ようやく場が沈静したのは一時間が経った頃だった。
その間に一同はフランの帰りを遅らせるべく、霊夢は拳で。早苗は奇跡でそれぞれ紅魔館の備品を壊したり、紅魔館そのものに隕石を落としたり、さとりが想起でかつての異変を再現しそれをフランに解決させたり――。
そんなこんなしていると幻想郷の賢者である八雲紫が「もうやめて!」と泣き付いてきたり、挙げ句の果てには全員の頭の中に龍神ちゃんではない通常の龍神のものと思われる渋く深いボイスで、
――『やめて下され、やめて下され』
という直々のお告げまで響いたりしたが。
「フリですね分かります」
――『断じて違う!』
そんな一言でお告げをぶん投げたあと奇跡やらそんなレベルじゃねぇ災厄を降らせまくった挙句全てをフランに丸投げしていく屑の極みのような。いやむしろ「美しく残酷にこの大地から
一時間もの時間を要してようやくレミリアは立ち直った。
泣き跡はまだあるし顔も赤いものの、ついでにいえば羞恥からか一言も喋らずに下を向いているものの、それでもその小さな唇を動かして呟く。
「……取り乱してごめんなさい」
立ち直ったレミリアは少しだけ顔を上げて言った。
「……それと、ありがと。真実が真実だけに受け入れがたいし、屈辱だけど。でも不思議ね」
指で髪を
「凄く、別の意味で死にたいわ」
立ち直――、
「……あぁ死にてぇ」
「レミリアさん!?」
立ち直って無かった! 早苗が思わず突っ込むとレミリアは爽やかな笑顔で、死にてぇ死にてぇと普段の言葉遣いをぶん投げて呪詛のように呟く。
「あぁ、空が青いわね。眩しいわ。あの下に行けば死ねるかしら」
「青っ、夕方ですよ!? オレーンジ!
(……うわぁ)
妹に恨まれ、彼女の為に自らを罰しようとしたレミリアが全てを勘違いだと理解した上でそれを受け入れることを強要された結果がこれだった。
必死に正気に戻そうとする片手間に適当に流星群を降らせている早苗もそうだが、キラキラした笑顔でそうのたまうレミリアを見てさとりは絶句する。
「はー、綺麗ね。流星群。あ、流れ星が落ちる前に三回願いを言えば叶うんだっけ? お金持ちになりたい! お金持ちになりたい! お金持ちになりたい!」
(……あぁ! なんかもう外が
流石にこれ以上は黙ってはいられない。レミリアの妖力を丸ごと借りて出していた『想起』を打ち切るとさとりは一同に自粛を求めようと……思ったが途中でやめる。
外の光景を見て目眩がしたのだ。と同時に理解したのかもしれない。
あ、これもうそんなレベル超えてるわ、と。
すると、クラクラするさとりを他所に霊夢がパンパンと手を鳴らした。
「さてと。で、どうするのレミリア?」
真面目な顔つきだった。
真剣味に気圧されたのかレミリアも顔を上げて顔を引き締め、尋ねる。
「……何、を?」
「日記よ日記。続き読むの?」
「…………、」
返ってきた問いは確かめであった。
四月一日まで読んだフランドールの日記。その次のページからを読めるまでに回復したか、と霊夢は問いかけているのだ。
一転した問いにレミリアはちょっと考え込む。
自身の状態。心はどうだろうか。大丈夫だ。正直忘れてしまいたい、それこそ一生涯の恥を晒してしまったせいで色々と辛いが、泣き続けたせいか心は不思議と落ち着いていた。
それからちょっと考え直してみる。
レミリアが考えていた、フランの下克上なんてものは妄想に過ぎなかった。
フランはレミリアへの恨みなんて抱いておらず、とても家族想いのいい子だった。そのことは嬉しい。とても、嬉しい。
だからこの恥は他ならぬ血を分けた妹を少しでも疑ってしまったレミリアへの罰なのだろう。ならばそれを受け止めて自分は前に向かなくてはならない。成長しなくてはならない。
じゃあどうしよう。
全てを元に戻すために。フランとの関係をより良くしていく為に。
思案して、首を傾げて、ふと窓の外を眺めて。
そして決めた。
「……外の光景見る限りそんなことしてるレベルじゃないと思……」
ボゴッ! という音を立てて穴が空いた柱を見てレミリアがビクッ、とする。
そして笑顔の霊夢は言った。
「言い忘れてたけど返事は『はい』か『yes』ね」
「……はい」
レミリア は あきらめた !!
……と、そんな事情も経て、一同は次のページをめくることになる。
後にこの異変の名は(レミリアの自殺未遂も含めて)『最終プリン戦争異変』と名付けされ、レミリアが悲鳴を上げるのだがそれはさておき。
改めて一同はラストスパートを切っていく――――。
多分今回ほど好き勝手書いたのは過去の回見直してもない(確信)