フランドールの日記   作:Yuupon

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五月編2『福本とマイナスと』

 

 

 

 五月五日

 

 今日はこどもの日だ。

 紅魔館でもめーりんが気合い入れてこいのぼりを上げていた。

 どうやらこどもの日は元々『厄払い』の日らしく発祥は中国らしい。どういうことか詳しく聞いてみると、

 

「かつての中国の旧暦五月といえば病気が流行って亡くなる人が多かった月なんですよ。その時、人々は菖蒲(しょうぶ)を門に刺したりして厄払いしていたんです。最近では男の子のお祭りとも言われていますが、その由来は菖蒲の切っ先が剣に似ているから――と言われていますね」

 

 という説明が返ってきた。

 じゃあなんでこいのぼりを上げるの? って尋ねたら、

 

(こい)が滝登りをしたら龍に化ける――って話を聞いたことありませんか? 黄河の龍門という流れの速いところを登りきる話なのですが……、あれは立身出世という願いが込められているのですよ」

 

 それは聞いたことがあった。

 鯉が龍に化ける。一般層に例えるなら例え生まれが悪くとも将来立身出世し生きて欲しいと子を願う気持ちがそんな習慣を生んだのだろう――とめーりんは説明した。

 成る程……そんな背景があったんだね。勉強になったよ。

 

 で、こいのぼり上げの手伝いを終えてから屋敷に戻って、今度は咲夜と一緒に柏餅を作った。

 料理は何度かお手伝いしてるしそこそこ慣れてきたんじゃないかな? 餡子(あんこ)を丸めたりして楽しかったよ。

 生地を作るのにちょっと手間取ったけど、まあそこはご愛嬌。

 出来たのも美味しかったし成功だったと思う。

 

 #####

 

 

「端午の節句ですか、楽しそうですねぇ。コイは……私としてはGOやった時に飴が四〇〇個必要だったので今はいい気はしませんが」

「……Go? あ、まあ紅魔館は季節のイベントをキチンとやるように命じているから、お陰でイベントのある日は充実してて楽しいわよ?」

「いやレミリア。アンタ何もしてないじゃない」

 

 霊夢の正論にうぐっ、とレミリアが口の端を歪める。

 

「と、当主は命じて踏ん反り返ってればいいのよ」

「えー? どうせなら一緒にやったほうが面白いと思いますよ? 私もお料理作るの好きですし」

「……私の料理を振る舞うにしては題材のレベルが低すぎるのよ」

「いやアンタ料理出来ないでしょうが」

「………………」

 

 霊夢の正論のナイフその二である。

 反論出来ずレミリアは黙り込んだ。

 

「え、あー! えっと、レミリアさん。今度私がお教えしましょうか?」

「………………、」

「あ、あのそんなに気落ちしないでください。最近は『主夫』って言って男の人が家事をやっても不思議ではない世の中になってますから」

「別にそんな未来まで気にしてないわよ! 結婚なんてあと一五〇〇年は早いわ」

「で、でも出来たことに越したことはありませんよ?」

「いらないわ。紅魔の王に、そんなものは不必要――――!」

 

 と、そこで霊夢が最後の『言の葉(コトバ)』を言い放つ。

 

「自分でお菓子を作れたらツマミ食いせずともいつでも食べられるのに?」

「………………、ぁ」

 

 その時のレミリアの顔は何とも言い難いものだった。

 四月編でチラリと出てきた黒歴史を掘り返され顔が真っ赤になると同時に、怒りを感じているように肩を震わせる。

 だがしかし。

 

 その時、レミリアに電流はしる――――!!

 

(この言葉、私の運命が言ってるーーこれは天啓だと……っ!!)

 

 それは圧倒的革命……っ!

 神をも恐れぬ悪魔の所業……っ!

 それが出来れば咲夜が指定する量のおやつなど関係無い……っ!

 好きな時に好きなものを好きなだけ食べられる……っ!

 しかしこの選択はレミリアにとって究極の二択であった……!

 

(料理を教わりたいと懇願する……! それは私が料理を出来ないことを完全に認めてしまう最後の鍵……っ!)

 

 認めればレミリアのカリスマにヒビが入る……!

 小さなヒビでも一度壊れたものは元に戻らない……っ!

 甘味という欲望かカリスマという尊厳(プライド)を守るか……っ!

 究極の選択……! それはレミリアにとって究極の選択……っ!

