明けましておめでとうございます。
四月六日
お姉様の件を何とかしたいけどひとまずその事は置いておく。
……何度行っても取り合ってくれないんだよね。話すら出来ないとなると時間を置いた方が良いという事なんだろう。それに私自身最近、心が疲れてる気がしてさ。
まだ若干寒いし、暇だしでとりあえず霊夢さんのところで駄弁ろうと思って博麗神社に行った。
手土産には柏餅を作ってね。で、神社に行くと何人か来ててコタツで話をしてた。
「はぁー、肌寒い日はコタツにミカンがピッタリだぜ」
「魔理沙。あまり食べ過ぎちゃ駄目よ?」
「あ、皆さんお茶の用意が出来ましたよー」
「早苗さんありがとうございます。あ、お盆載せて貰えます? 私が運びますから」
霊夢さん、魔理沙、早苗さん、妖夢さん。
四人でコタツに入って駄弁っていたらしい。柏餅を入れた袋を持って近づいていくと魔理沙が私に気づいて声をかけてくれた。
「おぉ、フランも来たか。遠慮せず入ってくれ」
「何、家主の言葉取ってんのよ。アンタの家じゃないでしょうが! と、それはともかくいらっしゃいフラン。素敵な賽銭箱はあっちよ?」
「え? あ、じゃあそっちも……」
「うわっ! こいつ巫女のくせに賽銭要求しやがった!? フランも入れること無いぜこんなとこに」
魔理沙も気にしなくて良いよ。普段お世話になってるしほんの気持ちだ。
財布から何枚か紙幣を出して賽銭箱に投入。うん、おっけー。
で、そんなこんなで柏餅を振る舞いつつお話ししました。
偶にはこうやって皆とコタツでダラけるのも良いよね。
……ぽやぽやうとうと、ってしてたら寝落ちしちゃったけど。
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「フランは寝顔が可愛いのよね。ちっちゃな手をグーにして、何というか庇護欲を誘われるっていうか」
「そうですよね。途中から寝ちゃったフランちゃんを皆で撫でたりしましたし。あと髪質? レミリアさんは若干癖っ毛がありますけどフランちゃんは髪質がサラサラなので触ってて心地いいんですよね」
「……へぇ、そうなんですか。私も触ってみたいものです」
「髪質……何でなのかしらね? フランは地下にこもってて私は地上に居たけどどうして姉妹で髪質にここまで違いがあるのかしら。私もどうせならサラサラの方が良かったわ」
「んー……お風呂じゃないですか? 多分ですけど洗い方に問題があるとか。まぁなるべくしてなった可能性もあるので一概には言えませんが」
「……お風呂ねぇ。今は咲夜にやらせているから間違いはないと思うけど……」
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四月七日
人里に行くと妙に騒がしかった。
何事かあったのか聞いてみると鈴奈庵で何かあったらしい。急いで行ってみると変な本が浮かんでた。魔本というやつらしい。周りには数十人の人達がバタバタ倒れていた。
辛うじて意識の残る小鈴さんに尋ねると、なんでもこの本は呪いの本で、自我を持つらしい。
あと人から霊力を吸い取る事でパワーを増幅するとか。そんでもって破壊するには本自体にかけられた七つの弱点の封印を解いてそこに同時に攻撃を当て、その上トドメの一撃には……と長ったらしい説明が貰えたので面倒になった私はとりあえず能力で破壊してみた。
「キュッとしてドカーン」
壊れた、けど一瞬にして元に戻る。
もっかいキュッとしてドカーン。
壊れる、再生……ほう。
面白い
で、本を受け取って。里人に
「フラン? ねぇ里人から人が倒れてるって聞いてきたんだけど何か知らない?」
「あ、それ解決しました。この魔本が原因みたいですよ? とりあえず私が持ち帰って管理する方向で里人とお話したんですけど」
「魔本? ……呪いか。それもかなり悪質、近くに寄ると霊力を吸うのね。持つなんてもってのほか……とそんな感じに見えるけど」
「ついでに言うと壊すのも条件がいるみたいで私の能力にも耐えました」
「余計にヤバい本じゃない。持ち主誰よ」
と言いつつ霊夢さんの目が小鈴さんにロックされてた。
本人は半泣きで首を横に振ってたけどバレバレだよ……。
とりあえず顛末を語ろうか。
霊夢さんは私が持ち帰ることにオッケーしてくれた。ただし万が一のための護符を一枚くれた。呪いの力を封じる護符なんだって。
危険な時は使おうと思う。にしても壊れないおもちゃなんて初めてだ。
大事なものだから私の血を垂らして厳重に『私のモノ』として登録したよ。人相手なら奴隷契約とかにも使う魔法陣で、その中でも私に出来る最高のやつだ。
で、早速家に帰ってから遊んだ。水で濡らしまくったり、火で燃やしたり、キュッとしてドカーンしたり。
……楽しい♪
あとスペルカードの練習台にも使えるね。なんか攻撃するたびに本の中から「やめろ!」とか「鬼か貴様!」とか聞こえる気がするのは気のせいだろう。
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「絶対なんか居ますってそれぇっ!!」
「酷いわね……扱い方」
