Fate/Victory Order    作:青眼

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アストルフォ「というわけで、今回のフランス篇でのオリジナル要素として登場した皆大好きライダー・アストルフォだよ! 実はさ実はさ! 僕ね……英霊の座で思いっきり寝ていて……目が覚めたらフランスに召喚されてたんだ!! もうわけがわからないよ? だって理性が蒸発してるからね! それで仕方ないから辺りを歩いて回ってたら黒のセイバーと再会したんだよね! いやぁ驚いたよ! お互いあの時の事は少なからず覚えてるから、向こうはバツが悪いみたいでさぁ! 何度もすまないすまない~って謝るから本の角で殴っちゃった☆ まあセイバーだから大丈夫だよね! ――――多分! さてと、それじゃ本編始めるね~~!」





黒のセイバー「すまない………ライダーの説明が急すぎてすまない……」



大英雄との対話

 

 

「―――よし、応急手当はこんなもんかな」

 

 ワイバーンの突風で激突した際に擦り切ってしまった傷口に、簡易の治療魔術を施しながら体の調子を再確認する。ここは町の外壁近くにある小屋で、ワイバーンを撃退している所を村人たちに見られた黒鋼達は彼らの好意に甘えて兵士たちが使っていた小屋を借りることになった。彼らとしても今日の寝床を用意してもらえたのはありがたい。支部長との会話やサーヴァントとの作戦会議などをするには人目に付かない場所があるのは良い事だ。それに、これからはほとんど野宿で過ごすのだから、体が資本というのは言葉通りだ。完璧とまではいかなくとも、自分の体調程度は測れるようにならなければならない。

 

 ―――魔術回路、正常。全回路の起動可能を確認。

 ―――体調、やや不調。先のワイバーンとの戦闘の際に負傷した傷がまだ治り切っていないからと推定。行動不能になる程度の支障ではないので無視。

 ―――魔力、契約しているサーヴァント三人とのパスは正確に感じられ、魔力を流している感覚はある。身体強化、治療魔術で多少は消費したものの、作戦行動に支障なし。

 

 今のところ、これからの行動に問題となるレベルの負傷はしていないことを確認する。先のワイバーン戦でいきなり訪れた死への恐怖に驚いたが、セイバー・オルタに弄られた(あの)時の恐怖と比べれば月とすっぽん並みに差がある。いや、あちらも龍の血を継いでるからとかそういうのではなく。本当に、殺意とかサディスティックな笑みとか色々と差があるだけである。

 

「……何思い出してんだ俺は。ただのトラウマだろうに」

「トラウマって何が?」

「いや、前に色々あってな……って近いぞアストルフォ!?」

 

 いきなり耳元にまで近づいていたアストルフォに驚いた黒鋼は驚きの転げる。それにアストルフォは笑いながら謝り、黒鋼はバツが悪そうに表情を変えながら服の汚れを落とす。アストルフォは一見するとただの美少女にしか見えないが、実際は美少年だというのだから事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。そういえば、彼がこんな格好をしているのは確か理由があったはず。

 

「なあ、アストルフォ…さん? 確か、貴方がその恰好をしているのは―――」

「呼び捨てで良いし、無理に敬語を使わなくていいよ~。僕だってその方が気が楽でいいし、これからは君が僕のマスターなんだ。だから、もう少しお互いフランクに行こう!」

「え? ああ、分かった。それじゃあよろしく……? 待て、どうして俺がお前のマスターってことになるんだ!?」

「え、だって僕ははぐれサーヴァントだし。君たちの事情も大体聞いたしね。そのカルデアって人たちも興味があるけど、先に君たちと会っちゃったし。僕としては君の力になりたいんだけど………ダメ?」

 

 目をうるうるとさせながら上目遣いでこちらを見てくるアストルフォ。あまりに自然的でかつ可愛いその仕草に黒鋼は自分の中で何かが崩れ去る音が聞こえた気がした。だが、僅かでも残った理性を総動員して超えてはいけない線を踏みとどまる。そもそも、アトラス支部にある魔力源の運用には支部長の指示が必要である。とりあえずそれを仰ごうとインカムの電源を上げる。数分ほどこちらの事情を説明すると、支部長は二つ返事で承諾した。

