フランドールの日記   作:Yuupon

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現代四月編5『妖怪フランドール』

 

 

 

 

 四月十一日

 

 

 ヘカーティアさんとランスロットの件が終わったと思えば今度は仙界に拉致されました。訴訟したいけど映姫さんも拒否しそう。

 ちなみに私を拉致したのは金髪でウェーブのかかった長髪美人さんだ。名前は純狐さん。

 拉致した理由は私の存在が面白いから、だって。

 ……別に私、芸人でも無いんだけどなぁ。そんなに濃い人生を歩んでるわけでもないし……。私より面白いと思える人なんていっぱい居ると思うけど。

 で、他に理由を聞いてみると嫦娥って人の名前(凄い憎しげに言ってた)が挙がった。どうやら私は会ったこともない嫦娥さんとやらに気に入られているらしい。それで嫦娥に嫌がらせする為に我が物にしてやろうと、ということだ。

 うん、なにそれ怖い。というか個人の事情に巻き込まないでよ。それと急に「嫦娥よ、見ているか!」と叫ぶのやめて欲しい。ビックリするから。

 というかヘカーティアさんもそうだけどこの純狐さんも絶対精神がどっかイカれてるよ!

 見ているか嫦娥よ! って明らかに何もない方向に向かって叫んでるんだよ!? サイコパスだよ! 見てる私の気分を想像してみてよ!

 ちょー最悪だよ! 純狐さんも見た目だけならすごくしっかりしてる大人の人ってイメージがあるのに……。

 というかいつになったら私は帰して貰えるのだろうか。

 帰りたいって言っても帰してくれないし。寧ろなんか私を気に入ったみたいで凄い抱き枕みたいに抱き着かれて暑いくらいなんだけど。

 むふー、って満足げな顔してるけどきっと私は不満そうな顔してると思う。寧ろ気付いて下さいお願いします。

 なんかヘカーティアさんもそうなんだけど純狐さんの近くに居たくないんだよね。なんていうか物凄い力の差を感じるっていうか、その気になったら一瞬で殺されそうな予感というか。

 ……端的に言えば命の危機と体が認識してる。

 抱き締められてる力は物凄いし。私の体がミシミシ鳴るレベルって相当だと思う。

 ……今は純狐さんも寝てて、その間に日記を付けてるけどなんとか逃げられないかなぁ。瞬間移動も何も出来ないって結構詰んでるよね。

 いっそ寝てる純狐さんを襲う? いやでも勝てる気がしない。何の力も感じないのに何故かそんな気がしてならない。

 ………………。

 諦めるわけじゃないけど今日は寝よう。

 おやすみ。

 

 

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「アイツ……月の侵攻を止めるとか言っておきながら結局その嫦娥とやらへの恨みは全然晴れてないじゃない」

「確か鈴仙さんが相手したんですよね。真面目にやりあったらまず勝てないとんでもない相手だと聞きましたけど」

「……だって地球と月と異界全てを統べるヘカーティアと同格なのよアイツ。一言で言えば依姫がフリーザだとすればあいつは魔人ブウみたいなモンよ」

「……妙に分かりやすい説明ですね」

「実際の差はもっとあると思うけど。ともかくインフレしてんのよ」

 

 そもそも依姫が私達に何千万回単位で連戦して勝てる計算とかその時点でインフレしてるけどね、と霊夢は続け、多分これからも更にインフレするわよー、と妙な予言で話を締めくくった。

 

 

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 四月十二日

 

 

 作戦を考えました。

 まず一つ大事な事なんだけど。一旦純孤さんから逃げれたとしても結局直ぐに捕まるのは予想付くよね。

 というわけで私に取れる作戦は一つです。幻想郷にある喧嘩の解決法。意見押し倒しが可能な唯一の遊び。

 そう、弾幕ごっこだ。もし私が勝てたら純狐さんは私に手を出さない。代わりに私が負けたら好きにして、という内容で提案すると「面白い」と言って受けてくれた。

 ……私の生殺与奪の掛かった勝負、負けたら奴隷。けれど勝てば自由が得られる。まさか、圧倒的格上に妖怪に人間が挑む手段として考えられた弾幕ごっこの弱者側を体験することになろうとは思ってもみなかったよ。

 そして運命の弾幕ごっこ。

 本当に紙一重だった。もし修行していなかったらたちまち被弾して私の命は彼女に握られることになっていただろう。かなり無理をしたけど勝ちを拾えた。

 固有時結界の思考加速を四倍から五倍にして。演算で脳がぶっ壊れそうになったけどギリギリのラインで当てられたよ。

 ……勝った後にぶっ倒れたけど勝てば良かろうなのです。

 あの人強いよ……フォーオブアカインドもレーヴァテインも通じなくて、他のスペルも試したけど簡単に打ち破られたし。最後はもうめーりんに教わった小手先の技術の組み合わせと応用だった。

