四月編1『始まりのお茶会』
――何かがおかしい。
紅魔館当主にしてカリスマなる吸血鬼、レミリア・スカーレットは腕を組みながら、そんなことを考えた。
正面五メートル前には濃い黄色の髪にサイドテールで紅い洋服を纏う少女がテキパキと掃除を行っている。一見するとお手伝いか何かかと思うがその動きに迷いはなく、チリ一つ見逃さず素早く掃除を行う姿は非常に洗練されていた。
二人が居るのは彼女らが住む紅魔館、その当主であるレミリアの自室である。紅魔館といえば幻想郷においても上位に名を連ねるほど大きな建物だが、その当主の部屋ともなると家具の一つ一つが豪華なものである。
しかしその高級品一つの扱いに関しても手馴れた様子であった。吸血鬼の館ということで外からの残光は薄く、視界不良にも関わらずだ。
本来、紅魔館の掃除などは全てメイド長、
――いつからこうなったのかしら。
そんなことを考えるようになるなんて、一年前は思ってもいなかった。いつものように退屈な日常を過ごし、時には博麗神社に遊びに行ったりして紅魔館当主としてのカリスマを見せつけ――本音ではほんの少しの享楽を味わおう――そんな思いで今年も過ごそうと思っていた――その過程で紅魔館に住む皆が崇拝する王でありたいと、精々そんなものである。
しかし、そんな曖昧な
レミリア・スカーレットは『運命を操る力』を持つ。普段から使う事はないが、大体一年前から日ごと日ごとに当初想定していた運命から何か歯車がズレていったのだ。
その筆頭が目の前の少女。レミリアの妹であるフランドール・スカーレットである。いや、筆頭というよりは全ての元凶とも言えるかもしれない。
495年という時間を紅魔館の地下室で過ごし、精々が大図書館で魔法を覚えたり本を読む程度だった彼女が今では幻想郷において『レミリアよりも知名度を上げ、レミリアよりも人気を誇り、レミリアよりも政務を得意とし、レミリアよりも卓越した魔法の使い手となり、レミリアよりも女として上にある。』
単純な力関係を考えればそれでもまだ姉であるレミリアが上と思われるがそれすらも曖昧な状況である。巷ではレミリアよりもフランの方が当主として優れているのではないかという声が出るくらいだ。
――これ、よく考えなくても不味いわよね。
一体妹に何があってこんなことになったのか――まだレミリアは把握をしていない。だがこれはどう考えても不味かった。最近では屋敷内での対応もレミリアよりフランの方が良くなってきた気もする。正直明日にでも当主の座を奪われてしまうかもしれない――顔には出さないがそれほどまでにレミリアはある種の焦りのようなものを感じ始めていた。
下剋上という言葉がある。幻想郷のある日本でも、かつて「浦上」という大名が「宇喜多」という家臣に城を奪われた話があるらしい。
幻想郷においてフランドールの方が知名度も人気もあり、また屋敷内の人望もレミリアより高い。また様々な面でレミリアは負けている。ここまで来れば本人が望まぬとも周りが持ち上げるレベルだ。
そこまで考えてレミリアはふと視線をフランに向ける。彼女はふんふんと楽しげに鼻歌を歌いながら掃除を進めていた。埃が舞わぬように注意し、テキパキとこなす姿は元の素材が良いという点を含めると女神のようにも見える。里の男が見れば大天使フランちゃん――とかなんとか言い出すに違いない。そこには一種のカリスマ性と暖かな雰囲気が存在していた。
実は昨日――四月二〇日の夕方に屋敷を歩く彼女を呼び止めてレミリアはフランに尋ねたことがある。
――ねぇ、フラン、これからも一緒に居てくれる?
