみ。

 

 

 #####

 

 

「………………」

「あの、霊夢さん? どうしたんですか?」

「いや存在感の塊の下りで、世界一位を奪われた時のあの時を思い出して。その次で取り返してやったけど、あれは屈辱だったわ」

「……その話題私もよく分からないんですけど人気投票ってなんなんですか? よく、神奈子様が年々下がると言ってヤケ酒するんですけど」

「……そういえば神奈子の順位も不思議なのよね。公式である程度の露出もあるのに最初から下がる一方」

「???」

「その顔は本気で分かってないのね。ま、いっか」

「とりあえず話を変えますよ? ――そういえばフランちゃんがアイドル始めたキッカケってこれだったんですね。やっぱり魔理沙さんの交友関係って凄いなぁ」

「縁切ったといっても魔理沙も里で一番大きい霧雨商店の娘だからね。商才はあるでしょうし、その為の交友作りも得意なやつよ」

 

 と、そこまで話した霊夢は未だ悩んでいるレミリアをちらりと見た。

 

「……決めた。ハハ、簡単な事じゃないか。

 ――この解答は世界が選択せし定め。私はこのような(しるべ)を待ち望んでいた! 我が名はレミリア! ただのレミリアよ……じゃなかった。紅魔館一のカリスマを生業とし、未来――即ち運命を司りし者! そんな私が誘惑に惑わされると思ったか!」

 

「……ねぇ、早苗。なんかそろそろレミリアの様子がおかしくなってきたんだけど」

「中二病って後から痛みが来るんですよね。とりあえずそろそろ戻ってきてもらいましょうか。えっと……えい! 奇跡の力!」

 

 流石にこれ以上放置していると完全にどっか別の世界に行ってしまうそうなので二人はレミリアの目をさます事にする。

 具体的には早苗がえい! とお祓い棒を振った。

 同時、上からどこからともなく現れた金色のタライが落ちる。

 

「あ」

「あっ」

 

 一言言わせて欲しい。二人は悪くないと。

 そして二秒後。ドンガラガッシャーン! と派手な音が鳴り響くと同時、「――――あ゛ぁーっっ!!  痛ったい頭がーーッ!!」というレミリアの悲鳴が聞こえた事は言うまでもない。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛!! 何よ……ってタライ!? なんでタライが私の上に!?」

「…………」

「…………」

 

 叫び声をあげ、頭を押さえゴロゴロ転がるレミリアに対し巫女二人は顔を見合わせお互い頷く。

 

((見なかったことにしよう))

 

 お互い声を出さずとも共通認識出来た二人は黙っておくことにした。

 

「なにいつまで寝転がってんのよ? ほら、日記の続き読むわよ」

「ちょ、ちょっと待ちなさい霊夢! う゛ぅ、頭があああ……」

 

 しかしそんな事はお構いなしに霊夢は新たなページをめくる――。

 

 #####

 

 

 五月九日

 

 

 午前は寺子屋、午後はパソコン。

 うん、今日は休暇の日だった。

 というか昨日、結構文字数書いたせいで疲れたのよ。イベントが沢山起こったおかげでもあるんだけどね。

 あ、そうそう。今日も『デーモンハンター』をやった。いえっささん強いね。敵モンスターがサクサク片付いていく。

 基本はキノコ狩りが多いうちのギルドだけど、攻略もしっかりやってるみたい。まぁ基本お手伝いされる側だったけど楽しかったよ。

 

 ――楽しい。本当に、最近は生きることが楽しい。

 ……夜寝る時ふと思うんだ。

 最近充実してるから感覚薄いんだけどさ、少し前までは私。ずっと地下にいたんだよね。

 今更だけど馬鹿みたいだ。

 世界ってのはこんなに美しくて――こんなに楽しいのにそれを知らずに生きてきた私が。

 勿論その分、今を精一杯生きているわけだけど。

 それでも書きたい。

 実はさ、少し前まで私は生きる事を楽しいと思ってなかった。

 四九五年。まあ今思えばあっという間だったけど、過ごしている間は長かったように思う。というか時間の感覚がなかったのかな。

 ずっと暗い部屋の中で一人きり。時折食べ物を持ってお姉様とかが来てくれるけどそれだけ。

 正直、よく気が狂わなかったなと自分でも思う。

 でね、話を戻すけどその日常って余りにも長い間同じ事を繰り返し続けるせいでさ完全に時間の感覚が無くなるの。

 ただずっと座ってたり、寝てたり。時折はたと気付いたように意識を覚醒させるけどそれもすぐにまた戻る。

 希望とか絶望とか――今の待遇とか考えることすらやめて――最後には何も考えないままただひたすらに怠惰な日々を過ごし、考える事を放棄する。

 

 あぁ、別にお姉様に恨みとかあるわけじゃないよ。

 ただ――ちょっと勿体無い事をしたなって思っただけ。

 不思議と寝る前って人生とか命とか変なこと考えちゃう癖があるんだよね。今書いててアレだけど、私何書いてるんだろ。

 ……とりあえず寝ようかな。寝る前に日記書くと妙に変な考えに頭が染まるんだよね。じゃあおやすみなさい。

 