 

『そういえば、ブーディカとあの大きいセイバーはどこだい? 願わくば、あのセイバーもこちらと契約してもらいたいんだけど』

「―――ここだよシアリム。ちょっと、これからのことを彼と話しててね。遅くなっちゃた」

 

 小屋の外からブーディカと、ワイバーン二体を瞬殺した剣士が入ってくる。改めて思った事だが、この剣士はとても身長が高く何からしらの圧を感じる。一応180㎝に近いはある黒鋼やブーディカより頭一つ分は高い背丈に、無駄のない筋肉に歴戦の戦士を思わせる鎧に存在感。間違いなく、あの特異点Fで遭遇した騎士王や大英雄に匹敵するサーヴァントだ。

 

「君がブーディカのマスターか。俺はジークフリート、しがない龍殺しの英雄だ」

『ジークフリート!? ニーベルンゲンの歌に登場する龍殺しの中の龍殺しじゃないか! そんな大英雄が何故ここに……?』

 

 インカム越しにシアリムの歓喜に満ちた悲鳴が響き、黒鋼の余りの五月蠅さに呻く。端末を取り出して全員に聞こえるようにホログラフを出現させ、特異点(ここ)と支部の状況を整理する。こちらは同行する予定だったサーヴァントが行方不明になっているということを。アストルフォたちは自分たちがはぐれで、何故呼ばれたのかは分からないということ。お互いに持てる情報を合わせてはみたものの、何一つ分かった事は無い。周囲の声が消えて沈黙に入った時、男の声が端末から漏れた。

 

『失礼、どうやら手詰まりの様だから助言させてもらうよ。ミスター・ジークフリート。ミスター………ミス……? コホン、アストルフォは通常の聖杯戦争のように、マスターによって召喚されたわけではないのだね?』

「うん。僕たち、気付いたら勝手に召喚されてたんだよね。ところで君誰?」

『キャスター、シャーロック・ホームズだ。なに、しがない探偵だよ。それより、他に何感じた事はないかな? 例えばそう―――何かに引きずられて召喚された、とか』

 

 ホームズの指摘にアストルフォは首を傾げたが、もう一人は。ジークフリートは何かに気付いたかのように眉を寄せた。心当たりがあると言わんばかりの露骨な反応にホームズは満面の笑みを浮かべ、容赦なく彼に詰問する。

 

『どうやら、君は覚えがあるようだね。では改めて聞こう。龍殺しの英雄ジークフリート。君は一体、何の縁で呼ばれたのか(・・・・・・・・・・)

「………俺としても、にわかには信じがたいことだ。だが、俺はこのフランスという時代で召喚された時に漠然と奴を。我が宿敵の存在を感じた」

『え、ジークフリートの宿敵って言うとまさか――――』

 

 

 

 

 

―――邪竜ファヴニール。俺は、再び奴を葬り去るためにここに呼ばれたのだと思う。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

「邪竜ファヴニール。ニーベルンゲン歌に登場し、ジークフリートが不死性を会得したきっかけとなった邪竜。数多いる竜種の中でも頂点に存在しうるであろう、か」

 

 村人から提供された食材をブーディカが調理した晩飯を取り、少しでも魔力や体力を回復させるために眠りに就いた一行ではあったが。その中で一人、黒鋼だけは小屋を出て近くの草むらへと足を運んでいた。手元にある端末には、今回の戦いで要注意すべしと送られてきた敵エネミーの情報が載っている。その中でも、間違いなく激突するであろう存在。ファヴニールのページを余すことなく読んでいた。彼は自分が弱いことを知っている。ブーディカやエミヤとの訓練で多少は強くなれたとも思っていた。いや、思い上がっていた(・・・・・・・・)。だが結果は、成す術も無く逃げ回っていただけで、あまりにも無様なその姿に自分でも嫌気が差す。

 

「………どうしようもない。どうしようもないんだけどなあ」

 

