二月十日
ナズーリンさんから遊園地のチケットを貰った。どうやらネズミーランドという遊園地が幻想郷に出来るらしく、遊園地の存在を認知させるためにまずは一度行ってみてくれ、と知り合いに配っているらしい。
私の場合は白蓮さんと知り合いだったからね。そのツテでもらった。
で、家に帰ってチケットを見せたら、お姉様が急に遊園地に行くわよ! と言い出したんだよね。
というわけで皆で行きました。咲夜、めーりん、私、お姉様、パチュリー、こあで。レミィたん……リメリアはお留守番だ。
で、行ったら凄い行列だったよ。入り口の時点で一時間待ちとかだった。
で、まず入場券を買うんだけど、その時こんな表示が目に飛び込んできた。
『八十歳以上の方は半額です』
んー。
「……ねぇお姉様。私達シニアで良いの?」
「いや、えっ? よ、妖怪は駄目だと思うわよ、多分」
駄目らしい。というわけで大人しく子供二人として買ったけどそれはそれでお姉様が納得してなかった。
けど咲夜が「主人は器量を見せるものですよ」と言うとすぐに「そうね!」と意見を反転させるあたりいつものお姉様だね。
「じゃあ、まずは皆で入り口のアーチのとこで写真撮ろ写真!」
そんなわけでまず来た記念に一枚パシャリ。
それぞれピースサインと笑顔の写真が出来ました!
お次は乗り物なんだけど……、
「……うえぇ、待ち時間一四〇分か。長いなぁ」←私
「まぁまぁ妹様。これも修行ですよ。忍耐力を鍛えましょう」←めーりん
「でもちょっと寒いわね。仕方ないわ、列に並ぶ間お茶会をしましょう。咲夜?」←お姉様
「お嬢様、淑女はマナーを守るものです。紅茶でしたら魔法瓶に入れてきましたからそちらで我慢してください」←咲夜
「うっ、分かったわよ」←お姉様
「(お母さんね)」←パチュリー
「(お母さんですねー……)」←こあ
うん、こんな感じだった。
で、そんなこんなで順番が回ってきてさ。
「そういえばこのジェットコースターってどんな乗り物なの? さっきからやたらと悲鳴が聞こえるけど」←お姉様
「パンフレットによると絶叫アトラクション、だそうです。〜闇夜を高速で翔けるスリルがあなたを包み込む〜というのがコンセプトで……」←咲夜
「高いところで回転したり急降下したりする乗り物ですよお嬢様!」←めーりん
「……私、そんなの乗りたくないんだけど」←パチュリー
「大丈夫ですよパチュリー様! 慣れれば手放しでも出来るそうですし!」←こあ
「そうそう。弾幕ごっこの時散々飛んでるでしょ?」←私
まぁかく言う私も初めて乗るから分からないけどさ。
ちょっと興奮してる。ドキドキと心臓が鳴って、新鮮な感覚に心が躍る。
私の隣はお姉様だった。それで楽しみだね、と笑いあいながら一緒に装着ベルトを付けてさ、上からレバーで体を押さえつけた時だった。
『なお、身長一四〇cm以下の方や八〇歳以上のご高齢のお客様は命の危険がありますのでお乗りになれません』
「」←私(身長138cm・495歳↑)
「」←お姉様(身長139cm・500歳↑)
あ、あ……あぁっ……!
「? お嬢様、妹様? どうなされました?」
「お、お姉様!!」「ふ、フラン!」
咲夜がなんか言ってくるけどそれどころじゃない!
い、命の危険っ!? 身長も年齢も両方当てはまってるんだけどっ!?