 というわけで帰ってこれたよ紅魔館。入る時にお姉様とすれ違ったので笑いかけたら目を見開いてた。

 ……命懸けの戦いに打ち勝って、濃い一日だったなぁ。

 

 

 

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 読み終えて最も「えっ」という顔をしたのはレミリアだった。

 

「……私の主観だと、この日帰ってきたフランの目が血走ってて身体中がボロボロで、私を獲物のように見る目でニヤリと笑いかけた瞬間に見えた口の中で血が見えたの。とても怖く見えて、下克上の勘違いになったワンシーンだったんだけど」

「はいはい勘違い勘違い」

「……いやでも意外と怖いですねそれ」

「確かに。でも絶対レミリアさんの中で恐怖補正入ってると思います」

 

 

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 四月十三日

 

 

 いつも通りの寺子屋のはずだった。

 勉学は重要。しっかり勉強しないと将来の為にならない。

 寧ろ自分のステータス……ゲーム風に言えば賢さ(インテ)を上げる為の行為だし、世の中は賢さ至上主義だ。自分のレベルアップになるからもっと積極的にやるべき、と勉強する私はそんな思いだった。

 私は勉強が好きだ。未知を知るって面白い。だからこそ寺子屋は大好きな場所だった。

 ……大好きな場所だったのに。

 もう私はあそこに行けない。

 キッカケは突如、勉強中に凶暴な妖怪が寺子屋を強襲してきたことだ。

 寺子屋はそれで全壊。私に出来たのはクラスの皆を守り切って、妖怪は殺すことだけだった。

 人里を襲うのは幻想郷でもルール違反。だからこそ私も躊躇いなく殺したよ。剣の一振りで血飛沫が飛び散って私の体に掛かった。

 クラスメイトは引いてたかもしれない。でも幻想郷で妖怪が人里を襲うのは『()()()()()()』なんだ。

 でも博麗の巫女や妖怪の賢者にこの役は任せなかったのは私自身の怒りだと思う。殺した後も何度も突き刺してグチャグチャの肉塊にしてやったし。最後には能力で破壊したから。

 

 ……嫌われちゃったかな。

 血を浴びた私を見て殆どの子が息を呑んでたもん。顔に恐怖が貼りついてたっていうのかな。

 駆けつけて来た人里の自警団の人達も私を化け物みたいに見てたし。中には「アイドルでも……妖怪は妖怪だ」とかそんな陰口も聞こえてきた。吸血鬼は耳が良いからヒソヒソと聞こえる言葉が全部聞こえてしまう。

「……やだ、血塗れよ……」「何度も突き刺してたぞ……」「怖い……」「今の見たかよ、おい……」

 他にも色々あったけど全部私に対する畏怖だった気がする。

 怒りでカーッときてた私が我に返ったのもこの頃だったかな。我に返って怖くなったよ。

 周りの目が、声が。全部私に向けられているのに気付いた瞬間。

 気が付いたら逃げてた。「ごめんなさい」って謝って。

「待て、フラン!」

 呼び止めるナナシ君の声が聞こえたけど無視して逃げた。

 紅魔館に着くと、血塗れで帰ったから咲夜もお姉様も驚いてたよ。でも怪我じゃないと気付いた後は咲夜が直ぐにお風呂に入れてくれて洗ってくれた。

 ……けど、まだ体にこびりついた血の感覚が消えない。

 人達の声も、恐怖も。

 

 ……私、もう人里に行かない。その方が良いと思う。

 ……私は人間にとって怖い存在だから。私のせいで他の妖怪の子達が忌避されるなんて駄目だもん。

 

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 涙に濡れた跡が残ったページだった。

 思わず黙り込んだ一同は思わず顔を見合わせる。

 まず口火を切ったのはレミリアだった。

 

「……ちょっと待ちなさい。どういうこと、これ? 妖怪の件は聞いたけど他の話は聞いてないわよ」

 

 それに翌日に当たり前のように人里に行ったわよ、とレミリアは呟く。特に変な様子はなく寧ろ優しくされた、というのが彼女の談だった。

 

「これは……一応知ってるけど」

 

 続いて口を開いたのは霊夢である。が、どうも釈然としない態度だった。他の三人が首を傾げると霊夢は髪をサラサラと弄りながら答える。

 

「……なんて説明すれば良いのかしらね、これ」

「……ハァ。私が説明しますよ」

 

 出てきた言葉は疑問だった。唸る霊夢を見かねてさとりが能力を発動する――――。

 

 

 

 

 

 


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