 草むらに上にごろんと寝転がる。シミュレーターとは違う本物の草原はとても心地よく、夜風が優しく吹いて涼やかだ。加えて、満面の星空がこちらでは見えるので夜空も美しい。今までいろんなことがあったけれど、これを見ただけでも少しは頑張った甲斐もあったと思えた。あの日、理不尽にもこんな世界に来てしまったけれど。今はこうして生きている。だから、明日もまた頑張って生きようという気力も湧いてくる。

 時間にして数分。その場でぼんやりとこれからのことを考えていた。とりあえず、夜が明けたら黒鋼達はリヨンの村を出て、彼らはドン・レミに向かうことになる。ジャンヌ・ダルク生誕地であるそこに行けば何かわかるかもしれないというのがシアリムの意見だからだ。アストルフォとジークフリートはとある聖杯戦争で彼女と会ったことがあり、とても彼女が噂通りの復讐なんてことはしないと断言していた。それだけ、彼らがあったジャンヌというのは聖女(・・)であったのだろう。会ったことは黒鋼にもないが、実際に彼女は聖女であると彼も知っている。そして、今回の戦いは彼女がキーマンであるということも。

 

「………そろそろ寝るか。誰かが起きて心配をかけさせたら申し訳な―――」

 

  跳ね起きて小屋に戻ろうとした時、一陣の風が草むらを駆け抜けた。あまりの風圧に少し吹き飛ばされそうになったが、立ち上がる前だったのが幸いした。そのまま寝ころんだままで事なきを得たが、何が起こったのだろうと周囲を見る。()

 

 

 

 そして、彼は見た。一振りの剣、一人の青年が無心で剣を振るう様を。それは先に小屋で休んでいたジークフリートが、自身の剣ではない無銘の剣を構え、振り下ろし、薙ぎ、手元に引き寄せて突く。剣術の初歩とも言える動作をただ繰り返しているのを目の当たりにした。エミヤの我流二刀とは違う本当に意味での剣術。これでも黒鋼は剣に携わる道を歩んだ者の端くれ、その剣がどれだけの思いを込めて振るわれているのかは未熟な自分でも理解できた。型に嵌った美しい剣にただただ見惚れていると、こちらの視線に気づいたのか。剣を鞘に納めながらジークフリートはこちらへと寄ってきた。

 

「すまない、奴の気配を感じていると居ても立っても居られなくてな。剣を振るって落ち着こうとしたのだが、起こしてしまったか」

「あ、いや、その。明日の予定の確認とかファヴニールについて考えてたら眠れなくて。外の空気でも吸おうかと思って……」

 

 黒鋼のたどたどしい言葉に頷いて返した彼は、何を思ったのか黒鋼の隣に腰を下ろした。いきなり大英雄と肩を並ばせたことに彼は動揺を隠せない。剣を見たことが悪かったのだろうかと内心で考えていると、ジークフリートはぽつりと言葉を漏らした。

 

「君は、一体何のために戦っている?」

「え―――」

「いや、君の目を見た時から気付いていたのだが。きっと、君は迷っているのだと思ってな。俺は、英霊は力を請われたらその者を助けるために存在している。だが、マスターである君は違う。君が戦う理由とは何か。少し、気になってしまってな」

 

 不躾な質問を許してほしい。かのジークフリートともあろう人が半人前以前の錬金術師である黒鋼に深々と頭を下げた。そして、下げられた側としては突然のことに頭がフリーズしかけたものの、大英雄にそんなことをしてもらいたくはないので顔を上げて欲しいと嘆願する。

 

「え、あ、いやそんな。貴方ほどの英雄に頭を下げさせるほどのことじゃないです! 頭を上げてください! それに、俺の戦う理由なんて。その、恥ずかしいことにまだ明確にこれと決まってるわけじゃないんです。ただ、流されるがままにマスターになって、流れるがままに時代修復になんて偉業の手伝いをしてるだけなんですから」

 

 ジークフリートに嘆願しながら彼の求める答えを黒鋼は返す。それは本当に、今の黒鋼にある思いだった。突然この世界にやって来た彼にとって、これまでの日々はまるで物語のページを捲るようにあっという間だった。だが、それと同時にこれが現実だと理解させられていた。眠りに就いて、目が覚めたらあの電車で目が覚めている。そんなことを何度思った事か。けれど、この世界にいるという事実は変わらず。今更ながら黒鋼はあの世界にどれだけの未練があったのだと気づかされた。