一瞬白目を剥いた私達は二人して半泣きで手を繋いだ。
「ちょっ!? どうしたんですか妹様!? お嬢様!?」
「ごめん、ごめんねめーりん。私、先に逝くみたい……!」
「咲夜、咲夜ぁっ!! わ、私も……私も死っ……」
そんな事を呟いている間にジェットコースターが動き出す。ガタンガタンと音を立てて上へ上へと昇っていく。
「「ひゃああ!!」」
「ちょっとお二方!? まだ悲鳴上げるには早いですよ!?」
私とお姉様は悲鳴を上げた。めーりんがなんか言ってくるけど返す余裕がない。
カタン、カタン、と上がっていく音がカウントダウンのように聞こえた。
規則性のあるその音が、まるで私達の残りの人生の秒数を数えているようで酷く不安感を煽る。
一体これからどうなってしまうのだろう。それが分からなくて酷く怖かった。ボロボロ泣きだしてしまうくらいには……。
するとお姉様が酷い泣き顔でこっちに話しかけてきた。
「……フラン、ごめんねっ! ごめんねっ! 今更かもしれない……でも最後だから言わせて! ……長い間幽閉してごめんなさい! お姉ちゃん、もっと勇気が出せれば……っ! フランに話しかけてあげていれば……ぁ、もっと早く地下から出してあげれたのに……っ!」
「お姉様……お姉様は悪くないよ……っ! 私、すっごく幸せだった。この一年間、いっぱい……いっぱい色んな事体験出来たんだ……! みんな、みんな初めての事ばかりですっごく楽しかった……だから……っ!」
「フラン……」
「お姉様……」
そして頂上へ着いた。
ゆっくりと、ゆっくりとコースターが傾き出す。
(……ぁ)
多分もう日記を書くことも無いだろう。
だからこれが最後の記述だ。
みんな、ありがとう。
わた……し、……すっ、ごく……。
し……あ、わ……せだ……っ…た…。
ジェットコースターが終わった。
……死にたい。具体的に言うと数分前の私達を殺して!
お姉様と二人して顔真っ赤だ。咲夜には慰められて、めーりんには「まぁ知らなかったらそうなりますから……」とフォローされて、こあには「妹様が、なんて珍しい……」と言われた。
関係無い周りのお客さんにはすっごい微笑ましい目で見られて……恥ずかしい!
……お姉様ともすっごい気まずい。
二回目だけど言わせて、死にたい。
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読み終えた反応はこうだった。
「あはははっ! フランちゃんもこんなことあるんですね! あははははっ!」
「爆笑してるわね早苗……」
「いやだって面白過ぎるでしょ! ジェットコースターで死を覚悟して泣くって! あははっ!」
「ば、馬鹿にするなぁっ!! すごく怖かったのよ!? これが人生最後って思って!」
「あははっ! すみません! あーもうレミリアさん可愛いっ! お持ち帰りしたいー! 可愛すぎますー!」
「こら撫でるな! 笑うな! 子供扱いするなーっ!」
「……ッフ……不覚にも笑いました」
さとりもプルプルしている。ツボに入ったのだろう。
「まぁまぁ……知らないなら仕方ないでしょ。だから、その元気出しなさい?」
「な、泣いてなんかないんだからね! これは汗だから!」
「はいはい、分かってます」
もはや日記内での暴露という辱めにあいすぎたせいで涙腺が限りなく弱くなってしまったレミリアは恥ずかしさからボロボロ泣きながら反論するのだった。
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二月十一日
昨日はネズミーランドのホテルに泊まった。
ネズミーキャラのイラストが壁にプリントされていてファンシーなお部屋だったよ。
ホテル内でもちょっとしたイベントをやってて、ネズミッキーとか、ネズミニィとかクマダッフィーも居た!
あとさ、あとさ、アヒル声のドナルドトランプとかも!
泊まるのに結構値段したけどうちはブルジョワだから大丈夫! まぁ節約は重要だけどこういうところに来たんだからちょっとは奮発しないとね。
と、その時ふと思い出す。
「……そういえば結局ナイトパレード見れなかったなぁ」
ナイトパレード。ネズミーランドの醍醐味なのに。昨日の恥ずか死ぬ出来事のせいだ。正直思い出したくないからこの事を考えるのはやめよう、うん。
ともかく今日は普通に楽しんだよ。
「殺された気持ちが分かる?」
「「きゃあああッッ!!?(泣)」」
普通に……
「知ってる? 閉館後のネズミーランドにいる悪〜い子はね?」
「「ひゃあああッッ!!?(泣)」」
ふ、普通に……
「蟲蔵に落とされたら二度と自分の意思では戻らない」
「「ぎゃああああッッ!!?(泣)」」
駄目だ。ネズミーランド怖過ぎる!
なんか全体的に私の能力が通じない! 着ぐるみに細工がしてあるのか分からないけど全く目が見えないんだ!
だから相手の場所が把握出来ないし、一々おどろおどろしいし、最後に至っては無数の蟲に襲われる映像を見せられた……。
スプラッタだよ! 怖いよ! 泣くよ、こんなの!
お姉様と一緒に大泣きしたよ!
ひっぐ……もう、もう二度くるかぁー!!
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「……トラウマになりましたね」
「……そうね」
「……これは酷い……」
三人はそれぞれ呟いてチラリとレミリアを見る。
「……もう行かないから。本当に、うん」
早苗の膝の上で三角座りして呟く彼女の目には光が無かった。
うわぁガチのやつだこれ……三人は察して次のページをめくる。