三月八日
……なんかお姉様に追跡された。
人里で気付いたけど尾行ごっこかな。でも私が振り向くたびに木とか店の後ろに隠れたりしてるけど全部見えてるからね? 『目』が丸見えだからね?
何が楽しくて尾行してるのかは分からないけど変なことをやり出したなぁ……。
しかも犯罪だし……外の世界なら警察案件よ?
まぁ見た目的になぁなぁで済まされるけどさ。お姉さま小ちゃいし。精神年齢がアレだし。
どうしようかな。
それとなく咲夜に言って追い払うか、それとも適当に撒くか。
……撒くか。
ついでにちょっとした罰も与えておこう。雀荘に入って瞬間移動で離脱で良いよね。あとは鳩に化けさせた式を作って困ってるお姉様の観察と洒落込もう。
で、やってみました。
『
「フラン……えっ? ここ、雀荘? 確か、麻雀って賭け事のお店よね?」
迷いなく雀荘に入った私をみてお姉様は最初慌ててたよ。
いつの間にフランが悪い子に……と呟いて、でもともかく連れ出さないと! と雀荘に入ったの。
「フラン! 雀荘なんかに――――ってあれ? フラン?」
で、雀荘に怒鳴り込んで私を呼ぶお姉様だけどそこにはもう私は居ないわけで、雀荘で麻雀を打ってたおじさん達に睨まれてオロオロしてた。
それから「し、失礼したわ。勘違いしたみたい」と取り繕って出て行こうとしたけど……、
「待ちなよ。折角来たなら一局どうだい、嬢ちゃん」
「……私、麻雀のルールを存じ上げませんの。ゴメンあそばせ、オジさま?」
意外とスルリと抜けるもんだね。ニッコリ笑顔で切り抜けてた。
落ち着いたらそんなに緊張することでもないと気付いたのかもしれない。
それから店を出たお姉様は「……はぁ、見失った」としょんぼり溜息を吐いてた。
「……フランの一日が知れると思ったのになぁ」
最近暇だったし、と呟いてからお姉様は切り替えたのか、ん……と伸びをして傘を差す。
「……ま、良いわ。暇潰しなら他で出来そうだし」
それからお姉様が向かったのは里外……香霖堂だった。
そういえば前に聞いた覚えあるなぁ。霖之助さんの店にお姉様がちょくちょく来るって。
「いらっしゃい。おや、久しぶりの顔だね?」
「どうも。商売繁盛してるようね」
「妹さんのお陰さまでね。君も変わらないようで何より――さて、今日は何が御入用かい?」
「暇を潰せるものを」
「……暇潰しかい? ならそうだな。テレビゲームなんかどうだい? Wiiってやつを何台か入荷してね」
「どんなものなの?」
「Wiiリモコンっていうコントローラーを使用して遊ぶんだよ。体感型ゲームだから初心者にも分かりやすいと思う。本体と幾つかオススメのソフトを付けて二万五千円でどうだい?」
「買ったわ。はい、お金。釣りは要らないわ」
「毎度あり。まったく、以前からの客だと君くらいのものだよ。まともにお金を払ってくれるのは。霊夢も魔理沙もツケばかりでね」
「ふふっ、私は誇り高い吸血鬼だもの。商品を盗むような真似はしないわ。惚れたかしら?」
「ハハハ、冗談を。君のような高貴な方と僕は釣り合わないよ。とても可愛らしいとは思うけどね」
「……サラッと口説くのね。嫌いじゃないわよそういうの」
「口説いているつもりはないんだけどね。お世辞の範疇さ。気に障ったならすまないね。あいにく性分なもので」
「別に気にしたりしないわ。そういうところも含めて私は結構好きよ、貴方のこと――ねぇ、私自ら買い物に来るのは貴方の店だけって言ったらどう思う?」
「光栄な話だね。だがそれと同時に変な人だと思うよ。僕の店に来る人は皆変な人が多いからね」
「あらツレないのね。ふふ、ともかく今日はこれで失礼するわ。また来るから」
「あぁ、また。歓迎するよ」
』
うん。誰だこいつ。
こんなのお姉様じゃない! すぐに分かったよ。あれ、これ私化かされた? いやでも違うよね……。
もしかしてお姉様普段は演技してたりする? 普段はポンコツを演じてるけどその実こんな感じの性格だったの?
……うーん分からない。あと、今更だけど霖之助さん色んな人に好かれてるよね。
ともかくお姉様の意外な一面が見れました。
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「偽物ですね、間違いない」
「そうね」
「……そうですね」
「黙って聞いてりゃ何よあんたら。私のことなんだと思ってんの?」
「ポンコツ」
「カリスマ(笑)」
「……バシュゴォ」
「よし分かった表でろや!」
直後、爆発と紅魔館の門の被害拡大。
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三月九日
三月九日ってタイトルの歌あるよね。
あーふれーだすーひーかりーのつーぶがー。
……まぁそれはともかく、今日は初めての体験をしました。
どんな体験かというと、それを話す前に私の現状について書いてみようか。
今私がいるのは鉄格子の中です。両手を後ろ手に縛られて口にはガムテープが貼られています。あ、でも今は日記書いてるから拘束を外してるけどさ。
いやーまさか誘拐されるとは思ってなかったよ。
この前何もない空間に捕らわれたことに比べたらなんだかほっこりするよ。というか今もちょっとワクワクしてる。
後ろからクロロホルムを染み込ませたハンカチを押し当てられた時とかはビックリしたよ。人間なら即死レベルの濃さだったけど二、三分くらい掛かったかな。意識失うまで。
無抵抗だったのは単に初めての誘拐体験だからつい攫われてみたくなっちゃって……てへ。
で、気が付いたら暗い地下室っぽい部屋で後ろ手に縛られて、両足も関節を拘束されてました。まぁ拘束は小手先の技で抜かれるくらいの代物だったけどさ。
あと一応檻には能力を封じる力もあるらしい。まぁ魔法が使えるから何にも意味無いけどさ……そのお陰で日記も取り出せたわけだし。
さてこれから一体何をされるのかな。
別に虐められたいとかそういう思いはないけど初めての体験にドキドキワクワクだよ。
そこらの拷問じゃ痛みも感じないし一体何をしてくれるのか。そもそも何が目的で誘拐したのか。
とても楽しみだ!
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「誘拐……よね。誘拐って楽しいの?」
「……なんかフランちゃんの感覚がおかしくなってません? スケールの大きな出来事に遭いすぎて」
「……慢心してますね。油断というか、足元をすくわれなければ良いですが」
「私どこでフランの教育を間違えたのかしら……?」
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三月十日
何もされなかった。つまんないの。
拘束したままご飯だけ出してくれて食べるように命じられた程度。
軽く怒鳴られたけど怖くないし……うん。
もしかしてあれかな。紅魔館に交渉とかしてたり?
フランドール・スカーレットを誘拐した。返して欲しくば〇〇万円を用意しろ、みたいな。
というか一日中檻の中にいるの怠いし脱出しようと思う。
素手で曲げられるしね。で、脱出して紅魔館に帰ってきました。
帰るときに紙を用意して『暇なので帰ります』って書置きしたけど犯人の人達は読んでくれたかなぁ?
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「帰っちゃった!?」
「自由気ままですね……というか犯人グループ野放しなんですけど良いんですかそこは……?」
「……なんて発言すれば良いんでしょうか」
「……うーん、この」
何とも言えない微妙な空気になる一同なのだった。