 

 一方、

 

「あの、レミリアさんの鼻と顎が急に尖り始めたんですけど……」

「しょうもないことで悩んでるって巫女の勘が言ってるし、放置でいいんじゃない?」

「いや、でも仮にも女の子が福本作品に出てきそうな顔になってるのを止めないのは可哀想なんですけど……」

「黙っておくのが一番の優しさだから置いときなさい。ほら、次のページ読むわよ」

「そうですね、分かりました!」

 

 巫女二人、意外にもレミリアを放置。

 

 #####

 

 

 五月六日

 

 金曜日。今日寺子屋行ったら土日休みだ。

 寺子屋の授業は面白いし、最初失敗した割に大分周りにも馴染めた感じがする。

 あと人間クラスの方でも何人かと話すことが出来た。意外にも好意的に接してくれて助かる。ただ男の子達にやたら見られるんだよね。

 羽が気になるのかな? ほら、私の羽吸血鬼らしくなくて宝石みたいになってるから。

 私は結構お気に入りなんだけどなぁ。なんというかお姉様の羽、言っちゃ悪いけど見た目がデカい蝙蝠(こうもり)だし。

 それよりなら私の羽のほうが可愛いからさ。

 あ、そうそう。チルノちゃん達以外の友達も出来たよ。

 メディスンちゃんって子。幽香さんの住む場所の近くに住んでいて私のことを聞いてたんだって。人形みたいに可愛い子だった。

 話してみるととっても花に詳しくて談義が盛り上がった。

 メディスンちゃんも花畑を持っているらしい。今度見せてもらう約束をした。

 

 

 #####

 

 

「メディスンか。確かあいつが育ててるのって……」

「スーさん、鈴蘭ですよね。どう森で環境がサイコーになると生えてくる花です」

「どう森ってのはともかく……あいつが人里に? 確かあいつ人間を憎んでいたような」

「幽香さんと仲良いって話ですし彼女がなんとかしたんじゃないですか? ほら、あの人とても優しい人ですし」

「……えっ? いや早苗、幽香が優しい?」

「えっ? 凄く優しい人じゃないですか、私も花は育ててるので時折話すときはとても勉強になりますよ。それに丁寧に教えてくれますし」

「……アンタもあっち側(フランのタイプ)か」

「???」

 

 まるで分かってない様子の早苗を見て霊夢は、多分これも奇跡のチカラってやつよねー、とか思いつつこの話をやめることに決めた。

 一方、

 

(どうすれば……どうすればいい……っ! 選択は一度きり、失敗は許されない……っ! 好きなだけ食べるお菓子が欲しい……がプライドも捨てられない私は……っ!!)

 

 まだ、レミリアは悩んでいた。

 

 #####

 

 

 五月七日

 

 

 そういえば書いてないけどちゃんと修行はやっている。

 最近は太陽拳って技を覚えた。額から太陽のような眩い光を放つ目くらましの技だ。とはいえ吸血鬼にとってはこれ天敵といってもいい技なので使わないけど。

 あとはドラゴン波ってのも覚えた。気を貯めて一気にぶっ放す技だ。レーザービームみたいな感じだけど、使い勝手は良い。今度弾幕に混ぜてみよう。あとはちょっとした超能力を今勉強中だ。

 超能力。

 それは主にテレパシー、透視、予知、地獄耳、サイコキネシス、テレキネシス、サイコメトリー、瞬間移動、念写、パイロキネシス、記憶操作を指す言葉である。

 めーりんは過去に超能力使いと会ったことがあり、ある程度の修行方法を知っているらしい、とりあえず今出来るのは瞬間移動とパイロキネシスだけだが頑張って増やせればと思う。

 

 で、ここまでが前置きとして。

 今日は前に魔理沙が言ってた『コミュ障』を治すための心当たりがある人の元へ行くことになった。

 魔理沙の話だとどうやらその人は『地底』に居るらしい。

 地底というのはいわゆる旧地獄というところで、過去に罪を犯したり余りに強力だったことから封印された妖怪が数多く住むと呼ばれる場所だ。

 主に鬼などがそれに当たるらしいが、彼女はその中でも『殺す気』ならば世界を滅ぼすことすら可能である力を持つという。

 どんな人なのか正直怖い。

 とりあえず今日はまだ会えないらしく、魔理沙曰く「地底で一泊しようぜ」とのことだった。

 お姉様の許可を取るのが大変だったらしいけど私の知らないところで事前に弾幕ごっこで認めさせていたらしい。意外にも普通に見送られて私は地底に行くことになった。

 

 で、地底に行ったんだけど縦穴すごいね。

 行くルートとして私達は博麗神社にある地底に繋がる穴から降りてったんだけど、かなり下までいったんじゃないかな?

