三月十三日
月から帰った翌日。なんか家に永琳さんが来ました。
どうやら昨日の話を聞きつけてやって来てくれたらしい。ツクヨミさん直々の降臨があったのだとか。
とはいっても私は私でちょっと疲れててさ、咲夜に休むように言われちゃっててパジャマ姿でベッドの中だったんだけどね。
あと軽く診察してくれた。
体内の
……と言われてもスサノオさん繋がりで、スサノオさんとの接点も偶々会ったからだしなぁ。
というか体から地上が殲滅可能な猛毒が検出されたり、何千万回単位で相手を殺す呪いがかかってた痕跡が見つかったとか言われたけど、そんな事されてたんかい! 月人怖っ。攻撃が当たるたびに怪我とかを破壊してて良かった、本当に。
あとこっちからは私が捕まえたウサギさんの話をした。犯すとか言ってたウサギさん。よく分からないからお医者さんに聞こうと思ったのだ。ほら、お医者さんって頭良いって聞くし。
……でも教えてくれなかった。むー、子供じゃないのに。
食い下がろうとしたら珍しくも間が悪いことに笑顔の咲夜が入室してきたし。
うーん……まだ早いって言われたけどどういう意味なんだろう。
パチュリーの図書館にも無かったしなぁ。あ、でも小悪魔曰くパチュリーが自分だけで管理する本がある空間もあるって聞いたしそこにあるのかもしれない。
……でも禁術の本とかも多そうだなぁ。前までは魔理沙が本を盗りに来てたから危険な本にあたらないようにする為にわざわざ別空間を使ったとも思えるし。
……うーん、難しいね。
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「知らなくて良いから、えぇ。切実に」
「情操教育も必要ですけど流石にあのウサギさんは問題ですよね……」
「おのれ月人め……やはり
「……(というか「エロ同人みたいに!」って言葉が前に出てきましたけど月にもあるんですかね、エロ同人。だとしたら地上とそんなに変わらな……)」
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三月十四日
なんかボロボロのナナシ君が家に来た。
うん、何があったの? 所々血が出てる、というかピューピュー出てるし、泥まみれなんだけど。
うちのお風呂入る? 大浴場あるけど。
そんな具合にお風呂に入れてからお話を聞くことにしました。怪我は回復魔法で完治させたからお風呂に入っても大丈夫なはず。でもちょっと心配なので入れてあげることに。
「……いや、すまん。本当に助かる……でも良いのか?」
「大丈夫よ。というかどうしたの? あんなに怪我して」
水着を着た私が、腰にタオル(外れない魔法を掛けた)を付けたナナシ君の体を後ろから洗って上げながら話を聞くとこんな感じだった。
まず、ナナシ君はとある用事で私のところに行こうとしていたらしい。
けれど途中で面倒なことに巻き込まれてしまったんだとか。
「あっ、お前クラスメイトの……えと、権兵衛!」
「ナナシだよ!! 相変わらず鶏みたいな思考回路してんなチルノ」
まず紅魔館に来る途中チルノちゃんに絡まれたらしい。
「何してんの?」
「フランのとこ行くんだよ。お前は?」
「んー、私はねー! 今日は男からお菓子を貰える日って聞いたから奪うとこ!」
「は?」
「ほわいとでー? ってやつ! さぁ弾幕ごっこで負けたらお菓子を全部よこせー!!」
「誰だお前にそんな嘘吹き込んだのは!?」
そんな具合に弾幕ごっこが勃発したらしい。とはいえ初めての経験で氷の弾幕が体を掠めたり、急降下して避ける際にミスをして半身を地面で擦ってしまったり、でもなんとか勝利したんだとか。
「……けほっ、勝ったぞ」
「う……うああああ! 負けたあああ! ちくしょう覚えてろー! 次は必ずあたいが勝つんだから!」
そう言い残してチルノちゃんが去ると、ナナシ君はまた紅魔館に向かい始めたらしい。
で、その途中だったそうだ。
「……あらー、お菓子の匂いがするわー?」
「……っ!?」
ゾクリとした、とのちに語る。
柔らかく響いた声に振り返るとピンクの悪魔が居たらしい。
で、その西行寺幽々子と名乗る彼女が急に襲い掛かってきたとか。いや、幽々子さん何やってんの?
で、行動とは裏腹にやたら強い彼女に追い込まれていくナナシ君だけど、負ける寸前にかつて夢見た『極大のレーザー』が頭をよぎり、幽々子さん目掛けてぶっ放すことに成功したらしい。
「
で、黒い魔砲で幽々子さんを貫くことに成功したらしいけど全く倒す事は出来なかったとか。でもその光が元で保護者を名乗る妖忌さんが現れて事なきを得たとか。
でもってこの時点で魔力はすっからかん。飛ぶだけの力もなく地面を駆けて紅魔館を目指したらしい。
でもまだもう一人最後の刺客が居たんだとか。
「なんだか美味しそうな匂いがするのかー」
「……げっ」
一応人喰い妖怪のルーミアちゃんだ。タイミング悪くルーミアさんは寝ていたらしく、この時のルーミアちゃんはナナシ君が持つお菓子を狙っていたらしい。
それで弾幕ごっこを挑まれたけど魔力はすっからかん。もう煙も出ないナナシ君は地面を駆けずり回り、弾幕を避けてたらしいけど次第に限界が来て被弾してしまった。
昨日の雨で地面がぬかるんでいたおかげで湿気が着弾時の爆発を抑えてくれたみたいだけど、それでも並々ならぬダメージを受けてしまう。
でも立ち上がり最後に搾りカスのような魔力を行使して弾幕を打ち、操って背中から着弾させて地面に落として、鬼の人から聞いた体術で気絶させるに至ったらしい。いや普通に凄いなナナシ君。
それで、その後なんとか紅魔館に辿り着いたんだって。
「……ふぃー。疲れが取れるようだ……」
「それは良かった」
チャポン、と一緒のお湯に浸かると気持ち良さそうに声を上げる。
ただなんかこっちに視線は向けまいと壁に固定してたけど。
あと小声で「無自覚なだけ、こいつは無自覚なだけ。勘違いするな、あり得ないから」とか言ってたけどなんのことだろう?
ま、いっか。
ともかくお風呂から上がって一つ聞きたかったことを聞いてみた。
「そういえばなんで私に会いに来たの?」
「いや、なんでってお前な。今日は三月十四日だぞ? ホワイトデーだよ。ほら、前に貰ったからお返し」
「その為にわざわざこんな怪我してまで……?」
「……あぁそうだよ。ほら、受け取ってくれ」
そう言って差し出された包装された小箱を見ると多少皺が出来ていたものの泥は付いてなかった。
私は受け取ると精一杯の笑顔を向ける。
「ありがとっ!」
「……っ!」
一瞬頰を染めたナナシ君はぽりぽりと頰をかいてから言った。
「その笑顔が見れたなら、怪我した甲斐もあったかな……」
と。
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「きゃー、良いですねー! ナナシ君も順調に強くなってますし、無自覚でお風呂イベント! ラブコメってますねー」
ちょっとハイテンションな早苗とは対外的にレミリアは大真面目な顔でこんなことをのたまった。
「……ねぇ、五寸釘と藁人形って魔法の森の人形遣いに聞けば貰えるかしら?」
「やめて差し上げなさい」
「……アリスさんも困ると思いますよ、多分」