 

「ようは、まだスタート地点にすら立ててないんです。戦う覚悟も、戦う理由も出来てない。流されて戦う選択をしただけなんです。情けないですよね。すいません、こんな弱い人がマスターなんて役を担ってて」

「―――いや、それは違う。きっと、それは違うだろう」

 

 黒鋼の弱気な発言に、ジークフリートは真正面からそれを否定した。非難はされると覚悟はしていたが、まさか自分の言葉を否定されるとは思ってもいなかった黒鋼は目を丸くした。大英雄は黒鋼の目を見て、同じ視線で本人の言った言葉を否定する。

 

「確かに、君は流されてこの道を選んでしまったかもしれない。だが、それを選んだのは他でもない君だ。そして、君はそれを成功させるために努力を続け、このフランスにやってきた。それは、君が流されてきたことじゃない。君が決めたことだ。そして、そんな君の力になろうと。君が召喚したサーヴァントたちは力を尽くしてくれている。違うか?」

「それは、違わないですけど。それでも、俺はまだあの人たちのマスターになる器じゃ」

「器など、覚悟など後から付いてきても構わない。大事なのは、君自身が前に進むことを選んだことだ。我らは英雄。共に戦い続け朽ち果てる。求道者にして戦人。我らは力を貸すことは出来ても、それを願うマスターの意思がなければ現界さえ叶わない。だから聞かせて欲しい。君の、黒鋼研砥いう男が心の底から願うこととは何かを」

 

 ―――その目はただ愚直に、真摯にこちらの願いに対する問だった。どんな願いであろうとそれは決して恥ずべきものではないと訴えかけてくる純粋な目をしていた。それに。黒鋼はただ息を飲んだ。これまでひたすら隠してきた、決して言ってはならない言葉をずっと誤魔化してきた思いが今だからこそ露わになる。誰にも聞こえないように、彼にしか聞こえないように頭を下げ、か細い声で囁いた。

 

「………たく、ない」

「ああ」

「本当は、戦いたくなんて、ない」

「………ああ」

「レイシフトも。サーヴァントの使役もしたくない。本当は、ただ、平穏に生きていたい……! 弱い俺なんかより、もっと他の強い人がマスターになるべきだったんだと、考えずにはいられないんだ………!」

 

 それは、彼がこの世界に来てから初めての弱音だった。別に、ブーディカといった人たちと一緒にいるのが苦なのではない。迫る死の恐怖、命を奪わんとする怪物、非常識なことばかりが起こる非日常。冬木を乗り越えたからこそ湧いた実感に、湧いてしまった実感に黒鋼は精神的に参ってしまっていた。それを必死に抑えようとしていたのに、ジークフリートの言葉一つでせき止めていた思いが溢れ出た。

―――最悪だ。黒鋼は内心で自身のしてしまったことに悪態を吐く。幻滅されただろう、世界を救わんとする者の一人が。マスターともあろう者の心が折れかけている。数秒後に飛んでくるであろう非難の声を覚悟する。覚悟していたのに―――

 

「―――よく言ってくれた。大丈夫だ、君は十分に強い」

「え――――?」

 

 送られてきたのは非難とは真逆、称賛の言葉だった。武骨で大きい手が優しく諭すように黒鋼の頭を撫でる。慈しむように優しい声と目で英雄は彼に語り続ける。弱音を吐くこと(それ)は決して弱者のすることではないと。

 

「弱音が言えるということは、それを言うだけ信頼に足る人がいるということだ。黒鋼という一人の“人間”である証明でもあり。それを護るのは、英雄の役目だ」

 

 撫でていた手を止めて背中に吊り下げた大剣を手に取る。幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)、邪竜ファヴニールを打ち倒した魔剣にして、ジークフリートという英雄を英雄たらしめる一振りの剣。それを掲げてジークフリートは厳かに告げた。

 

「この剣、そして我が誇りに誓おう。君に危害を加えようとする者には、俺の全てを以て打ち払い、君が平穏な生活に戻れる日まで共に在ることを」

「――――――――」

 