 で、ようやく地面に降り立ち、吊り橋を通りかかったところで声をかけられた。

 

『あら』『地底に何の用?』

「よぉパルスィ、ちょっと野暮用でな」

 

 声をかけてきたのは水橋パルスィさんという人で目に色がないーーけれど何処にでも居るように思えるような、そんな不思議な雰囲気の人だった。

 

『それにしたって』『お客さん連れとは珍しい』

 

 くるりくるりと私を見て彼女は言った。

 なんだか括弧付けてるような言い回しだった。

 

「まぁなんにしてもこっから先に用があるから通らせてくれよ。見てわかる通りコイツ――フランも妖怪だし問題無いだろ?」

『別に、私は通る許可なんて出してないわ』

『だから』『通りたければどーぞ』

『たださ』『そっちのフランさんだっけ?』『その眼、気になるから今度お話ししてくれると嬉しいわ』

 

 目って……もしかしてこの人私の能力に感づいてるのかな?

 それとも地底に封印されたくらいだし似たような能力とか?

 そう思ってたら魔理沙がこっそりと「こいつ、嫉妬心を操れるんだぜ」と教えてくれた。

 嫉妬。それは七つの大罪の一つ。

 あぁ、成る程それは封印されるわけだ。

 だって人々の前を彼女が通るたびに人々の嫉妬心は煽られ――伝播し――驚異的な速度で広がっていく。そしてその嫉妬の輪が大きくなればなるほどに彼女の力も増幅されていく。

 最期に待つのは世界を覆い尽くす嫉妬だ。そして人々は互いに殺し合い、憎み、嫉み、妬む。

 人間が絶滅するまで感情はなくならない。いわば拡大的に言えば彼女の能力はそれ即ちーー人類全滅能力とも言える。

 そしてそれだけ感情に詳しければ私の中に眠る狂気を彼女が初見で見抜く可能性も低くない、と。

 

 ともかくこの一件で私は気を引き締め直した。

 確かに地底はとてつもなく危険な場所らしい。

 水橋さんに別れを告げて旧都に行くとそこは火事と祭りは江戸の華、を体現したような和の世界が広がっていたがそこら中魑魅魍魎が蔓延っていた。

 ……最悪の事態に備えて魔理沙を守れるようにしとかないといけないかもしれない。

 冗談じゃなく。

 

 #####

 

 

「……なんですか、パルスィさんってこんなキャラなんですか?」

「というか能力の拡大解釈も甚だしいわね。そんな化け物なら地底に落とされるだけじゃなく深く封印されるっつの」

「あの、パルスィさんってフランちゃんが思うほど危険じゃないんですか?」

「当たり前でしょ。精々がパルパル〜って妬む程度よ」

「そうなんですか……でも地底って鬼も多いとか聞きますし、私が行くときは気をつけないといけないかもなぁ」

「んー……ま、早苗は気をつけないといけないかもね」

「えっ、なんかあるんですか?」

「いや……ほら、地底の異変の原因ってアンタのとこの神様が」

「神奈子様……ですか。確かに嫌われててもおかしくないですね」

「でしょ、まあアンタが行く時は私が着いてってあげるわよ」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「なんだかんだアンタには野菜もらったりして世話になってるしお互い様よ」

 

 そんな風に巫女二人による麗しき友情が描かれる一方。

 

(ぐうう……っ! 私は……私は……っ!!)

 

 レミリアはまだ悩んでいた。

 

(甘味に……甘味に私のカリスマが……っ!)

 

 そんな彼女が日記を進められていることに気付くまで。

 ――――後、一ページ。

 

 

 




今回出てきたネタ

・飴が四〇〇個(ポケモンGO、コイキングを進化させるのに必要な飴の数)
・その時レミリアに電流はしるーーーー!!(あれ以下の地の文は福本漫画、賭博黙示録カイジのオマージュ)
・鼻と顎(カイジキャラは基本鼻と顎が尖っている)
・太陽拳(ドラゴンボールより)
・超能力(斉木楠雄とかから発想)
・括弧付けたパルスィさん(めだかボックスより、球磨川禊)また(妬んで!パルスィさんより)
・ドラゴン波(ハイスクールD×Dより、元ネタはドラゴンボールのかめはめ波)
・どう森の鈴蘭(どうぶつの森より、村環境をサイコー! にすると生える花)

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