とりあえず次回からまた元の路線です。
やっぱこの作品には度が過ぎたシリアスは合いませんね、はい。
二月二十四日
まだ夢の中にいるようだ。
朝、目が覚めて色のある世界である事にどれだけ安堵することか。
お姉様がいて、咲夜がいて、めーりんがいて、パチュリーがいて、小悪魔がいて、レミィたん(リメリア)もいて、AIBOもいて。
で、そんな紅魔館に私もいる。
その事がどれだけ幸せな事だったのか。
一日を過ごすうちに改めて噛み締めた。ふとした所作を行うたびに涙が零れてしまう。乗り越えたつもりが、意外とあの世界で摩耗していた私の精神は脆いらしかった。
……いつも通りの日常。
朝起きたら咲夜と一緒に朝ご飯を作って、皆で食べる。
めーりんとお昼まで修行する。
友達と遊んで午後からは知り合いに会ったり行ったことのない場所に行ったり、散歩したり。
寝る前には少しパソコンと携帯を弄って、友達とLINEしたりして寝る。
楽しかったよ。当たり前だと思っていたそれらの一つ一つがまるで天上の世界のように輝いてみえた。その中にいれる事にとても幸せと安心を感じた。
……もう二度とあんな目には遭いたくない。
一度心が壊れてしまって、自分を殺した感覚は今でも体の内にある。握り締めた瞬間に自分の中の大切な物が全て壊れてしまう、私という存在何もかもが壊れていく。
自分に向けたからこそ自分の力の恐ろしさが身に染みた。こんなもの他人を脅かす為に使って良い力じゃない。
……あと、寝るときに悪夢を見てしまう。
レミィたんにお願いして一緒に寝てもらったけど、いつまでもこうしてもいられない。
……乗り越えないと、いけないよね。
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「まだちょっと後遺症があるんでしょうか?」
「……あれほどの体験だもの。仕方ないわよ。寧ろ今ちゃんと精神を保っている事を褒めるくらいだわ」
「……どれほどの恐怖なんでしょうね、怖いです」
「……フラン」
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二月二十五日
神綺さんが紅魔館に来た。
夢子さんが「やめてください!」とか叫んで縋っていたけど引き摺って来てたよ。
話を聞くとどうやら数日前から加護を私に送れなくなってどうしたのかと心配してくれたらしい。
……加護ってGPS機能でもあるのか。それとも通信制限みたいに電波の届く距離に限りがあるのか。
いずれにせよ心配してくれてありがとうございますという話だ。
で、心配を掛けてくれた相手にはキチンと説明をしなくてはならない。
だからこそ数日前の出来事を話したら神綺さんがブチ切れた。
「はぁ!? 次元の狭間に……ねぇフランちゃん。その人――どこの魔神か分かる?」
「さぁ……?」
具体的には龍神ちゃんの住む位相に行ったとき、急に何者かが侵入して来て私を次元の狭間に落とす事故を起こした挙句そのままどっかに消えてしまった事を話したら、だ。
物凄い笑顔で「そいつ見つけ次第
本気で怒ってくれている様子を見て私のこと心配してくれてたんだなぁ、って思ってさ。直前に何もない世界の話をしたせいかその時の出来事も頭の中をよぎってしまって思わず
すると怒ってた神綺さんが慌てて私を心配する顔になって、抱き起こした後に抱き締めてくれた。
泣いていた私が何もない世界の出来事を思い出して怯えてしまったせいかもしれない。「大丈夫、大丈夫よ」と抱き締めたまま優しく言ってくれた。
怖かったね、って声をかけてくれた。
余計に泣いてしまった。ちょっと恥ずかしい。でも神綺さんってアリスさんのお母さんだけあって……ふわりと感じた優しい包容力から本当のお母様みたいだなって思ってしまった。
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読み終えて、おや……? と早苗が首を捻った。
「……おっと見逃せないワードが出て来ましたよ? 次元の狭間に落ちた話をしたら『どこの魔神の仕業?』と聞き返して……」
確かにおかしな話だった。
具体的に言うなら、何故神綺が乱入して来た存在を魔神と断定できたのか、それが問題点である。