 告げられた力強い言葉に、黒鋼は今度こそ息が止まるかと思った。彼の大英雄が自分を護ると言ったことに。力になってくれるという宣言に。何より、黒鋼の願いを笑わず正しいことだと言ってくれたことに。ただただ息を飲むしか出来なかった。自分の内側に表現できない感動と涙が溢れ出す。何故これが出てしまうのか、それを何となくではあるが理解した黒鋼はさらに涙を零す。子供が親に縋るように少年は英雄の胸にくっ付いて涙を零す。

 

 ―――未熟で半人前。それでいて闘う選択肢を選んだ少年が、新たに戦う理由を得た夜の日の事だった。

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

 

 

「………それじゃ、ジークフリートは俺たちが戻るまでこの村を護ってくれ。頼むな」

「ああ、任せてくれ。敵が竜であろうとなかろうと、我が魔剣を以て彼を守護しよう」

 

 翌日。村の人たちから食料や水。それから馬を借りた一行は村の入り口で言葉を交わしていた。ジークフリートがここに残るというのは最初から決めていたことだ。ここはワイバーンに襲われ、遠くからでもワイバーンの影をよく見ることがあるという村人からの話を聞いた。『竜殺し』のスキルを持つ彼がここに残ることで、村人たちを護ろうという選択をしたのだ。最初はアストルフォも残そうとしたのだが、それはジークフリートが拒否したので仕方なく一人だけ残してしまう形になってしまった。

 

「………本当にいいのか? 当初の予定では、俺はブーディカさんと二人で行動するつもりだったんだ。だから、今更アストルフォがいないくらいどうってことも」

「大丈夫だ。竜を殺すことしか取り柄の無い俺ではあるが、並大抵のサーヴァントに負けるつもりは毛頭ない。信じてくれ、君を護ると誓ったサーヴァントの事を」

 

 優しく微笑まれながらそう言われては黒鋼が言えることは何もない。だが、彼は知っているのだ。ジークフリートとこの村に起こってしまう悲劇を。それを防ぐ為には何としても強力なサーヴァントの力が複数必要だ。だから、今の黒鋼の内心はとても心苦しい。結末を知っていながらそれを防ぐことが出来ないことが、伝えられないことが息苦しくてたまらない。それが顔に出ていたのかは知らないが、昨日と同じようにジークフリートが頭の上に手を置いた。

 

「あっ………」

「問題は無い。俺の方こそ君に謝罪しなくてはならない。昨日、偉そうなことを言ってこれだ。君の道中に今は付き合うことはないが、せめて、その道のりが苦悶に満ちたものではないことを祈っている。ライダー、ブーディカ。彼を頼む」

 

 黒鋼に有無を言わせることなく会話を断ち切り、彼の後ろに立つ二人のサーヴァントにジークフリートは頭を下げる。それに二人は笑って返し、そっちこそと元気づける。

 

「セイバー! 今度勝手に死んだら、本当に許さないからな!」

「ああ。分かっている。あの時は苦労を掛けた」

「ジークフリート。こっちは任せて、そっちこそ気を付けてね。ワイバーンが倒されたと知ったら、向こうもサーヴァントを遣わせてくると思う。出来るだけ早く戻るから、それまでよろしくね」

「任せてくれ。彼を頼む、ヴィクトリア」

 

 それぞれが最後に言葉を交わし、今度こそ一行は次なる目的地へ向けて走り出す。目指すはドン・レミ。ジャンヌ・ダルク生誕地にして彼女という聖女の始まりの地。そこに何があるかは分からないが、彼らはただ前へと進み続ける。いつの日か、ここにいる全てとの再会を信じて。

 




???「そう………リヨンの街に放ったワイバーンがやられたのね、ジル」
ジル「えぇ。それも奇妙なことに、我々以外のサーヴァントが複数。加えてマスターも居たそうです。いかがいたしますか?」
???「決まってるわ。私の邪魔をするというのなら慈悲なんてありません。容赦なく、虫の様に潰してあげましょう。リヨンに残ったサーヴァントにはとっておきを見せます。私もそっちに向かうから、残りはよろしくね」
ジル「承知いたしました。さてさて、誰を向かわせるとしましょうかねぇ………?」

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