四月十五日
最近になって思うことがある。
……私、すっごく幸せだなぁって。
一年前のように一人ぼっちでずっと地下に篭っていた頃と比べて、私の世界はこの一年で大きく広がった。単に外に出るだけでも大きな変化だったけど、人里に出向くようになったり、寺子屋に通うようになったり、色々な繋がりが増えていった事でそれは益々大きな変化になっていった。
今は私は幸せだ。
初めての事に挑戦して、凄く楽しい。友達と話すのも楽しい。色んな人との繋がりは私にとってすごく大事なモノだ。絶対に壊したくないモノだ。
……私、外に出てみて良かった。
あの日に、四月一日に人生を振り返って良かった。
今私が享受してる当たり前で幸せな日常っていうのは全部あの日から始まったものだと思う。
もしもあの日、努力してみようと思わなかったらきっと私は今も一人、部屋に篭っていただろう。
もっかい書こう。
私は今、とっても幸せです。
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「……なにこの最終回みたいな文面」
「いや、偶にあるじゃないですか。寝る前にふと過去を思い出すこと。それで、じゃないですか?」
「……早苗さんに同意ですね」
「私はフランが幸せならそれで良いわ」
あの子が幸せならなんでも、とレミリアは呟き次のページをめくる。
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四月十六日
お姉様の様子がおかしい。
そう言えば前々から気になってるんだけどなんか避けられてる気がする。
なんでだろうね。私、別に何かした覚えはないんだけどなぁ。
なんでか気になったので咲夜に聞いてみると『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎』(塗り潰された跡)って言ってた。
日記を机に叩きつけ叫ばざるを得なかった。
「ちょっと待ちなさい!」
読み進めていた途中で声を上げたのはレミリアだった。
彼女は「咲夜、咲夜ーっ!!」と名前を呼ぶと同時、「はい、こちらに」と現れた本人に対して「咲夜に聞いたら……」という文面を指差して問いかける。
「この文章が塗り潰されてるんだけどどういうこと?」
「大人の事情です」
「何の事情よそれっ!!」
癇癪を起こしたレミリアに対し咲夜は落ち着いてください、と述べ説明した。
「この黒ずみは……実はこの日妹様は習字をなされてまして、その墨を零されたのです。内容もあの時の私は「少し行き違いがあるかもしれませんが問題無いでしょう」とお答えしましたし別に変な回答が書かれていたとかそういうわけではありません」
「……な、なるほど」
習字の墨ね。それなら仕方ないか、レミリアは頷いて咲夜を下がらせる。
それから改めて文章を読もうとして、気づいた。
「あれ、これ墨じゃなくてボールペンで消されて……咲夜! ちょっと咲夜! 騙したわね!!」
「あら、バレてしまいましたか。少しお戯れ致しました。お気に障ったなら申し訳ありませんお嬢様。ですがそこに書かれていた言葉は先程の私の言葉で間違いありませんよ?」
バレてしまいましたか、というところでチラリと舌を出した咲夜はクスクス笑いながらレミリアに真実を告げる。
……なんか釈然としないレミリアだが、ひとまずそのまま読んでみることにした。
四月十六日
お姉様の様子がおかしい。
そう言えば前々から気になってるんだけどなんか避けられてる気がする。
なんでだろうね。私、別に何かした覚えはないんだけどなぁ。
なんでか気になったので咲夜に聞いてみると『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎』(塗り潰された跡)って言ってた。
めーりんにも聞いてみたら『わ、私は何も知らないアルよ?』って言ってた。アルよ、って何のキャラ付けだろう。
……お姉様どうしたんだろう。何か悩みがあるなら話してほしいな。私だって役に立てるってところ見せたいし、何より悩みってものは一人で抱え込むよりも人に話した方が楽になるものだしね。
うん、もうちょっと積極的にお姉様に話しかけてみようかな。
一応前にそう考えてからある程度時間も経ってるしね。
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「……アルよ」
「アルよって絶対に知ってて誤魔化そうとしましたよね美鈴さん」
「……フランちゃんが純真じゃなきゃバレてましたね」
「いや、それポンコツってやつじゃ……」
上から霊夢、早苗、さとり、レミリアの言葉であった。
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四月十七日
魔理沙と人里で会った。
ばったりと会ったついでに近くの甘味屋で近況を話し合ったよ。
一緒にお団子食べつつ、ね。
でも今更ながらにだけど魔理沙って交友関係広いよね。人里でもいろんな人に話しかけられてたよ。霧雨商店とのわだかまりが無くなった事も大きく作用してるみたい。
結構人里の男の人達にも人気みたいだ。友達感覚であちこちに誘われてた。魔理沙も「おー、じゃあ今度なー」とそれっぽい返事をしてたりして凄いなと思ったよ。
で、しばらく談笑してたらアリスさんを見かけた。
声を掛けると「あら、久しぶり」と笑顔で反応してくれて一緒に行動することに。
折角だし人里のあちこちにある甘いもののお店を回ってみた。パフェとかジェラートとかクレープとか。それぞれ話しながらあれやこれやと話したよ。
最近は異変も無くて静かだな、とか今度遊びに行くわ、とか。
のんびりした会話だったと思う。
で、その中で私はちょっとお姉様のことを二人に相談してみることにした。
何か私の事を避けてるみたいで、と聞いてみると魔理沙が「はぁ? レミリアがねぇ? この一年でフランが急に才能発揮し出したから下克上されるとか考えてんじゃねーの?」とか言ってた。直ぐにアリスさんが「魔理沙、適当な事を言わないの」と突っ込んでたけどね……。
ちなみにアリスさんの意見としては「深い事情は分からないけど何か貴女を見て感じ入ることでもあるんじゃない? 例えば……その、神器とか神格とか」というものをだしてくれた。
神格に怯えてる……かぁ。もしそうなら封印した後にちょくちょく使ってるからかな?
うん、これからは自重しよう。ヤバい時以外は使わないように。
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「魔理沙がニアピンね」
「……というより正解でも良いんじゃないですか。下克上から、過去の話を結び付けられたら満点ですけどこれでも答えとしちゃ上等だと思います」
「ですよね。予想とはいえやっぱり魔理沙さんもなんだかんだ凄い人なんでしょうか……?」
「魔理沙が凄いかは知らないけど。それはともかく、こう書いてるって事はフランも私が考えていたことに気付いて無かったのよね……」
もし気付いてたら私の勘違いを解くためにわざと日記を読ませた線もあるかなって思ってたし……レミリアはふと滲ませた冷や汗を拭き取ると次のページをめくるのだった。