Fate/Victory Order    作:青眼

9 / 20
ふぅ。ようやくゴールデンなウィークですね。金時あたりが喜びそうな週ですよ。

明日は遂に、『Fate/EXTRAccc』とのコラボイベント開催ですよ!ガチャ報告の方も更新しましたので、そちらもご覧になってくださると嬉しいです!!


決戦(3)

特異点F。それはFate/GrandOrderにおける『始まりの街』のようなものだ。まぁ、その『始まりの街』でいきなりラスボス級のサーヴァントと遭遇したりするわけだが、それはこの際置いておく。

 

アルトリア・ペンドラゴン(オルタ)

彼女は『Fate/』シリーズにおける最高傑作にして、メリーバッドエンドストーリーである『Heaven's_Feel(ヘヴンズ・フィール)』ルート、通称HFルートで聖杯の泥によって生まれた存在だ。

スペックはオリジナルに引けを取らず、ことFGOにおいてはオリジナルをも上回る宝具火力。性格は冷酷無慈悲にして暴虐の限りを尽くすことから、卑王ヴォーディガーンとしても扱われている。けどまぁ、シリアスな状況でなければ、ジャンクフードが大好きなドS美少女だ。

そう。ドS(・・)だ。誰が何を言おうともこれだけは絶対に異論は認めない。だってーーー

 

 

「ふっふっふ。良いぞ。貴様のその表情、実に気に入った。そうら、先ほどの様に喘いでも構わんぞ?」

「だ、れが、んなことするかよ………!!」

 

俺が下に敷かれ、その上にアルトリア・オルタがサディスティックに嗤いながら、こちらに手を伸ばす。喉から頬、髪へと下から上へと撫でられる。他人に触られた事がない所を触れられ、体が少しは震える。それを見たオルタは、満足気に頷いた。

 

「ふっ。男に触れたことはあまりなかったのだが、貴様のその態度で興が乗った。まだまだ楽しませろよ?研砥」

「ふ、ざけんな。良いのかよ。そんな無防備に背中をひゃぁ?!」

 

せめてもの抵抗で少し挑発しようするも、耳に息を吹きかけられて奇声をあげてしまう。それが面白かったのか、オルタは声を出して笑った。どうしてこうなった、と内心でぼやく俺なのであった。

 

さっきから十分以上はこうしてじゃれ合っている俺たち。いや、じゃれているというのは言葉に誤りがある。正確には、俺がオルタに蹂躙(翻弄)されているというのが正しい。より正確には、オルタが俺という玩具で遊んでいる。

本人が言う通り俺の態度が面白いのか、それとも元々こういう性格だったのか。いや、この場合だと両方か。ともあれ、今の俺は成す術もなく可愛がられていた。

どうしてこうなったのだろうか。ここで登場するオルタさんはかっこよく悪役(ヒール)を演じるのではなかったのか、とFGOにおける彼女の役を思い返して嘆く俺だった。

 

「ーーーだが、じゃれ合いはここまでの様だ」

「………は?」

 

少しは残念そうに呟きながら、オルタはのしかかっていた俺から離れ、魔力で編んだ鎧を身に纏う。右手を伸ばせば、突き刺さっていた黒い聖剣が持ち主の元に戻る。

 

さっきまでの楽しそうな表情から一変、前方を注意深く見据えるオルタに倣うように、ゆっくりと俺は立ち上がる。すると、微かにだが、前の入り口から足音が反響して聞こえた。

ーーー直後、突如として細長い何か(・・)がこっちに向かって飛来した。

 

「ーーーふっ!」

 

飛来したそれを剣の一振りで叩き落とすオルタ。その後も連続して飛んでくる何かを、正確に叩き落としていく。叩き落とされていくそれの形状が、矢に改造された刃物だと分かった時、俺は大きく外回りに走った。

 

(あれはエミヤの弓矢だ!なら、皆が助けに来てくれたんだ!!)