すると「あぁそれなら」とさとりが手を挙げた。
「……あ、その話は私知っていますよ。『何もない世界』の話を聞いたことがあります」
「なに、どういうこと!? 説明してさとり!」
食い気味に尋ねる霊夢を無視してさとりは説明を始める。
「……そもそも何もない世界って言うのは一説には『全てが壊れた空間』とも言われているんですよ。宇宙をひっくるめた世界全てが丸ごと消えてしまった空間――というべきでしょうか。そしてその世界は人為的に作ることが出来るそうです。ようは世界を作り変える、『魔神』と呼ばれる存在によってですね。他にも作れる神や人外も存在するそうですがそれは少数の希少例なので省きますが……」
「だから魔神と断定した、と?」
「……もしくは神綺さん自身が魔神なので、彼女にも同じことが出来るからという予想も立たれます。世界を作り変えるなんてスケールの狂った力を彼女が操れる、という前提ですが」
それに伝え聞いた話ですから信憑性も何もありませんけどね、と彼女は苦笑いした。
話を聞いたレミリアは顎に手を当てて、曖昧な顔で呟く。
「……魔神のことは分かったわ。でもそれよりも、本来、こうやって妹を抱き締めてあげるのは私の役割だと思うの。なんか納得いかない」
「子供か」
「うっさいわね」
突っ込んだ霊夢を軽くあしらってレミリアは大真面目な顔でそう言い切った。
普段なら「こ、子供じゃないもん!」と反応する彼女も今回ばかりは露骨なポンコツ路線は自重しているらしい。いや、本人が自覚してそれを行なっているかはともかく。
「……とりあえず次のページにいきましょ」
顔を上げて続きを読み進めるレミリアなのだった。
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二月二十六日
暗闇の世界から帰って来てから初めて寺子屋に行った。
今更ながら私の顔を鏡で見て少し驚いたよ。暗闇の世界にいた時のことを考えている時の私の顔ってさ……目から色が無くなってるんだ。
精神が死んでしまったかのように壊れた目をしていた。
……勿論、その時のことを考えてない時はそんなこと無いけどさ。
ともかく久々の寺子屋だ。
また数日間休んでしまったせいで皆から心配されたよ。
チルノちゃん、大ちゃん、ルーミア、みすちー、リグル、メディスン。隣のクラスも入れるとサニーちゃん、スターちゃん、ルナちゃんや橙ちゃんも心配してくれた。
隣の席のナナシ君も「風邪か? 寒いから気を付けろよ?」と的外れな心配をくれた。
副担任の先生も「何か悩み事でもあるなら話せよ」と言葉を掛けてくれたっけ。
皆、優しいなぁ。でもこの話は極力しないつもりなんだ。
神綺さんに話したのは魔神だからこそ分かってくれる、と思ったのが理由だけど……それ以外だと咲夜にしか話してないしね。
ただ、神綺さんが怒ったように咲夜も咲夜で「……よくも妹様を。必ず地獄を見せて差し上げましょう」と毎晩ナイフを研いでてちょっと怖い。
……うーん、私の為に怒ってくれるのは嬉しいけど暴力的なのは駄目だよ? まぁそれくらいのことはされたのかもしれないけどさ。
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「……それくらいのことなんですよね」
「私は寧ろ咲夜とか神綺って人の言い分に同意ね。私の妹をこんな目に遭わせた相手なんか生かしておけるわけがないわ」
「フランちゃんは思考が博愛な人間に近いですからね……。妖怪としてや家族を守る意味ではレミリアさんの方が私も正しいと思いますけど……安易に殺すのは同意しかねます」
「私なら退治するけどね。そんな傍迷惑な奴が居たらぶっ飛ばすわ」
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二月二十七日
……今更だけど、あの暗闇の空間はいわば今私がいる世界を管理するためのバックヤードなんだよね。
龍神ちゃんに案内されたのは幻想郷を管理するためのバックヤードで、私が迷い込んだのは世界を管理するためのバックヤード。
出入り口が条件で存在する世界で何もない世界。
……何もない。
……いや、本当に何もなかったのかな?