何か明確な答えを求めて発した言葉ではない。人望で負けているとはいえいざとなれば咲夜を筆頭とした従者達も自分に味方してくれると信じている。もしかしたら自分より優れた存在になってしまったフランがこれまでと同じように接してくれるのか分からなかったことがこれを彼女に言わせたのかもしれない。
フランは、しばしレミリアの瞳を覗き込むようにしてから、微笑んで答えた。
――お姉様がそう思い続けてくれる限りは。
レミリアの真意を図る言葉だったが、それでもレミリアは自分の心を塞ぐ重荷が取れたような気がした。まだフランは私を慕ってくれているのだと素直に嬉しかった。
それなのに――。
「……ねぇ、言っちゃ悪いけどさ」
レミリアの自室。そのレミリアの横に座る少女は少し迷いながら口を動かした。真っ赤な巫女服を纏う少女である。
彼女の名前は
「レミリア、アンタあの子がどうしてあそこまで成長したのか知らないの? お姉様なのに?」
「……うるさい、だって最近はフランも大人しかったから見てなかったの。それに最近は朝起きも珍しくないけど私は誇り高き吸血鬼よ、本来夜に起きる種族よ。毎日朝から起きるわけないでしょ?」
「でも、あの子――フランだって夜に起きてる日もあるらしいわよ。寿命が長いくせに一日一日を無駄にせず生きようとしているのはアンタより高評価だけど……まぁ普段から修行をサボってる私が言うことじゃないか」
霊夢は呟いてフランの淹れた紅茶に口をつける。続いてレミリアも同じもの(ただし砂糖たっぷり)に口をつける。味は美味だ。たった一年余りで咲夜顔負けの技術を手に入れたフランは屋敷内において唯一咲夜の代わりに全てを任せられるほどのメイド能力を持つらしい。レミリアは基本的に紅魔館運営を全て咲夜任せにしている為、フランはナンバーツーという立ち位置となる。そういった意味で言えばもう紅魔館をフランに乗っ取られてるんじゃないか、とちょっと思う霊夢だが口には出さない。
すると掃除を終えたらしいフランがレミリアの方に近付いてきた。
「よーしお掃除終わりました! じゃあお姉様と霊夢さん、私は失礼するね。何かあったらそこの呼び鈴鳴らしてくれたら私か咲夜が行くから」
それだけ言うとビシッと敬礼ポーズを取ってフランは部屋を後にする。呼び鈴を鳴らすだけで来るという時点で屋敷の当主の妹のやることではないがもう見慣れたものである。
丁寧な所作で扉の開け閉めを行い彼女の姿が扉の向こう側に消えた。
バタン――と静かになった部屋でレミリアはティーカップをおいて溜息を吐く。
「……ねぇ霊夢」
「なに?」
「フランは私を追い出さないよね? 笑顔の裏で下剋上とかを企んでないよね?」
「落ち着きなさいよまったく。カリスマ性どこいった。戦国時代じゃないんだから下剋上なんてないわよ。そもそも姉妹でしょあんたら」
「……だってフランの運命読めないのよ! 地下の悟り妖怪も言っていたけど、普段から心を読めているといざ読めない相手が居る時何を考えているのか分からなくて怖いらしいわ。それと同じで私も運命が読めないから……」
「……他人ならともかく家族でしょ? 妹のことくらい信じてやりなさいよ」
大体地下の悟り妖怪、さとりだって妹のことを信じてあげているってのに。霊夢は呆れたようにレミリアを見つめる。
最近『カリスマ化』が進む妹に対しこの姉は『かりちゅま化』が進んでいるらしい。レミリアがおかしくなった理由は霊夢にも幾つか思いつくがやはり一番大きいのは「バシュッ、ゴオオオ」だろう。いつぞやに月の都を訪れた際、レミリアは月の守り人にボロ負けしたのだ。それは見事な負けっぷりだったがそれが尾を引いたのか、その後はホフゴブリンを雇い入れたり新技吸血鬼ごっこを編み出したりと奇行が目立ち始めている。あと最近ではチュパカブラを飼いだしたとか。金持ちの感覚は分からない霊夢だが色々な意味でレミリアに余裕がなくなっていることは想像がついた。
と、その時だ。
「……って、ん?」
どうしようか、とふと霊夢が部屋を見回すと一冊のノートが落ちていた。かなり分厚いノートである。
なんだろう、と思った霊夢は近付いてノートを拾い上げる。
「これは……」
「どうしたのよ?」
「んっ」
疑問の声を上げるレミリアに霊夢は黙ってそのノートを突き出した。レミリアが受け取り、タイトルを読み上げる。
「……フランドールの日記?」
それはフランの日記だった。
妹が日記を書いていたとは知らなかった――レミリアは少し驚いて目を丸くする。だがそれもしばらくのこと。
――もしかしてこの中にフランドールがあそこまで成長した理由が書かれているのでは?