 

あのヘラクレスをどうやって倒してたのか気になるところだが、それは一先ず置いておこう。今は、オルタがエミヤの剣弾の相手をしている内に、入り口まで逃げるの方が大切だ。そのあとは後ろから指示を出すだけでーーー

 

「おい、じゃれ合いは終わりだと言ったがーーー」

 

走ってから数秒。後ろから爆発が起こるこの状況でも通る、とても冷たい声が聞こえる。たまらず後ろを見れば、そこにはーーー

 

「逃げて良いと言ったか?」

 

赤黒い剣を掲げ、それを振り下ろすオルタの姿があった。真名開帳ではない、『魔力放出』によって放たれる斬撃。それでも、ただの人間を殺すには十分すぎる威力の物が、俺に目掛けて迫ってくる。

数秒後に体を両断するそれを見た俺は、無我夢中で地面に転がる。直後、凄まじい突風と衝撃が頭上を通過する。

 

「ーーッ!!はぁっ、はぁっ、ッ!!」

 

身近に迫った死の恐怖のあまり、その場で俺は踞る。ここにいたら危ないと、早く逃げろと本能が叫んでいたが、足が震えて腰も抜けて、一歩も動けなかった。

それでも死にたくないと、足が動かないのならと腕を使って匍匐前進を始める。ゆっくりと、だが確実に洞窟との距離が狭まっていく。

 

「足掻くな。無苦しいぞ」

 

再びオルタが剣を振るう。最初に放った宝具の一撃ではない、漆黒の斬撃が命を刈り取るべく迫ってくる。今度こそ、もう終わりだと思い目を閉じる。

 

(あーあ。情けない。せっかく助けに来てくれたのに、こんな風にあっさり殺されるなんて、申し訳ないなぁ)

 

死にかけると時間が止まったように長くなると聞くが、あながち間違いでもないのかもしれない。現に、数秒後に迫った死が少し遠くに感じた。

 

(ーーーまぁ、あとは主人公に任せるか。せめて、痛みを感じずに死ねたら良いなぁ)

 

エミヤやブーディカさん、俺を心配してくれたマシュやロマ二さん。後はオマケで狭間とオルガマリーさんに詫びて、生きることを諦める。だがーーー

 

「じゃあ、私はこう言い返そうかな」

 

女性の声がした。オルタのように寒気がする程の冷たい声ではなく、暖かみを感じさせる、優しい声が。そして、俺はその声を聞いたことがある。

 

「追って良いとも、言ったかな?」

 

何かがぶつかり合う音がする。地面が割れる様な大きい音が空洞内に響き渡る。それから数秒後、自分がまだ生きていることを実感した時、閉じた目を開く。そこにはーーー

 

「ふぅ、何とか間に合ったね。遅れちゃってごめんね?」

 

そこには、剣を地面に突き刺して微笑んでいる赤い髪の女性が、ブーディカさんが微笑んで立っていた。

 

「ふん、まぁよく生きていたな。悪運のいいマスターだ。だが、よく生きていた。後は任せて下がっていろ」

「よく言うぜ。ついさっきまで全力で矢を射っていたくせによ」

「……やはり、貴様から先に逝くか?クー・フーリン」

「はっ、ルーン魔術の真髄、その身に刻んでやろうか?ア゛?」

 

後方で弾幕を張っていたエミヤと青い髪の青年、クー・フーリンがやって来る。が、早々に口喧嘩を始めるいつもの二人にどう反応したものかと戸惑っていると、大きな盾を持った少女がこっちにやってきた。

 

「黒鋼さん!良かった、無事だったんですね!」

「あー……マシュ、か。ああ。何とか大丈夫だ。本当に、さっきまで死にかけたけど」

「そ、そうですか。あとは私たちに任せて、黒鋼さんは所長や先輩の所まで下がってください」

 

正直、マシュに戦わせるのにも申し訳ないのだが、そうも言ってられないのでお言葉に甘えて後ろに下がる。ああ、でも。一つ忘れていたことがあった。

 

「ブーディカさん!エミヤにクー・フーリン!それからマシュ!!」

 

十分に後ろに下がってから、俺はこれから戦いに出る四人に声をかける。こっちに視線を送ってくれているのを感じた俺は、大声で叫ぶ。

 

「本当に……本当に!助けに来てくれてありがとう!!」

 

その一言だけ、礼を言ってから俺はオルガマリーさんたちの後ろに回る。女性を盾にする形になるのは本当に情けないと思ったが、生きるためには仕方がないと割り切る。

 

「ーーーぷはぁ!生きてる、生きてるよな俺!?」

「あ、ああ。大丈夫。生きてるよ研砥」

「あ〜くそ!!本当に死ぬかと思った!!十八年間生きた記憶を振り返ったからね俺!?」

「煩いわよ初心者二人!!黙って後ろに下がってなさい!!」

 