今思えばあの世界には色々矛盾点があるんだよ。
例えば龍神ちゃんに案内された幻想郷側の暗闇の空間だけどさ、あそこには龍神ちゃんが生活していた筈なんだ。
なら生活する上で何もないなんてそれこそあり得ないよね。
まぁ排泄が必要ないにせよ、龍神ちゃんは外に出たりをよくしている。なら彼女が帰った時に一緒にあるものを必ず持ち帰る筈なんだよ。
そう、微生物だ。
私の能力は例えどんなものでもそのモノの目が視認出来て、破壊出来る。
それこそ微生物なんてサイズでも無数の目が存在するように普段から見えてるんだよ。
なのに文字通り何もないんだ。それに私自身の体に付着している微生物も居なかったんだ。
つまりあの世界に入る上で何かしらのフィルターが存在すると仮定出来る。
でね、ここで話を戻すけど。
『あの世界はバックヤードであり出る為の方法が存在する』というのは真実の情報だ。
じゃあその脱出口を開く為の方法ってなんだろうって考えた時に一つ可能性に思い立ったんだよね。
具体的に言うと私の死体が血溜まりに沈んでいた映像を見て思ったんだけどさ。
あの映像を見て私は疑問点を見つけたんだよ。
それは血溜まりに沈む私の死体に破壊出来る点が無かった点だ。
さっき微生物の話をしたけど、体に付着した微生物は全てフィルターで除去された。でも私の体内はどうなの? ましてや血液の中にたった一匹もそれが存在しないのはおかしいよね?
だってもしそうなら私が生きているわけないんだから。だって微生物がいなければ体のメカニズムが崩壊して死んでしまうもの。
……長々と話してきてキリがないから結論を言おうか。
あの空間には『修正力』ってものが存在する。
具体的にはパスワードのようなものかな。ほら、例えば指紋認証なんかでの本人確認ってあるでしょ。分かりやすく言うならそれで正式なパスを持って中に入ったものは問題無い存在として対処するけど、そうでなければ空間に出た瞬間に抹殺する防衛機構がある。
例えば、私が息をしようと口を動かすたびに口内から漂う微生物が
ただこれには一つだけ例外がある。
それが、『血液』だ。
私の死後も血液だけは空間に存在し続けていた。それすなわち血液は『私のパス』という範囲内にあったか、脱出口の例外であったかのどちらかだろう。
もう今更な話だけどね。
関わりたくもない。
それでも万が一には備えておきたいんだ。
もう一度巻き込まれてしまった時のために、ね。
『私の血を捧げよう。空間を開け』
それに龍神ちゃんの顔をあれ以来見てないし、気になるんだ。
……あと、私は大丈夫だと伝えてあげたい。
まぁこんな考察なんてまだまだ荒削りだから実際に上手いこと龍神ちゃんの住む空間に繋ぐなんて真似が出来るわけが――あっ。
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「あっ。って何っ!? 開いちゃった!? 開いちゃったのっ!!?」
「数日で魔神に昇華したわよこの子っ!? なに、怖っ!? アレだけの目にあって自分からまた飛び込むどころかレベル合わせていったっ!?」
「……もう訳分かんないです」
「それは私のセリフよ! 何これっ!? いや、おかしいでしょぉっ!!」
全ツッコミであった。
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二月二十八日
龍神ちゃんを慰めました。
開き方と帰り方はマスターしました。今度からはちゃんと対処できるね。
……これで私もちょっとは成長出来たのかな。
あの世界にいた時には結局何も解決策どころか解決法も出なかったから、あの時の私と比べたらちょっとは成長出来ていたら嬉しい。
さて、明日から三月だしまた気を新たに日記を書いていこう。
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「……良い話、なんですよね?」
「……多分」
さとりが呟いた言葉に霊夢は曖昧に頷いた。
すると話を聞いていたレミリアが叫ぶ。
「というかツッコミどころが多いのよ!! もう魔神のところまで昇華した時点で私の理解のキャパシティーはとうにオーバーしてるんだからっ!?」
「それに賛成です! 理解不能です! というかこんなの理解出来たらおかしいと思います!」
同意する形で早苗も頷いた。
と、その時ここまでの話をふまえて何やら決意した霊夢が叫ぶ!
「はい、じゃあここでアンケート! この話について深く考えるか何も考えず次のページをまた読み始めるか! さぁ、どっち!?」
「「「次のページ(です!)」」」
結果は満場一致であった。