ムクムクと湧いてきたその考えがレミリアにノートを開かせる。知らず、口角が上がり鋭い吸血歯が顔を覗かせた。
「どうするの、ソレ?」
「逆に聞くわ霊夢。どうしたい?」
「…………、」
霊夢はごくりと生唾を呑みこんだ。興味はある。かなり――いやメチャクチャ興味はある。フランの成長は家事スキルなどに留まらない。その体つきもこの一年で色々と成長していた。具体的に言うと元からレミリアより若干大きかった胸が成長している。
とはいえ人間基準で言えば大した成長ではない。しかし妖怪基準で言えば成長期にしたっておかしな伸び方である。数百年数千年生きる妖怪が目に見えて分かる成長をするというのはそれほど異質なのだ。
その秘密が載っている。それだけじゃない、この一年で紅魔館は幻想郷内で幾つかの事業を成功させたとも聞く。経営法も載っているかもしれない。祭りなどの経営にはよく携わるがそんなのは生活費に消えてしまうのだ。
魅力的なものが幾つも詰まった日記。読みたかった。普通に興味もある。
数秒、二人は黙り込んだがやがてお互いの顔を見合わせる。
「読みましょうか」
「待って。フランが落としたと気付くかもしれない」
「大丈夫。読み終わるまで戻って来ないと『巫女の勘』がいってるわ」
巫女の勘。博麗の巫女の勘は当たる。どのくらいと言われるとほぼ百発百中である。俺の占いは三割当たる! と得意げな人間も別の世界線にいるわけだが話にならない。
その巫女の勘がいうのだ。なら大丈夫だろうとレミリアも頷いた。
そしてその一ページ目が開かれる。
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四月一日
暗い地下室で495年が経った。
私が地下で495年過ごした理由は『気が触れている』からなんだけど今さらながらこう思ったんだ。
『495年も引きこもってたら余計狂気に呑まれないか?』と。
なのでこれから日記をつけてみようと思う。理由は狂気の防止。老人のボケ防止みたいで余り気は進まないけれどこうやって少しでも頭を動かさないと最悪考えることをやめてしまう可能性も否定できない。
何より狂気に呑まれた後に世界がどうなるかとか考えたくないし。
『ありとあらゆるモノを破壊する程度の能力』なんて理不尽な力を持ってるせいで狂気に呑まれたら最後全てを壊してしまう可能性だってある。まぁ十中八九止められるけど1%でも可能性がある以上潰しておきたい。
――――私の大切な人を壊さないためにも。
……なんて。物書きになったような気で書いてみたけど日記の書き出しとしてこれはどうなんだろう? でも書き方なんてよく知らないしなぁ。
それに暇って書いてるけど最近は紛らわす道具も沢山あるし……。まぁ暇つぶしでいっか。趣味とかないし、日記を書くことを趣味にしてもいいかもしれない。
……誰にも読んでもらえないけどね。
あ、でも最近、お姉様が『ぱそこん』だっけ。八雲紫って人からそんなのもらったとか言ってたなぁ。
確か科学の力で人とお話したり情報を見たり出来るって聞いたけど。それを使えないかな? ちょっと考えてみよっと。
……まぁまずは『壊さない』ようにしないといけないけど。
とりあえず、明日は屋敷内に出てみようと思う。
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「……四月一日、アンタが言ってた一年前ね」
「えぇ、この頃からフランが段々成長していったわ」
とりあえず一ページ目を読んでみた感想としてはこんなものだった。まだ始まりということで特に感想はない。
はやる気持ちで二人は次のページをめくる。
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四月二日
今日は久々に大図書館に顔を出してみた。