俺たちの会話を強引に打ち切りながら、オルガマリーさんは手元に握った石を放り投げ、四角い盾を何重にも作り上げる。今まで魔術なんてものとは接点がなかったが、素人目にもこの盾が高度な物だと察せれた。

 

「あ〜、あと黒鋼?ほら、これあげるわ」

「……はい?」

 

懐から赤い紙で包装された棒状の物を手渡される。何だろうと紙を剥いてみると、凄いカカオの匂いがした。言うまでもなくチョコバーという物だ。

 

「え、これチョコレートですよね。貴重なものなんじゃ」

「仕方ないでしょ。あんたフルーツ駄目だって言ってたから、ドライフルーツ食べれないでしょ?なら、余り物がこれしかなかったのよ。それ食べて、集中力を回復させときなさい」

 

 

一方的に言い放つオルガマリーさんだが、それは彼女なりの優しさなのだと感じた。大空洞までの移動中の、会話の繋ぎでしかなかった物なのに。そんなどうでもいい事を覚えていてくれた事が素直に嬉しかった。

 

「オルガマリーさん。ありがとうございます。本当に、心から感謝します」

「ーーッ、か、勘違いしないでよね!あんたが死んだら勝率が下がるから、仕方なく心配してるだけなんだからね!!」

 

あくまで突き放すようにいうオルガマリーさん。その発言に穴がある事を目ざとく見つけた俺は、笑いながら思いついた事を言う。

 

「あれぇ?俺、心配してくれた(・・・・・・・)ことについて感謝したなんて、一言も言ってないんですが?」

「ーーーッ!!」

「痛っ!痛い痛い!!痛いですオルガマリーさん!ごめんなさい調子に乗ってました!!許してくださいお願いします!!」

「うるさいうるさいうるさいうるさーーい!!」

「ちょ、あの暴力反対!!狭間助けろ!!」

「あ〜ごめん。グッドラック」

「ふざけんなぁぁあ!!」

 

からかわれた事に怒ったオルガマリーさんが俺の脛を蹴り、狭間に助けを請うも苦笑されて断られた。仮にもついさっきまで人質扱いされてたんだから優しくしろ、と内心でぼやく俺なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分と騒がしいな。さっきまで死ぬ瀬戸際にいた人間とは思えん」

 

研砥が後ろに下がってからというもの、やたらと後ろが騒がしい事になっている。どうやら研砥が悪ふざけをしたらしいが、まぁ今は置いておこう。きっと、それが私のマスターの美点だと思ったからだ。

 

「まぁね。どうも私のマスターは楽天家?じゃないな。うーん、一体何て評したかな……?」

「ーーー能天気、とも違うな。まぁ、気持ちの切り替えは早いな」

 

何はともあれ、研砥のおかげで場の空気が少し軽くなった気がする。どうあれ、これで気負いすぎる事なく戦いに臨めそうだ。

 

「ふっ、やはり貴様のマスターは面白いやつだな。ブーディカ」

「残念だけど、マスター権は譲らないよ?」

「必要ない。貴様たちが来るまでの間、存分に可愛がってやったからな」

「ーーーは?」

 

場の空気が凍る。クー・フーリンやマシュ、エミヤの動きが止まった。だがそんな事はどうでもいい。今大事なのは、彼女が言った言葉の意味だ。

 

「ねぇ騎士王。今なんて言ったの?誰が(・・)誰を(・・)、可愛がったって?」

「無論、貴様のマスターだが?黒鋼研砥。あれは実に面白い。つい摘み食いしてしまった。すまないな勝利の女王(ヴィクトリア)よ。実に美味しかったぞ?貴様のーー」

 

こっちを、特に私を嗤うオルタが言い終わる前に、私は腰に吊った鞘に収めた愛剣を抜刀し、敏捷値と筋力値に物を言わせた一撃を全力で放つ。だが、それを読んでいたオルタは、涼しげな顔で聖剣をぶつけて鍔迫り合いに持ち込む。

 

「意外だな。まさか、こんな見え透いた挑発に乗るとは」

「まぁね、確かに私らしくないかもしれない、けどっ!」

 