 

 #####

 

「…………、」

「レミリアさん……」

「…………いえ、大丈夫よ」

 

 前ページと一転。思わぬ独白に一同は余り口を開こうとしなかった。故に何か意見を述べることもない。

 ただ、ポツリとレミリアが言うだけだ。

 

「……霊夢、次のページをお願い」

「えぇ」

 

 #####

 

 

 五月十日

 

 

 今日は午前中が修行、午後から霊夢さんのところに遊びに行った。

 偶々妖怪の山の神社の巫女さんである早苗さんって人も来てたみたいで挨拶した。確か守矢神社だよね。そういえば諏訪子ちゃんに「遊びにおいで」って言われてたなぁ。

 で、早苗さんなんだけど色んな意味でパワフルな人だった。なんか会って早々「可愛い!」って凄い撫で回されたよ。でもやたら撫でるスキルとか高かった。

 なんというか彼女が触るところ触るところが奇跡的に私が撫でられて嬉しいポイントばかりを触れていた。というかギュッと抱きしめられた時には早苗さんの大きなおもちで顔が包まれて……うん。ちょっぴり幸せだったのは秘密。もしかしたら私はおもち好きなのかもしれないと気付きショックを受けたこの頃。

 

 ……で、昨日の続きになるけど。こういったことも地下にいた時は出来なかったんだよね。

 人とスキンシップをとることもなければ話す機会も話す相手も限られていた。愛なんてとうに忘れたよ。狂っていることに関しては分からない、前に死に設定って書いたけど多分狂っているとは思う。

 

 実を言うと地下生活をしていた頃の私は諦めとかそんな感情はなかった。これでいいんだ、といったような自己防衛な考えも無ければ外に出ようなんて思うこともなかった。

 私にとっての世界は紅魔館の中を指し、その世界の中だけで私は充分に生きていくことが出来た。それが私の常識だった。

 狂うとかそんな感情も分からない。だって元からないんだから。私の中に地下での暮らしへの不満不遇不平が無いから狂う必要はなかった。だって私はただ暗い部屋の中で時の流れに身を任せて時間を過ごしていただけに過ぎないんだから。

 だからいくら狂気の種を育てようにも実るわけもない。

 いくら奮うことに甲斐はなく、狂うことに解はない。

 夢も希望も未来も――そんな言葉は存在せず、ただただ日々を怠惰に無知に傲慢に生きていた。

 今思い出すと――そんなちっぽけな世界しか知らなかった私に新しい世界を教えてくれたのは魔理沙で、その元を辿れば紅霧異変を起こしたお姉様なんだよね。

 昨日も書いたけど私はお姉様に恨みは無いよ。最近、人の心ってものを初めて知って理解したけど恨みだとかそんなものはない。

 私は昔からずっとお姉様が好きだし――多分これからもそうあり続けると思う。

 ……ってなんか昨日から続けて地下のこと書いてるけどどうしたんだろ私。もしかして中二病? それとも思春期ってやつかな。

 過去の私の行動は正しかったのか、あの時こんなことがあったな、そんな事を考えても意味は無いのについつい考えてしまう。

 寝る前の精神状態って不思議だね。

 

 

 #####

 

 

「だってさ」

「……フラン」

「本当に良い子ですよね、あの子」

「本当よね。私もあんな妹なら欲しかったなー」

「ご、ごほん! 次のページ読むわよ」

「顔赤いわよ、レミリア。良かったわね、お姉様大好きで」

「うぅ……だってこんなの予想してなかったしぃ……」

「あ、それがレミリアさんの素の口調ですか? その方が可愛いですよ?」

「ハッ! あ、いや違うの! これは違うから! う、うううう!! もう! とにかく次のページ読むわよ!」

 

 バン! と恥ずかしさを誤魔化すように勢いよくページをめくるレミリアだった。

 

 







 今回出てきたネタ
・こいしちゃん存在感の塊化(東方人気キャラランキング一位の弊害でなってしまった模様)
・Ураааааааа!!(ロシア語で万歳という意味。万歳エディションというジャンルで見かける)
・ばんざーーーい!! 勲章ものだな(万歳エディション。詳しくはググれ。もしくはニコニコで検索すれば分かる)
・ティン! ときた(アイドルマスターより)
・神奈子様の順位(あそこまで条件揃って落ちるとなるともはや容姿が大衆の需要と(ry
・この解答は〜(ry (この素晴らしい世界に祝福を! めぐみんより)
・ただのレミリアよ(Re:ゼロから始める異世界生活、エミリアより)
この解答は、とただのレミリアよに関しては元ネタの声優が同じなのでクロスさせてみた。
・黄金のタライ(吉本にありそう)
・痛ったい頭がーー!(めぐみんより、めぐみんネタ多いな)
・おもち好き(咲-Saki-より、クロチャー化も微レ存……?)
・お姉様大好き(ハッピーエンドです)

 

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