大図書館というのは私が住む紅魔館という館の地下にある魔女の住処だ。
分かりやすく言えば、私の姉の友達の魔女の部屋ね。
パチュリー・ノーレッジ。
それが大図書館の主の名前。以前、私を訪ねてくれた霧雨魔理沙っていう人間の魔法使いが彼女のことを『あいつずっと図書館にこもってるから動かない大図書館だとか言われてるんだぜ?』とか言っていた。でも魔法の腕は確かで、私も多少魔法を嗜んでいるけど相手にならない。
そのくせ実年齢が一〇〇歳を超えているくせに見た目は十代後半。しかも可愛い。あと隠れ巨乳。普段ローブみたいな服着てるから分かりにくいけど。
私とお姉様は吸血鬼ということで五〇〇年を過ぎても見た目は子供なんだけどなんだかズルい。まぁ胸のサイズはお姉様に勝ってるから良いとして、でも雰囲気が若干大人っぽいのが少し羨ましい。
まぁあと二〇〇〇年も経てば私も大きくなるか。
……話が脱線しちゃった。元に戻そう。
私が大図書館に来た理由なんだけど、昨日書いた『ぱそこん』についての資料を探すためだったりする。パチュリーの大図書館は定期的に
たまに
そんなこんなで久々にパチュリーと顔を合わすと彼女はすごく驚いていた。パチュリーの使い魔こと小悪魔のこあさんもだ。
まぁ狂気に呑まれてるとはよくお姉様から聞いてるだろうし身構えるのは当たり前だろうけど。むしろ身構えてくれないと怖い。万が一狂気に呑まれてた時困るし。最近は思考もクリアでそんなことほぼないけど。
それでとりあえず話を聞いてみたら大図書館に『ぱそこん』は無いと言われた。
まぁやっぱりぱそこんって外部でもそんなに年月経ってない技術だし仕方ないのかもしれない。確か二十年くらい? 探せば見つかるだろうけど残念なことに私の活動区域は紅魔館の中と、広く見てもその周辺。
無いなら仕方ない、諦めよう。
その後、パチュリーに最近あったことについて聞いてみた。
私の中で一番ホットなニュースといえばお姉様が起こしたという『紅霧異変』だし。まぁそれもそれが起こってしばらくしてから私の部屋に転がり込んできた魔理沙という人間の魔法使いから聞いた話なんだけど。
でもパチュリーも外に出ないせいか余り知らないらしい。
レミィから聞いたんだけどね、とお姉様の名前を挙げてから彼女は幾つかの出来事を語ってくれた。
曰く――お姉様が月に行っただとか。
曰く――幾つかの異変が起こり解決されただとか。
曰く――罪と書かれた袋をかぶった男達が現れるようになっただとか。
最後のはともかく私が知らない間に結構色々なことがあったらしい。
ちなみにぱそこんについてなんだけど、お姉様はよく分からなくて一回
沢山の人とお話できるなら例えば弾幕ごっことかのアイデアとかも皆で考えたりとか出来るかもしれない。それだけじゃなくて色んなことも出来るかも。
そう考えると少し胸が躍った。
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「癇癪ってあんた……」
「私は悪くないわ、あのポンコツが悪いのよ」
「だからってモノに当たるのはやめなさいよ……」
「あんなもの所詮鉄クズよ。私に必要ないわ」
「……建前はともかく本音は?」
「起動ボタンが分からな……ハッ!」
「ポンコツはアンタじゃない!!」
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四月三日
495年間、地下室に幽閉。
そんな年月を地下で無駄に過ごしたことについて改めて見直してみた。
いやだって勿体無いじゃん。吸血鬼の人生は長いったって人生は一度きりだよ? 地下室にいたとしてももっと色々経験できたんじゃないかな。今更ながらにそう思ってしまった。
日記を書き出して考えることが多くなったせいかもしれない。
というわけでなにか始めてみようと思う。
女の子の趣味と言えば料理とか?