今持てる力振り絞り、愛剣でオルタの聖剣を後ろに押し出す。直後、後方から火球が数発飛んでいき、オルタを囲む様に爆発する。

 

「『約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ) 』!!」

 

愛剣の真名を開帳し、数回その場で剣を振るう事で斬撃を飛ばす。簡易的な物だが、炎の檻の中にいるはずのオルタは、飛んで来る場所が見えているのか、その手に握る剣を無造作に振るい斬撃を弾く。仮にも宝具による攻撃なのだから、少しは効いてくれると嬉しいのだが、それはいい。

ーーー当初の予定通り(・・・・・・・)時間は稼げた(・・・・・・)

 

「ーーI am the bone (体は剣で)of my sword(出来ている)………喰らいつけ、『赤原猟犬(フルンディング)』!!」

 

直後、私たちの中でも一番後ろにいたエミヤ君が、詠唱と共に赤い光弾を放つ。今まで投影した数々の剣の中でも、おそらく螺旋剣(ガラドボルグ)をも超える威力が込められた剣弾が、オルタに向かって一直線にとんでいく。

当然、直撃を防ぐべくオルタは黒い聖剣を振るう。金属同士がぶつかり合う甲高い音が立つ。放たれた剣弾は、目標の障害となっている聖剣を破壊せんと尚も進み続け、そのせいか剣と剣の間で火花が散る。

 

ーーーそして、その距離はほぼゼロ距離。つまり、彼の必中の間合いだ。

 

「っ、アーチャー貴様!!」

「残念だが、これで終わりだよセイバー。ーーー『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム) 』!!」

 

エミヤ君が軽く指を鳴らす。途端、放たれた剣弾がさっきの装飾剣と同じ規模の爆発を起こす。その爆発を見届けた後、私は三人の元まで戻る。

 

「どう?倒したと思う?」

「ーー正直に言うと、分からん。だが手応えはしっかりと感じた。鎧の一部でも破損してくれていると助かるのだがな」

 

これは、私たちが研砥の救出に向かって走っている時に決めた作戦だ。私とクー・フーリンで時間稼ぎと目くらましを同時に行い、エミヤ君が全力で矢を放ち、それを爆発させる。マシュはマスターやエミヤ君の護衛。単純だけど強力な作戦だ。現に、こうやってあのヘラクレスも倒したのだ。

致命傷とまでいかなくとも、多少のダメージは入っているはず。

 

 

ーーーそして、突如として正面から暴風が音を立てて出現した。

 

「なっーー!?」

「馬鹿な、あれを受けて無傷だと!?」

 

暴風の中心。黒い風の中心にはオルタが聖剣を構えて立っている。既に放つ準備は整っており、無慈悲にもそれは放たれる。

 

「卑王鉄槌、極光は反転するーー光を飲め!『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』!!」

 

世界最強の聖剣、私の握るそれとは違う、約束された勝利の一撃が、全てを飲み込む黒い波となって迫る。地面を砕きながら進むそれは、さながら嵐の大波の様。そして、この一撃を防ぐための手は一つしかないーーー!

 

「皆さん下がっていてください!真名、偽装登録ーーー『仮想宝具擬似展開/人理の盾(ロード・カルデアス)』!!」

 

マシュの持つ盾が、最初の一撃を防いだ時の様に虹色の魔法陣を出現させ、聖剣の一撃を防ぐ。これは故事にある矛盾と同じだ。最強の矛である聖剣と、全ての破壊から私たちを守るマシュの盾。どちらがぶつかり合えば、矛盾が生まれるだけだ。

 

「ふっ、やはり卿の盾は硬いな。だがーー二度目はどうする?」

「ーーえ?」

「まさかーーっ、容赦が無さすぎるぞ!セイバー!!」

 

一度放ち終えた聖剣が再び鼓動する。暴風が吹き荒れ、辺りの石や砂埃が吹き飛ばされていく。一度宝具を放ったのにもかかわらず、連続で宝具を放てるのか。

ーーその答えは身近にあった。現状、聖杯によって魔力を最も多く供給されているのはセイバーだ。故に、宝具の連続使用など造作も無い。

 

「そうら二発目だ、死ぬ気で防ぐが良い!!」

「っ!あああぁぁぁぁぁ!!」

「マシュ!!」

 