「でも壊れないおもちゃか……パチェでも作れない代物じゃない。相当な物だと思うけど……」
「……フランさんの能力に耐える、ですもんね」
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四月八日
あの魔本が本当に壊れないのか試してみた。
何もない世界への道を開き、放り投げる。すると魔本は一瞬にして消え――すぐに復活し――また消える。
うん、破壊と再生の繰り返しだ。なんか本の中から「うぎゃああああ!!」という悲鳴が聞こえる気がする。今度耳鼻科に行こう。耳がおかしいのかもしれない。
そう決意してキュッとしてドカーンしたり、神格発動してレーヴァテイン構えて全力の一撃で貫くと「死ぬっ! シャレにならん!」という男の人の声がした。
と、同時だった。
ボンっと本が壊れてなんか出たのは。
「クソ、この鬼め! 悪魔め! 貴様には優しさというものが無いのかっ!? いや、ねぇなんでなの! なんでいじめるの!? 水かけたり火をつけたり、果てはこんな全てが消滅する無の空間なんかに連れてくるのっ!? 頭がイカレてるんじゃないのか!?」
出てきたのは全身甲冑の男だ。黒騎士で、やたら怖い雰囲気あるのに出てきたのは妙にリアクション芸人じみた人だった。今更だけど幻聴じゃなかったらしい。安心した。お姉様に相手されなくて精神病になった可能性も捨てきれてなかったからさ。
弾幕を撃ちながら頷くと。
「いや、耳鼻科って絶対聞こえてただろう!? 俺の悲鳴を聞いて何も思わなかったのか貴様! あといい加減弾幕を止めろ!」
「咲夜に黒光りしたのは退治しろって言われてるの」
「それは台所に出るやつだろう!? 俺はGじゃないっ!! あと咲夜って誰だ! と、ともかく話をしようではないか! 具体的にはこの空間から出せ! 殺されては再生し続けるって地獄だからな!? 可愛い面の割りにどんなエゲツなさだ!」
うるさいなぁ。仕方なく出してあげると黒騎士さんはゼエゼエハァハァと荒い息を吐いた後に大きく伸びをして「……地球最高」と呟いた。
私はその間に懐から一枚の護符を取り出し、黒騎士さんの顔面をビンタするように振りかぶる。
「ぐおおおおっ!? お、おまっ、何をする!? ってなんだこりゃ顔が痛いいいいいっ!? うがあああああっ!! 死ぬっ、死ぬううう!!」
霊夢さんにもらった護符だもん。そりゃ強力だ。
すうっと消えるように黒騎士さんの体内に護符が溶けたのを見てから私は問いかける。
「で、お名前は? 私はフランドール・スカーレット。これでも吸血鬼なの。あと一つ言っておくけど呪いの本に掛けてやる情なんて無いから。永遠に復活するのは面白いけど」
「俺は呪いの本では無い! 封印されていたのだ! ついでに言えば永遠に復活するのは今の俺の特性であって魔本の仕様じゃない! ……と、ともかくだ! 過程はどうあれ復活出来たことには感謝しよう、吸血鬼フランドールよ。我が名は『ランスロット』だ」
彼の名前はランスロットというらしい。ランスロットってあれだよね、アーサー王の伝説の。あれ? 実在してたの? というか生きてるの?
「一気に質問するな! ……とりあえず質問に答えるなら実在している。あと俺は生きてはいない、と答えるのが適切だろう。今の俺はアンデッドなのでな。不死属性が付いたのはともかく、裏切りの騎士とはいえ、仮にも騎士がアンデッドとは……」
なんか複雑そうだね。でも呪いの本として人里にもたらした事は消えないよ?
「それは……申し訳ないと思っている。何度でも謝ろう。だが一つ理解して欲しい。俺自身本の中に封印されて身動きが取れなかったのだ……あと、今更だがさっきの護符はなんだ?」
「呪いを封印する護符。詳しくは知らない」
「よく分からないものを人に向けるな! やっぱり鬼か貴様は!?」
いちいちリアクションが激しくて楽しい人だ。
……ただおもちゃとしては本のままでも良かったんだけど。あと貴様って言うな。
何気なく言うと、
「きさっ……ぐぐぐっ!? な、なんだこれは……隷属契約? 『貴方はフランドールのモノです。逆らえません』ってなんじゃこりゃあ!!」
「あ、そういえば面白い本だから血の盟約をしたっけ」
ランスロットさんが苦しそうにする。うん、これはあれだね。
「つまるところ……使い魔ゲットだぜ?」
「騎士は二君に仕えなっ……おごごご!!」
「サーヴァントでも良いよ?」
「それはそれでアウトだこの悪魔め!」
ランスロットをゲットしました。
いやまぁ……本気で嫌なら逃すけど行き場無さそうだし、幻想郷で変なことされても困るし私が面倒みようと思う。それだけだ。
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「円卓の騎士っ!? 本物ですかそれ!?」
「しかもランスロットって。え、そんな大物捕まえてんのあの子?」
「私も知らないんだけど! ……いやでもそういえば最近あの子の周りに黒い
「……もうめちゃくちゃですよ……」
上から早苗、霊夢、レミリア、さとりの発言であった。
こんな終盤間際に新キャラが出るとは誰も予想してなかっただろう(俺も含めて)