自分で美味しい料理が作れるようになれると思えば少し興味ある。
咲夜の料理って凄く美味しいから教えてもらえないか聞いてみよう。
ぱそこんが手に入ったらそれをやるでも良いけどね。
ともかくこの怠惰にして無駄に過ごす日々を変えないと! 最近じゃニートなんて言葉もあるらしいけどそれは駄目だと思う。
私の状況ってまんまそれだからまずは目指せ脱ニート☆だ!
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「ニートって……まぁ色々やってみるのは良いことだけどね」
「この頃までずっと地下暮らしだったから……良い傾向だと思ってたわ、あの時は」
「じゃあ今は?」
「だって、まさか私の地位が危うくなるまで成長するなんて……」
「ならアンタもなんか始めてみれば?」
「うー……うんそうね」
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四月四日
やった!
最初、料理を教えて欲しいとお願いしたら怪訝そうな顔されたけど咲夜は料理を教えてくれるらしい。
でもありがとう! って抱きついたら一瞬ふらっと倒れちゃった。疲れてたのかな? すぐ起き上がって何事もないような態度をとっていたけどもしかしたらお姉様のお世話で疲れていたのかもしれない。
申し訳ないことをしたかも。
咲夜は人間だから無理しないでほしいと思ってるんだけど。
でも承諾してくれた手前、断るのは無理そうだった。
割り切って、早速簡単なものから作ることに。
『ハンバーグ』だって。
うちの食卓ってやっぱり吸血鬼だから人肉とか人の血とかもあるんだけど、今日のは咲夜も味見するから普通のお肉にしたらしい。アドバイスを聞きながらやってみたら普通に美味しくできた。
「妹様、とても上手に出来ましたね。美味しいです」
咲夜が笑顔で言ってくれた。
……うん、嬉しい。
思えば、モノを壊すのは得意だけど作るのは初めてだった。
それに、人に喜んでもらえたことなんてもう何年ぶりだろう。
嬉しかった。しばらく続けてみようと思う。
あと、料理って楽しいね!
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「料理って楽しいね、だってお姉様?」
「きゅ、吸血鬼の王は料理出来なくたっていいの!」
「吸血鬼とかやる前に淑女名乗ってるならそれくらい出来ときなさいよ……」
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四月五日
今日は外。といっても紅魔館の敷地なんだけど、外に出てみた。
太陽の光は体に毒なのでキチンと日傘をさしてだけど。
敷地内といえ外に出るのも久しぶりだ。特に昼間に出るのは。しばらく散歩気分で紅魔館の庭にあるフラワーガーデンを歩いているとめーりんと出会った。
本名は
今日出会った時もお花に水をあげていた。
「妹様。珍しいですね、外に出るなんて」
彼女は私を見ると少し驚いた様子だった。
私も自分自身にビックリしている。こんなに私ってアグレッシブだっけ? ってビックリだ。
ちなみに今日外に出たのはめーりんとお話するのが目的だったりする。
こう見えて彼女は中々長生きなのだ。見た目は二〇代前半の巨乳お姉さんって感じだけど、私とお姉様と同じくらい。もしかしたらもっと生きている妖怪。
前に色んなお話を聞かせてもらったことがある。
で、彼女には一つ聞きたいことがあったのだ。
『どーやったらそのスタイルになれますか?』
女として聞きたい。パチュリーは引きこもりで喘息持ちだからちゃんとしたアドバイスをくれないだろうが彼女は別だ。
というか私はパチュリーに対し、実は引きこもっているせいで少し太っているからあんな全身を覆い隠すようなローブを普段から着ているんじゃないかと少し疑っていたりする。