再び放たれる漆黒の斬撃。先の一撃を防いでも残っている魔法陣とぶつかり合う。だが、既にマシュは宝具を使った後、その残り魔力は少ない。徐々に魔法陣の輝きが失われていき、消滅し始めていた。

どうする、と一瞬考え始めたその時、後ろから少年の声がした。

 

「エミヤ!!盾を投影してマシュのフォローを!!ブーディカさんは側面に回って遊撃!!」

「ーーー!了解した、良い判断だマスター!!」

「分かった、皆は任せるからね!」

 

研砥(マスター)の指示を受け、エミヤはマシュの後ろに立ち、私は外回りに魔法陣から出て、オルタの側面に回る。その頃にはもうマシュの宝具が消滅しかけていた。だがーーー

 

I am the bone(体は剣で)of my sword(出来ている)………『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!」

 

マシュの宝具が切れると同時に、薄紅色の花の盾が七重に展開される。エミヤの投影魔術の中でも、護りに特化した最強の宝具。その一枚一枚が古の古城と同じ防御能力を兼ね揃えているという、まさに規格外の宝具だ。

 

だが、規格外なのは彼女の聖剣も同じ。ただでさせ強力な宝具なのに、その上聖杯によるバックアップまで受けている。鬼に金棒というのはまさにこのことだろう。

花の盾が一つ、また一つと欠けていく。残りの盾がみ三枚に減った頃、漸く黒い波の奔流が収まり始める。

 

「ーーーッ!!研砥(マスター)!!あれをやる、ありったけの魔力を私に回せ!!」

 

最初の作戦を破られた時に考えられた、プランB。だが、この作戦を実行させるにはエミヤ君の準備が整うまで時間を稼がなくてはならない。だが、そんな事を言っている暇はない。必死なエミヤ君の言動で何となく察したのか、研砥は左腕に刻まれた令呪を使う。

 

「二画目の令呪を持ってアーチャーに命ずる!自身の宝具をこの令呪に宿る魔力を糧に放て!」

 

二つ目の令呪が閃光とともに消え去り、エミヤ君の体が赤いオーラに包まれる。あまり見たことのない現象だけど、多分、令呪の魔力がエミヤ君に移譲された証なのだろう。そして、ここから先は時間が必要となってくる。

 

「……I am the bone(体は剣で) of my sword (出来ている).

Steel is my body,(血潮は鉄で) and fire is my blood(、心は硝子).」

「……何かするつもりだな。だが、そんな事を」

「させるとでも!!」

 

エミヤ君の詠唱が始まると同時に、オルタが妨害を始める前に剣を抜いて切りかかる。舌打ちをしながらも聖剣を振るい、剣と剣がぶつかり合う。

 

I have created (幾たびの) over a thou(戦場を越)sand blades. (えて不敗)

 

新たに刻まれていく詠唱。戦っているので意味を考えている暇は無いが、とても悲しい(うた)だと感じる。まるで、独りで何度も戦って来たかのような。

 

Uknown to death,(たたの一度も敗走はなく) Nor known to life(ただの一度も理解されない).」

「邪魔だブーディカ!!」

「邪魔してるんだけどねっ!『約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)』!!」

 

剣での戦闘において、オルタは私よりも強い。そんな彼女を相手にエミヤ君の詠唱が終わるまで耐久するには、手数を増やす必要がある。その為に、私は自分の宝具を使い、本来は防御に用いる大量の車輪を召喚し、オルタに向かって一斉に突撃させる。

 

「このーーー邪魔だッ!」

 

だが流石は騎士王、前後左右に迫る車輪の悉くを聖剣で破壊してくる。エミヤ君の宝具を使おうにも、少しの溜めが必要だ。そんな致命的な隙を逃すはずがない。

 

「アンサズッ!!」

Have withstood (彼の者は常に) pain to create (独り、剣の丘)many weapons(で勝利に酔う).」

 

詠唱が半分を超える。あと数秒、でも最後まで気を抜かずに護衛を続ける。後方にいるクー・フーリンが火球を飛ばし、攻撃の勢いが増す。だが、それは突然起こった。高速で飛来してくる私の車輪、その側面を蹴って飛び上がったのだ。

 

「ふっーーー!」

「なっ、私の車輪を足場にしたーーー!?」

 

とんでもない身体能力。そして、それを可能する未来予知に等しい彼女の『直感』スキル。急いで車輪を彼女に回すが、その数秒の間を見逃すはずがなかった。

 