でもめーりんは違う。一目で分かる。
彼女の容姿を私の精一杯の文章で書いてみよう。
紅美鈴は燃えるような赤い髪の女性だ。背が高く、男性を惹きつけるような色気を放っている。彫りが深い顔に突き出たバスト。履いているのか履いていないのかが曖昧な緑色のチャイナドレスに離れて見ても分かる腰のくびれ。鍛えているのか少し足が太めだが、むっちりとした太ももが女らしさを感じさせる。
話すと分かるが彼女は快活で、妖怪にしては誰と話しても基本低姿勢という好感を持てる態度を取っている。それでいて武術の達人である彼女の元には日々、挑戦者が絶えなかったりもする。
ようは大人の女性。それでいて強さと色気を同時に持つ。
地下室暮らしが続いていたせいで、私は沢山の本を読んだ。その本の種類は王子様とお姫様のお話だったり、ハッピーエンドの話が多かったけどどの本もお姫様は美しいらしい。
可愛い、とか美しいの定義は分からないけど憧れる。特に、紅魔館の中から楽しそうに色んな人と話している彼女を見ると。
何よりこんな幼児体型じゃなぁ……。
まぁ個人的に気になるっていうのも一つの理由だけど。
で、それを口にするとめーりんはしばらく考え込んだからこう言った。
「女らしく……うーん。あっ、そう言えば私、普段から拳法をやっているんですけどそれが良い運動になっているのかもしれません。あとはよく食べてしっかり寝ること。昔聞いたのですが、体には成長を促す時間帯というものがあるそうです。吸血鬼がどうかは分かりませんけど」
拳法……女の子らしいはともかくとして弾幕ごっことかに組み合わせる意味でやってみたいなぁ。
せっかくだしお願いしてみようか。これまで495年無駄にしてきたしもうちょっと色々行動してみても良いかもしれない。料理もやってみると楽しかったし。
それに壊すのはいい加減飽きたしね。
頼んでみたら彼女はめーりんはあっさり了承してくれた。
明日から時間決めて早速やるらしい。朝の六時か……。
なんか最近昼夜が逆転してるなぁ。吸血鬼って夜に生きる種族じゃなかったっけ? まあ地下にいれば変わらないけど。
まぁどっちにしても地下で一日過ごすよりは面白そうだし頑張ってやってみようと思う。折角お願いしたしね!
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綴られた日記の最初の数ページはそのようになっていた。
うん、と霊夢は頷いて言う。
「……なにこの子、ピュア過ぎない? こうも真面目に女の子女の子してる子なんてそうそう居ないわよ。495年閉じ込めてこの性格ってどんだけ良い子なのよこの子。天使よ、吸血鬼だけど天使よこれ?」
「………………、」
「あれ、ちょっとレミリアー? どうしたの」
「……胸のサイズは関係無いわ。そうよ私は誇り高き吸血鬼の王。大丈夫私は強い」
「カリスマブレイク早くない!? ちょっとアンタ本当に大丈夫?」
肩を持って揺らしてみるがその顔は疲れていた。
主に心労的な意味で。だが彼女はすぐに冷静さを取り戻すと微笑をたたえた。
「もう大丈夫よ。ちょっと、妹が実は悪魔ではなく天使ではないかって考えてしまってイエス・キリストの呪いを受けてしまっただけ……えぇそうなの! そうだから」
「大丈夫じゃないから! イエス・キリストは呪いとかかけないから! むしろ浄化する側よ」
「…………とにかく次を読むわよ」
もうすでに言動が怪しいレミリアだが次のページをめくっていく――――。
今回出てきたネタ
・罪袋(東方MMDなどで多く登場する。元ネタはたにたけし氏)
・咲夜さん倒れる(東方二次創作ネタ。忠誠心は鼻から出る、なども似たジャンル)
・カリスマブレイク(「かりちゅま」などとも言われる。二次創作ネタ)