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!!」

 

黒い聖剣から宝具より威力の低い斬撃が飛んでくる。縦横無尽に放たれたそれは、数十はあった私の車輪を切り裂いていく。そして、数を減らされたことで彼女への妨害作も瓦解する。

 

Yet, those (故に、そ) hands will never (の生涯に)hold anything(意味はなく).」

「中々楽しめた。だがここまでだ、アーチャー!!」

 

空中から華麗に着地したオルタが、再び聖剣を振って斬撃を飛ばす。正面には障害は存在せず、クー・フーリンのフォローも、私の車輪も間に合わない。このままエミヤ君の体は切り裂かれるだろう。私たち二人だけならば(・・・・・・・・・・)

 

「やあぁッ!!」

「なっーーーーー!?」

 

黒い斬撃は、誰もいなかった筈の場所に、突然現れた(・・・・・)マシュによって防がれる。身の丈以上の大きさである大楯を用い、騎士王の一撃を防ぐ。そして、それと同時に彼の詠唱も終わりを迎える。

 

So, as I pray(その体は)ーーーーUNLIMITED BLADE(きっと剣で出来) WORKS(ていた)ーーー!」

 

最後の一節を唱えると、彼を中心として光が爆発する。青白い光がパチパチと光り出し、目も開けられない閃光が広がった。

 

 

 

「ーーーここが、エミヤ君の世界。なんて………なんて、寂しい世界」

 

光の爆発が収まり、目を開いて広がったのは、終わりが見えない荒野に墓標の様に突き刺さった剣の群れ。黄昏色の空に浮かぶ大小無数の歯車。その世界の中心に、彼は立っていた。

 

「固有結界ーーー術者の心象世界を現実世界に投影する大魔術、か。一応、師匠から教えてもらってはいたが、本物を見るのは初めてだな」

「ですが、その通りならこの荒野がエミヤ先輩の、生涯で辿り着いた世界ということになります。この世界は、余りにも寂しすぎます」

 

マシュが悲しそうに目を細めて、心なしか構えた盾を下ろして呟いた。それが聞こえたのか、エミヤ君は少しの困った様に笑った。

 

「確かに、マシュの言う通りだ。これが私の世界。生涯、正義の味方とやらに憧れ、死後『守護者』として戦った男の成れの果だ。だが、そんな散々な日々ではあったが、私はある答え(・・)を得た」

 

そう言って、彼は懐からペンダントを取り出した。先端に赤い宝石が取り付けてあるそれを見ながら、穏やかな表情で語った。

 

「ある聖杯戦争で、私は彼女に使える英霊(サーヴァント)として戦った。抑止力の使い走りではなく、彼女のために戦う英霊として。その時にあった戦いで、納得してしまったのだ。私のーーーいや、これまでにおける()の戦いは無駄ではなかったのだと」

 

そう言って、エミヤ君はペンダントを仕舞い、眼前の敵を見つめる。懐かしそうに、けれど闘志を秘めた目でオルタを睨みつける。

 

「だから、今度は私が止めよう。それが、君への恩返しだ。セイバー(・・・・)

「笑わせるな。固有結界ーーー何故かこの世界には見覚えがあるが、それも無意味なこと。我が聖剣の前に消えるがいい」

 

聖剣を両手で持ち、魔力をその刀身に集めていく。黒い魔力の渦が辺りの砂を巻き込んでいく。

 

「行くぞ皆。ここまでの時間稼ぎに報いよう」

「お〜そうしやがれ。ま、美味しい所は貰って行くけどなァ!」

「行くよマシュ!」

「はい!!」

 

それぞれが自分の獲物を持って荒野を駆ける。大空洞内で繰り広げられた戦いも佳境。これが最後の戦いになると、私は予感していた。

 

 

 

 

 

 

 




ここまでの既読、ありがとうございました!

いや〜長かった。あとはセイバー戦のラスト、それから特異点崩壊と、主人公の謎の解明だから、多くても4、5話くらいかな?
というか、セイバー戦で4話使ってるよ。長ぇよ。オルタは持ってないサーヴァントだから書き辛いのが余計………。

感想・誤字脱字・設定の食い違い等がありましたら、指摘してくださると嬉しいです。
ガチャ報告回も同時更新していますので、よろしけば感想をくださいな!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。